第73話 鉱山突入#2
―――ヨナ(主人格セナ)視点―――
「な、なんなのあれは......」
私も国の滅亡から長いこと外の生活に触れてきた。
でも、あのような見た目が気持ち悪い生物は見たことない。
天井と地面との間で肉のような艶をした繭に目があるようなおおよそ魔物とは言いづらい特異的な存在。
加えて、その繭はまでる生き物であるかのように脈があり、そこから心臓の鼓動のような音が聞こえてくる。
「もしかしてこのグロテスクなのが二人が聞いた音?」
カオルの言葉に頷くようにしてミクモとアイが答えていった。
「そやな。今も目の前からハッキリ聞こえてるわ」
「それにここに来てわかったの。この音は重複してるみたいなの」
アイの言葉にコウタは思わず驚いた様子で告げた。
「重複? まさか他にこんなのがあるのか!?」
「もしかしなくてもこれが全滅の原因かもね」
確かに、ウェンリの言う通りこの繭が作り出す影のような魔物がこれまでのドワーフ達を襲ったと考えるのが妥当ね。
今も纏わりつくような黒い靄が全身に重りを着せるように体の重さを感じる。
それも感じるようになったのは接敵してから。
これがいくつもあったとしたらやがて動けないほどになってもおかしくない。
後はそのまま飢えの苦しみを......これはさすがに考えたくないわね。
あんな辛い経験は二度とごめんよ。
「こんな気持ち悪いのはさっさと駆除するわよ。皆、準備は良い?」
「「「「「おお!」」」」」
「それじゃ、行くわよ!」
そして、私は小回りの利く双剣を手にすると肉の繭に向かって突っ込んでいった。
すると、それは私達を近づけさせないように縦に伸びた目じりから黒い涙を流していく。
その涙は地面に落ちると一瞬で黒い霧となり、それは生物の形をしていった。
なるほど、あれはそういう風に出来上がったものなのね。
「だから、どうしたってのよ!」
襲い掛かる影の魔物に向かって剣を振るっていく。
片手で相手の攻撃を防いだり、受け流しながらもう片方でトドメを刺す。
前衛の私やコウタ、メイファが撃ち漏らしたものは中衛と後衛の仲間に任せて、肉の繭へ近づいていく。どう考えてもあの目が弱点でしょ!
―――キュイイイィィィィン
「っ!」
肉の繭の目に突然光の波が見えた。
それが瞳の中心へと集まっていくと出来上がった球体から一気に光の砲撃が向かって来る。
「セナ、スイッチ!」
コウタが私に向かって叫ぶ。
その声に位置を入れ替わるように放たれた砲撃の正面に彼が立つとハンマーの柄を両手に持って大きく振りかぶった。
「だああああ!」
砲撃の接近に合わせてハンマーを振り抜いた。
それは見事にハンマーの鎚の芯で捉えると天井に向かって伸びていく。
――――ゴゴゴゴゴゴ
天井を突き抜けるように砲撃が反射された数秒後、体が大きく揺さぶられるような地震に襲われた。
コウタ、まさか今の一撃でこの鉱山自体に影響を与えたの? なんてバカ力なのかしら。
「今だ!」
コウタの言葉に私達は飛び出していく。
しかし、肉の繭は行く手を阻むようにボタボタと涙を流していく。
その流す量は先ほどまでの比ではなく、目の前を覆いつくすような黒い霧が広がっていくと巨大なゴーレムの形へと変化した。
加えて、そのゴーレムの影で目が隠れるとゴーレムごと貫通するように光の砲撃を乱発してきた。
チッ、目の軌道がゴーレムのせいでわからない。
これじゃ下手に攻めたら直撃しかねないわ。
「なら、遠慮なく仲間を頼らせてもらうわ。任せたわよ、あんた達!」
「ふふっ、可愛いセナちゃんの頼みよ。しっかり務めさしてもらうわ」
「あたし達も少しは仕事をしないとね」
「ボクが影を散らすよ」
「なら、アイは本体を奪うの!」
本体を奪う? アイの言葉に疑問に思いながら彼女達の仕事を見ていった。
「暴れ狂う棘の蔦」
まず最初に動いたのがカオルで影のゴーレムの左右から棘のついたツタを何本も生やし、それを振り回してゴーレムの影を霧散させていく。
「目なら効くでしょ―――瞬閃の矢」
その僅かに出来た隙間にウェンリが光の精霊で作った矢を肉の繭の目に向かって放った。
その矢は目に当たるとすぐに眩い閃光を放ち、肉の繭はたちまち目を閉じいく。
「鉄扇斬火―――焔扇線」
ミクモは両手に鉄扇を開くとそれに炎を纏わせていく。
そして、それをまるで踊りかのように妖艶に動かしていくと腕をクロスさせるように動かした。
鉄扇から放たれた火の斬撃は行動不能になっている肉の繭の天井と地面を繋ぐ接合部分に迫っていくとたちまち肉を炭化させて切断していった。
「アイも頑張る―――雷光斬」
全身を輝かしい黄金に染めて紫電を走らせるアイはまるでその場に残像を残すように走り出すと肉の繭に接近し、鋭く尖らせた両手の爪を振るっていく。
その瞬間、目を閉じていた肉の繭がまぶたの部分が切り取られ強制的に目が露わにされた。
うわっ、思ったよりエグいことしてる。
「お姉ちゃん達!」
吹き飛ばした肉の繭よりも先に地面に降り立ったアイは反転して向かってきたそれを蹴って私達の方へと飛ばしてきた。
しかし、その繭も最後の悪あがきとばかりに瞳に光を集め始めていく。
それをさせるわけないでしょ!
