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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第4章 エルフの森

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第97話 救出と聖女

―――ウェンリ=フォレスティン視点―――


 寒い。今感じてるのはその感覚。

 レンを庇った時に深手を負ったわき腹からもうだいぶ血が流れ、そして同時に体温も奪っている。


「グフッ......ガハッ......ハァハァ」


 そして、さらに今のあたしの状態を最悪にしているのがこの毒霧。

 しかし、これがあたしの犯した咎ならその報いを受けなければいけない。


 だけど、あたしはレンの言葉を信じて結局こうして抗っている。

 こうしていられるのは皆のおかげだろう。


 あたしの服はレンが作ってくれたもので普通に振り回した剣じゃ斬れないほどの耐久性を持っている。

 そのおかげであと少し深く抉られてれば死んでいただろうろ所をその服が守ってくれた。


 それにロクに魔法が使えないこの毒霧の中じゃヨナの丸薬とカオルに教えて貰った薬草で今もこうして命を繋いでいる。

 二人がいなければ体力的にも持たなかっただろう。


―――お前達のせいだ

―――お前達がいなければこんなことにならなかった

―――皆死んだのも、ミッドレン様が死んだのも全部お前達兄妹のせいだ


 そんな言葉がずっと聞こえてくる。

 責めてくるのはかつてあたしが殺した人達の声。

 ぼやけた視界で正面を見れば、目の前にその人達が見える。


 レンには見えてなかったみたいだからこれはきっと幻覚なのだろう。

 しかし、あたしの罪がこの人達を本物だと言っている。


 (こっち)に来て自分の罪を償えと必死に手を引いてくる。

 今にも向かいそうなあたしがいる一方で、同時に皆と一緒にいたいがために生に縋るあたしがいた。


 そんな瀬戸際に立っている。今が生きているのか死んでいるのかも怪しい。

 しかし、レンが言ってくれた言葉がずっと離れずに残ってるから辛うじて生きているのだろう。


「ガハッ、まぁ、目印を置いてきてる時点で生きたいんだろうね」


 そう呟きながら見たのは自分の肩。

 それはレンが毒に犯されたあたしを助けようと縫い付けた陣魔符があった場所で、今その場所には陣魔符はない。


 私が木の枝に引きずり込まれて適当に投げ捨てられた所でなんとか残したものだ。

 最初は遺言にしようかと思ったけどね。でも、生きたかった。


「グルルルル」


「来たか.....ぐっ」


 先ほどから私を突け狙ってるこの森の狼だ。

 こんな状態でも普段なら精霊がなんとかしてくれた。


 しかし、この霧を嫌って精霊もいなくなってしまった今のあたしにはあいつらにとってただの餌に等しい。


 なんとか棒切れを振り回してここまでやってきたけど、相手もこっちが弱ってるのを分かってるのかしばらくして来やがった。


 なんとか寄りかかってる木に手をかけてよろめきながら立ち上がる。

 毒はヨナとカオルのおかげでだいぶ緩和されたけど、さすがに体も調子を取り戻したわけじゃなさそうね。さすがにキツイ。


「ガウッ! ガウッ!」


 リーダーであろう狼が吠えると同時に複数の狼が私に向かって走り出してきた。

 これはいよいよ覚悟を決めるしかなさそうね。


「キャウンッ!」


「!?」


 その時、濃霧の向こう側から投網が飛んできてその場にいた全ての狼を捉えてしまった。

 この糸はまさかレ―――


「ふふっ、どうやら間一髪といったところでしたね」


 現れたのはアラクネの女性であった。けど、レンが召喚できる蜘蛛と種類が違う。

 だけど、そのアラクネが着ている服はレンのものだ。

 レンが蜘蛛に襲われるのは考えづらいけど。


「レン様、着きましたよ」


「あぁ、すまない。生きてるか?」


「.......ふふ、なんともかっこつかない登場ね」


 レンはアラクネの背から降りるとすぐにあたしの状態を聞いてきた。

 その顔は普段のクールさを忘れたように心配した顔でなんだかおかしく感じる。


「大丈夫よ。ヨナとカオルのおかげで毒はだいぶ和らいだから。

 それにお前が来てくれたことで元気も湧いたしね......グフッ」


「無理するな。傷を負った部分を見せろ。

 その包帯の巻き方じゃヨナの丸薬の治療効果も減少しちまう」


「えぇ、任せるわ。変な所は触らないでよ?」


「それだけ話せるなら十分だ」


 そして、あたしはレンにわき腹の簡易的な治療をしてもらい、それから背中に背負われた。


「痛まないか?」


「えぇ、問題ないわ。それでこのアラクネは?」


「シェイリというこの森に住む蜘蛛の魔物だ。ウェンリを探すのを手伝ってもらった。てっきり知ってるかと思ったが」


「あたしはだいぶ小さい頃にこの森を出たからね。知らなかったし、知ってたとしても百年前の話だから」


「―――えぇ、わかったわ。なら、話せる私が直々に行くわ」


 あたしとレンが話しているとシェイリの方でも進展があったみたい。

 同種の小さな蜘蛛達と何か話してる。


「レン様、恐らくお仲間であろう人間の団体がこの霧の中を彷徨っているということなので、私は直々に案内してきます。

 レン様達は近くの洞穴に向かってそこで身を隠してください。そこまでは小蜘蛛が案内します」


「わかった。出来れば早めに連れてきてくれ。専門的な治療は早いに越したことはないからな」


「わかりました。では、その任務の御褒美につきましては後で暑い繁殖行動を行いましょう! アデュー!」


「おい、なに勝手に確約してる」


 そんなレンの言葉も虚しくシェイリは複数の小蜘蛛を引き連れてあっという間に霧の中へ消えてしまった。相変わらず蜘蛛にモテてることで。


「で、繁殖行動ってどういうこと? アラクネって昔から人間を魅了して誑かす魔物って言われてるけど、確かにあのシェイリってアラクネは美人だったわね。もしかしてそういう趣味が?」


