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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第3章 砂漠の鉱山

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第85話 悩む二人~勇者サイド~

―――聖朱音 視点―――


「よし、今日の練習は終わり」


 額から零れ落ちる汗をタオルで拭いながら水分補給を行っていく。

 自主練で行うメニューは大概リューズ先生が教えてくれたことの復習にあたるんだけど、正直これでどこまで強くなってるのか。


 もちろん、一朝一夕に強くならないということはわかってるし、「強い魔法を使うにはそれに耐えうる肉体が必要」とリューズ先生も言っていた。


 だから、強い肉体を使えるような練習を今はひたすら続けてる。

先日に始まった豪魔(別の名を錬魔)の練習もしてるけど......あれは別の意味でキツい。

ほんと出来れば続けたくない。


 私は豪魔を身に付けるための修行をした時のことを思い出しふいにため息がこぼれた。

 そして、いまいち上がらない気分のままエウリアちゃんに頼まれたようにリューズ先生達の部屋へ向かっていく。


「わっ!」


「うぉ!?」


 その道中、廊下の曲がり角で曲がると誰かにぶつかった。

 そのぶつかった人は私より大きかったのか私のほうが負けて床に尻もちをついていく。


「すまん、ぶつかって悪い......って朱音か」


「その声はけんちゃん?」


 顔を見上げればけんちゃんの顔がある。

 それだけで少し元気が出てきた。

 けんちゃんが手を差し出して引っ張り上げてくれるみたいなので、それに甘えて私は立ち上がった。


「悪いな。少しよそ見してた」


「いいよ。私も不注意だったし」


「朱音は自主練終わりか?」


「うん、さっき終わったところで......はっ!」


 しまった! 今の私って運動終わりじゃん!

 確かにけんちゃんに会えて元気はもらえたけど、今は汗臭いとか思われてないか心配だよ!


 だ、大丈夫だよね?

 でも、口に出されてないだけかもしれない。

 一応少しだけ距離を取ろう。

 うん、私の羞恥心が持たないから!


「朱音......なんか話しづらくないか?」


「そ、そうかな? 私はこれぐらいが普通だと思うけど」


「明らかに三メートル以上距離あるんだけど」


 うっ、さすがに不審過ぎたか!

 し、仕方ない、もう少し! もう少しだけ近づこう!


「よしよーし、こっち来い来い」


「うぅ.......」


 私はゆっくり近づいていく。

 すると、けんちゃんがそんなやり取りに対してふいに笑い出した。


「ははは、なんか迫害された小動物を保護する時みたいだな」


「な、なによぅ......」


 しかも、その言い回しって......。


「まるでりっちゃんみたいな言い方だね」


「まるでっていうか正しく律が言いそうなことを言ったんだけどな」


 そして、私は諦めてけんちゃんのそばに寄るとけんちゃんが尋ねてくる。


「で、朱音はこれから何か用事あるのか?」


「うん、あるよ。エウリアちゃんに頼まれてリューズ先生の様子を見に。そっちは?」


「いや、さっき城下町の手伝いが終わって暇だな。

 それに俺もリューズ先生達のことは気になってたんだ。

 なんつーか、やっぱりリューズ先生が相手にしてくれなきゃ練習も気合が入りづらいっつーか」


「でも、けんちゃん、毎回ボコボコにやられてるよね......私も人の事言えたもんじゃないけど」


「ま、そりゃ仕方ねぇさ。

 いくらチートと言われるような強い力を持っていようともそれを行使できる肉体が完成してねぇんだから。

 俺達が武の道を歩み始めたのはつい最近に対し、リューズ先生は小さい頃からだからな。

 だが、いつか必ず本気を出させて勝ってみせる!

 そうすれば、リューズ先生と同じように多くの人を助けられるかもしれねぇしな!」


「けんちゃん......」


 けんちゃんは笑顔でそう告げる。

 その表情や言葉は私を熱くさせ、好きな人のように一緒に頑張りたいという気持ちが込み上げてくる。

 ふふっ、単純だな~私も。


「なら、私はそのけんちゃんよりも強くなってみせるよ」


「お、言ったな? なら、これからはライバルってことだな」


「そうだね」


 そういって、けんちゃんはそっと手を差し出してきた。

 こ、これは手を繋ぐ......じゃなくて単なる握手だよね!

 うん、さすがに今の流れからじゃそっちだ!


 その手に渡しも僅かに震える手を差し出して握手を交わす。

 わ、わぁ、けんちゃんの手って大きくてゴツゴツしてる......。


「それじゃあ、リューズ先生達の所へ行こうぜ」


「あ、うん、そうだね!」


 私達は咄嗟に手を離して歩き出す。

 あ、危なかった~。心臓飛び出すかと思ったよ。


 で、でも、けんちゃんも似たような反応したような......あれ? 耳が赤くなってるように見えるけど気のせい?


 リューズ先生の部屋を訪れるまでの道中、私があまりにもけんちゃんの顔を見過ぎて「こっち見過ぎだ」と怒られたので反省。

 でもでも、今の発言の時も照れてませんでしたか?


 雑談しながら目的の部屋まで到着。

 私達は顔を見合わせると代表して私が扉をノックした。

 しかし、全く応答がない。

 そのことに不安を抱えたので申し訳ないけどお邪魔させてもらおう。


「失礼します―――」


「あーーーーー! わっかんない!」


「「!?」」


 ゆっくりドアを開けるとそこには本を投げ出して床に寝転ぶリューズ先生の姿があった。

 そして、投げた本が頭に落ちて痛がる先生の近くの机で眼鏡かけながら睨めっこしてるマイラ先生の姿もあった。


 すると、リューズ先生が私達の存在に気付いて上体を起こして声をかける。


「お、なんじゃお主ら? 何用じゃ?」


「い、いえ、用というわけではなくエウリアちゃんから様子を見てきて欲しいと言われまして」


「ふ~む、そうね。さすがに部屋にこもり過ぎたかしら。

 でも、安心して。二人とも健康体だから」


 それは見ればわかる。

 少しやつれた顔はしてるがそれは床一帯に散らばってる本でずっと何かを調べていたからだろう。


 顔色や肌の艶の感じは前と何の遜色もない。

 なんというか......もしかして魔法でアンチエイジングでもしてます?


