第77話 鉱山の魔物#2
―――ヨナ(主人格セナ)視点―――
―――ドクンドクン
目の前で肉だけで構成された天井や壁、地面から生える腕から脈動するような音が聞こえてくる。
そして、それを動かしている本体はというと、完全独立したようにちょこんと生やした四本足で天井に張り付いている。
しかし、その見た目はとても気持ち悪い。
背中にある巨大な目玉を取り囲むようにいくつもの小さな目玉がついていて、それがギョロギョロと動いているのよ。
「ギギギ」
「このまま逃がすわけないでしょ?」
私は噛み砕いた丸薬を飲み込んでいく。
それは即効性のある回復薬で瞬時に傷が治るという代物ではないけど、自然回復力を高めてくれて結果的には多少のダメージなら完治させてくれる。
これで内臓ダメージをもだいぶ楽になるでしょう。
他の皆にも丸薬は配っておいたから問題ないはず。
にしても、あの魔物......自分は高みの見物を決めてるのが気に食わないわね。
「あんた達、動ける?」
そう振り返って声かけると全員が立ち上がり、力強い言葉で頷いていく。
「コウタも大丈夫?」
「大丈夫、固さには定評があるからね」
「そ、なら全員で行くわよ!」
そして、私が走り出すとそれに伴い、アイ、メイファ、ミクモが動き出していく。
「先制攻撃頂くわ!―――炎緋散矢」
まず最初に攻撃を仕掛けたのはウェンリで天井にくっつく巨大目玉めがけて炎の矢を放っていく。
それは空中で分離し、複数の矢を生み出すと逃げ場を潰すようにしながら天井に刺さって爆発した。
それに対し、巨大目玉はちょこまかと移動して躱していくと周囲の肉の手で攻撃を仕掛けてくる。
それはウェンリに注視させながら動いている私達にも同様に。
やはりというべきか、あの目玉が全てがこの空間のいたるところを満たしていてアイツに死角はないってことね。なら、対処できないように動くだけよ!
私達は迫りくる肉の手を躱しながら、それをに乗って巨大目玉へと近づいていく。
その接近に対し、私達から遠ざかるように動きながら、さらにたくさんの手を増やして攻撃してくる。
「邪魔よ!」
私は小回りが利く双剣にしながら迫りくる手を切っていき、別の肉に飛び移ると同時に両手の双剣を投げていく。
「しゃらくさい!」
それを相手が肉の手で防ぐとそこに向かって大剣を担いだメイファが思いっきり剣を振り抜いた。
スパッと両断された手が自重で落下していく。
「そりゃあああああ!」
その手に向かってアイが渾身のドロップキックを決めて、それは巨大目玉に向かって飛んでいった。
「ギギギ」
それを巨大目玉は光線を放って消し炭にしていく。
しかし、その時にはミクモがすぐそばまで近づいていた。
「鉄扇斬火<陽炎隠し>」
ミクモは周囲に火球を作り出すとやがてそれは全てミクモの姿へと変わり果てた。
そして、迫ってくるミクモ達に巨大目玉はそれぞれの目玉から光線を放って散らしていく。
しかし、そこにミクモの姿はない。
「ふふっ、なんぼ目ぇ多おしても全部おんなじとこを見とったら意味あらへんわね」
巨大目玉が見ていた反対側にふわっと現れたミクモは鉄扇に火を纏わせて思いっきり横薙ぎに振るっていく。
―――ガキンッ
「っ!」
しかし、それは壁に現れた牙の生えた巨大な口が現れたことで防がれた。
チッ、ほんと神出鬼没の口ね!
口は鉄扇を噛むと攻撃チャンスを失ったミクモに対し、巨大目玉が光線を浴びせようと光を集めていく。
不味い! このままじゃミクモがやられる!
「肉食直物の蔦」
しかし、それよりも先にカオルが一際大きな植物を作り出し、その貝の口に牙が生えたような花びらに当たる部分で巨大目玉を飲み込んでいく。
「助かったわ。さすがウチの旦那様」
「いや、まだだよ!」
直後、植物の一部膨張した茎から一気に複数の光線と尖った肉が現れ、そこから突き破って来た。
さらに天井からいくつもの巨大な拳が現れる。
「我は不屈の盾なり」
まるで天の裁きかのように巨大な拳がこの空間を埋め尽くすかのように降り注いでくる。
それに対し、コウタが私達を守るために広範囲の魔力障壁を張って防いでくれた。
―――ドドドドドドドドド
魔力障壁に肉の拳が叩きつけられる。
いくつもの拳の音で耳がガンガンし、巨大な音にあまり周りの様子が聞こえない。
でも、ほんとこういう時にリツ様様よね。
陣魔符の<念話>で連絡を取り合った。
『皆、無事!?』
『えぇ、大丈夫よ。あんたのおかげで助かったわ』
『でも、これっていつまで続くんだか』
確かにカオルの言う通りここまで拳が叩きつけられるとコウタが魔力障壁を解いた瞬間にぺしゃんこ決定ね。
とはいえ、このまま持久戦に持ち込まれたらコウタの方が先に魔力が尽きるのは明らか。
『あ、あの目玉逃げるの!』
ま、そりゃそういう行動は取るわよね!
