第71話 鉱山攻略パーティ
―――ヨナ 視点―――
メイファさんがロゴフさんの勝負に勝ってから私達は数日間の準備の後に、ついに鉱山へ向かうことになりました。
村の入り口では鉱山へ向かう私達を見送る村の皆さんがたくさんいて、気持ちを代表するようにベルダンさんが声をかけてきました。
「さて、こうなった以上はお前らに全てを任せる。
だが、別にこの村の命運を任せてるわけじゃねぇから気負いすぎんな。
いざって時は逃げりゃいいんだからな」
すると、今度はロゴフさんがメイファさんに近づいき、何か持った拳を突き出していきます。
「親父、これは......」
「単なるお守りだ」
メイファさんの手元には精巧に作られた鉱石を一から削って作ったようなもので、正しく王族に近い貴族ぐらいしか身に付けなさそうな一品です。
加えて、そのお守りからは僅かに魔力を感じます。恐らく魔道具でしょう。
「ま、今更俺達の間に長ったらしい言葉はいらねぇよな。
なんせこれが最後ってわけじゃねぇし。そうだろ?」
「あぁ、そうだな。無事に全てを解決してくるぜ!」
「んじゃ、娘をよろしく頼む。元気だがアホでバカで一人で突っ走る奴だ。いざって時はフォローしてやってくれ」
「はい、わかりました」
「親父、もう少し快く送ろうとは思わんのか」
「あ、ついでに男っ気も全くねぇから誰か良い奴紹介してやってくれ」
「親父!」
そんなメイファさんの噛みつきにロゴフさんは楽しそうに笑っています。
本当は大事な娘がそんな危険な場所に向かうなんて心配で仕方がないでしょうに。
「こんな親父はほっといてさっさと行こうぜ」
メイファさんはプリプリと怒った様子で歩き出してしまいました。
そんな彼女に続くように私達も歩き始めます。
「メイファ!」
その時、ロゴフさんがメイファさんに声をかけ、彼女は立ち止まると振り返っていきます。
すると、ロゴフさんは拳を突き出して一言。
「全て解決してこい」
それに対し、メイファさんも返すように拳を突き出すと一言。
「当然!」
そして、私達はロゴフさん達の姿が見えなくなるまで鉱山に続く道を歩いて行きました。
「ええおとんちゃうん。ウチのおとんは子離れがなかなか出来ひん人で羨ましいわ」
「ま、それを半ば強引に押し切って婚約したんだから大したものよね」
ウェンリさんの言葉にメイファさんは驚いた様子で反応しました。
「え!? ミクモって既婚者なの!? その二人のどっちか? それとも今いないって二人?」
「この一見小そうも勇ましい少年ウチの婿やで」
「小さいは余計だよ」
ミクモさんはカオルさんの背中からくっついていきます。
しかし、ミクモさんが女性でも177センチと大きい方で、大してカオルさんは彼女と25センチも差があるせいか、今でもパッと何気ない気持ちで見ると―――
「お姉ショタじゃん!」
「ショタじゃないから。確かにこの中ではアイちゃんを除けば一番小さいけども僕は(異世界判定では)成人してるから!」
「でも、実際年齢はミクモさんの方が上だし、お姉ショタと言えばお姉ショタじゃない?」
「「「「確かに」」」」
コウタさんの意見はもっともだと思います。
別に血が繋がっていなくてもお姉さん的雰囲気のあるミクモさんと一見少年に見間違われてもおかしくないカオルさんでお姉ショタは完成すると思います。
そんな私の意見は他の皆にも共通認識だったのかミクモさんとカオルさん以外の全員が頷いていきます。
それに対し、カオルさんは思わずショックを受けたような顔をしました。
「そ、そんな......この際、残りのメンバーが悪ノリでもする可能性を考慮したらしっかりと怒れたんだけど、アイちゃん......君までそう思うのか!?」
「お姉ショタというのがよくはわかってないけど、もしアイとお兄ちゃんみたいな関係性を見たいのを見た目で表現してるのだとしたら......うん、アイもそう思う!」
「なんかアイちゃんらしくない冷静な分析で断言されたんですが」
「まぁまぁ、ええやんの。そこに愛さえおうたら。
周りからどう思われようとウチらが夫婦ちゅう関係性だけは覆せへんわけやしね」
そんな圧倒的なアウェーな空気にカオルさんは耐えかねたのか話題を変えるようにしゃべっていきます。
「そういえば、この数日間ずっと疑問に思ってたんだけど、このアリジゴクはメイファさんとは全く関係ないんだよね?」
そういえば、確かに砂嵐の問題の外にもアリジゴクの問題は残ってましたね。
そして、全てを告白した際にメイファさんからの言及はありませんでした。
「となりますと、これは自然的に発生したものということでしょうか」
「見てればわかるよ。全員戦闘準備ね」
そう言って、メイファさんは一つの大きなアリジゴクに向かっていくとそこに適当にポケットから取り出した石のようなものを投げ込んでいきます。
その瞬間、そのアリジゴクから巨大な虫が現れました。
「ガルワードっていうアリジゴクに足を取られた魔物を食う巨大な虫だ。
この魔物ももともとこの砂漠にいたけどここまで大きいのはありえない。さて、来るぞ!」
そのガルワードという魔物はアリジゴクに戻っていくと突如としてアリジゴクの範囲が広がっていきました。
恐らく、あの魔物が自分のテリトリーに巻き込んで戦いやすくしてるのでしょう。
「おいらが敵視を取る」
コウタさんが<挑発>で地中の魔力が彼の足元まで行くのがわかりました。
「コウタさん、足元から来ます!」
「わかった」
コウタさんは深く腰を落としていくと一気に垂直飛びしていきました。
