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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第3章 砂漠の鉱山

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第84話 謎が深まるワード~勇者サイド~

―――聖朱音 視点―――


―――リツ達が侵入してから数日後


「ふっふっふっ」


 城内はようやく慌ただしさを無くしていった様子だ。

 というのも、つい最近に私達が訓練中で城内の宝物庫に賊が侵入するという事件があって、そこから帝国の王様から受け取ったとされる宝玉が消えたと分かった。


「ふっふっふっ」


 しかし、その宝玉はこの国の宮廷魔導士が総出で調べてもハッキリ分からず、強いて僅かな反応を見せたのは聖女であるエウリアちゃんだけ。


 そういうわけで、全く訳がわからない代物だから宝物庫に封印されてたんだけど......それが盗まれた。

 そして、今議題に上がってるのがそれがどうして盗まれたのかということ。


「ふっはっせいや!」


 私は持っていた聖剣と同じ重さの刃を潰した剣で自主練をして、一旦休憩に近くの椅子に置いてある水筒を取りに行く。

 すぐ近くの通路にお宝を箱一杯に詰めた兵士二人が歩いて行くのが見える。


 水筒を手に取り口をつけて水分を取っていく。ぷは~、美味い。

 その間も視線はその兵士の方へと向いていた。


 あの二人は恐らく盗賊を調べる上で誰かに頼まれて宝物庫にあったお宝を運び出しているのだろう。

 そして、それが先ほども言ったなぜ盗んだのが宝玉一つなのかという疑問に繋がってくる。


 この城の宝物庫にはたくさんの遺物が眠っているらしい。

 それはいわゆる伝説として語られる剣であったり盾であったり魔道具であったりと様々で、また国を脅かす危険な代物もあるとのこと。


 しかし、そんな遺物には目もくれず盗み出したのは誰にもどういった効果があるのかわからない宝玉という代物。


 現時点で予想として挙げられる理由ではその宝玉の使い方が盗んだ二人組にはわかっている、もしくはそれに関連する何かを持っていて調べるために盗みに来た......あたりらしい。


 どちらにせよ、あの宝玉が危険な代物であればこの国に脅威をもらたすかもしれないとこの国のお偉いさん方は判断してるみたいだ。


 また、そう判断させた理由としてもう一つあり、それが―――


「アカネさん、少しお時間よろしいですか?」


「エウリアちゃん......?」


 休憩中にふいにエウリアちゃんが話しかけてきた。

 表情は上手く笑みで隠してるつもりらしいけど、ややお疲れみたい。

 まぁ、大変なこと起こっちゃったしね。


「いいよ。私も休憩中だし。場所移す?」


「いいえ、ここで大丈夫です。私も少し外の空気を吸いたかったので」


 私とエウリアちゃんは外の長椅子に座っていく。

 そして、広く誰もいない訓練場をぼんやり眺めながらエウリアちゃんは話しかけてきた。


「訓練お疲れ様です。とはいえ、今日は休みだったのでは?」


「まあね。でも、私は勇者という立場になったわけだし、率先して前に出るとなればやっぱり強くなくちゃいけなしね。

 ま、ケンちゃんの受け売りなんだけど」


「ふふっ、でも、そうして実行に移せるだけ凄いと思いますよ」


 自分の方が疲れてるのに本当にこの子は......。


「そういえば、最近は自主練が増えてると聞きましたが本当なんですか?」


「あ~、間違ってないけど、それは少し事情があって。

 というのも、よく教えてくれてたリューズ先生とマイラ先生が二人して先日の盗賊が使った魔法についての解明に没頭してる感じで。

 本当はその二人の先生と森へ遠征の際の引率のハイエル先生とタルク先生で分断してるんだけど―――」


「今はリューズさんとマイラさんがいなくて、そのお二人がアカネさん達の指導を行ってる感じなんですね。

 とはいえ、場合によっては二人とも引率で外に出る場合があり、その場合は自主練という形を取るので自主練を開く数が増えていると」


「そういうこと。ま、本来だとリューズさんもマイラさんも指南役としてきてるはずだから仕事しないといけないけど、起きたことがことだから......」


 そう、これがもう一つの理由で、この国が知る最強の人物であるリューズさんが盗賊と対面しておきながら無傷で逃がしてしまったというのがこの国に降りかかる脅威として一緒に挙げられていたのだ。


 加えて、リューズさんは見てみぬふりをしたわけでもなく、しっかりと対応した上で迎撃されて逃げられた。


 つまりは宝玉を盗んでいった相手はリューズさんに匹敵し、仕舞には勝るかもしれないという恐怖感に襲われているのだ。


 故に、リューズ先生とマイラ先生にはその盗賊をどうにかしてもらうための特権を与えられたのだ。

 そして、それを利用してその二人は相手の使った異質な魔法について調べてるというわけ。


「申し訳ないですが、後で様子を見に行ってあげてくれませんか?

