第5話 誕生日は年に2回ある
実のところお客様には何のメリットもないのだが、サイトを見るとえっちなお店の女の子には、それぞれにお誕生日が設定されていることがある。
そのお誕生日を経てもプロフィール上の女の子の年齢が変わらない、という闇もよくある話で。僕もこの業界に足を踏み入れて以来、通算4回目の18歳が始まろうとしていた。
「じゃじゃーん! スバルちゃん、今月はお誕生日だよね、おめでとう! これ、大好きなスバルちゃんにプレゼントだよ」
僕の場合、その誕生日設定を活かしてお客様から何かもらおう、なんてセコい考え方はしていないつもりなのだが。
自分でも忘れていたくらいの設定上の誕生日を、案外常連のお客様の方が気にしてくれていたりするものだ。
「わ、わあー、嬉しいです! 開けてみてもいいですか?」
そもそもプレゼントの有無で、女の子からのサービスは変わったりはしない。
こちらもプロである以上、サービスは常にできる限り頑張ろうとはしているからだ。
「わ、わあー……か、かわいい下着だあ……嬉しいなー……」
開いた包みの中には、いかにもロリコンさんに興奮していただけそうな、今どき小中学生でも使わないような子供用の下着が入っていた。
まあ、このお客様が重度のロリコンなのは察していたけども。
でも結局のところ、こういうお店の女の子にプレゼントなんてあげたところで、女の子がお客様に恋してくれるなんてことはありえないわけで。
しぶしぶその下着を目の前で着てみてあげたところ、このお客様はたいそう喜んでくれている。 つまりどうせならこういう自分が楽しめるものをプレゼントするのが、たぶん賢いやり方なんだろう。
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第5話 誕生日は年に2回ある
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ガチ恋営業の達人な女の子は、逆に上客にささやかなプレゼントなんかをあげたりすることもあるらしい。
まあそこまでされれば、誰だってその子のことをまた指名しようと思ってしまうだろう。
さすがに大変そうなので僕はやらないけれど。
僕のようにそれなりに人気のある女の子の場合、プレゼントをもらうだけでも大変なのだ。
もらったものをいちいち自宅に置きに帰るわけにもいかないが、だからといって送迎のバンや事務所に置いているところを見られると、他の同僚から軽く嫉妬されたりもしてしまう。
何より難しいのが、受け取ったときのお客様に対するリアクションだ。反応に困るものが実はとても多いので、かなり対応には気を使う。
かといってもちろん、いらないとは口が割けても言えないし。
女の子の誕生日なんて気にもしていないお客様が大多数であり、かえってその方が気楽である。
「スバルちゃん、これ誕生日プレゼント。良かったらもらってくれるかな?」
今月二人目からのプレゼントがこちら。
通販サイトのギフトカードだった。
「わ、ありがとうございます! 嬉しいな……えへ、じゃあ今日はお返しに、いっぱい頑張らせてもらいますね?」
これは大正義のケースである。
どうせもらうなら結局のところ、現金が一番ありがたい。お店から天引きもされないし税金も引かれない。
ギフトカードなんかは実質現金だし、換金すれば本当に現金になるし。
ただしそんなお客様へ、お返しとして行うサービスとは、実のところいつも通りのプレイそのままである。
「これ、あげるよスバルちゃん。お誕生日だもんね。お店の女の子たちと食べてよ」
これもまあなかなか良い感じ。
きちんと個包装された、人気なお店のお菓子だ。
待機室に置いておけば、お店の同僚たちや店長さんなんかが喜ぶだろう。
僕が口にするかは別として。
