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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第4章 エルフの森

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第91話 緊急治療

―――ヨナ 視点―――


「本当に一人にさせて良かったのでしょうか......」


 馬車の揺れを感じながら一人置いてきてしまったリツさんのことを考えてしまいます。

 あの人はきっとガレオスさんと同じような存在なのでしょう。

 しかし、ガレオスさんとは違って殺意が明確にありました。


「だが、あの場で俺達がいた所で何が出来た? こうして逃げるのが俺達の最善策だ」


 私の言葉にレンさんが冷静に言い返して......いいえ、腕を組む手に力が入っています。

 本当は一緒に戦えなくて悔しいのですね。


「律に背負わせないようにと思ってたけど、あの時何をされかけたのか律が攻撃を防いでくれるまで理解することも出来なかった」


「結局、僕達は弱いままっだったんだね」


 カオルさんもコウタさんも自分の弱さを憎むように強く拳を握りしめていました。

 そんなリツさんを良く知る彼らのそのような姿を見るとこちらも同じように悔しさが強まってきます。


「リツはんはリーダーとして一人でも生かすために最善の行動をしただけ。

 ほんで、その行動に従うておんなじように生き延びようとした私達の誰も悪いことはしてへんわ」


「ま、もしかしたら、そっちの方がアイツ的にも生き延びる確率が高かったんじゃねぇか?」


「お兄ちゃんは死なないの! お兄ちゃんはアイと約束してくれたの!

 だから、アイはお兄ちゃんが無事に戻ってくるのを信じてるの!」


「そうね。あたし達が出来ることはとにかく無事に帰って来れるように生きていること。

 もしかしたら他に伏兵がいるとも限らないからね」


 ミクモさんもメイファもアイちゃんもウェンリも皆誰一人として信じてるように暗い顔を作らないようにしてます。

 本当は仲間を見捨てるようなこんなことはしたくなかったはずなのに。


 そんな言葉に男性陣も思い直したようにリツさんの帰りを信じるような顔に分かりました。

 私もいつまでもクヨクヨしてるわけにはいきません。

 いつ帰って来てもいいように迎える準備をするだけです。


 その時、ミクモさんと彼女に寄り添うようにいたアイちゃんの耳が同時にピクっと反応しました。


「どうしたんですか?」


「魔力の揺らぎを感じたの。知ってる気配なの」


「それもここから気配を感じるわ―――移動中の馬車の中からね。加えて、血のニオイもする」


「まさか、ここも狙われて―――!?」


 その時、私達が乗る馬車の中心の床から魔法陣が浮かび上がり、同時に光に包まれていきました。

 そして、その魔法陣の上では光の糸のようなものが集まり、次第に形を作っていきます。

 これは......人のかたち?


 人のかたちをしたそれは次第に物体を具現するように肉付けし始め―――それで出来たのがリツさんでした。


「リツさん!?」


 あまりの急な登場に驚きが隠せませんでしたが、しっかりと戻って来てくれたんですね!


 全員がリツさんに声をかけていきます。

 しかし、全く反応せずにそのまま慣性で馬車の外へ吹き飛ばされてしまいました。


「ウェンリ、馬車を止めろ!」


「わかったわ!」


 レンさんの指示にウェンリさんが急ブレーキをかけて馬車を止めました。

 そして、私達は地面に伏しているリツさんに駆け寄っていきます。


「リツさん、大丈夫―――っ!?」


 体を抱えるとそのあまりの悲惨さに息を呑みました。

 リツさんの左肩から右腰にかけて大きく斬られた跡があるからです。

 その傷による出血が酷いせいか体も青白くなり、体温も急激に低下しています。


 ど、どうしましょう!? リツさんがこんなケガをするなんて......! は、早く治療しなきゃ!

 でも、この傷はどこから治し始めたら!?