「リューズ先生にマイラ先生、さすがにこれは片付けた方がいいっすよ」


「わかってるんだが、どうにも解明の方を優先してしまって片づけを二の次にしてしまうんじゃ。

 すまんが片付けてくれない?」


 ということで、私とけんちゃんは床に散らばった本を回収して本棚に並べていった。

 その本は魔導書と呼ばれるもので、いわゆる魔法を覚えるための方法だけど、それは()()()()()()()()()()のもので、ゲームのスキルのような感じで整理されてる私達からすればあまり関係性は深くない。


 とはいえ、前にりっちゃんから教えて貰ったけど、私達はレベルを上げて手に入れる魔法や技以外に直接外部から取り入れる方法もあるとのこと。


 それは私にもリューズ先生の技を覚えられる可能性が秘めてるということだけど、あくまで可能性でありそれを確実に習得するには酷く時間がかかるらしい。


 故に、レベルを上げて勝手に使えるようになった技や魔法を磨いた方が効率が良いとのこと。

 そういう理由で私達転移者の中で魔法陣を習得する者は誰もいない。


「この本を見て思ったんですけど、マイラ先生でも相手の魔法はわからなかったんですか?」


「いいえ、魔法自体はどんな魔法か把握してるわ。

 ただ、その魔法の発動に問題があるのよ」


「と言いますと?」


「お主らはワシが仮面の少年と対峙した場面を見ておったろう?

 その最後の時にワシは相手に魔法を放たれて迎撃された。

 しかし、その時の光景を主らは何が起こったか分からない様子じゃった。違うか?」


 今振り返ると確かに何が起こったかわからなかった。

 まず相手がリューズ先生にもかからず一撃も受けなかったのもそうだけど、やはり一番印象に残ってるのは最後。


 リューズ先生は逃げる盗賊を追いかけようと行動に移したけど、相手は手をかざして()()()()()()()()()()()で魔法を放つ様子は見られなかった。


 しかし、リューズさんは近づくことも出来ずに空中でまるで攻撃を受けた様子を見せて、そのまま地上に落下。盗賊を逃がしてしまった。


「ワシの経験則やマイラの仮面の少年が作り出した魔法陣の分析によるとワシが受けた攻撃は<衝撃>の魔法じゃった。

 非殺傷能力の魔法でありながら喰らえば割に痛い魔法じゃな」


「そして、問題なのはその魔法が発動させた様子が見られなかったこと。

 魔法の重ね掛けや組み合わせなんかもあるぐらいだし、その仮面の人物もてっきり<衝撃>の魔法に<隠ぺい>の魔法を組み合わせてると思ったわ。だけど、そうじゃなかった」


「そもそも攻撃魔法に付与魔法を組み合わせることは不可能.....とは言わんがとても難しい。

 攻撃魔法同士であれば多少威力を相殺しながらも複合魔法として繰り出せるが、付与魔法の場合は別の魔法からの干渉に対する防御能力がゼロじゃからな」


「ま、それ以前に私が見た限りだと発動した魔法の魔法陣には<衝撃>の魔法に対する構成術式しか乗って無かったし。

 それにそればかりに注目してるけど、その前に遠距離狙撃したハイエルの不可視の一撃をどうやって受け止めたのかも未だに謎なのよね~」


「それはさすがに防御魔法をかけてたんじゃないすか?」


「いいえ、それはありえないわ。

 仮にかけてたとしてもリューズの<封魔>の力で仮面の人物に付与されてた魔法は全て消し飛んだはずだし。

 そこからリューズの斬撃空間を無傷で乗り切ったのは凄いと思うけど、あの状態から不可視の一撃が来ると見込んで防御魔法をかけたとしたら......それはもはやさすがとしか言いようがないわ」


 な、なんだその人......リューズ先生の攻撃を防いだだけじゃなくて、マイラ先生にもこんな言葉を送られるなんて。


 それにその戦闘経験豊富な二人すら悩ませるような謎の攻撃を駆使する......これこそ本当のチートなんじゃない?


「ククク......アハハハハ!」


 すると突然、リューズ先生がこれでもかといった様子で笑い出した。


「アハハハ、全くあの少年はどうしてこうもワシの心を弄ぶのか!

 あぁ、また会いたくて仕方ないぞ!

 これほどまでの高揚感!

 戦えばさぞ楽しい一時になること間違いなしじゃろうな!」


 リューズ先生が一人身悶えてる。

 なんかおおよそ見てはいけないものを見てしまったような感覚がしてならない。


 マイラ先生はもはや慣れたように気にしてない様子だけど、私達は......その......うん、気まずい。非常に気まずいよ、今!


 そんな私は思わずこのいたたまれない空気感を変えるようにエウリアちゃんから聞いた話を二人にも言ってみることにした。


「そ、そういえばなんですが、エウリアちゃんが宝物庫でその仮面の人と接触したらしくて。

 その時にある言葉を送られたと聞いたんですが......聞きます?」


 その時、リューズ先生がビクッと反応し、マイラ先生がガタッと椅子から立ち上がった。

 そして、二人して私に近づいて来るとそのままの勢いで告げてきた。


「「その話詳しく!」」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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