ちなみにそこまで馬鹿な人はあまりいないが、手作りの食べものや開封済みなものは絶対にNGだ。
食中毒も怖いし、他にも色々と怖い。
その場で食べて欲しい、なんて言ったら女の子は泣き出してしまうかもしれない。
「スバルちゃん、プレゼントだよ。キミに似合うかと思ってね」
微妙なのがこれ。
アクセサリーである。
他にもバッグとかそういうファッション系統のパターンもあるのだが、所詮はおじさんたちのセンスで選んでくるわけなので、女の子が本気で気に入るわけがないのだ。
まして元は男である僕に、チャラチャラとアクセサリーを付けたいなんて軟弱な考えは一切ない。
お客様も、よほどのガチ恋勢か超大金持ちでもない限りは、僕たちなんかへのプレゼントにそこまですごいお金をかけるはずもない。
その結果、換金してもあまり旨味がないような、実に微妙なプレゼントが誕生してしまうのである。
「かわいいスバルちゃんが、一人で寝るときに寂しくないように、おじさんからプレゼントだよ。大事にしてね!」
そして最も嫌悪されるプレゼントがこちら。
ぬいぐるみだ。
疑うのは申し訳ない話なのだが、これ盗聴器入ってないか、GPS付けられてないか、と心配してしまうわけだ。
このクラスになると、有害物質として速やかに事務所の方で処理してもらえることになっている。
お気持ちだけはありがたい。喜んでいる演技はする。
だけどダメなものはダメである。
その他にも今月は様々なプレゼントを頂いた。
もちろん、お気持ちだけはありがたいと思っている。
ちょっと僕は使いそうにない感じの化粧品、花束、えっちなグッズ。
マッサージ器は本当にそれで肩でもマッサージしてくれるなら嬉しいけれど、これでスバルちゃんを気持ちよくしてあげるよ、的なことにしか使ってもらえない。
とはいえそんなお店の設定上のお誕生日ラッシュも落ち着いて、しばらくたったころのことだった。
その日は設定上は何もないごく普通の一日なのだが、実は僕が男だったころの、本来の誕生日だったのだ。
「あ、あのさ。ごめん、スバルちゃんがこの前お誕生日だったの、さっきサイト見て気づいちゃって。何も準備が……」
例の、僕とどうやら相性がいいらしい細身のお客様とは、たまたまその日に二、三週間ぶりくらいに会うことができた。
お誕生日シーズンということで僕の週末の予約がぎっちり埋まっており、ここ最近は予約が取れなかったらしいのだ。
僕のことを忘れていたわけじゃなく、ちゃんと求めてくれていたということに、ちょっと嬉しくなってニヤついてしまう。
だけど久々に会った彼はまた少し痩せたように見えて、その健康面が心配になってしまうところだ。
今日はちゃんと僕が、この人をしっかりと癒してあげなければならないだろう。
「そんなの、気にしないで下さい。だって僕は」
あなたにだったら。
「こうして呼んでもらえるのが、一番嬉しいんですから」
自然と口にできてしまったその僕の言葉は、ちゃんとこの人に伝わっただろうか。
他のお客様ではなく、この人みたいに素晴らしいお客様にご指名をもらえたということが、今の僕には一番の誕生日プレゼントなのである。
そうして彼と二人で、今日はわずか90分だけの特別な時間を過ごしていく。
スケベなことももちろんいつも通り精一杯に頑張らせてもらうわけだが、その合間の短い時間のイチャイチャでも、やっぱり彼との場合は少し不思議な感覚に襲われる。
腕枕の中でうっすらと感じる彼の匂いは、なんだか少しドキドキしてしまうのに、逆に自分の体の疲れが溶け出していくみたいに落ち着いてくるようにも感じる。
相性がいいっていうのは、やっぱりこういうことなんだろうか。
今自分がここにいることが、お仕事だということを忘れてしまいそうなくらいだ。
「あ、そうだ」
だから彼が急にそう言って起き上がったとき、元は男だったくせに情けなくも、なんだか寂しい気持ちになってしまった。
