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 ティスカとノートは魔法の杖で飛びながら、キャシーを連れ去った魔物を追う。


「ノート! しっかり捕まっててよ!」「う、うん!」


 ティスカはノートの手を腰に回させると、自身も杖に跨る姿勢になり杖を加速させる。追いかける魔物は50メートルは先に行っている感じだ。追いかけられている気配は感じているだろう。

「でも、高度が上げられない感じ? あれじゃ敷地の塀が越えられないんじゃない?」

「あの魔物、案外非力なのかも?」


 学院の周囲を囲む塀は3メートルほどの高さだ。魔物の翅は昆虫のそれなので、物を運びながら飛ぶのには向いていないようだった。

「このままじゃ追いつけないし、正門に先回りしてみよう。透明化、いける?」

「ええっと、杖が干渉して消えないか、杖が残っちゃうか、わかんない」

「それなら今のうちに試す!」

「わかった」


 ノートはティスカのマントのフードを頭にかぶせ、襟元もきつく止める。そして自分のフードも被ると透明化魔法を発動させた。

「……これ、杖だけ残っちゃってるパターンだね」

ティスカの目には、自分の姿は半透明化して見えているが、杖は完全に見えている。

「それならそれで、作戦を考えなきゃ、ね!」

正門前でブレーキをかけて止まる。


「さて、ここからどうする?」

「そうね、こういうのはどう?」


 ティスカはノートに即興で考えた作戦を伝えた。



 ハエの魔物は魔族軍に属していて偵察を主任務としてフィラハに潜入してたが、この個体は特に()()が悪かった。魔法学院で教育現場を偵察しようとしたのは良かったものの、()のいい生徒にたびたび発見され、身を隠そうとしては無計画に動き回り、キャシーに悲鳴を上げられるような不手際である。

 焦った彼は目の前にいた人間をさらい、手柄にしようとキャシーを捕まえた。捕まえたはいいが、彼の翅は飛行能力に長けていなかった。人間一人の重みで十分な高度が得られない始末である。

 魔物は学院の外周の塀を超えられず、門を探して塀に沿って進む。左手前方に学院の正門が迫ってきていた。


 キャシーを抱えて正門を目指して飛ぶ魔物の右手に、一人で杖に乗って飛行するティスカが接近する。透明化はしていない。

「キャシー! 今助けるからもう少し頑張ってね!」

「ティ……ティスカーーーー」


 キャシーはティスカに向けて手を伸ばす。ティスカはその手に応えるべく、魔物に寄る。魔物は手を繋がせまいとその身を左に振る。ティスカはさらに寄せる。

 魔物はその動きをフェイントとして、ティスカに体当たりを試みた。


「させないわよ!」


 ティスカは間一髪、杖を上昇させて体当たりを躱す。


 その瞬間、魔物は頭に強烈な一撃を食らった。重い鈍器で殴られたような衝撃だった。衝撃でキャシーは魔物の手から離れ、中空に放り出される。放り出されたキャシーは、地面に叩きつけられる直前で空中に静止する。魔法による慣性制御だった。


「やれやれ、間一髪じゃったな」


 学院長は、騒ぎを聞きつけて学院の敷地に結界を張っていた。マルボークからの書簡で密偵がフィラハに向かっている報が届いていたので、緊急時に即発動できるように準備しておいたのである。

 その後、目撃情報を追って正門にたどり着いた。学院長の杖はティスカよりずっと高速である。


 魔物はそれなりにダメージを負ったもののまだ戦闘は可能であったが、戦闘向きの種族でない上に武器を携帯していなかった。直ちに学院長の魔法で捕縛される。


「お手柄じゃなティスカ。なにかで魔物を殴りつけたように見えたが、何をやったのじゃ?」

「あ、僕です……」


 透明化を解いたノートが姿を見せた。手にはティスカが履いていたタイツを持っている。小石か何かが詰まっているのだろう。片足だけがずっしりとしていた。

「一人で追っているように見せて、実はノートも杖に乗っていたの。魔物には見えてなかったと思うけど」

「即興で武器を作って、しかもそれを隠したまま使ったのか。とんだ兵法家じゃ」

「いやー、それほどでも。放り出されたキャシーの事までは考えてなかったし」

「ええーーーーーー、ひどいよーー!」

キャシーは抗議する。

「多少のケガはしても魔物にさらわれるよりは良いでしょ。でもグランマ、ありがとう。キャシーが無事でよかった」

「なんの。生徒はみな大事じゃからの」


「この魔物はどうするんですか?」

「公宮の近衛に引き渡すよう連絡しておる。聞き出すことは山ほどあるな」

「魔族との戦争が始まるかもしれないって噂も真実味が出てくるわね……」


「わしはここで近衛の到着を待つでな、ティスカ、キャシーを念のため医務室に連れて行ってくれんか?」

「わかったわ」


 ティスカ達三人は、校舎に向かう。

「ティスカちゃん……ホント、ホントありがとうね」

気が付くとキャーシーはボロボロに泣いていた。

「ど、どうしたのキャシー」

「あの魔物さんがこれからどんな処遇に遭うのか想像したら、あのまま私が連れていかれてたらどんな目に合うんだろうって思っちゃって」

「ああ……まあ、そうね」

「ふえええええーーーーーん」

キャシーはティスカに抱き付いて号泣した。落ち着けるまでかなりの苦労を要した。


「ノート、今日はありがとうね」「えっ?」


 その日は魔物侵入騒動で授業どころではなくなったので、午後からはお休みになった。ティスカはノートと二人きりで話したくなったので、彼を校舎の屋上に連れて行っていた。


「君がいてくれたおかげで、大切な友達が魔物にさらわれずに済んだわ」

「僕も、一人じゃ何もできなかったから」

「そうなの。わたしたち、案外いいコンビなのかもね」

「うん、そうだといいね」

「わたしね、将来はグランマみたいな大魔導士っていうのが夢だったんだけど、それがどんなものかは分からなかったんだ」

「うん」

「でも今日の出来事のおかげで、それが少し見えてきたの」

「それはなに?」

「ふふふっ、それはまだナイショ」


 二人は後に人類と魔族との戦いで名コンビっぷりを発揮するのだが、それはまだ先の物語になる。

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