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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第3章 砂漠の鉱山

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第75話 最年少の意志

―――ヨナ(主人格セナ)視点―――


「ふぅ、なんとかここまでやって来たわね」


 最上階まで上がり、私は一息吐いていく。

 すると、同じように呼吸を整えていたメイファが先ほどまでの来た道を眺めながら呟いていく。


「なんつーか、鉱山ってここまで広かったっけとか思うんだよな。

 いやそれ以上に、今さっき通って来た場所なんてスカスカっていうか」


「天然に出来た空洞......というにはさすがにあの足場が不可解すぎるしね」


 メイファの言葉を聞いていたのかウェンリが返答するように言葉を告げていく。

 確かに、天然であんな風に岩が浮くものなのかしら。

 それよりも一番に思いつくのは―――


「やっぱり、あの肉片みたいな目玉の魔物の仕業なんじゃない? 一番説明がつくと思うけど」


「そやな。そう考えるのがやっぱし一番自然なのかもね」


 コウタの言葉にミクモが同意を示していった。

 ま、今集まってる情報から判断するとしらそれしかないわよね。


 しかし、そんな会話の中、カオルは何かを考えるようにあごに手を当てていて、アイは周りをキョロキョロと見ていくとおもむろに壁に耳をつけていく。


「アイ、どうしたの? 何か聞こえた?」


「別の声らしきものが聞こえるの。それは今はとても弱くて。

 でも、()()も辛そうな声をあげたの」


 二回? それって私達がここまで来るまでに聞いた声よね?

 え、それって魔物の声じゃないの?

 思わずミクモへと視線を移していくも、アテが外れるように首を横に振られた。


「ウチにはなんも聞こえへんで。ま、聴覚に優れてる獣人とはいえ、年齢によって聞こえへんくなる音っちゅうのんはあるしね」


「ちなみに、エルフも同じよ。それに耳が良いと言ってもさすがに獣人よりは拾える範囲は広くないしね」


「ってことは、アイにしか分からない音が聞こえてるってことね。それでアイはどう考えたの?」


 そう聞くとアイは壁から顔を話し、突拍子もない考えを告げた。


「ここにいるのは危険なの。ここは魔物の体内なのかもしれないの」


「魔物の体内!?」


 その考えに誰よりも先に声をあげたのは先ほど考え込んでいたカオルであった。

 その顔は「その発想はなかった」という顔で、その言葉を聞いてから何かがわかったように一人でに頷いていく。


「カオル、一人で考えてないでおいら達にもわかるように説明してくれ」


 コウタの言葉に「あぁ、そうだね」と返答するとカオルは自身の仮説を説明し始めた。


「僕もアイちゃんの意見には賛成だ。

 といっても、あくまで主観的な意見になるけどね。

 まず僕が初めてこの地脈に完成した時、僕は妙な違和感を感じたんだ」


「そういえば、鉱山に入って最初あたりの戦闘の時にあんたは変だったわね」


「あの時は気のせいかと思ったけど、これまでの戦いで僕は密かに色々と試してたんだ」


 それから少し分かりずらい説明が続いた。それを私なりの解釈で捉えたのがこんな感じ。


 まずこの世界にはあらゆるものに魔力が含まれていて、私達は時にはそれに自身の魔力で干渉することで動かしていく。

 例えば、地面を隆起させたり、水面から水を浮かび上がらせたりと。


 そして、カオルが言うにはその魔力にも自然性やら生物性みたいのがあるようで、その二つの魔力に対した差はないけど、唯一の違いは魔力干渉する際のエネルギー効率の違い。


 私達が使う魔力は生物性由来のものであり、自身の肉体を強化したり、変化させたりするのは問題ないけど、自分以外の物体に干渉する時(先ほどの例みたいなこと)には多少多めの魔力で干渉しなくてはいけないとのこと。


 そして、それはエネルギーを吸収する際にも言えることで、生物性魔力を多分に含む動物や植物を食事で摂取する時は失った魔力を早く回復できるのに対し、自然性魔力......つまりは大気中に溢れてる魔素を吸収する時は前者に対しおよそ十二時間ほどの魔力還元率の違いが出るそう。


 つまりは魔力を回復したい時は寝るよりも食事をたくさん取るってことだけど、今言いたいことはそうじゃない。


 この鉱山が自然性ではなく生物性による魔力で満たされてるということね。

 本来自然物であるはずの鉱山に自然性ではなく生物性が紛れてる。


 それをカオルはこれまでの戦いの中で、自然性魔力で効力を発揮する植物、生物性魔力で効力を発揮する植物とで検証していたらしい。


 しかし、それを今の今まで言葉に出せなかった。

 当然ね、それを肯定するとしたらこの鉱山は山自体が魔物ということになってしまう。


 カオルがアイの言葉で気づいたのは、恐らくその考えがあったとしても無意識にありえないことだとして感がを排除していたから。


 とまぁ、こんな感じの内容で、次の議題はそれを知っての私達の行動。


「で、これからどうするわけ? その仮説が本当だとすれば、ここにいることは非常に危険と言える。

 とはいえ、ここが神殿であるなら、私達は目的のものを手に入れられずに引き返すことになる」


「安全を取ってこの場を去るか、危険を承知で突き進むか。

 ただ前者の場合、先ほどから邪魔してる魔物はもう二度とこの鉱山に入れないようにしてくると考えられるわ」


「おいらは引き返すべきだと思う。命あってのこの冒険だ。

 それにもう十分なほどに情報も得た。後は律や蓮が返って来た時に考えればいい」


「ウチは前に進むべきや思うわ。

 ここまで来て引き返すのもってのもあるけど、それに一概に引き返すこと安全とも言い切れへんわ。

 なら、先に進んで原因を潰してもうた方安全に帰れるかもしれへん」


 コウタの言葉もミクモの言葉もどちらよくわかるし、納得できる。他はどう思ってるのかしら?


