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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第4章 エルフの森

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第88話 景色の違う拠点

 ドワーフの村ドワルゴフを出発した僕達はのんびりとした旅路をしながら、一旦自分達の拠点がある霧隠れの森へと戻ってきた。


「......」


 そこで見た光景はあまりにも開発された村であった。

 いや、村というか街に近い感じにすら見える。


 外側では壁が作られ、中では整備された区画に民家や店が立ち並び、その奥の方では一際大きいお城みたいなのが絶賛建造中の様子である。


「なんか知らぬ間に凄いことになってるな」


「それになんだか見たことない顔ぶれの人もいる」


「どこかから迷い込んできた......というのは考えずらいね」


 蓮、康太、薫もそれぞれ感想を述べていった。

 確かに、言われてみれば確実に見覚えのない顔はある。

 あんな巨体の男なんていたっけ?

 いや、いない。なぜならあの人は人族だ。


 僕達の拠点は村を失った獣人や帝国での奴隷の集まりで、奴隷の中では少ない数だけど人族の人間はいた。

 それでもその人達のことは把握していて、その中にあんな大男はいなかった。


「ヨナは見覚えあるか?」


「いいえ、ないですね。顔を覚えるのは得意なので私達が出発する前の村の全員の顔は覚えていますが、その中の誰にも該当しません」


「ヨナもか」


 となると、いよいよこの状況について説明が欲しくなってきたところだな。

 とりあえず好き勝手やってるわけじゃないみたいだから保留にはしておくけど。


「おっ、帰って来たのか」


 その声に振り返ると「よっ」とでも言うようにひょいと片手を上げて、もう片方では棒に巨大な猪を括りつけたガレオスさんの姿があった。


 この人......すっかり村の一人になってる気がする。

 いやまぁ、それは僕達が出発する前からそうなってたけども。


「ガレオスさん、これは一体どういう状況で?」


「あ? あぁ、お前達が出発した間もないうちにこの村の通行証を持った奴が自分と同じような境遇に遭った連中を連れて来たんだよ。

 どうにか助けてやってくれないかってな。

 とはいえ、村の連中は自分達もあくまでお前達に住む場所を提供して貰ってる立場で勝手な行動は許されないと考えて中々答えを出せずにいたみてぇなんだ。

 だから、代わりに俺が出しておいた。

 別に悪さしなきゃ断ることもねぇだろうってな」


「なるほど、そういうこと.......」


 それで知らぬ間にこんな大所帯になっていると。

 しかもこれ一回や二回じゃないな?

 そして、増えたことでより多くの民家や店が必要になり、それを建ててるうちにこんなにも街っぽく。


 まぁ、もともとこの場所の広さは一つの街は簡単に作れるほどの大きさだからな。

 それにガレオスさんの言う通り悪さしなければ困ってる人を見捨てることもしない。


「ふふっ、賑やかになってきたわね」


「前ののどかな雰囲気が好きだったが......ま、これも悪くないか」


「楽しそうな雰囲気になってきたの!」


「へぇ、こんだけ人がいれば鍛冶師の需要も高まりそうってことだな」


 ミクモさん、ウェンリ、アイ、メイファの四人の言葉からしても別に否定的な意見はなさそうだ。


「ま、お前達はお前達でこの街を見てけばいいさ。

 後、あの見えてる建造中の城は初期の村にいた奴らがどうせ街をつくるならってことで恩返しも込めてお前らようの拠点を作ってるらしい」


 マジか。あの城って僕達用だったのか。

 いやまぁ、作る以上は使う予定があるからとは思ったけどさ。

 すると、それを聞いた蓮が思わず何かを考えるように顎に手を触れさせた。


「......ふっ、なるほどな。この街の奴らからすれば居場所を提供してくれた俺達が上の存在。

 分かりやすく言えば、貴族的な立場で、その中のヴィランレコードという組織のリーダー的立場にいるお前はさながら『王様』ってことだな―――律」


「え?」


「確かに、これだけ人がいれば当然統率する人も必要だからね。そう考えると律君が適任かもね」


「ちょ、薫まで何言って―――」


「いや、もはや選択肢がないでしょ?

