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(4)


 ティスカからは、魔法で消えているはずのノートが半透明の状態で視認できている。ノートからも同様だった。

「消えてるよティスカ。僕からも確認できた」


「よしティスカ、少しずつノートから離れて透明化付与の有効範囲を見よう」

「うん、わかったわ」


 ティスカは、一歩一歩ゆっくりとノートから離れると5メートル程度のところで半透明に見えていたノートがくっきり見えるようになった。


「よし!ティスカ、そこでストップじゃ」


 学院長が声をかけると、ティスカの透明化は解けていた。


「ふむ、付与範囲は周囲5メートルというところかの」

「あの、これ僕の魔力が大きくなれば付与範囲が大きくなるんでしょうか?」

フードを取って自身の透明化を解除したノートが尋ねた。


「そうとも限らん。付与条件が緩和するかもしれん」

「でも当面は、精度を上げるのが先決よね」

「そうだね」


「うむ、そろそろ昼じゃな。昼食の支度をさせておるから、しばらく二人でくつろいでおれ」

そう言うと、学院長は部屋から出て行った。


「あ、今わたし裸足だった」

ティスカは脱いでいた靴下を拾いソファに腰掛けた。靴下を履くために膝を曲げて持ち上げると、スカートがまくれあがって太ももが露わになってしまう。ノートは思わずその姿に見とれてしまった。

「ご、ごめん!」

ノートははっとして、ティスカに背を向けた。


 ティスカはノートの気遣いに気付いて(こいつ、可愛いとこあるなあ)と思った。

「いいのよ、見てても」

「ええっ?」

「下着は見せないけどね! 素足を出すのは今日が最後だから」

「どういうこと?」

「明日からはタイツ履くから! 黒いやつ!」

「い、いたずらには使わないよ?」

「そんな事しないわよ! 必要なときにいちいち履き替える訳にはいかないでしょ?」

「そう、それはそうだけど」

「いつ必要になるかわからないから、常に準備はしておくの。それだけのことよ」


 コン、コン!と、二人のいる部屋がノックされる。

「昼食の準備が整いました。食堂にお越しくださいませ」

ドア越しにメイドが声をかける。

「ありがとう。すぐに行くわ」

と、ティスカは返事をした。


 二人が食堂に付くと、学院長とジョージが待っていた。

 テーブルに置かれていたメイン料理らしきものを見て、ノートは真っ蒼になった。


「な、なんですか?これは……魔物?」


 それは、青白い顔だけの魔物が大きく口を開けているようにしか見えなかった。


「ハギスよ。この周辺での名物料理」

「料理だったんですか……」

「ジョーにいの趣味でしょ。知らない人にいきなり振る舞って反応を見るのを楽しんでるんだから」

「ごめんねーノート君。でも味は保証するから! さあ席について」


 ノートは席につきながら、この物体の正体を訪ねた。

「これは一体、何で出来ているんですか?」

「羊の胃袋に他の”臓もつ”と野菜、ハーブを刻んだものを炒めて詰めて、それを茹でたものだよ」

「中身をマッシュポテトと一緒に食べるの。パンに乗せてもいい」

「好き嫌いはいかんぞノート。大きくなれん」

「うへぇ……」


 ノートは恐る恐る食べてみたが、味は悪くなかった。



 その日の午後、二人は侯爵家の書庫で蔵書を見せてもらっていた。

「気になったものは貸し出すぞ。あまり多いようなら後日送り届けよう」

二人は魔法体系を詳細に記した本、術式の指南書などを選んで熟読していた。


 帰りは夕刻になった。行きと同じ馬車で、ジョージが魔法学院の正門まで送り届けた。

「本日はありがとうございました」

「ありがとう、ジョーにい。グランパとおじさまにもよろしく言っておいてね」

「うんうん、どういたしまして。そうだ、ばば様からティスカにって預かってた物があった」

「え? なに?」

ジョージは、御者席の隣に置いてあった箱をティスカに手渡す。

「なんだろう?」

「黒のローファーだって。必ず欲しがるだろうからって用意してたみたいだよ」

「うわぁ。さすがグランマだわ。手が早い」


 二人は離れていく馬車を、見えなくなるまで見送り、その後お互いの寮へ向けて帰った。



 次の日、ティスカは黒いタイツ、黒のローファーで登校していた。

「おはよう。早速つけてきたね」

「おはよう。どう? 似合う?」

「うん、スラっとしてる」

「そう?」

心なしか、ティスカは嬉しそうだ。


 今日は、実技の試験がある。課題は「杖の浮遊移動」だった。

 床に置いた状態の杖を、指定の位置まで手を触れずに移動させる。いずれ、杖に乗って空を飛ぶための第一段階と言えるテストだ。


 杖は生徒一人一人の所有物で、所有者が魔力を通しやすい石が埋め込まれている。ティスカの場合は翡翠だった。ティスカは入学前から杖で飛ぶことに成功していて、この試験も3秒でクリアした。

 ノートはこの試験に1分ほどかかり、クラスの平均よりは上だが杖で飛ぶのは当分無理そうだった。


 その日の昼休みにノートは

「今日はかくれんぼはやめにして、杖のテストの復習をしたいんだけど、いいかな」

と、ティスカに尋ねた。ティスカは

「いいよ。ノートの負けず嫌いなとこ、わたしは良いと思う」

と、快諾した。


「そうそう、やったじゃんノート! さっきより10秒短縮できた」

「ティスカの教え方がいいのかな」

「いや、テストの時より集中できてるんだろうね」


 何のことは無いはずの週明けの午後だった。


 平和な日常を切り裂く悲鳴が突然校内に響き渡る。


「いやーーーーーーーーーっ!!!」


 悲鳴がした方向をティスカとノートが見ると、ハエのような翅のついた4本の腕を持った魔物だった。複眼と思われる大きな目を持ち、体調は2メートル程はある。

 悲鳴を発していたのは魔物の正面にいた女子生徒で、驚きのあまり動けずにいる。


「キャシー! そいつから離れて!」


 女子生徒は、ティスカのルームメイトのキャシーだった。ティスカが声をかけるも、キャシーは足がすくんで動けない。

 魔物は、騒がれたことで周囲に人が集まってきたのを警戒し、その翅で飛んだ。その直線上にいたキャシーは、4本の腕でつかまれてしまう。


「いやいや!いやーーーーーーーーーっ!!! 離して!! 離して!!」


 キャシーは連れ去られてしまった。


「キャシー!! ああもう、なんなのあれ!!」

ティスカは自分の杖を浮かせると横向きに乗った。そして

「ノート!! あんたも来て!!」


 左手で杖を支え、右手にノートを抱えると魔物を追って飛んで行った。

「ハギス」がどんなものか知らない人、ショックを受けるかもしれないので画像検索してはいけませんよ。

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