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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第4章 エルフの森

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第99話 親子

―――糸青蓮 視点―――


「蓮君、ウェンリさん大丈夫?」


「俺は大丈夫だ。だが、ウェンリは結構深手を負っている。ヨナ......いや、今はセナか。治療を頼めるか?」


「えぇ、任せなさい」


「それじゃ、僕も何か役に立つ薬草を探してみるよ」


 俺がセナに頼むと彼女は「ほら、傷を見せなさい」とウェンリの治療を始めた。

 即座に魔法を使わない辺りすでにこの毒霧の特性を知っているということらしい。


 ウェンリが治療のために服を脱ぎ始めたので、俺は背を向けると同時にミクモに拠点の方について尋ねた。


「今この場にいない康太とアイは律の護衛についたのか?」


「そやな。本人は『要らへん』て言うとったけど、ヨナちゃんの意思を尊重して残すことにしたわ。

 ま、何言うてもアイちゃんは残るつもりやったやろうし、この状況じゃ何起きてもおかしないさかいね。

 最強の盾を置いとくのんは当然のことやで」


「にしても、この霧はやべぇな。ずっと方向感覚が狂わされてる。数歩進めばもう元の場所には戻れない」


「おまけに元の位置に戻されるしな」


「戻される? そんなことアタイ達は起きなかったぞ?」


 メイファの言葉に俺は思わず小首を傾げた。

 どういう意味だ? こいつらはあの霧の中で迷わなかったってことか?


「それは恐らく獣人の危険察知能力でしょうね」


 俺の疑問に答えを出すように口を挟んできたのシェイリであった。

 ふむ、それは確かにそうかもしれない。


 俺が霧の中を彷徨っていた時、ずっと俺を狙っていた狼達がいた。

 それは狼達があの霧の中で迷わなかったからに他ならない。


 もうすでにこの目で見ている事象があるのならその説は信じるに値するかもしれないな。

 そんな言葉を裏付けるようにミクモも「確かに途中嫌な感覚がして避けたことあったな」と言っている。


「それじゃ、そろそろ本題に戻りましょうか。

 レン様、先ほども申し上げた通りミッドレンの近くで人のニオイを感じました。

 この霧を発生させた首謀者なら逃げられる前に捕らえた方がいいかと」


「そうだな。だが、今は怪我人がいる。今の目的はウェンリを助けることだ。だから―――」


「いえ、もしそれが本当ならあたしはその犯行を止めなければならない」


 俺の言葉を遮るようにしゃべったのはウェンリであった。

 後ろを振り向けば、未だ若干顔色の悪い様子だが、以前よりの生気の宿った強い目をしている。


 ウェンリはヨナと薫にかけられる心配の声を他所に強く自分の意思を伝えてきた。


「あたしはミッドレン様に赦されざる行いをした。

 それによる罪があたしにないとしても、あたしにはそれを行ってしまったという罪悪感は残り続けている。

 あたしが真に自分自身の気持ちにケリをつけるなら、昔と同じ状況の今に対してあたしが決着をつけなきゃならない。それにあたしも森を守るエルフだからね」


 その顔は「止めても無駄だから」という意志に満ち満ちていた。これは何を言っても意味ないな。

 ハァ、ウェンリが行くとなるとそんな状態のコイツを一人にさせるわけにはいかなしな。


「わかった。なら、俺も行く。乗りかかった船だ。俺もこの原因を無くすことに協力する」


「なら、私達も協力させてもらうわ」


 俺の言葉に反応したのはセナであった。いや、セナ以外の全員もか。

 それはありがたい。セナ達ほど心強い味方はいないだろう。


「だが、律達の方はどうする? あいつは転移魔法なんて厄介なものまで使えることになっちまった。

 場合によっては完治してない状態で助けに来るかもしれないぞ?」


「それは......確かにそうね。なら、あいつが心配でかけつけて来る前に戻るだけよ」


「そうだね。それしかなさそう」


「ウチらのリーダーは周りばっか見てるさかいね」


「いっそのことベッドに括り付けておいた方が良かったかもな。

 それならこんな心配しなくてもよかっただろうし」


「リーダーなのに散々な言われようね。ま、どうせリーダーならイジり甲斐がある方がいいわよね」


 セナ、薫、ミクモ、メイファ、ウェンリとそれぞれが共感を示した。

 いや、後半三人は明らかに律に対する意見だったか。なんかすまんな、律。


「なら、早速ミッドレンの所まで向かうか。全員、出発するぞ」


 そして、俺達はシェイリの案内ですぐさまミッドレンの場所まで向かった。

 その場所に近づくにつれて霧が薄くなっているのか少し遠くの方を見えるようになって、そこからぼんやりと巨大すぎる木が見えてきた。


 ある境から霧が突然抜けると目の間には俺の視界に収まり切らないほどの大木が目に映り、同時にその木の幹には魔法陣が描かれてあった。恐らくあれが霧の発生源だろう。


 だが、それよりも警戒すべきはその木の前にいる一人の女性。

 まだ後ろ姿しか見えてないが、明らかに魔力レベルがおかしい。

 俺と律が聖王国からドワルゴフへ戻ってくる時に出会った魔神の使途よりも明らかに強い。


「嘘......」


 その時、その女性に対して最初に反応したのがウェンリであった。

 そして、女性の方も彼女の声に反応するように振り返ってくる。


「あらまぁ、ウェンリちゃん。会えて嬉しいわ」


「お、お母さん......!」


「「「「「!?」」」」」


 その言葉に全員が反応した。

 この反応からして全員ウェンリの話を知っているのか?

