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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第3章 砂漠の鉱山

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第78話 鉱山を背負う魔物

―――ヨナ(主人格セナ)視点―――


「あわわわわわ!?」


 ブシャーと勢いよく噴射する赤い液体ともどもに私達は大空へと投げ出された。

 真下には先ほどまでいた鉱山が見えていて......っていうか、このままじゃ落下するじゃん!


『あわわわ、どうしましょう! このままじゃ落ちてしまいます!』


 久しぶりに出てきたわねヨナ(あんた)......もう気絶しなかったようね。

 

『はい。おかげ様で戦闘の際の死の纏う空間にはだいぶ慣れてきました。

 というか、お友達の武勇伝をお茶を飲みながらまったり聞く感じでいました』


 私達の戦闘をそんなのほほんと......ま、あんたらしいと言えばそうなんだけど。

 で、戦闘は終わったみたいだし変わっていい?

 少し頭痛がするから。


『いやいやいや、こんなタイミングで変わりますか普通!? 絶賛落下中じゃないですか!?』


 それをあんたが何とかしなさいって。


『いや、無理ですって! 無理無理、私なんかじゃ何も役に立てま―――』


 ヨナ! あんたがやらなくちゃ誰がやるのよ。

 これはあんたにしか出来ないことなの。


『......と言いつつ、変わりたいだけでは?』


 チッ、すんなりと行かない奴。

 そして、「せめて地上に降りてからにしてください」と言われたので、仕方なくそうすることにした。


 とはいえ、この状況でどうやって安全に下に降りようかと思っていた所、同じように落ちるウェンリが<念話>で話しかけて来る。


『安全な着地について私に一つ策があるわ。

 そのためにも私の前に集まってくれない?』


 その言葉に私達は集まっていくとウェンリは突然私達に向けて風の矢を番えて弓を引いた。

 その説明なしの行動に驚きはしたものの、誰も警戒する様子はない。信頼の賜物ね。


精霊の通り風(シルフィーロード)


 ウェンリが矢を放つとその風は私達を通り抜けてそのまま緩やかな螺旋を大きく描きながら落ちていった。

 その瞬間、その矢が通った後に吹く追い風によって私達は矢の通り道を追うように降りていく。


 へぇ、便利なものね。

 確かに風の魔法に長けた人は空を飛べたって記述があったけど、あながち間違いでもなさそうね。


――――グオオオオォォォォ


 鉱山から聞こえてくる謎の声。

 あの中にいた時も度々に聞こえてたけど、鉱山にいたあの目玉の魔物を倒しても聞こえるということはいよいよカオルとアイの仮説が濃厚になって来たわね。


 風に押されるままに私達は安全に着地していく。

 ウェンリも地震に例の魔法をかけたようでスッと降りてきた。


「さてと、これで鉱山の件は終わりでいいかしら?」


「そうだな~。ま、正直アタイ的にはこの鉱山が実は魔物かもしれないっていう心配事が増えたんだけど......いつも通りに仕えるようになったんならいいかなって」


「ふ~ん、そう。あんたがいいならそれでいいわ。一先ず村の皆に報告しに行きましょう」


 やっとヨナに人格をパス出来る。

 もう私が変われる時間もそんなに長くなくなってきたから、ここで終わってくれなきゃちょとキレちゃうかも......ん? 獣人二人組の様子がなんか変ね。


「あんた達、どうしたのよ?」


「う~ん、えらい言いづらいんやけど......」


「まだ終わってないかもなの」


「え?」


――――ゴゴゴゴゴゴ


 今度は地面が大きく揺れ出した。

 それはもう立ってられないほどで、地面に潜っていた大型の魔物も驚いたのか砂漠から飛び出して遠くへ散り散りに逃げていく。

 え、もしかしてキレていいこと起きそうってこと?


 その地震は次第に弱まっていくどころか大きくなっていき、近くの鉱山が僅かに地面から上昇し始めた。は? うそでしょ?