 村人のリーダー的存在の僕達のリーダーである律。

 どう考えてもこの街のトップじゃん」


「そんなこと言われてもな......」


 急に王様に担ぎ上げられたところで何にも出来ることなんてないし、それに王様になってしまえばこの国に縛られるわけで、そうなると行動に制限が出来てしまう。


 そんなふうに苦悩していると僕の両肩にポンッと手が置かれた。

 思わず振り返ってみてみるとミクモさんとヨナであった。

 あ、この二人って確か.......。


「ねぇ、この街の―――」


「はい、ストップ。それ以上の言葉話やで。

 この街を治めるなんてあんたぐらいしか適任がいーひんのやさかい気張ってやったらええのに」


「もちろん、ある程度のことは元王族である私達がサポートしますが、最終的な決定権はリツさんに任せることになります。

 そして、私達はリツさんの選択が正しいと信じています」


 はぁ、なんだかその説得の言葉は殺し文句に聞こえるな。

 だけど、もし僕がその立場になってより多くの人の幸せの手助けが出来るのなら、もはや選ばない選択肢は無いか。


「わかった。その代わり僕にも出来ないことや不得手なことはあるからね。

 その時には是非とも頼らせてもらうよ」


「「「「「任せろ!」」」」」


 全員が声を揃えて返事をする。

 その顔は当たり前っていう感じでただ僕に面倒ごとを押し付けたってわけじゃなさそうだ。


 話がまとまった所で、僕はガレオスさんにドワルゴフのことを報告しようとすると先にそっちの方から告げてきた。


「俺との話は後にして一旦街の様子を見てこい。お前らの帰還だ。皆喜ぶと思うぜ」


 そして、背中を押されるように軽く叩かれたので僕達は各々で街の中を巡ることにした。


 すると、皆あっという間に歩き出してしまい、男の中で一人置いてかれた僕と僕にべったりなアイ、そして置いてかれてみかねたヨナの三人だけになってしまった。


「皆さん、行動力が高いですね......しかも、意図的にこのメンツにされたような気がしてなりません」


「普通に話が合う人同士なだけじゃないの? さすがに」


 とはいえ、その分かれたメンツが男同士、女同士でもなければ、蓮とウェンリ、薫とミクモさん、康太とメイファという如何にも噂がある組み合わせである。


 まぁ、無理やりこじつけて理由を作るなら薫とミクモさんは夫婦だし、康太とメイファは鍛冶関係で話が合い、蓮とウェンリも技術的なところで話が合うって感じなんだけど。


「アイはお兄ちゃんとヨナお姉ちゃんと一緒で嬉しいの!

 やっぱり一緒にいて楽しい人と新しい場所を巡らなきゃダメだと思うの」


 そう言ってアイは俺とヨナの手を取っていく。

 相変わらず甘えん坊な感じが抜けてない様子だね。

 しかし、そこが可愛いとも言える。

 是非とも純粋なまま育ってくれ。


 そして、僕達は手を繋いだまま街の中を巡り始めた。

 未だ整備途中であったり、未開発の部分があるけれど、それでも十分に目を見張るほどの発展を遂げていた。


 正直、僕達がこの森を出発してから一か月と一週間ほどぐらいでここまでの街が出来るとは思わなかった。


 しばらく練り歩いていると初期の頃からいた人達が僕達のことを見つけ、次第に辺りが騒がしくなり始めた。


 その目は色々あり、初期の村人からは尊敬的な目で見られているが、僕達がいない頃に入ってきた人達にはなにやら懐疑的な目で見られている。


 恐らくだけど同じ人族に対して酷い扱いを受けてきたのだろう。

 そのトラウマで僕達というよりは僕に対して警戒した目で見てる。


「見てください、リツさん!

 あれって帝国であった服屋じゃないですか!?

 一体どうやって入荷したのでしょう。

 流入ルートは調べておきませんとね」


「お兄ちゃん、美味しそうなニオイがするの! 食べてみようなの! 早く、早く!」


 しかし、この二人はそんな視線にも然程気にした様子はない。

 例え自分に向けられたものじゃないとしても不快な視線は感じそうなのに。


 僕達は近くの露店でパン菓子を貰った。

 その人が初期の村人ということもあり、また新作の試作品ということもありでタダでくれたのだ。


 ということで、お城からまっすぐ伸び通りにある噴水広場に腰を掛けて三人仲良くそのパン菓子を頬ばっていく。


「「「美味~~~~~~い♪」」」


 外はサクサクで中はふわふわ。

 そして、中には自作であろうアズベルというブルーベリーに近い味がするジャムが使われてる。

 それに一緒に入ってるのはヤギのチーズか? はぁ、うまぁ。


 ふと横を見ればヨナも蕩けたような顔をしていて、アイも口元を汚すほどに一杯に口の中に入れると目を細めながら美味しそうに食べている。

 揺れている尻尾からもその幸せ加減が伺える。


 そんな俺達を見ていた周りの人達は食欲をそそられたのか次第に俺達が寄った露店の方へと流れていった。

 なんか結果として観衆が減ったや。


 僕が思わず周りの様子を眺めていると隣から視線を感じるとともにペシペシと尻尾が腕に当たってるのに気づいた。


 そして、その方向に目線を向けてみるとアイが瞳を輝かせて僕の食べかけのパン菓子を凝視してるではないか。

 もしかしなくても食べたいのかな?


「アイ、欲しい?」


「くれるの!?」


「あぁ、あげる。でも、ボクも食べたいからね。

 この残り半分のパン菓子をじゃんけんで勝った方が一切れずつ貰っていくのはどうかな?」


「やる! それやるの!」


「よし、交渉成立だね」


 すると、アイはおもむろに立ち上がると僕の目の前に立った。

 そして、まるでアイに雷が落ちたかのように全身を黄金色に染め上げ紫電を走らせた。


「え?」


 その僕の表情は周りの一般人も同じなようで、突然の可愛らしいアイの様子から一変して明らかにヤバイ子だと思わせるような雷纏いモードに変化した。


「よし、来るの!」


「いや、来るのって......まさか!?」


 アイの狙いが分かったぞ。

 アイのその状態は雷を全身に付与して身体能力を一時的に超飛躍させるもの。


 そして、それは動体視力にも関係していて、アイは僕のじゃんけんの手を確認して肉眼では判断しきれないほどの後だしで勝つつもりだ。


「なるほど、そうか。でも、アイよ。僕をあまり舐めて貰っちゃ困るな」


「舐めてないの。本気だからこそのこれなの」


「そうか。でも、それごときで僕に勝てると思う―――」


―――数分後


「参りました」


「ふぅ、美味しかったの」


 全敗しました。ものの見事に。

 なんというか純粋にアイのじゃんけんが強いんじゃないかというのも思ったが、ともかく俺の残りは根こそぎ持ってかれました。


 そんな僕達の様子をアイは微笑ましそうに見てたとか。

 その一方で、一般人は「あの子ヤベー」ってな顔をしてたとか。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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