第89話 次なる行く先は
街となった拠点のとある広けた場所。
そこは単純に未だ工事の手が行き届いてないだけだが、今の僕達にとってはその広さが丁度いい。
その場所に向かい合うのは刀を持つ僕と指の関節を慣らすように拳と手のひらを合わせているガレオスさんだ。
これは僕がドワルゴフに行く前からガレオスさんにつけてもらっていた特訓で、そして今日は久々にその特訓を再開するのだ。
「それでは行きます」
「あぁ、いつでも来い」
僕は刀を構え、ガレオスさんは両手の拳に魔力を纏わせてファイティングポーズを取っていく。
そして、最初に動き出したのは僕だ。
足に<加速>の魔法陣、足の下の地面に<風射>の魔法陣を作りだし、瞬間的に加速してガレオスさんに刀を振り下ろしていく。
しかし、それは簡単に片手で受け止められるとすぐさまもう片方の片手で顔面目掛けて拳が飛んで来た。
それを咄嗟に首を傾けるもチリッと僅かに髪の毛が舞い、頬に切り傷が入った。
ただの拳一発でまるで刃物で斬ったような威力が出る。
相変わらずバケモノだ。
「はっ!」
僕はすぐさましゃがみ込むと足払いをしていく。
されど、それはジャンプで避けられてしまった。
だけど、その避け方は想定内!
足払いでの勢いをそのままに体を回転させながら、同時に体を起こしていく。
そして、右手に持っていた刀を順手から逆手に持ち替えてそのまま逆袈裟に斬り上げた。
「っ!」
しかし、その無駄のない攻撃も簡単に防がれてしまう。しかも片手で。
ニヤッとしたガレオスさんの顔を見える。
そして、胸ぐらを掴まれるとそのまま思いっきり頭突きされた。
「ぐっ!」
その直後に腹部を蹴られて僕の体は吹き飛んでいった。
すぐさま刀を地面に刺してブレーキをかけていくが、立ち止まった後でも体が後ろに引っ張られるかのようなずっしりとした重みを腹部から感じる。
「おいおい、俺相手に攻撃手段縛って勝とうなんざ五百年は早いぜ?
いいから、とっとと全力でかかってきな」
ガレオスさんは挑発すつように手をクイッと動かしていく。
確かに、僕は二つ目の神殿の遺物を手に入れて少し浮かれていたのかもしれない。
きっとこの先は僕達が探ろうとしている闇の方から近づいて来る可能性がある。
そして、ガレオスさんはその闇側の人物。
どうしてガレオスさんがここまで親切にしてくれるかはわからない。
しかし、ガレオスさんが変であるだけで、他の魔神の使途は違うかもしれない。
加えて、ガレオスさんレベルの相手に出し惜しみしていれば、僕だけでなく仲間も死ぬ可能性が高い。
「わかりました。全力で行かせてもらいます」
「あぁ、そうこなくちゃ―――」
僕はガレオスさんに手を向けるとガレオスさんの腹部には<爆炎>の魔法陣が浮かび上がる。
「来たな! ゼロ距離攻撃!」
ガレオスさんの体が爆発した炎に包まれると同時に僕は自身に錬魔による魔力強化、身体強化、さらに魔法陣による身体能力向上バフ、魔力攻撃向上バフ、魔力・物理防御バフなど盛り盛りつけて突っ込んでいく。
「オラァ!」
爆炎による黒煙に入ろうとすると逆にそこから拳を固めたガレオスさんが飛び出してきた。
それを刀を横にして受けると右足で横っ腹に蹴りを入れていく。
「ぐっ!」
さらにその足からは<雷針>の魔法陣を転写したために、ガレオスさんの横っ腹には正しく雷に打たれたような痛みが突き抜けるように感じてるはず。
にもかかわらず、変わらないような不敵な笑みを浮かべ、もう片方の手で再び胸ぐらを掴んでくる。
「想定済みだから!」
「うぉっ!?」
この間合いではガレオスさんが拳を振るうには隙があり過ぎる。
故に、きっと掴んでくると思ってた。
だから、僕はもう片方の足の下から<隆土>の魔法陣を仕掛けていた。
それは僕とガレオスさんの間に割って入るように尖った岩を浮かび上がらせた。
そしてこの時、この岩の壁によって一瞬僕の行動は見えなくなる。
ガレオスさんは咄嗟に掴んだ手を離してその岩に体を仰け反らせてる状態だろう。
「ここだっ!」
僕は目の前の岩ごと切断するように刀を左から右へ薙ぎ払った。
