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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第3章 砂漠の鉱山

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第80話 鉱山の悪魔の討伐

 ふぅ、なんとか間に合った。

 あの巨大亀がブレスを放つことがわかってからはかなり焦ったけど、とりあえず皆息はあるみたいだね。


「ブレスを......斬った?」


 今の人格はセナか。

 彼女が僕がやったことに対して何か信じられないものを見たような顔をしてる。


「どうかした?」


「どうかしたじゃないわよ。あんた、今ブレスを斬ったわよね!?」


 あ~、そのことに驚いてるのか。ま、斬ったのはブレスじゃないけど。


「今のは魔法だよ。吐き出す空気を魔力とともに放つ<大竜咆哮(ノイズショック)>という魔法で、確かに物理衝撃よりだけどそういう類の魔法。

 そして、僕は魔法を斬ったわけじゃないよ。

 刀身に反射魔法を転写して反射させただけ。

 さすがに僕も武の達人じゃないから生身で魔法は斬れないよ」


「......はぁ、もうなんでもいいわ。

 ともかく、あんたが来てくれて助かったわ。

 とりあえず、今の現状を伝えておく」


 それから、セナがざっくりと鉱山で起きたこと、そして鉱山の魔物があの亀を操って暴れてるということを教えてくれた。


「つまり、あの目玉をなんとかすればいいわけだ。そういえば、アイの姿がないけど?」


「アイは村の方へ避難勧告しに行ってくれたわ。

 ま、あの巨体で状況は一目瞭然だろうけど念のためね」


「あんたがこのメンバーのリーダーか?」


 サバサバしたようなドワーフの少女が話しかけてきた。

 年齢は近しいぐらいなんだけど......どちら様?