その高さは軽く二十メートルぐらいはありそうです。
そんな宙に跳んだ彼を追ってガルワードも地中から勢いよく飛び出していきました。
「カオル!」
「うん、砂漠の花ドレンクフラワー!」
カオルさんが地中に種を植えると同時にその植物は急成長してガルワードに絡みついていきます。
そのことにメイファさんは驚いた様子でした。
「おぉ! 凄いな! でも、奴の甲殻は非常に硬い!」
「そう。なら、破壊は任せたわ」
「ええで」
ウェンリさんが背中に背負っていた弓を構えるとそこに水の矢をつがえていきます。
恐らく、水の精霊の力を借りてるのでしょう。
相変わらず多数の精霊を扱いますね。
「穿て―――水霊の刺突」
放たれた水の矢は高速で飛んでいくとガルワードの甲殻に穴をあけていきました。
攻撃もガルワードに届いたのか魔物から痛みのような叫びが聞こえてきます。
「穴をあけてくれておおきに。なら、ウチの仕事はその穴を大きゅうすることね」
ミクモさんは妖艶に自身の周囲に鬼火のような炎を作り出すと複数のそれらを穴に向かって打ち込んでいきました。
「爆」
そう一言告げて伸ばした手をギュッと握るとその穴が広がっていくように亀裂が伸びていき、そこ場所からは炎が漏れ出していきました。
瞬間、甲殻は思いっきり壊れていき、ガルワードの肌と言いましょうか? ともかく生身の部分が露出していきました。
「次はあんた達の番やで」
ミクモさんは私とアイちゃんに向かってそう告げてきました。
あ、なるほど、今までひとえに魔物を仕留めなかったのはそういうことでしたか。
「アイちゃん、行きましょうか」
「わかったの!」
アイちゃんは元気よく返事させていくと全身に雷を纏わせていきます。
その影響かふわふわな尻尾は黄金に輝き、ややギザギザに尖っていきました。
アイちゃんの種族が金雷狼と呼ばれる所以ですね。
さてと、私も行きましょうか。ということで、お願いします! セナさん!
『はぁ、仕方ないわね』
そして、私はもう一人の私であるセナへと意識を交換していきました。
「さてと、行くわよ! 準備は良い?」
「オーケーなの!」
「それじゃ―――ゴー!」
私とアイちゃんは一斉にガルワードへ飛び出していくと露出した部分に一気に跳躍。
アイちゃんは爪のように尖ったガントレッドを構え、私は......そうね、大剣にでもしようかしら。
「「はああああああ!」」
そして、同時に攻撃を仕掛け、私とアイちゃんでクロスに斬り分けてやったわ。
『ふぅううううう! やるー! さすがセナさん!』
うっさいわよ。とはいえ、悪い気はしないけどね。
地面に着地すると私はメイファに近づいていったわ。
「とまぁ、こんな感じが私達のそれぞれの役職もとい能力って感じね。今の魔物ぐらいだったら一人で相手出来るわよ」
「え、アイちゃんでも!? いや、それよりもヨナの口調が......」
「今はヨナのもう一人の人格であるセナちゅう子やで。
戦闘面では基本彼女になるけど、すぐに慣れるわ。
それよりも、最近表に出てくれんでおねえ寂しい」
「私は戦闘面に特化してるの。それにあんたのベタベタを対処するのは厄介だから嫌なのよ。
ヨナを通して見てるから知ってるけど、あの子もよく耐えてるなぁって思うわよ」
「まぁ、ツンデレちゃんめ。ほんまはして欲しいのに強がってそんなん言わんでええのよ?」
「あんた、ホント苦手よ!」
「ふふっ、好かんって言わへん辺りがウチはもうキュンキュンしてまうわ」
「ホント嫌い!」
こ、この女狐め~~~! ここぞとばかりに構ってくるんじゃないわよ。
あ、ちょっと後ろからハグするな~~~~!
「なんというか冒険者でもないのによくもまぁここまで面白いメンツが揃ったもんだね」
「あたし達の出会いは偶然というべきものよ。
とはいえ、確かにこの出会いを運命っていうのもロマンチックで良さそうね」
「ふ~ん、それじゃあ残りの二人も癖が強かったり」
「いや、別にそんなことないかな」
私がミクモに抱きつかれてる間になにやら話が進んでいるわね。
今はメイファの言葉にカオルが否定した辺りかしら。
すると、カオルに代わってコウタが答えていった。
「能力的に言えば蓮は糸って特殊な魔法を使えるけど、律に関してはぶっちゃけ無個性だし。
でも、日々のたゆまぬ努力でバカみたいに強くなっちゃったおいら達のリーダーだね」
「そうだね。正直、あの修行方法を日常で継続的にやってるのはかなりイカれてると思う。
でも、だからこそ強いのは納得というか」
「へぇ、なんだか会ってみたいな」
なんだか目を輝かせてるけど、あの二人も別に大した人間ってわけでもないのよ?
「会えるわよ。といっても、今は別行動で早めに帰ってくるとは行ってたけど、いつまで関わるかはさっぱり。
ってことで、その間の暇を持て余した時間で鉱山の問題を解決しに行くのよ」
「いや、アタイ達のずっと困窮していた問題に対してそんな態度でいられんのも困るんだけど。
ま、だけど、案外こういう気持ちで向かった方がいいのか?」
「私達がいるから大丈夫よ。さ、さっさと思ったより立ち話しちゃったし早く鉱山に向かいましょ。
それとミクモ、いい加減に離れなさいよ!」
「嫌よ、もう少しギュッとしていたい~!」
そして、私達は十数分の道のりをなんだかんだありつつ歩き続け、やがて鉱山への入口へとたどり着いた。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