もちろんお客様に僕からあれこれ文句は言えないけれど。
彼は裸のまま僕に背を向け、急に自分の鞄をごそごそとあさりだす。
お仕事か何かの大事なことを思いだしたのかと一瞬心配したが、こちらに向きなおった彼は、何か妙なおもちゃみたいなものを手にとっていた。
見覚えのない道具だが、たぶんなんとなくだけど、女の子の身体を可愛がるためのそういうグッズなのだと推察した。
なにせこんなタイミングなのだから、まあそう思って当然だろう。
「あは、お客様ったらえっちですね。それどんな道具なんですか? 本当はオプションになっちゃうけど、今日だけはこっそり、好きに使ってくれていいですよ」
そう大サービスで優しく言ったつもりだったのに、彼は一瞬ぽかんとした表情になって、それから抑えきれないみたいにクスクスと笑いだした。
「いや、違うよ違う違う。……あー、でもやっぱりこれじゃダメだよね、誕生日のプレゼント」
彼はそう可笑しそうに笑いながら言って、片手に持った小さなプラスチック製の、小さなおもちゃみたいなものをくるくると手のひらの中で回しはじめる。
「あ、いや、その……。なんですか、そんなに笑わなくてもいいのに」
自分のこの、スケベなことばっかり想像してしまう職業病な脳ミソが嫌になる。
せっかく何か考えてくれたらしい彼に対して、えっちなおもちゃだなんて勝手に思い込んでしまうとは。
「……欲しいですよ? 下さるなら、そりゃあ嬉しいですよ? 何かはわかってませんけど」
ちょっとあざとく口を尖らせてそう言うと、見上げていたお客様の手元がパッと明るくなった。
その手元のおもちゃらしき何かが強い光を放っているみたいで、部屋を薄暗くしていたこともあり、僕は少し目がくらんでしまう。
「あっ、いやごめん急に、まぶしかったよね。……これ、小型のランタンなんだ。俺、キャンプが趣味でさ。最近はあんまり行けてないんだけど」
そう謝る彼の方に視線を戻すと、そのランタンとやらの光で、彼のその体の細さが際立って見えた。
この人、ちゃんとご飯は食べてるんだろうか?
僕のお客様にはいつも健康でいて欲しいものだが。
「……やっぱり、こんなものいらないよね? そもそも俺が何度も使っちゃってるし……ごめんね」
ぼんやりしていたら、彼がそうしょんぼりと言ってせっかくのプレゼントをしまおうとする。
だが、貰わないなんて言ってない。
僕は最悪なぬいぐるみのプレゼントですら、ちゃんと喜んでる風に受け取るいい子なんだぞ。
「い、いりますけど!? 貰いますけど!? ……へへ、仕方ないから、これで我慢してあげます」
自分でもびっくりするくらい生意気な発言になってしまったが、これはさすがにこのお客様が悪い。
男ならもっとグイグイ行かなきゃだめだ。相手の反応なんか気にせずに、プレゼントするならするでグイグイ渡すべきだ。
僕は彼からその小さなランタンを渡してもらい、スイッチを何度もカチカチと操作して明かりを付けたり消したりしてみた。
使い古しみたいに言っていたが、確かにちょっとだけ傷がついていたりするところが、かえって味があっていい雰囲気だ。
プラスチック製の本体はかわいらしいカラーリングで、マットな手触りが気持ちいい。
「それ手触りいいでしょ? 俺もそれが気に入って……あー、でもさすがになあ。やっぱり女の子に渡すもんじゃないかな」
「ダメですよ、もう返しませんから。……ふふ。お好きなんですね、キャンプ。お返しは、キャンプに使えるものを探してみます」
きっと彼のこの気負っていない暖かなプレゼントのせいで、僕は相当気を緩めてしまっていたんだろう。
自分の口が勝手に、お返しを探すなんて言葉を紡いでしまった。
彼もきっとそんなことは期待もしていなかったのだろう。
少し驚いたような顔になった彼に、僕もまた自分自身への驚きがばれないよう、身体を擦り寄せてそれをごまかすしかなかった。




