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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第3章 砂漠の鉱山

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第81話 宴の始まり

 まるで鉄板の上にいるかのような熱を背中に感じながら、憎らしいほどの晴天に伸びていく僅かな光を僕は見ていた。


 僕が目玉を斬ってから亀も動きを止めた。

 <魔力探知>で異物を調べたけど、先ほどの目玉のような魔力は亀の体内からは確認されなかった。


 つまりはこれで完全に決着がついたというわけだ。はぁ、マジで危なかった~。

 僕はふいに上体を起こすと後ろに振り向いた。


 そこにあるのは村だ。

 そして、その入り口の目と鼻の先に亀の頭がある。


 つまり村からアイが来てフォローしてくれなければ今頃は見事に突っ込んでいただろう。

 ほんとアイには感謝しかない。

 今度何か買ってあげよう―――それはそれとしてっ!


「お兄ちゃーん!」


 その声を聞くと僕は臨戦態勢に入る。

 集中力は先ほどよりも高いかもしれない。

 なぜなら、誰も助けてくれないから。


 バッとアイが高速で近づいて来るのでそれを半身にして躱していく。

 すると、アイが不満そうに頬を膨らませて振り返って僕を見た。


「避けちゃダメなの! アイにはお兄ちゃんをギューッとする権利があると主張するの!」


「待て、アイ。落ち着け、落ち着くんだ。

 最近、アイはどんどん強くなってるせいか頭に飛びつかれると本気で首が折れるかもしれない。

 普通に胴体に抱きついてくるならまだ妥協しよう。

 な? それで手を打たないか?」


「妥協しないの!」


「ならば、僕は全力で逃げる!」


「逃がさないの!」


 アイが再び高速で迫ってくる。

 雷纏わせてない状態で僕の目からも体がブレるような動きをしてくれないで欲しい。


 僕がアイの迫りくる猛攻を避けているとそんな僕達を不思議そうな様子で眺めているメイファさんがセナに話しかける声が聞こえてきた。


「ねぇ、あれって何やってんの?」


「せっかくの妹からのスキンシップから逃げようとする兄の姿よ」


「いや、兄や妹どころか二人の姿がもはやまともに見えずに何かが動いてるようにしか見えないんだけど」


「それは私達が特殊な鍛え方をしてるからね」


「いや、特殊って......ま、それこそ今更突っ込む話でもねぇな。

 あんなまさしく山の亀を封じ込める結界を発動させる方法を知ってる時点でやべぇなって思ったし。

 でも、そんなすげぇ兄だったらアイちゃんもベソかくんじゃねぇの? 捕まらないって」


「そこは問題ないわよ。

 結局のところ、あのやり取り自体も二人にとっては交流の時間みたいなもんだし。

 たとえアイがどんな方法でリツを捕まえようとも、アイツの方は魔法は一切使わないしね」


「そのためアイちゃんの戦歴は今のところ全戦全勝ってところね」


「ウェンリの言う通り」


「へぇ~。良い兄してんじゃん」


 あの......勝手に僕の恥ずかしい思いやり事情をバラさないでもらえます?

 確かに僕が結界を張った時点でアイは一切近づけなくなるからそれは勝負としてフェアじゃないと思ってるけど!


 実はいうと魔法を使わないとなるとこっちは結構必死なんだよ?

 僕の視界からでもブレる速度ってことはぶつかりでもすれば相当な衝撃というわけで。


 なぜか決まって頭に抱きつこうとするアイをそこで受け止めなければいけないということなんだぞ!?


 一体これまでで何度「アレ? 頭吹っ飛んだ?」と思ったことか。

 しかも、抱きついたら抱きついたでアイが満足するまでまるでボンドで塗り固めたように離れないし。


 これまでは三日に一回、長くても五日に一回はあったアイの抱きつき攻撃が今回は二週間ぐらい開いてしまったわけで、抱きつかれたらいよいよもって命が危ない!


「っ!」


 僕はアイが遠くに離れてることを確認しながらも、嫌な気配を感じてすぐさまその場から横っ飛びする。


 そして、先ほどの場所を確認してみれば砂に紛れるように小型の蜘蛛がいた。

 僕は思わずそれを召喚した張本人を見てみる。

 康太に包帯を巻いてあげてる蓮と目が合った。

 あ、ニヤリと笑いやがった! この裏切りものめぇ!