 だとすれば、この反応をするのは当然だろう。


 なぜなら、ウェンリの両親は彼女が幼い頃に既に死んでしまっている。そう聞かされた。

 だが、今目の前には彼女自身が認める彼女の母親が立っている。


「ウェンリ、これはどういうことだ? お前の両親は―――」


「わからない。まだ本当に小さい頃だったみたいだから。

 もしかしたら、死んだことにして生きているなんて可能性もあるかもしれないけど......だけど、それだと村の人達が全員知ってて黙ってたことになる」


「それに問題は他にもあるわ。あの人がウェンリの母親ならなぜ世界樹ミッドレンに描かれてる魔法陣をそのまま放置していたのか。嫌な予感は想定すべきよ」


 セナの言葉にウェンリは「そうね」と呟いていく。

 しかし、それでも思うことがあるのか大きく一歩を踏み出すと俺達の前に出た。


「覚悟を決めるためにも話をさせて。確かめたいことがある」


 その言葉にセナは「わかった」と答えて戦闘態勢を維持したまま待機した。

 その一方で、ウェンリは一度大きく深呼吸するとは母親らしき人物に声をかけた。


「あなたは......あたしのお母さんであるウェンディでいいのよね?」


「えぇ、そうよ。あんな小さかった私の大切な娘がこんなに大きく育ってくれるなんてお母さんも嬉しいわ」


「そうね。あたしも朧気でしか覚えてない母さんの姿がこうして今もハッキリ見えてるのがとても嬉しいわ。

 そんなあたしの母さんは皆からもすごく評判が良かったことを後になって聞いたわ。

 そんな母さんに対して聞きたいことがある。今は何をしてるの?」


「今はこの毒霧で持ってこの地を浄化しようと思ってるわ。

 ふふっ、にしてもお母さんの評判がそこまで良かったなんて嬉しいわ」


 そんな笑うウェンディさんの一方で、後ろから見えるウェンリの姿は和やかな雰囲気とは思えなかった。


 当たり前か。経った今、自分の母親がこの霧の首謀者として決まってしまったんだから。


「母さんはどうしてそんなことをするの?」


「どうしてって......それがこの世界のためだからよ?

 我が主が作り出す新世界の礎の一端をお母さんは任されたの。

 ほら、誇らしいでしょう? お母さんはいつだって皆のために―――」


「汚さないで!」


 ウェンディさんの言葉を遮るようにウェンリは声を張り上げた。

 そして、握りしめた拳をそのままに告げる。


「あたしのお母さんは仲間(エルフ)のために、この森のために尽力されてきた人だと聞かされたわ。

 得意な魔法研究でミッドレン様の助けになるようにって。

 それがあたし達の知っているお母さんの像で、あたしはその人物こそがお母さんだと思ってる」


「つまりお母さんはウェンリちゃんのお母さんではないと?」


「そう......いうことになるわ」


 ウェンリは苦しくも言い切った。僅かに震えた声が全てを物語っていた。

 それに対し、ウェンディさんはスッと目を細くさせる。


「そう。それじゃあ、再教育が必要ね。ウェンリちゃんがお母さんをお母さんと認めるための」


 すると、ウェンディさんは指で輪っかを作り、指笛の音を響かせる。

 その瞬間、ドドドドッと多くの走ってくる音とともに数多の魔力反応を検知した。

 これは......!?


「不味いわぁ。大量の魔物周囲を包囲しながら迫ってきてるわ」


「しかも、この地鳴り普通に数が多いってだけじゃなさそうよ」


 ミクモとセナの言葉に周囲を巡らす。

 すると、霧の向こう側から巨大な影らしきものも見えてきた。


「ウェンリちゃんなら聞いたことあるでしょう? お母さんは魔物とお友達になれるの。

 それじゃあ、まずは―――親子の上下関係から教えてあげる」


*****


―――拠点 エルフの長の家


「大丈夫だから。だから、二人はもう警備に戻って」


 僕は慌ててきた康太とアイに護衛され、かれこれ十数分はずっとそばにいる。

 しかし、それだと他の場所の警備が手薄になるからとそう言っているんだけど―――


「って言ってるけど?」


「全く持って信用ならないの! お兄ちゃんは自分が無理すればそれでいいと思ってるの! そういうタイプが一番めんどくさいの!」


「アイ、だんだん口が悪くなってない?」


 しかし、実際に心配をかけてしまったことは事実なので言い訳もできない。

 それにそういう節もないわけじゃないので、余計に反論の言葉が出てこないというもの。


「ハァ、どうするか―――っ!?」


 その時、魔神の使途が来る前に康太とアイに設置して貰った<魔力探知>の陣魔符が警鐘を鳴らした。

 それは森の方から大量の魔物がこちらに向かってきているというもの。


「康太! アイ! 大量の魔物が迫ってきてる! ここが危ない!」


「「!」」


 その突然の言葉に驚く二人だったが、僕の真剣な目を見てすぐさま頷くと二人して窓から飛び出していった。


 その姿を確認すると僕はベッドから起き上がり、軽く手を握ったり開いたりして改めて体の調子を確かめる。よし、大丈夫。


「さて、僕はもう一つの大きな魔力に向かうか」


 ごめん、康太、アイ。二人には恐らく荷が重いだろうからこの相手は僕がやるよ。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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