巨大目玉はちょこちょこと動くと天井の中心に通り道のような穴を作り、その中に逃げ込もうとしてる。
『おいらに考えがある。近くに来てくれ』
コウタの言葉に全員が集まっていくと彼は説明を始めた。
『一度しか言わないからしっかり聞いててくれ。
今から今の魔力障壁を円柱の形に変えて、天井の穴に繋ぐパイプを作る。
そして、その穴を無理やり開けるからその間に急いで追いかけて巨大目玉を倒してくれ』
『なら、その穴の維持は僕に任せて。きっと康太はまだ力を使う時があるから』
『それじゃアタイ達があの目玉を倒せばいいのか』
『そうね。それもきっと長時間の維持は難しいでしょうから出来る限り早くね』
『決まればそれでいい。時間がないから始めるよ―――ふんっ』
コウタは大きく両手の拳を突きあげると広く空間を覆っていた魔力障壁は私達を僅かに囲む程度の円柱へと変わる。
そして、縦に伸びっていった魔力障壁が目玉が入っていった穴へと接続するとそのまま両手を左右に伸ばしながら、穴を無理やり広げていく。
『行くよ!』
そこにカオルが植えた植物を急成長させることで、葉っぱに乗った私達はそのまま穴に向かって上がっていった。
私達の存在に気付いた巨大目玉は上に上に向かって手足をちょこまかと壁伝いを登っていく。
カオルが植物の蔦で穴の中を満たしていくと私達に指示を出した。
「行って!」
「了解よ!」
私達は植物の蔦を使って登っていく。
当然、巨大目玉は壁から肉の手を生やして迎撃せんとしてくる。
「鬼剣術―――流麗斬」
私は目の前の手をまるで川に流れる水の如くしなやかな動きで刻んでいった。
さ、先に進みなさい!
「鉄扇残火<飛炎鳥>」
ミクモが私の前に出ると両手の鉄扇に火を纏わせてクロスさせた腕を解き放った。
その瞬間、鳥を象った炎が大空を駆け上って手を焼き焦がしていく。
「アイちゃん!」
「雷牙双爪」
アイは極限まで高まった身体能力で壁を蹴って巨大目玉に急接近していった。
そして、両手に付けたガントレットから見せる眩い紫電の爪で攻撃しようとする。
「ギギギ!」
しかし、あとちょっとの所で壁から生えた穴を塞ぐような拳が降ってくる。
それを爪で切り裂くと巨大目玉はなぜか壁にくっついておらず、空中に浮いていた。
―――バクバクバクバク
その時、ほぼ同時に聞こえた何かを食べるような租借音。
それが猛烈に近づいて来る。
「不味い! 下から口が迫って来てる!」
カオルの言葉に下を見ると真下には植物の茎をどんどんと食べ進めながら迫ってくる。
げっ!? 早く倒さないと全員食われちゃうじゃない!
「お姉ちゃん達、不味い光が見えるの!」
今度は上から。アイの声だった。
少し下から迫りくるものに目を奪われてると上は上で不味い状況になっていた。
それは巨大目玉が周囲の小さな目玉と一緒に一つの巨大な球体を作り出している。
あまりにも高圧縮の魔力エネルギー。
あれを光線として撃たれればひとたまりもない。
下は口が迫り、上は光線と正直絶体絶命。
表情がないはずの巨大目玉が罠にかかった私達を見て嘲わらうような気がして腹が立つ。
なめんじゃないわよ! 私達は一人じゃない!
「上は任せたわよ二人とも!」
「「おう!」」
そう返事したのはコウタとメイファ。
その二人はそのまま真っ直ぐ巨大目玉に迫っていく。
そして、私もとい私達はというともう足元に迫った口に飲まれて下に落ちていった。
口の中に入り薄暗い空間の中、点滅するかのようにガチガチと歯を嚙合わせる口の隙間から二人の雄姿を眺めていく。
「ギギギ! ギイイイイィィィィ!」
巨大目玉は光線を放ったそれに対し、先に前に出たのはコウタで巨大なハンマーを振りかぶってその光線にスイングしていく。
しかし、コウタはそれを空中で受けたためにそのまま押し込まれてどんどんと口に近づいていった。
「負けるかぁ!」
気合一発。コウタは不安定の中膂力だけでその当たれば全滅間違いなしの光線を弾き返していった。
巨大目玉も弾き返されると思ってなかったのか咄嗟に同等の光線を放ってそうさせていく。
その瞬間、私は見えた。彼女が動く姿を。
さっ、これまでの恨み! 盛大に晴らしてやりなさい!
「これで終わりだああああぁぁぁぁ!」
光線同士の爆発で広がった煙の中に突っ切っていったメイファはそのまま巨大目玉に肉薄する。
そして、大剣に炎を纏わせ、振るうと同時に噴射される風でザッと巨大目玉を両断した。
「グギャアアアァァァ!」
その瞬間、断末魔とともにその魔物はブシャーと全身を血液のような真っ赤な液体に変えて雨のように降り注ぐ。
口に当たる部分も同様にそうなった。
――――ゴゴゴゴゴゴ
ん? なにこの勢いのある音は?
気になって下を見てみると同じく赤い液体が猛烈に水位を上げて迫ってくる。
それはやがて私達を飲み込み、そのまま一緒に穴を登っていく。
ぷはっ、なんとか顔を出せた。
他の皆は......無事のようね良かったわ。
にしても、これは一体どこへ―――ってあれ? 穴開いてない?
真上を見ると青空が見えるほどには穴が開いていて、それは瞬く間に近づいて来る。
え、ちょ、これって!?
―――ブッシャーーーー!
それはまるでクジラが海面に出て潮を吹くが如く、私達は赤い液体ともども空中に投げ出された。




