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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第4章 エルフの森

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第95話 狙われた仲間

―――青糸蓮 視点―――


「なんだ.....あれは?」


 ドクロの形に見えなくもない紫色の霧がこちらに向かって動いている。

 動きは非常にゆっくりだ。すぐにこちらに向かってくることがないのは一安心といる。

 とはいえ―――


 すぐに周囲を見たが、その霧が通った個所の木は形を保ったまま白い灰のようになってる感じで地面の植物も同じような感じだ。


 その霧が近づくにつれて近くの木が枝先から白くなっている様子からそれを作り上げたのはあの霧とみて間違いないだろう。


 そして、俺の直感だがあの霧は触れるのは不味い気がする。

 ま、直感以前にあんなドクロの形してれば否が応でも危険視するが。

 とにもかくにも、一刻も早くここから離脱することが最優先だ。


「ウェンリ、一旦逃げる―――」


 そう言いながら振り返るとウェンリはただ茫然とした様子で口を開けたまま固まっていた。

 まるで俺の姿が視界に入っていないかのように。

 その目は少し危険だ。


「あぁ......やっぱり、私は赦されてなかった」


 目を見開いたまま涙を流していく。

 何かに恐怖しているように小刻みに体を震わせながら。


「ウェンリ、逃げるぞ! ウェンリ!」


 そう声をかけてもウェンリの耳には届いていない様子だ。

 何かに意識が囚われてしまっている。

 俺は咄嗟にウェンリの肩を掴むと強く揺さぶって声をかけた。


「ウェンリ、逃げるぞ!」


「ダメ、逃げちゃ......私の罪は赦されてない。

 しっかりと報いを受けるべきなのよ、ガハッ」


「ウェンリ!?」


 ウェンリの体が鉛のようにその場から動こうとしない。

 そして、口からは僅かに血を吐いていく。


 この霧、やはり毒か? だとすれば、どうしてウェンリだけ?

 ともかく、先に毒をなんとかしないと。


 俺はすぐに自分の手持ちから<解毒>の陣魔符をウェンリ衣服に縫い付けた。

 これで剥がれることは......!?


「陣魔符の効果が打ち消された!?」


 その紙に描かれていた陣魔符は俺が魔力を流した瞬間、その魔法陣は魔素となって消えていった。

 そこにあるのは何も描かれてないただの紙。


 この感じ、律の傷口で起こったのと同じだ。

 というよりは、俺よりも強い魔力でこの毒霧は()()()()()()()()ってことだ。


 誰がこんなことしているが分からないが、今は逃げるのが優先だ。

 このままじゃウェンリが毒で死にかねない。


「行くぞ、ウェンリ!」


「ダメ、『逃がさない』って言ってる。『罪を償え』って」


「誰もそんなことは言ってない!

 お前に何があったか知らないがそんな声は聞こえない!」


「ダメ、この人は連れて行かないで!」


 その瞬間、俺はウェンリに強く弾き飛ばされたと同時に俺の真後ろから伸びてきた棘のついたツタがウェンリのわき腹を抉っていった。

 その鮮血が俺の目にくっきり映っていく。


 もし俺があのままだったら真後ろから貫かれてただろう。

 それをウェンリが助けてくれた。

 ただでさえ毒で苦しんでるウェンリが。

 俺のために......クソ、また俺は助けられてんじゃねぇか!


「っ!」


 どこからかゴゴゴゴと動いてくる音が聞こえてくる。

 咄嗟に周囲を見渡したが、何か変わったところはない。

 ということは、地面か!


 俺は咄嗟に近くの木に魔力で作った糸を飛ばすとそれを巻き取って移動していく。

 すると、先ほど俺がいた場所には地面から突き刺すような太いツタが飛び出してきた。


 しかも、それは俺をしつように狙っているのか向かってくる。

 すぐさまそのツタを避けるとそこの木は簡単にへし折られ軽く吹っ飛んでいった。


「くっ!」


 今度は俺の移動した先の地面から突き出てくる。先ほどとは別のツタみたいだ。

 ドンドンドンと俺が移動するたびに地面から突き出しきた。


 すると次は下方向に意識が向いた俺に対して、左右の木々から二本のツタが伸びてくる。

 それを体を大きく仰け反って避けると正面にはこっちに向かって突き刺そうと待ち構えてるもう一本のツタが。本気で俺が邪魔みたいだ。


「チッ、邪魔くせぇ」


 俺がいつまでも受け身でいると思うなよ?

 俺は右手を上に伸ばして待ち構えてるツタに糸をくっつけ、さらに左手は腰に装備しているダガーの柄に触れた。


 そして、そのツタが勝手に落ちてくる前にこっちが少し斜めになるように引っ張りながら、同時に腕を引く勢いで自身の体に回転をかけていく。


―――ガッ


 なぜなら、俺の真下からもう一本のツタが出てくるだろうことは予想出来てたからだ。

 その行動によって、真上のツタは俺から少しズレた地面に突き刺さり、真下から出てきたツタは回転の勢いで無理やり位置をズラしたので避けることに成功した。


 さらにそのツタは俺を追ってくることがわかっているので、地面から出てきたツタの方を左手のダガーで切り飛ばしていく。


 最後は俺の空いた右手がどこかに木に糸を引っかけて俺をその場から離脱させれば終了。

 無事にツタの猛攻を乗り切った。ハァ、危うく死ぬかと思った。

 薫との戦闘訓練がなければ死んでたかもな。


 一息つこうと思った俺だがすぐにウェンリのことを思い出し、周囲を探る―――必要もなかった。

 どうやらそのツタの狙いははなから俺ではなかったみたいだからだ。


「ウェンリ!」


「あなただけでも、ガハッ......逃げて......」


 ツタに体を拘束されながら弱弱しい声で俺に「逃げろ」と言ってくる。

 やめろ.....俺に、俺にそんな言葉をかけんじゃねぇ!