「っ!」
しかし、それの攻撃はガレオスさんに止められた―――刃先を左手で摘ままれて。
「良い狙い目だ。だが、この攻撃でも俺に魔法を使わせるには程遠い―――真掌」
ガレオスさんはその岩に右手の手のひらを合わせて武術による衝撃波を放った。
それを岩を穿ち、そのまま僕の腹部へと襲い掛かった。
「がっ!」
その衝撃に体が思いっきり吹き飛ばされていく―――が、僕の仕掛けた魔法陣はそれだけじゃない!
「なっ!」
その直後、ガレオスさんの足の近くから三つの魔法陣が浮かび上がり、そこから鉄の鎖が伸びてガレオスさんを雁字搦めにしていく。
これは僕が刀を薙ぎ払った時に次の手として考えていた保険用の条件魔法陣<鉄束縛>だ。
発動条件は僕の任意によるものか、もしくは一定距離を離れた場合に発動する。
相手は僕よりも圧倒的に格上。
例えこっちがチャンスだと思った瞬間も相手には対処可能の場合はあったからね。
ガレオスさんを拘束した鎖は彼の胴体の中心辺りから僕に向かって鎖が伸びていく。
これもお手製の条件魔法陣の構成術式に条件設定後の魔法効果を書いていたのだ。
そして、その鎖をグッと左手で掴むと吹き飛ぶ勢いを殺し、逆にガレオスさんへと向かっていった。
「一泡は吹かせられませんでしたが、少しはやるようになったでしょう?」
「あぁ、また面白くなってきたじゃねぇか」
僕はガレオスさんに向かって袈裟斬りに刀を振り下ろす。
その一撃は鎖を斬るに留まった。
なぜなら、これはあくまで特訓なのだから。
「この勝負は俺の負けだ」
「だけど、戦いだと僕の負けだね。
だって、ガレオスさんは魔法を一切使ってなくて対等だから」
「ハッ、伊達に長生きしてねぇからな。
このぐらいでくたばるヤワな鍛え方はしてねぇってことだ」
僕はこれにて一先ず特訓を終えると近くの木陰で休んだ。
霧隠れの森といっても霧に覆われてるのはこの広々とした土地の周囲だけなので、真上からのギラギラと輝く太陽の直射日光は浴びることになり暑いのだ。
暑さにやられながら水筒で水分補給していると不意にガレオスさんが尋ねてきた。
「そういや、わざわざこうして特訓って形で俺を呼び出したのも何か話があるからだろ?」
「話したいことはありましたが、特訓したいってのも本当だよ。
僕はリーダーとしてもっともっと強くなって皆を守れるようにならなくちゃいけないから」
「......そうか」
ガレオスさんはどこか懐かしそうな人を見るような目で返事をすると「あっちではどんなことがあったんだ?」と尋ねてきた。
なので、僕達がやってきたことをザックリはなしていく。
「なるほどな......力の神殿のあの女神から聖遺物を受け取ったのか。
しかも、その目が見は魔物に犯されていた、と」
「その女神のことを知ってるの?」
「まぁ、かつては俺達もその神殿を巡ったからな。
もっとも内部の様子は随分と変わっているようだがな」
ガレオスさんは多くを語らない。
それも魔神による呪いの効果なのだろうか。
しかし、その言葉を言った時またも懐かしそうな顔を浮かべていた。
「それじゃ、次に向かうべきは心の神殿かもな。
ここからじゃ反対方向になるが残る知恵の神殿の場所と比べると近いからな」
「それなんだけど、僕達は先に魔神について調べてみようと思ってるんだ」
「魔神のことを?」
その僕の発言にガレオスさんは驚いたような表情をしたけど、すぐに表情を戻した。
「まぁ、今更手を引けってのも無理な話だろうな。
別にお前らは関わりたくて関わったわけじゃない。
結果的にそうなっちまっただけで、そうなっちまった以上は敵対する相手の情報は必要になる。
すでにこの先の進路は考えてあるのか?」
「一応だけど。ここに帰って来る時に馬車の中で話し合ってエルフの森フォレスティンに行くことにしたんだ」
「フォレスティン......!?」
その時、ガレオスさんの目が今までで一番見開いた。
「何かその森にあるの?」
「いや、そういうわけじゃ.......いや、ある。そこに俺の大切な.....な」
ガレオスさんの大切なもの?