 砂を振り落としながらどんどんと空に昇っていく鉱山の下からやがて一つの街一つは踏み潰せそうな巨大な足が出てきた。


 その足は一本、また一本と出てきて、最終的に四本の足が地面の上に立つとゴツゴツした鎧を纏った頭に、頭が五つある蛇の尻尾をした巨大な亀が現れた。


 その大きさは正しく規格外。ただでさえ鉱“山”であったにもかかわらず、そこからさらにもう一つ山を連ねたような超ド級の魔物で立った。


 正直開いた口が塞がらない。

 この亀が一体何のために現れたのかも定かじゃないけど、これをどうにかしろと言われても出来る気がしない。


「グオオオォォォォ」


「きゃっ!」


 私達の耳栓陣魔符の効果を上回るような爆音に鼓膜が破れそうになる。

 加えて、咆哮だけで衝撃波を発生させ、私達はそれに勢いよく吹き飛ばされていく。


―――ドスン、ドスン


 その亀は私達を他所にゆっくりながらも着実な一歩で前進していく。

 あんなの通り道に国があったら間違いなく滅亡ね......ん? 国? いや、違う!


「不味い、あの先にはアタイの村がある!」


 その言葉に全員が顔を青ざめた。

 つまりメイファの村を守るためにはあの亀をどうにかしないといけないということ。

 でも、どうにかってどうやって!?


「助けにいくんだ!」


 その時、突然の事態に沈黙する私達の中でコウタただ一人がすぐさま立ち上がった。

 絶望的な巨体に加え、複数の国が総出で挑んで勝てるかどうかのレベルの相手に対し、ただ真っ直ぐとした目でそう告げる。


「おいらはもう誰かを助けられない人間ではいたくない!

 誰かの傷つく姿をただ見つめている臆病者でいたくない!

 自分だけが助かればいいなんて弱い心でいたくない!

 だから、おいらは助けに行く!

 きっとおいら達のリーダーならそう言うはずだから!」


 ......はぁ、全くその言葉を言われちゃおしまいね。


「そうね。たとえ私達が一人動かなくてもきっと動くでしょうね」


「僕らのリーダーならきっとそうする。

 僕はそういう律君に憧れたんだから」


「あたし達が動かなくちゃ誰も助けられないしね」


「ふふっ、旦那様にそんなん言われるなんて少し妬けてまうわ。

 そやけど、ウチも人となりはしってるさかいえらいようわかるわ」


「お兄ちゃんの妹としてアイは立ち上がらなくちゃ駄目なの!

 それにあの亀さんを助けるって決めたの!」


「ははっ、そこまで言われるリーダーってのに興味湧いてきたな。

 それにコウタの言い分はすげーわかる。

 ここまで来たならもう後には引けないよな!」


 コウタの言葉に私達は立ち上がった。

 そして、私は全員に目を移していく。

 誰もが覚悟を決めたように意志の強い目で頷く。

 全く、ここまで人を動かすなんてね。


「さて、盛大に抗ってやろうじゃない! 全員、準備は良い!」


*****


―――グオオオオォォォォ


「!?」


「なんの音だ?」


 僕達は思わず走る足を止めて盛大に聞こえてきた咆哮に耳を傾ける。

 音源が分かりずらいけど、恐らくドワルゴフの方向で間違いないと思う。


「何かあったのかな?」


「そう考えるのが普通かもな。なんせアイツらに任せたのはかつて俺達も含めたパーティで挑んだ神殿なんだから。

 とはいえ、聞こえてるのは明らかに外だから予想外の事態が発生したと考えるべきかもな」


 蓮の言葉に耳を傾けながらその予想外の事態について考えてみたけど、そもそも鉱山に入ってないので見当もつかない。


「ひとまず行ってみた方が早いかもね」


「そうだな」


 そして走り出そうとした時、突然現れた気配に僕達はすぐさま立ち止まる。

 目の前に現れたのは大柄の赤髪の男。この男......ドワルゴフにいた巨人族じゃないか。


 人物こそわからないけど、三メートル近い巨体を持つのはドワルゴフで見た巨人族しかいない。

 なぜこんな所にいるのか気になるけど......それ以上に友好的な雰囲気とは行かないな。

 なぜならその男の首筋に例の魔神の刻印があるから。


「はぁ、まさかここで人に会うとはな。せっかくいい気分だったのに」


「それはすまない。それで初対面で失礼するけど、その刻印は魔神の使途ってことか?」


「っ!」


 その言葉に男はピクっと反応すると腰の左右に携えた剣を引き抜き、戦闘態勢に入っていく。


「どうしてお前達が()()()のことを知っている?