 早くしないとリツさんが死んで―――


「ヨナ、落ち着きなさい」


「!?」


 その時、ウェンリが両手で私の顔を挟み込んできました。

 そして、強制的に目を合わせていきます。


「ヨナ、今この状況で頼れるのは色んな人を治療してきたあなたしかいない。

 そのあなたが狼狽えてしまったらそれこそ取り返しのつかないことになる。

 あなたはあなたに出来ることをしなさい。

 そのために必要なことは私達に指示すればいいから」


 ウェンリの手がそっと離れるとふと周りに視線を移していきます。

 すると、そこには同じような気持ちを抱える皆の顔があり、私を信じる目で頷いていきました。


 そこで私の意識がハッと戻るとゆっくりと一回深呼吸して、着物の帯にある細い紐でたすき掛けしていきます。


「今からリツさんの応急処置を始めます。皆さん、手伝ってください」


「「「「「おぉ!」」」」」


 そして、私は皆さんに指示を出していきました。


「まずミクモさん、リツさんの体温がこれ以上下がらないように温めてください」


「わかったわ」


「それから、メイファは裁縫で使うのより少し大きい針を用意してください。

 アイちゃんは私の荷物から<治癒>の魔法陣が描かれた陣魔符をありったけ持ってきて」


「任せろ、速攻で用意してやる!」


「うん、わかったなの!」


「ウェンリとカオルさんは今後に必要な薬草とレイミャク草を採取してきてください」


「任せて!」


「えぇ、すぐに採ってくるわ!」


「コウタさんはこの血によっておびき寄せられた魔物の排除を。

 レンさんはメイファさんが針を持ってきて次第糸を具現して通してください」


「わかった!」


「あぁ、了解した」


 そして、私は現在手持ちにある丸薬を取り出すとそれを手で握りつぶして細かく砕くとその粉末を傷口に巻いていきます。


 もともとはそのまま葉をすり潰しただけでも効果のある薬草ばかりです。

 丸薬に加工してますが効果は消えてないはずです。


「お姉ちゃん、陣魔符を持ってきたの!」


「ほら、短剣から加工した針だ。もってけ!」


「ありがとうございます」


 私は陣魔符を近くにいるレンさんに針に糸を通すように指示するとアイちゃんから受け取った陣魔符を傷口付近に均等に貼っていきます。

 ここからはスピード勝負ですね。


「ヨ......ナ......?」


「リツさん!? 意識があるんですね、良かったです。これからリツさんの治療に入ります。

 リツさんの傷口が大きすぎて普通の丸薬の回復では間に合いません。

 加えて、私達の中で治癒に特化した方はリツさん以外にいません。

 ですので、傷口を一旦糸で塞いでから、<治癒>の効果で一気に傷口を塞ぎます。

 痛みを伴いますが我慢できますか?」


 捲し立てるように言葉を発してしまいましたが、リツさんはその言葉の意味を理解したようにコクリ頷いていきます。

 わかりましや。リツさんが私を信じてくれるなら、そのために全力を注ぎます!


「アイちゃん、布を追加で持ってきて!」


「わかったなの!」


 そして、アイちゃんが馬車から布を持ってくるとそれをリツさんに噛んでもらい、一方で私はレンさんから糸の通った針を受け取りました。


「ミクモさん、念のために脈も測ってください」


「ええわぁ」


 そして、私は勇気を振り絞って傷口を縫っていきます。

 これは確か「結紮(けっさつ)」という体の一部を固定する治療法で、魔法のないリツさんの世界の治療法だと聞きました。


 しかし、ここまで本格的ではないものの、この世界にも傷口を糸で塞ぐといった民族療法は存在してます。

 そして、その民族療法について過去に調べた記憶があったのですぐさまこの方法に辿り着けました。


 あの時は単なる治療法の一つとして覚えてるだけで、魔法があるこの世界ではあまり意味がないものと思ってましたが......その知識がいつ役に立つかわからないものですね。


 リツさんが痛みで暴れそうになる所をレンさんが抑えてくれています。

 そのうちに早く終わらせなければ!

 

――――グルルルル


 その時、周囲から獣の唸り声が聞こえてきました。

 しかし、その意識を完全に無視します。

 なぜなら、私達には守ってくれる仲間がいるから。


「治療の邪魔はさせない!」


 コウタさんが襲ってきた大きなネコのような魔物をハンマーで追い払っていきます。

 そして、手の空いたアイちゃんとメイファも参加してこの場所を護衛してくれました。


「念のためこの周囲に糸の結界を張っておいた。

 万が一、あの三人を隙をついて近づいて来てもこの結界が防いでくれる」


「ありがとうございます」


「礼はいい。この結界が張れるのもリツが結界魔法陣を教えてくれたからだからな」


 私は集中して傷口を塞いでいきます。

 しかし、どうしてか傷口からの血が止まりません。


「ヨナちゃん、<治癒>の陣魔符が!」


「え?」


 ミクモさんの言葉に傷口に貼った陣魔符を見てみるとそこに描かれていたはずの魔法陣が消えていて、ただの紙となっていました。


 どうして!? この魔法陣は魔力を加え続けていればずっと発動してるはずなのに!?


「もしかしたら、魔法のみを解体する何かなのかもな」


 私が突然の事態に驚いていると横にいたレンさんが答えてくれました。


「どういうことですか?」


「これを見てくれ」


 レンさんは傷口に貼ってあった紙を一枚剥がしそこに適当な魔法陣を描くともう片方の手に自身の魔力で具現した糸を取り出し、その二つを傷口に近づけました。


 その瞬間、傷口に近づけた紙の方からは魔法陣が消え、糸は残ったままでした。

 これは一体......!?


「これがあいつの魔法の特性か、はたまた別の何かはわからないが、少なからず単純に魔力に依存した魔法系統は無効化されるようになっている」


「つまりあんたの糸や魔法によって具現した炎、水やらは消えへんけど、具現せへんで魔法自体で効果を出すタイプは意味あらへんってことね」


「それじゃあ、治療魔法はほぼ全て無理じゃないですか!?」


「あぁ、だから普通ならこの時点でリツの命は終わってるはずだ。

 だが、それに頼らない治療法も知ってるヨナならなんとか出来るはずだ」


「っ!」


「魔法を使うてすぐに回復させることはややこしなったけど、普通に治療する分には問題あらへんってことね。なら、このまま治療を続けまひょ」


「そうですね。続行します」


 私は咄嗟に追加で丸薬を砕き、傷口に巻きました。

 たくさんの丸薬の中には凝血効果を持ったものも存在します。

 それを利用して血を止め、その間に傷口を縫っていきます。


 結果的にかかったのは数十分なのでしょうが、体感的には一時間は軽く超えてます。

 幸いだったのは傷は大きくても深くはなかったことでしょうか。


 確かアルバートさんはリツさんを殺すつもりはないといった発言をしてましたが......もしかしたらそれによる結果かもしれません。

 ともかく、この傷が内臓まで至ってない以上は大事まで至らないはずです。


「一先ず傷は塞ぎました。後はリツさんの回復力を信じましょう」


 そして、私達は戻ってきたウェンリとカオルさんの二人と同流すると馬車に乗って移動していきました。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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