「カオルはどう思ってる?」


「僕はミクモさんに賛成するよ。どちらかというとそっちの意見だから」


「アタイも賛成。なにしろこの鉱山を解決するって熱意で来たんだ。

 ここまで引き返すわけにはいかない」


「ウェンリは?」


「あたしは反対かな。無茶するだったらもう少し確実な戦力が欲しい。セナは?」


「私はコウタの意見に賛同かな。

 確かに私達が率先して神殿でもあるこの鉱山を攻略を出来ればそれに越したことはないでしょうけど、あの二人に見栄を張った手前から無茶するなんてさすがにバカな考えだと思うわ」


 これで一人を残して意見は三対三で別れてしまった。

 多数決ならその一人の意見で決まるわけだけど......まさかその一人がアイになるなんてね。


 アイにも意見してもらいたい。それはちゃんと私達の仲間と認識してるからこそ。

 それは他の皆も同じでしょうけど、ただこのような重要な決定をアイにさせてしまうということに罪悪感を感じてしまっている。


「アイ、酷だと思うけど、仲間だから聞くわ。アイはこのまま進みたい? それとも一旦戻る?」


 そうアイに聞くと意外にもアイは狼狽えるような顔はせず、真っ直ぐと私達の方を見ていた。

 その時、もうアイはただ私達に守られる存在じゃないとわかった。


「アイは―――」


 アイは口を開くともう既に固めてあった決意を言葉にして伝える。


「進みたいと思ってるの。

 最初はお兄ちゃん達に頑張ってる姿を見せたいとも思ってたけど、今はそうじゃない。

 辛そうな声を聞いてしまった。痛みに叫ぶ声を聞いてしまった。

 そんな声を前にしてアイは逃げ出すようなことはしたくないの。

 どんな危険があるかはアイにもわからない。

 でも、お兄ちゃんなら迷わず進むと思うから」


 そして、熱のこもった瞳を見せつけるように叫ぶ。


「アイは苦しんでる人を助けたいの!

 それがたとえ魔物であったとしても!

 だから、一緒に進んでなの!」


 私達は思わず顔を合わせた。

 そして、思わず笑みが浮かんでくる。これは罪深いわよ、リツ。


「ここまで言われちゃ仕方ないわね」


「ま、この子はリツの妹だし仕方ないんじゃない?」


「アイちゃんのこんな姿、もし律君いたら今頃泣いてるかもね」


「そうと決まれば、おいらは全力で仲間を守るだけだね」


「アイちゃん、その熱のこもった言葉サイコーだぜ!」


「ふふっ、こら将来有望ね」


「決まりなの!」


 アイは嬉しそうに笑う。

 きっと彼女にも恐怖してたのでしょうね。

 だけど、その恐怖に負けずに自分の意見を言って見せた。


 それは過去の弱い自分への戒めみたいな意味もあったのでしょうけど、それ以上にこの子にも失いたくないものがあったから。


 ま、何とでも言えるけど、ただこの瞬間アイは確かに大きく成長した。それこそ飛躍的にね。

 この場にリツがいないのはホント残念ね。

 見せて上げたかったぐらいだわ。


「さてと、決まったことだし、このまま最後まで行くわよ。準備は良い?」


「「「「「「おぉ!」」」」」」


 そして、私達はその場所から前に進んでいった。

 すると、まるでアイとカオルの意見を裏付けるように私の耳にもハッキリと心臓の鼓動のようなドクンとした音が聞こえてくる。


 加えて、鉱山の壁はどこかぬめっとしたような感触に代わり、先ほどからまるで光の入り口のように眩しいほどの光が刺し込んで辺りを照らす。


 私達の向かう先が目的地近づいているのか壁から魔物が出てくるようになった。

 先ほども戦った目玉の魔物だ。


 その目玉がさらに黒い涙を流してネズミほどの影の魔物を作り出し、影の魔物の大群として私達に差し向けてくる。


 私達はそれに対処していくが、攻撃の一部が壁を傷つけるたびに振動に襲われた。

 立ってられないというほどではないけれど、それがいよいよもって魔物の体内ではないかと思わされていく。


 そんな道中をなんとか突き進んでいくとやがて広い空間に出た。そこは正しく悍ましかった。


「これは......なんとも気持ち悪い光景ね」


「アタイはもうここが鉱山とは思えなくなってきたね」


 目の前に広がる光景は四方八方に伸びるいくつもの肉の繭。

 そこは壁も地面も天井も赤い肉の中に包まれていて、その中央には一際大きな肉の繭があった。


 その繭は他の繭を伝って吸収するための養分を運ばせていた。

 どうやらドクンという心臓の音はその養分が巨大な肉の繭に運ばれていった時に鳴る音らしい。


――――ギロッ


 直後、目の前にあるいろんな角度でぶら下がってる肉の繭は一斉に目を開けた。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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