そういえば、ガレオスさんは前に自由行動が許されてるのは何もできないことを知ってるからとか言ってたような......。
ということは、そこにはガレオスさんが呪いを受けてる原因の何かがあるということ?
逆を言えば、その呪いをなんとか出来ればガレオスさんを仲間に引き入れることも可能ってこと?
ガレオスさんほどの実力者がいればこの先ガレオスさん波に強い人が現れても何とかなるかもしれない。
「ガレオスさん、もし僕がその大切なものを救うことが出来たら仲間になってくれない?」
「......っ!?」
ガレオスさんは僅かに目を見開く。しかし、すぐに元に戻った。
「いや、それは恐らく無理だな。
俺の呪いの効果は叛逆の意思を潰す効果だ。
こうして自由行動している今でも死ぬ方がよっぽど楽な痛みが永遠と続いている。
今じゃこの程度の痛みならだいぶ慣れてきたが、恐らく同じ魔人の使途に手を加えようとすれば―――俺は死ぬ」
「.......!」
「っつーわけで、その誘いは嬉しいがどうにもならんという訳だ。
だが、俺がこの街に一切手を出さないということはここで誓ってやってもいい」
その目は申し訳なさそうな目をしていた。
最初は明らかにギラギラした野性的な目をした好戦的な人だと思っていたけど、今じゃその印象も随分と違う。
「わかりました。それじゃ、その代りにさらに特訓に付き合ってもらっていい?」
「あぁ、お安い御用だ」
―――数日後
「それじゃ、行ってきます」
「あぁ、死ぬんじゃねぇぞ」
僕達は馬車に乗り込んでいくとガレオスさんに見送られていく。
だんだんとガレオスさんの姿が小さくなっていく中、ガレオスはおもむろに大声を出すと伝えてきた。
「お前ら、くれぐれも俺を基準に魔神の使途の相手をすんじゃねぇぞ!」
その注意喚起を聞きながら霧隠れの森を抜けてさらに数日後、フォレスティンに向かう道中の森に囲まれた道で目の前に馬に乗った大勢の騎士に囲まれた。
あの騎士の鎧に描かれてるのはクロード王国の紋章!?
でも、そんな人達がどうしてここに!?
警戒した僕達は総出で馬車を降りる。
ウェンリがいざという時に逃げやすいように馬車の向きを変えてくれた。
すると、その騎士達が道を作るように横にはけるとそこから天パで白髪のニコニコと笑みを浮かべたような青年が現れる。
加えて、後ろ手を組んで歩いてくる青年の服はガレオスさんの服に酷似しているではないか。
ま、まさか―――
そんな僕の心中を見透かしたようなタイミングでその青年は自己紹介をした。
「初めまして、魔神の使途【嘘悪の罪人】アルバートと申します。以後、天の世界でお見知りおきを」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




