遭難とソウナン
十二月一日のとあるニュース番組。
福島県の山間で異様な見た目をした男女の遺体が見つかった。
死亡者はいずれも福島県在住の、伊藤梓さん(32)と伊藤慎二さん(38)と判明した。子供も居たようで、子供の方は一命をとりとめ、今現在は病院で療養中とのことだ。しかし精神的にショックを受けているらしく、食事もままならないとのこと…。
――――山――――――
お父さんとお母さん、あとおばあちゃんにも言われたっけな…。
私はふと、あることを思い出していた。
それは昔,私が幼い頃によく言われていたこと。
『山には気をつけろ』
今になってその意味を理解した。
「遭難…か」
"遭難"という言葉があまりにも現実味を帯びていて、途端に不安感がグン、と増す。
「こんなことになるなら大人しく海にするべきだったかな…」と、心の底から思ったことを口にする。
息子が不安げな表情を浮かべる。
すると、
「なに、大したことないさ。こう見えてもパパはサバイバルに関しては少々自身があるんだ。絶対帰れるから、安心しろ、康太」
こんなとき、夫がいてよかったと本気で思った。私一人きりだったら絶対にこの不安に耐えられないだろう。
―何日経っただろうか、私達は心身ともに疲弊しきっておりそろそろ限界を感じた、そのときだった。
「街だ…!!」
夫が叫んだ。
その言葉を聞くとともに、緑に包まれた視界から光に包まれた世界に映り変わった。
それは街、というより町に近かった。田舎,と言う言葉がピッタリの雰囲気だ。民家と田んぼが延々と並んでいる。
ホッ、と安堵が胸を包むがまだはやい。
「泊まれる場所を探しましょう」
すぐさま山を降り、泊まれるような場所を探した。
みたことのない町、スマホの充電はないので現在位置を調べることもできない。辺りを見渡すとあるモノが目に入った。
「これは…看板?」
看板には『ツキヒト村』と書かれている。
村…か。ホテルはないけど道ぐらいなら聞けるかも…。
不幸中の幸いか…、まだ日は暮れてなかった。私達家族はその村に入ることにした。
道を聞こうと人を探すと,後ろから声をかけられた。
「おや、こんな時間に珍しいねぇ。家族で旅行かな?いいねえ」
「えぇ!家族で旅行をしていたんですが道に迷ってしまって…ここら辺に泊まれる場所ってありますか?」
親切なお爺さんに声をかけてもらって,少し安心する。
「ああ、宿ならこの先を真っ直ぐ行って右に曲がってしばらくするとあるよ」
「ありがとうございます!」と返事をしてふと気になっていたことを聞いてみた。
「ツキヒト村って一体何なんですか?私,ここら辺の地理には結構詳しいはずなんですけど,聞いたことなくて…」
「…………………」
場の雰囲気が変わった。
「―――っ」
その場の雰囲気がとても恐ろしく感じて私は出そうとした言葉が喉で詰まる。
その雰囲気を察して夫が私に声をかけてきた。
「おい…このお爺さんの気に障ることでも言ったんじゃないか?」
「いや…そんなわけは…」
「梓…あまりしつこくするとこのお爺さんにも悪いし…ほかを当たろうか」
と夫が口にしたとき、お爺さんは今までの表情が嘘かのように笑顔に戻って言った。
「いえいえ、大丈夫ですとも!こちらこそ怖がらせてごめんなさいね。私、つかれてるみたいです
でも…。
あなたもつかれてますよ」
変な汗が身体中から出るのを感じた。まずい、ここはまずい。触れちゃいけない何かが…ある。
私はこの時、冷静さを完全に失った。
「……………ね?」
お爺さんの顔が歪む。皮膚がただれてゆく。それはこの世のものとは思えなかった。ありえない、私が声を上げそうになったそのとき、先に声を上げたのは夫の方だった。
「――あぁぁ……ぁぁぁぁぁっっ!!」
夫が私を突き飛ばして森の方へ駆けてゆく。
「ちょ、ちょっと!!慎二!?」
気がつくと先程の"お爺さんだったモノ"も居なくなっていた。
「はぁ…はぁ…」
すると背後から声がした。
一言、『…マ?』
「――――っ!?」
心臓が止まるかと思った、がその声の正体は息子の康太だった。
「な、なんだ。康太か、驚かせないで…」
だが、康太は一言も喋らない。
「康太…?」
「…マ…………ツカレタ?」
そのときだった。ドン、と鈍い音が辺りを木霊した。理解するのにそう時間はかからなかった。どうやら、私の頭が思い切り打たれた音らしい。
「――ぁ」
私の意識は暗闇の底へと堕ちていった。
――――――――――――――
「ここにあるんだってさ!」
一人の女子学生は言う、ここにはいるらしい…と。
「何がいるんだよ、なんの説明もなしに連れてきやがって……」
「だから霊だよ…!幽霊!」
女子学生は嬉しそうに語る。
「おい!俺がこの手の話苦手なことわかって言ってるのか!?」
ケラケラと笑い合うカップル。だがそんな楽しい時間も長くはなかった。
「あれ…ここどこだろう。」
「おい嘘だろ?こんな山ん中で遭難とかシャレにならないぞ」
男は半分怒った口調でこたえる。二人はスマホを確認するが、二人共、スマホは圏外で助けを呼ぶこともできなかった。
「嘘だろ…じゃあなんだ?来るかも分からない助けをこの山の中で待たなきゃいけないのか!?」
男は取り乱す。女子学生は怯えながらも言葉を発した。
「おばあちゃんの言った通りだった…山は怖い、ちゃんと理解していれば…」
その時女子学生の目にとあるものが目に入った。
「……あれ、町じゃない!?」
「ホントだ…!!」
「とりあえず…行ってみる…?」
―――――――
「なにか御用ですか?」
笑顔で女性が対応してくれた。その優しさに二人は安堵で胸を満たされる。
「ええと、ここってどこかわかりますか?」
「…………」
女性が黙ってしまった。何か怒らせるようなことを言ってしまったのか。私達は女性に謝ろうとした、そのとき。
「憑かれてるのね……可哀想に…」
「ねぇ?アナタ」
男女のカップル「え?」
果たして二人がどちらの選択を取るのか、それは私達には知る由もない。
『ツキヒト村』
『ツキビト村』
あるいは、
『憑キ人村』