「そういえば、あんたは会ってないわね。ロゴフさんの娘さんよ」


「メイファだ。よろしくな」


「僕は律だ。そして、あっちにいる片目が隠れてるのが蓮。もちろん、彼も仲間だ」


 僕はメイファに握手を求められたのでそれに答えていく。

 すると、セナが一段落着いたように現状の話題に戻した。


「さてと、ゆっくり話したいところだけど、今はこの状況をどうにかしないとね」


 そう言って見るのは当然巨大亀だ。

 今は僕の反射せたブレスと反射魔法を混ぜた斬撃を喰らって怯んでる様子だけど、動き出すのは時間の問題。


 それに皆の様子からしてかなり体力を消耗してる感じだね。

 遠くから尻尾の蛇と戦ってる姿を見てたけど、蛇にあれだけ苦戦させられてたんだ。

 さすがに亀も相手しろとは言いにくい。


 それに方針としてはあくまであの目玉さえ倒せればいいという感じだ。

 あれが元凶なんだからそれを潰せば全てが丸く収まる、と。


 確かにもしそれが本当に原因だとすれば、それさえ潰せれば終わりなんだけど......前提としてあの亀を助けるつもりでいるらしい。


 頭に寄生されてたらさすがに厳しいと思うんだけど、アイが助けたいって言ったなら兄として出来る限りの良い所は見せたいしな~。


「リツ、どうにかならない?」


 気が付けば全員が僕に目線を向けてる。

 傷つきながらも希望を失っていない。

 そして、その希望は僕であるみたいだ。

 かなり難しいと思うけど、方法がないわけじゃない。

 それに皆の期待に応えたいしね。


「わかった。なら、今から僕の指示通りに動いてくれ。

 必ず成功するとは限らない。だけど、出来る最善を尽くすつもりだ。それでもいい?」


 そう聞くと全員から「もちろん」という声がかけられてきた。

 揺るぎないその意志に思わず笑みがこぼれる。


 僕は早速陣魔符を作る際に使う紙で脳内にイメージした魔法陣を転写していく。

 そして、それをセナ、ミクモ、メイファ、ウェンリ、康太の五人に渡し、蓮と薫には別の指示を出して作戦を開始した。


 僕は亀の注意を引くように正面方向から向かっていく。

 すると、亀は僕に近い前足を上げるとそのまま勢いよく叩きつけた。


「っ!」


 その瞬間、風圧と次々と隆起した地面が広範囲に渡って伝わっていった。

 僕は咄嗟に空中に跳んで避けるとそこを狙っていたように亀がブレスの体勢に入っていく。


「ガアアアア!」


 空間が揺らめいて見えるような圧縮された空気は瞬く間に僕に近づいてきたけど、僕は足の裏に<流風>の魔法陣を出して風の勢いで射線から離れていく。


 すると、亀は首を振ってそのまま追いかけてきた。背後には村が射線に入ってしまう。

 亀の頭との距離はおよそ三百メートル。

 さすがに亀の動きを止めるには射程範囲外か。


「仕方ない」


 僕は帝国の戦い以降、自分で魔法陣を組まずにすぐに使えるよう<反射>の魔法陣を陣魔符として作ってある。


 それを魔力を流して発動状態にさせるとブレスに向かって投げていく。

 投げられた陣魔符はブレスに直撃する直角に反射させて、天高くブレスが伸びていった。


 すると今度は、意地でも僕達を近づけさせたくない亀は背中の鉱山を噴火させて、周囲に赤熱した岩石の雨を降らせていく。


 これは厄介なことを。

 だけど、それだけ近づけさせたくないということは、あの目玉は本体である可能性は高くなった。


「グリムルの植腕」


 その時、亀の周囲からいくつもの腕が生えてきた。

 それは全て植物が絡みついて出来たような感じで、意思を持つかのように岩石を掴んで投げ飛ばしていく。


 薫、そんなこと出来たんだ......やるじゃん。なら、そろそろ僕も動かなきゃな!

 すると、皆から<念話>を通じて「配置に着いた」と連絡が入ったので、僕も蓮に連絡すると亀の正面に立った。


「無色の檻よ。

 それは何人にも侵されることも汚されることもない隔絶された領域なり。

 それはその領域において固定され、保存される悠久の牢獄なり。

 それは咎人を裁く地獄の閻魔の御前なり。

 顕現し具現せよ―――限定魔法陣<砂上の楼閣>!」


 僕は両手を合わせて魔力を高めるとそのまま地面に両手をつけて魔法陣を展開した。

 それは<念話>を通じて陣魔符を渡した仲間達と同時進行で行われていく。


 それによって、亀の正面、左右の前足、左右の後ろ足、尻尾の計六か所で岩の柱が立ち、それぞれの岩の間に半透明の膜が出来上がる。


 はぁ、なんとか成功した。

 本来は魔法陣自体に構成術式があるから詠唱なんて必要ないんだけど、相手の魔力抵抗値が高すぎて詠唱して構成術式の過剰バフをしないと発動できなかった。危ない危ない。


 もちろん、僕が、いや僕達が結界を発動させる間もあの亀は嫌な予感を察したのか抵抗した。

 しかし、その足や首に蓮が召喚した蜘蛛とともに糸で固定してくれたおかげで助かった。


 今は薫も植物を地面の下から動かしてるのか、亀の足元から植物が飛び出して足に絡みついてる。


 本来、この結界は外部からの干渉は出来ないんだけど、ほら僕の魔法陣だし?

 ちょっと弄ってあるんだよね。


 それによって、結界の魔法効果で固定されてるし、蓮と薫の二人からも物理的に固定されてる。

 今のうちが近づくチャンスだ。


 もし問題があるとすればこの結界は維持するだけでも魔力をガンガン消費していくから、仲間の魔力が尽きないうちに目的を達成すること。

 一人でも意地が弱まればすぐに壊れる。


 僕は亀の頭に近づいていくとそのまま跳躍して飛び移り、僕の身長より大きい目玉のすぐ近くにやって来た。


 間近まで来るとずっと人の目を凝視してるみたいで少し気持ち悪くなってくるな。

 と、そんなことはどうでもよく......この目を取り出すためには<隔離>の魔法陣、<浄化>の魔法陣、<治癒>の魔法陣を同時に行使しなければいけない。


 ただでさえ、結界で魔力吸われてるのにそれ以上魔法陣を展開できるかな......いや、皆頑張ってんだしやるしかないんだよ!