「メイファ、さっきのリベンジの機会を与えてあげるわ。キッチリ決めなさい」
「おう、やってやるよ!」
私は宙に浮かぶ肉の繭に向かって跳躍すると大きく足を振り上げて踵落としで真下にいるメイファへとパスしていく。
そして、向かって来るそれに対し、メイファは肩に大剣を担いで構えていた。
加えて、その大剣はブルブルと小刻みに震えている。
「炎紅の一太刀」
大剣はメイファの振りに合わせて気流が噴出し、瞬間的に加速していくとさらに剣に炎を纏わせていった。
その炎の刃は肉の繭に食い込んでいくとそのまま一気に切断していった。
「やっぱり、魔改造のおかげでだいぶ火力がおかしくなってるわね」
「ま、これがアタイの実力ってもんよ」
「つまりこれからもっと魔力を鍛えたらより質の高い魔力放出の魔道具作れるちゅうわけね」
「あれ、なんか不穏な言葉が聞こえた気が。アタイ、体を鍛えるのは苦手なんだけど」
あぁ、メイファがミクモに気に入られたみたいね。ご愁傷様。
それよりも―――
「あんた達はこれを見てどう思う?」
それはメイファが斬った肉の繭がまるで灰になっていくように体を崩壊させて空中に消えていくのだ。
これは前回の神殿ではなかった現象で、この光景はまるで先ほど影の魔物と同じ。
「そうだね。実体はあるからして影の存在とは別だと思うけど、これが本体ではないって感じかな」
「ということは、これを作り出せる魔物がこの鉱山にいるってことか。
加えて、これが一つとも考えづらい」
カオルとコウタの意見と同じね。
この肉の繭をどこかで統括する大元があるはず。
問題はそれをどうやって見つけ出すかってことなんだけど。
「わからない以上は先に進んでみるしかないの」
「それもそうね。アイの言う通りだわ。それじゃあ、行くわよ」
それから私達はメイファの先導で歩いて行った。
しかし、途中からメイファの記憶していた地形とは異なっている場所に出くわし、そこからは手探りでの探索。
すると、まるでギミックのように何本かの岩が地面から生えたり、天井から生えてる部分があり、その岩にはそれぞれ一から八のマークが刻まれていた。
カオルとコウタの意見からその岩を順番通りに壊していくと何もなくなった場所に突然円柱が出現した。
その円柱からは目が現れ、先ほどの肉の繭と同じように影の魔物で襲ってきた。
それ以外に区別する点があるとすれば、それは岩での攻撃を多用していた感じね。
円柱を破壊し、肉の繭を丸裸にすると同じように倒していく。
すると同時に、体を大きく揺さぶられるような地震に襲われた。
今度はコウタの動きを伴わない地震。
もしかしたら先ほどもコウタによるものじゃなかったかもしれない。
そう思いながら探索を続けていると今度は杭が刺さったように地面、天井、壁とある。
数は全部で十個ほど。
その杭は破壊すると瞬く間に再生していく。
しかし、破壊せずに打ち込むとそれと連動して別の場所の杭も沈んでいった。
代わりに浮き上がった杭もあるけど。
しかし、これもコウタとカオルの“げーむ”とやらの知識から全部打ち込めれば成功だとわかり、パターンを確認しながら十数分後に全ての杭を打ち終わった。
その瞬間、地面と壁からいくつかの杭が浮かび上がるものもあれば、そのまま噴射されていくものもあり、噴出された杭の穴からはドロドロのマグマが溢れ出て地面を覆っていく。
そして、そんな罠に嵌った私達を嘲笑うかのように天井からぶらさがる肉の繭が笑った目をしていた。
当然ながらボコボコにしてマグマで消し炭にしてやったけど。
別の場所では同じように杭があったけど、違いと擦れば壁や天井、床に溝のような細いものがあり、そのスタート地点らしき場所には魔法陣が描かれていた。
魔法陣の形や構成術式からして水の魔法陣らしい。
ほんと魔法陣の勉強していて良かったわ。
じゃなきゃ今頃詰んでたもの。
調べていくうちにどうやらこれは溝に水を流してゴール地点まで流していけばいいらしい。
杭は分岐点を制御するためのもの。打ち込めば方向が変わるって感じで。
それも皆で情報を集めて無事にゴールまで流した。
さて、ここまででもうパターンは見えてきたわね?
壁から鉄砲水が流れ出すと私達がいた場所が僅かな隙間を残してほとんど水に埋まってしまった。
そして、現れるは遊泳型の肉の繭。先ほどは炎を使ってきて、今度は水ってところね。
ただ先ほどよりも足場の位置は考えなくていいものの、水中戦という所が中々に苦戦させられた。
なんせミクモの炎は潰されるし、アイちゃんの雷じゃ感電するしで。
それに地上戦と違って速度も出しづらい。
時間をかければ水で体温が奪われて危険。
おまけに相手は動き回るし、いくらでも影の魔物を呼び出すで倒すのに一番時間がかかった。
そんな苦労の末に辿り着いた場所は―――
「なにここ......」
すぐ下はマグマが溜まっている崖で進むべき道は何もない。
あるとすれば空中に浮かぶ大小様々な瓦礫のみであった。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