 そいつは俺を助けてくれた律と同じじゃねぇか!


 俺はもうアイツに二度も助けられてる。

 レッドアームに殺されそうになった時とアルバートという魔神の使途の時だ。


 それで今度はウェンリに助けられか? ざけんな!

 それじゃ、俺が強くなった意味がねぇじゃねぇか!

 もうこれ以上助けられっぱなしでいられるかよ。今度は俺の番だ。


「ウェンリ、必ず助ける。信じて待ってろ」


 俺は逃げない。

 大切な仲間すら助けられずにアイツらと一緒に過ごせないからな。


「......うん、わかった」


 ウェンリがだいぶ出血が酷いのか顔が青白い。

 しかし、俺に対して信頼しているかのような笑みを見せてきた。

 アイツ、今にも死にかけなのに俺に気を遣いやがって。


 俺は<召喚>魔法で蜘蛛を一匹を召喚するとその蜘蛛に言伝をして、目の前で煙に飲み込まれていったウェンリに向かって走り出した。


 俺が毒霧の中に突入しても何ともなかった。

 空気は悪く、霧で視界は悪いが体に異変はない。

 ということは、あの霧は植物とウェンリをピンポイントで狙った毒ってことか?


 いや、恐らくこの霧はウェンリが俺達が来る以前からあったと考えるべきだろうな。

 にしても、ウェンリのあの反応......この霧に対して異様なまでの怯え方をしていた。

 幻聴まで起こしていたほどだただ事じゃない。


 ということは、ウェンリが真にその「何か」から解放されるためにはこの霧を解決しただけじゃダメかもしれないな。


「ともかく、今はウェンリを探しだないと!」


*****


「まさかウェンリお姉ちゃんにそんな過去があったなんて......」


「ということ、これまでもずっとその苦しみを抱えて生きてきたってことだよね」


 僕はベッドに座りながらアイと一緒にワングさんから語られたウェンリの過去を聞き、その苦しみに気付いてやれなかったことに思わず拳を握った。


 しかし、聞いてしまった以上はその苦しみをどうにかしたいと思う。

 それが仲間として、友人としての僕の務めのような気がするから。

 それに良い人には幸せになって欲しいしね。


「ウェンリお姉ちゃんの見せてきた表情は本物だったのかな......」


 アイは自分のようにその聞いたことを受け止めているようだ。

 それは感受性豊かなのに加え、自分にも似たように辛い過去があるからかもしれない。


 僕はそんなアイの頭をそっと撫でると聞いてみた。


「それじゃ、アイはウェンリの嬉しそうな顔や楽しそうな顔は全部嘘だと思う?」


「そんなことないの! ウェンリお姉ちゃんはアイに対して厳しくもすっごく優しくて、そんなウェンリお姉ちゃんのことがアイは大好きなの!」


「なら、きっとそうだよ。アイほどの純粋な感受性を持った子はいないからね。

 それに僕もそうだと信じてる」


 きっとウェンリはアイと一緒だ。

 アイは自分に辛い過去がありながらも、小さいながらにその事実を受け止めてしっかり前を向いて歩いている。自分の本当の表情を見せて。


 ウェンリもこれまで浮かべてきた表情はどれも本物だったと僕は信じている。

 それにウェンリは僕よりずっと強いハートしてそうだしね。


 ただ何事も“絶対”は存在しない。

 一人で抱えきれるものにも限界があり、それに耐える苦しみを僕は知っている。


 僕が初めて人を殺し王国に対しての罪人となった時、そのような気持ちになった。

 自分一人でどうにかするなんてことを言ったこともあったが、今思えば絶対どこかで壊れていたと思う。


 僕はすぐに皆に助けてもらったからその苦しみを抱えても乗り越えることが出来た。

 アイもヨナも僕に過去を打ち明けたことで何か楽になった部分があったかもしれない。

 しかし、ウェンリはどうだろうか?


 今日で初めてウェンリの過去を知った。

 ということは、これまで一人で耐えてきたということ。

 本人が気づかないだけでとっくの前から耐えれる器が壊れていた可能性だってある。


 だから、今ここでウェンリの心を皆で支えあえば―――


「誰か勢いよく走ってくるの。しかも、複数」


「複数? 皆かな」


 その僕の予想は正しく、ドアを開けて皆が現れた。

 ただ違う点を挙げるとすれば、そのドアは勢いよく開かれ、全員がまるで何かを伝えるために走って来たようで息を切らしていたことだ。


「リツさん、大変なことが」


 そう言ってヨナが両手で包んでいた中から出てきたのは一匹の蜘蛛。

 この蜘蛛の種類......蓮の召喚した蜘蛛か?


 すると、その蜘蛛はヨナの手から近くの小さなテーブルに移るとそこにあった紙に器用にペンを持って何かを書き始めた。

 そこには拙い字でこう書かれていた。


『俺は攫われたウェンリを助けに毒霧へと行く。この森は魔神の使途が関わっている。気をつけろ』

読んでくださりありがとうございます(*´ω`*)

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