 僕は目玉のふちにそって<隔離>の魔法陣を設置した。

 これは本来物質と物質が勝手に混ざらないのを防ぐためであるが、マイナーな使い方として混ざったものを分離する方法としても使われる。


 もちろん、完全に分離することは難しいけど、この目玉が寄生してるのであれば、あくまで目玉の本体と亀の本体を引きはがせばいい。


 とはいえ、この目玉が亀を操っている以上寄生範囲は脳や神経にまで達してるだろう。

 そのための<浄化>の魔法陣だ。

 これは不浄なもの―――異質なものを消し去る効果がある。


 つまり本体と分離した際に、亀の脳や神経に多少寄生されて残った部分があったとしても、亀の魔力をもとに魔法陣を発動させれば異質のそれらは除去されるのだ。


 そして、最後に<治癒>の魔法陣。

 これは至ってシンプルな使い方。

 寄生されてるなら分離の際に奇麗に切り離せるわけがない。

 傷が酷くならないようにするためだ。


「さて、やるか!」


 僕は目玉のふちに手を付けると指に引っ掛けてゆっくりと持ち上げていく。


「グギャアアアアア!」


 爆音がすぐ足元から鳴り響いた。

 <防音>の魔法陣をしてるにもかからわず耳がイカれそうなほどの圧。

 加えて、空気の震えが全身に伝わってくる。


 ゆっくり、ゆっくり持ち上げ、分離させていく。

 よし、今は順調だ。ゆっくり立ち上がって―――!?


 その瞬間、足元が大きく動き出した。

 同時に<不浄の楼閣>の一部の柱が壊れたのを感じた。不味い!


「グアアアア!」


 結界が一気に壊れていき、亀が動き出す。

 どうやらメイファの魔力が持たなかったらしい。

 仕方ない、彼女は錬魔による魔力量の底上げはしてないからな。


 亀が動き出す。だけど、僕はここから離れるわけにはいかない。

 こいつ、真っ直ぐ動き出した! そっちの方向は村じゃないか!


 ドスン、ドスン、ドスンと亀が向かっていく。力強く前進していく。

 しかし、亀の意識があるようには思えない。

 なぜなら、ずっとぐったり頭が下がったままだからだ。

 持ち上げてる目玉が僅かにニヤリとしたような気がした。

 こいつ、意地でも村だけでも破壊するつもりか!


「させない!」


 その時、背後から康太の声が聞こえてきた。おい、まさか!


「ふんっ!」


 康太は亀の頭が地面に近い所にあることを利用してそのまま受け止める。

 だけど、いくら怪力の康太でも山二つ分の亀を止められるわけもなく、引きずられていく。


 <魔力探知>でさっと状況を確認すると他の皆も足に絡みついた糸を引っ張って少しでも亀の速度を抑えようとしてる。

 植物の手も尻尾を掴んで頑張ってるけど、それでも亀は前に進んでいる。


 不味い! 不味い! 不味い!

 このままじゃ目玉を切り離す前に村に激突する!

 それに恐らくこいつの狙いは村の先を超えた別の山に僕を叩きつけることにあるだろう!


 早くこいつを切り離さないと! だけど、こいつ全然離れねぇ!

  肉の筋みたいなのをいくつも亀の体表にくっつけてるし、それがゴムみたいに伸びるしで!


 そんなかなりのピンチの中、僕達にいた一人の天使が戻ってきた。


「お兄ちゃんはその目玉をやっつけることだけに集中するの! 亀さんはアイ達に任せてなの!」


 村の方から走って来たアイは僕と同じ頭に飛び乗るとそのまま背中を向けた。

 そして、ガントレットの尖った指先を立てると亀に向かって告げた。


「ビリッとするけど助けるためだから我慢してなの!」


 アイは指先を亀に刺し込むと全身が逆立つほどの電撃を纏って、それを亀の体内に注入させていった。


 それは亀の神経に干渉している目玉にも感電した様子で、亀の動きが鈍くなり、目玉の抵抗も弱まっていく。


「ナイスだ! アイ! いい加減、離れやがれー!」


 僕は勢いよく持ち上げるとそのまま目玉の本体を空中に投げ飛ばした。

 目玉は感電してる様子で動く気配はない。


 そこに向かって僕は跳躍すると刀を引き抜き、頭上に大きく持ち上げていく。


「我流鬼剣術―――波刃斬り」


 そして、その目玉を両断した。さらにそれらの一部でも再生されたら困るのでトドメの一撃。


「光罰」


 手のひらから伸びる断罪の光は天まで伸びていき、目玉の全てを消滅させた。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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