「隙あり!」


 アイが僕の眼前に迫った。

 咄嗟に僕は横に飛んでいくも、アイは直前で止まると一拍動かない。

 しっ、しまった―――


「捕まえたのー!」


「ぐはっ!」


 アイに頭に抱きつかれて目の前が真っ暗になると同時に頭が吹き飛ぶような衝撃に襲われた。

 なるほど、アイが声を出したのはわざとだったのか。


 僕が蓮の攻撃に怯んだ隙を狙ってアイは必ず仕掛けてくる......という僕の思考を読んだから、あえて目の前でワンテンポずらしたことでボクの動きを誘導。

 最期は完全後だしじゃんけんで僕を捕まえたってことか。うん、負けだよ。


「久しぶりのニオイ、落ち着くの~」


 だったら、いちいち顔じゃなくていいんじゃないかな? と思うのは僕だけでしょうか。

 意地でも離れないという感じでがっしり頭をホールドしてるし、頬ずりしてるし、後先ほどの戦闘で汗かいてるのか服が湿ってて本格的に息が出来ない。


 地面に寝そべっていた僕は体を起こすとなんとかアイを回転させて肩車の状態にさせていく。

 そして、同情を誘うような目でセナに向けて言ってみた。


「助けてよ」


「嫌よ」


 ですよね。


 それからしばらくして、僕達は村の方へと戻っていく。

 すると、村長のベルダンさん、ロゴフさん、その他の住民の皆さんが僕達を出迎えてくれた。


「まさか俺達が長年使っていた鉱山がまさか魔物の背中だったとはな。

 色々と受け止めなければいけないことも多そうだが、ともあれ無事で良かった」


「僕は大したことはしてないですよ。やってくれたのは僕の仲間の方です」


「ふっ、そうか。だが、どちらにせよ感謝してるのは事実だ」


 僕がベルダンさんから言葉を受け取ると今度はロゴフさんが前に出てきた。

 彼はメイファさんの前に立つと荒っぽく頭を撫でていく。


「よくやった」


「あぁ!」


 放った言葉はたった一言であったが、その言葉で充分であるかのようにメイファさんは笑顔を浮かべていく。


「さてと、今宵は宴だ! 勇猛果敢に魔の巣窟であった鉱山を攻略し、さらにはこの村を襲おうとしたデカブツを止めてくれた戦士達を盛大にもてなしてやるぞ!」


「「「「「おおおおお!」」」」」


 ベルダンさんの言葉に村の住民全員が動き出し、外で宴が開かれるよう準備をしていった。

 本来僕達は村の英雄としてこの宴を手伝う必要はないのだけど、そこは各々の判断に任せている。


 しかし、相変わらず僕以外の三人は人気者というべきか、社交性が高いというべきか。

 蓮は持ち前の裁縫技術で奥様方や少女に裁縫の仕方を教えたり、康太は怪力を使って鍛冶師の手伝いをしたり、薫は絵日記を書く趣味から絵が得意でそれを子供達に教えてたり。


 そんな中で、僕はとりわけ何か持ってるわけではないので、相変わらずアイを肩車したまま近くの椅子に腰を下ろしてぼんやりと風景を眺めていた。


 少しずつ夜が近づいてきた頃。

 そこへセナ......いや、この落ち着いた状態はヨナの方か。

 彼女が僕の近くに座って話しかけてきた。


「改めて、助けてくれてありがとうございます」


「そこまで感謝されることじゃないよ。

 仲間として当然のことをしただけだし。

 それよりも、ヨナは何か手伝ったりしないの?

 なんというか、ヨナは僕よりも率先して誰かのために動くタイプだからさ」


「そ、それは......その薬! 薬の調合をしないといけませんし!」


 そう言ってヨナはすり鉢と擦り棒をどこからともなく取り出すとそこに何かの薬草や植物の根を入れてすり潰し始めた。


「さ、さすがに皆さんからリツさんの隣にいるべきなんて背中を押されたとは言えませんし......」


「ん? 何か言った?」


「い、いえ、何も! アイちゃんもそんなニタァって顔でこっち見ないで!」


 小声だったし、僕もヨナの作業工程をぼんやり眺めてたから聞き逃したけど、獣人のアイには聞こえてたのか。

 後でこっそり教えて貰うのは......さすがにダメかな?


 ヨナは少し取り乱した様子ながらその話題には触れて欲しくないのか別の話題を出してきた。


「そ、そういえば、リツさんの方はどうでしたか? その、宝玉は無事に手に入れられましたか?」


「うん、ゲット出来たよ。

 ただ人族にも宝玉があるんじゃないかって思ったけど、確認できる範囲では見つからなかった。

 そっちはどうだった? 何か手に入れられた?」


「そ、それは......」


 ヨナの擦り棒を持つ手が止まる。そして、申し訳なさそうに答えた。


「ごめんなさい。何も手に入れられてないです」


「謝らなくていいよ。別に責めてるわけじゃないから。

 となると、あの鉱山は僕達が見つけたような遺跡ではなかったというわけか」


 まぁ、神殿と言っても僕達の認識だけとは限らないし。

 昔からその地域に住む人達が利用してきた鉱山を“神殿”と呼称しただけってこともあるしね。


「僕は僕の仲間やこの村の人達に犠牲が出なくて良かったと思ってる。

 だから、今はむしろ嬉しいんだ。

 ヨナ達と一緒じゃなかったらこの村を守れてないかもしれないしね」


「そ、それは言い過ぎですよ。

 私がいなくててもどうにかなったと思いますし、それに頑張ってくれたのは私じゃなくてセナちゃんですし......」


「でも、それは同じ体を共有するヨナとて変わりないわけだろ?

 だったら、僕としては感謝を告げるのは当然だよ。

 ま、どうしてもって言うならセナに伝えて」


「ヨナお姉ちゃん、そこは素直に受け取ればいいと思うの」


「......ふふっ、そうですね。では、ありがたく受け取らせていただきます」


「っ!」


 その柔らかく慈愛に満ちた笑みに思わずドキッとしてしまった。


「お兄ちゃんはアイのものなの!」


「あ、アイ?」


 急にどこか不貞腐れたような声を出すアイ。

 な、なんか変なことでも口に出してた?


「ふふっ、相変わらず仲がよおしてええわ。

 アイちゃんも加えると正しゅう家族って感じね」


 その時、僕達の所へミクモさんと薫がやってくる。

 そして、ミクモさんの言葉に反応したヨナが声を裏返した様子で告げた。


「か、家族ですか!?」


「アイがお兄ちゃんのお嫁さんなの!」


「あ、アイ!?」


「アイちゃんに振り回される二人を見てるとちゃんと日常戻ってきた思えてええわ」


「こら、これ以上二人をからかわないの」


「はーい」


 薫がちゃんとミクモさんの手綱を握ってくれた。

 いいぞ、もっとちゃんと握っててくれ。

 そして、薫は僕達に告げる。


「宴の準備が出来たよ。さ、僕達のリーダーも前に出ないとね」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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