「違うからな。体よく顎で使ってるだけだ。

 便利だからな。もちろん、報酬は別の形で出すつもりだが」


「うわぁ、言っちゃいけないんだ。ねぇ蜘蛛さん、今の話聞いた?」


 そう一匹の蜘蛛に聞いてみるとコクリと頷いたにも関わらず、まるで猫が自分の所有物を主張するようにレンのズボンに体を擦りつけてる。

 そのことを理解しててもそれを補って余りあるほど好きなのね......。


「ハァ、そんだけ軽口が話せるなら本当に大丈夫そうだな」


「これでも割と本気で生死を彷徨ったけどね」


「なら、大人しくしとけ」


 すると、あたし達はその蜘蛛の案内で歩き始めた。ま、あたしは背負われてるのだけど。

 それにしても、この年齢でおぶってもらうなんて初めてかもしれない。


 レンの背中は思ったより広くて、お兄に背負われてた記憶を思い出す。

 それに私の心音が聞こえないかと思うと少し恥ずかしくなってくる。


 レンは私に気を遣うように私の足を抱える腕も出来るだけ私の肌に触れないようにしていて、その気遣いがなんだかこそばゆく感じた。

 いつもよりドキドキしてるかもしれない。未だに毒が残ってるっていうのに。


「ねぇ、もしあたしが死んでたらどうしてた?」


「ひっぱたいてでも起こした」


「もう少しマシな回答はないの?」


「なら、そんなバカな話をするな。俺はまだお前に助けられた恩を返せてない」


 少し茶化そうと思ってそう言ってみたらこの反応。

 ハァ、つまらない。だけど、酷く心地良い。

 そう思ってるとレンが不意に尋ねてきた。


「なぁ、お前の過去に何があった?」


「それは......」


 突然の話題に言葉が詰まる。すると、彼はすぐに言葉をかけてくる。


「別に答えたくないならそれでいい。墓場まで持っていきたい秘密ってのもあるだろうしな」


「違う! あたしは話したい......でも、それを聞いた皆の反応を想像すると怖くて......それで」


 そう言うと呆れたようにため息を吐かれた。


「あのなぁ、俺達の絆はそこまで弱くないはずだぞ?

 それこそお前がどんな秘密を抱えようともな。それとも、お前は信じてないのか?」


「信じてるわよ!」


「なら、問題ないだろ。それでも不安ならまずは俺の反応で確かめてみろ。

 恐らくお前は勝手に罪意識を抱えてるだけだろうがな」


 話していると霧の向こうから洞穴が見えてきた。

 その洞穴に入ってレンが慎重にあたしを降ろしていくと正面に座っていく。


「さ、聞かせろ。お前の話を」


*****


 ヨナ、薫、ミクモ、メイファが捜索隊として出て行ってから間もなくしても、僕はベッドの上で安静を命じられていた。


 正直、少し痛むぐらいで十分に戦える。だけど、そんな言葉は誰も聞いてくれない様子で、結局残った康太とアイもこの村の防衛に努めている。


 一人部屋に残った僕は仲間が大変な状況に対し何も出来なくて酷くじれったい。

 もうこっそりと出て行っちゃおうかな? 大丈夫だよね?


「あ、いっけないんだ~。そんなことして」


「!?」


 その言葉を聞いた瞬間、身も凍るような寒気に襲われた。その感覚は先日戦ったアルバートと同じ。


 俺は思わず部屋を見渡していく。しかし、誰もいる様子はない。だけど、誰かいる気がする。

 先ほどまで聞こえていた外の喧騒がまるで無かったかのように聞こえない。


 ベッドから少し移動して窓を覗き込むとそこは真っ暗になっていた。間違いない。これは結界だ。


「よっこらせっと」


「誰だ!」


 俺は左手の魔法陣から刀を取り出すと刃先を背後に向けた。

 そこにいたのは目元を黒い布で覆った絶対的にブロンドで毛先だけが紅くなっている修道服を着た女性であった。


 しかも、その修道服はこれまでの魔神の使途よりもどちらかというとエウリアが着ているような聖女服に酷似ている。


 警戒心マックスの俺に対し、その魔神の使途と思われる女性はシリアスな雰囲気を壊すようにおちゃらけた挨拶を始めた。


「どうも、こんにちは! 皆の聖女ちゃん―――ロクトリスです! 皆からの愛称はロキって呼ばれてます! よろしくね!」


「.......」


「.......」


「.......」


「.......あっれ~? 完全に滑ったな、これは。ごほん、それでは別の挨拶で行こうかな。

 全人類の希望の星! 皆の可愛い愛され少女! あなたの素敵な恋人―――大罪の聖女ロクトリスちゃんです!」


「......」


 とりあえず、別の意味ではっ倒したくなった。

読んでくださりありがとうございます(*´ω`*)

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