 答えようによってはぶった斬る」


「答えなくても斬られそうな雰囲気だけどな」


「確かに」


 僕達も臨戦態勢に入るように武器を構える。それに対し、男は笑った。


「まさか俺に勝てるとでも? この選ばれた俺様に勝てるわけねぇだろ!」


 そう言いながら男は片方の剣先をボクに向け、その背後から二体のレッドアームを召喚した。

 よりによって因縁深い相手を出すとか......本人は気づいてないだろうけど、煽りでしかないからね?


「蓮、熊の方任せていい?」


「あぁ、わかった」


「おいおい、まさかまともに殺り合えるとでも思ってんのか? 調子にのんなよ、チビが!」


 そして、男が襲い掛かってくるのでその振るう剣を刀で対処していく。

 しかし、皮肉にも敵対している魔神の使途ガレオスから直々に力をつけてもらった僕にはあくびが出るほど攻撃が遅い。


 ......いや、違うか。あの男が異常過ぎたんだ。

 こっちが錬魔での魔力を全開にして攻撃視点のにあの男は最低限の魔力で圧倒してくる。


 なんとか出発する前に本人曰く四割の力まで引き出せたけど、まだ半分以上は手を抜かれてる時点で圧倒的な戦力差だ。


 加えて、結局霧隠れの森で村を開拓している間にガレオスの魔法は見ることはなかったしな。

 未だ敵か味方かもわからない相手であるから、万が一の時のために魔法は知っておきたかったんだけど......今更か。


「クソ! クソ! クソ! なんで俺の攻撃が通じない!?

 この選ばれた俺が!? せっかくアイツが目覚めたというのに!」


「アイツ?」


 僕はその言葉が気になり、咄嗟に男の剣戟を弾くと左手をそっと男の手に触れた。


「がはっ!」


 手のひらから<衝撃>の魔法陣を放って吹き飛ばし、さらに大の字に寝転がったのでその四肢に<土鎖>の魔法陣で拘束していく。


 チラッと見ると倒したレッドアームの死体を召喚した蜘蛛に食わせて木に寄りかかる蓮の姿があった。

 どうやら大したことない相手みたいだったね。


「それでアイツって? 教えろ。もしドワルゴフから聞こえた咆哮の主のことを指してるなら、そこに仲間がいるんだ」


「ハッ、だとすればもう手遅れだな!

 俺の育てた魔物はもうアイツの全てを掌握している!

 全てを破壊するまで止まることはない!」


「答えになってない!」


「答える義理はねぇってことだよ!」


 その瞬間、刻印が光り出してっきりパワーアップするかと思いきや全身が淡く光り出した。

 これは......自爆の兆候!


 僕はすぐさま男を囲むように結界用の魔法陣を転写し、男を結界で覆い包んでいく。


「は!? なんだこれは!?」


「結界だよ。お前の攻撃を防ぐための」


「ありえねぇ! 結界の魔法陣は魔法として存在しない! 描くものだ! それをお前は―――」


「作り出せるってだけ」


「はっ! わけわかんないことしてんな!

 だが、我が主から貰ったこの力を結界で防げると思うなよ!」


 直後、男は結界内で思い切り爆発した。

 しかし、僕の結界は壊れることなく、男の爆発の衝撃は地面をへこませるだけに留まった。


 当然だね、ガレオスの攻撃を防ぐためにこれまで以上に練り上げたんだ。

 あの男以下の攻撃ならまず壊れない。


「これで良かったのか?」


 蓮が声をかけてくる。正直、全く良くない。

 でも、あいつの目は何かに盲信しているように聞いても意味なかったのは確か。


「とりあえず急ごう。ドワルゴフで何かが起きてる」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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