 というのも、何日も二人して部屋に籠ってるようなので」


「わかった。私も様子が気になるしね」


 私はふいに空を見上げる。

 そこは平穏そのものというような青が広がっていて、近くに流れる雲はどことなく人の顔をしてるように見えた。

 その時、ふとりっちゃんのことを思いだした。


「りっちゃんは元気にしてるかな......」


「......っ!」


 そう呟くと隣のエウリアがビクッと反応した。

 気になって横を見てみるとどこか暗そうな顔をしている。


「どったの?」


「あ、いえ、なんでもありません......」


 そう言い返す顔はどこにもそんな風に感じさせない。

 膝上に乗せ絡めた両手をモジモジさせながらずっと何かを渋ってる様子だ。う~ん、怪しい。


「反応したのがりっちゃんだから、もしかしてりっちゃんの顔が見れなくて寂しい?」


「い、いえ、そんなことは......ないと、い、言いますか.......」


 ふふ~ん? ほほぅ? なんだいその真っ赤な顔は?」


「そ、そんなジロジロ見ないでください。あと、そのニヤけた顔もやめてください!」


「なら、その恥じらいの顔を無くせばいいのでは? 私はそういう恋愛ネタが大好きでしてね」


「そういうアカネさんだってケンヤさんとはどうなんですか!?」


「うっ、深く踏み込み過ぎて反撃もらっちまったぜ......。

 私のことはどうでもいいんだよ。で、本当にどうしたの?」


 今度は真面目に目線を合わせてエウリアちゃんに聞いてみた。

 すると、その気持ちが伝わったのか難しそうな顔をして下を向くと質問してきた。


「アカネさん、『敵は想像以上に厄介だぞ。常識に惑わされるな』という言葉に対してどう思いますか?」


「え? 何かの小説のセリフ?」


「いえ―――私が対面した盗賊さんがおっしゃった言葉です」


「盗賊が......?」


 え、待って? そもそもエウリアちゃんがその盗賊と会ってたということを今初めて聞いたんだけど!?


「エウリアちゃん、大丈夫だったの? ケガはない!?」


「はい、その盗賊さんはお優しい人ですから」


「そ、そうなんだ......」


 なんだか知ってる人みたいな言い方が気になるけど、エウリアちゃんが無事だからとりあえず良しとしよう。


 それにしても、盗賊から言われたその言葉......なんか妙にこっちに注意勧告してるように聞こえるんだけど。


「それでどうですか?」


「そうだね~、相手が盗賊だからって理由で一蹴できそうでもあるんだけど、その盗賊が宝玉を盗んだ際に誰も殺してないということが結構引っかかってんだよね」


 もしそこで誰か一人でも殺していたのなら問答無用でその言葉は戯言みたいなもんだと捉えていただろう。


 だけど、実際に攻撃したリューズ先生にすらケガを負わせずに撃退した。

 それはなんかこう......昔りっちゃんに借りて読んだファンタジーラノベの謎の組織的なポジションに当たる感じがする。


 それこそ主人公達よりも真実に近づいているにもかかわらず、主人公をその場所まで導こうとしている......的な?


 それにリューズ先生が帝国に向かう際にさんざん言っていた人物があの盗賊であるならば、確かにそこまで怖い存在ではないのかもしれない。


 となると、エウリアちゃんにかけたその言葉にもやっぱり意味があると考えるべき?


「う~ん、全くわからないな。

 やっぱり簡単に聞き捨てていい言葉とは思えないから、頭の片隅にでも入れておいて考える感じしかないと思うね」


「ちなみに、今こうしてアカネさんに伝えるまでに私が考えたことですと『敵は想像以上に厄介だ』の『敵』の部分は私達からすればそれは“魔族”に当たると思われます」


「そうだね。実際に魔族の脅威が各地であるから時折その対処を行ってるし」


「ですが、その言葉に続いて『常識に囚われるな』ともあります。

 そこを踏まえて考えると私達が真に相手にするべき敵は魔族ではなく、その魔族を操る“黒幕”を見つけるべき......というのは考えすぎでしょうか?」


 ふ~む、なるほど。

 言わば、魔族は黒幕にこき使われてる存在で、それと戦うことばかり考えてたら本当の敵にはいつまでも辿り着けないぞ、と。


 となれば、この時点でその盗賊からすれば魔族が何者かに操られてることはわかっていて、その裏にいる存在まではわかったけどそれが誰なのかは未だハッキリとはわかってない感じか。


「そう考えると、宝玉を盗みに来たのもその黒幕に繋がる何かであるからってこと?」


「そうかもしれませんし、もしくは別の何かに必要かもしれません。

 今の私達にはわからないということですね。後は......」


「後?」


「言葉の限りで予想したのでもう一つありまして、黒幕という存在がいるのは変わらないのですが、“そもそも魔族は敵ではない”というのも考えました」


「魔族が敵じゃない?」


「私達人族と魔族は大昔から互いの領土のために争いを繰り広げてきました。

 故に、魔族は絶対的に人間の敵とされてきましたが、約五百年前の魔神戦争終結後、魔族の人族への進行はピタリと止みました」


「だけど、私達はこうして呼ばれたのは魔族の脅威が再び人族に降りかかって来てるからなんでしょ?」


「そう......なんですよね。すみません、考えがまとまりもせずに話してしまいまして」


「いいよ、全然。むしろ、こっちからしてもそういう考え方もあったのかと思ったから」


「ふふっ、そう言ってくださると助かります」


 そして、エウリアちゃんは「では、そろそろ執務に戻ります」と立ち上がると颯爽と行ってしまった。

 相変わらず忙しそうだね。

 私との話が少しでも息抜きになったならいいけど。


「黒幕か......」


 先ほどの話のキーワードを空をぼんやり見ながらつぶやいていく。

 本当にその存在がいるとすれば、戦うべきはきっとその相手なのだろう。

 となれば、もっと実力は必要だ。

 少なくとも、リューズさんと肩を並べるぐらいは。


「よし、また少し自主練したらリューズ先生のとこ行ってみよ」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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