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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第3章 砂漠の鉱山

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第70話 ドワーフ流白黒の付け方

―――ヨナ 視点―――


「んだって? それじゃあ、あの砂嵐は全部お前の仕業ってことか?」


「そうなんだ。本当にごめんなさい!」


 翌朝、村の皆さんを集めると事の本末をメイファさんが白状しました。

 しかし、これはメイファさんが決めたことで、私達的には別に隠しても良かったのですが、メイファさんの誠意を見せたいという意見を尊重してそう決めました。


 そして、砂嵐のこと、どうして砂嵐を起こしたのかという理由、それをメイファさんの口から聞くと皆さんは困惑した表情を浮かべています。


 恐らく怒るに怒れないのでしょう。

 メイファさんがやったのは単なる嫌がらせではなく、余計な犠牲者を増やさないため。


 そして、ロゴフさん達が組んだ第三救助隊も恐らく多少の犠牲ありきで考えていたのでしょう。

 もっと言えば、一人でもその鉱山の謎を村に持ち帰ればいいという風な感じで。


 犠牲が前提の作戦なんてよっぽど追い詰められてたということはわかります。

 しかし、それを良しとしないメイファさんの行動にも正当性を感じます。


 すると、メイファさんの謝罪を聞いていた村長のベルダンさんが彼女に告げました。


「言いたいことはわかった。お前がこの村のために貢献してくれた事実も。

 しかし、他に鉱山が見つかってない以上、俺達にはあの鉱山をなんとかするしかない。

 それにお前の言葉が確かならあの鉱山には恐ろしい魔物が住むんだろ?

 そんな脅威を知ってていつまで放置できる?

 問題を先送りにすることは出来る。

 場合に寄っちゃ俺達が死ぬまで問題が起こらない可能性もある。

 だが、その先の子供達はどうする?

 脅威が近くにいて、いつ突然出てくるかもわからないのに怯えながら暮らすのか?」


「そ、それは......」


 その言葉にメイファさんは顔を俯かせ、拳を握っていきます。


「別に説教してるわけじゃない。そんなしょげた顔すんな。

 これは俺達全体の問題だ。はなからお前に全てを任せるわけじゃない。

 とはいえ、そういう問題があるのは確かだ。

 ここからあてもなく移り住む場所を求めて彷徨うのか?

 それも手段としてある。だが、あくまで最終手段だ。

 その魔物をどうにかすりゃ移る必要も無くなる」


「だ、だけど......!」


「わかってる。これまで俺達の仲間を二度も全部飲み込んでくれたんだ。半端な魔物じゃない。

 だから、あり得る可能性の全てを考えて作戦を立てて―――」


「あのー、一つ提案していいですか? その鉱山に私達を行かせてくれませんか?」


 私が手を上げてそう言うとベルダンさんや周りの鍛冶師の皆さんも驚いた顔をしました。


「おいおい、お前達だって聞いてただろ? 鉱山に向かった部隊は全滅したって。

 俺達だってそれなりに戦闘できる種族だ。

 外のデカブツどもだってちょっとやそっとじゃ負けねぇ。

 そんな奴らが帰って来ないんだぞ。

 協力的な姿勢はありがてぇが、参加させるわけにはいかない」


「なら、私達は私達で行きますね。

 なぜなら私達がここに来た理由に鉱山がありますから」


「は?」


「というのも、あの鉱山には私達の求めるお宝があるみたいでして。

 すぐ近くにお宝があるのに手を伸ばさない人はいませんよね?」


「......お前達は冒険者なのか?」


「いいえ、ただあなた達から良いように言葉巧みに情報を抜き出した悪党ですよ」


 私は悪ぶって見せるように表情を作り、不気味な笑いをしていきます。

 そんな私を見てベルダンさんは―――


「嬢ちゃん......絶望的に似合ってねぇぞ、それ」


「え?」


「「「「「くっ......あはははは!」」」」」


「え、えぇ? なんでぇ? なんで笑うんですか!?」


 ベルダンさんの一言にベルダンさんの周りの皆さんも、ましてやミクモさん達も私の頑張りに笑っていきます。そ、そんな似合ってなかったですか!?


「ふふっ、可愛らしおして全然悪そうに見えへんわぁ。育ちの良さがよう出てる」


「ヨナお姉ちゃん、とっても可愛いの!」


「せめてあの変な仮面をつければ雰囲気が出たかもね」


「ま、そもそもの話これまでの関りでだいぶ印象固まってただろうしね」


「律や蓮にも見せたかったなぁ。絶対笑ってたと思うけど」


「そこまでですか!?」


 全員からそう言われるなんて私は一体どういう顔してたのでしょうか。

 帝国のヤリヤさんをイメージしてみたのですが、どうにも失敗してしまったみたいですね。

 うぅ、なんだか無性に羞恥心が!


 そんな私にメイファさんが声をかけてきました。


「ヨナ、最高だよ!」


「メイファさんまで......」


「だけど、ありがとう。本当はアタイが行こうと思ってたんだけど、それを読んで一緒に同行してくれるって思ってくれて」


「え、今のは単に行きたいだけですよ」


「全然違うんかい!」


 なんだか先ほどまでの真剣な雰囲気はどこへやら、なんだか団欒とした空気感になってしまいました。

 しかし、ここで流されてはいけません。主張はハッキリと!


「ベルダンさん、私達は本気で鉱山へ向かおうと思っています。

 当然、その目的はその鉱山奥のお宝ですが、そのついでに鉱山の魔物を倒してきても構いませんよね?」


「はぁ~、わかったよ。その目を見ればお前がいざってなればどれだけ頑固かよくわかる。

 なんせ俺達ドワーフにも石頭は多いからな」


「村長! 親父! アタイにも行かせてくれ!

 これまでのお詫びもそうだけど、アタイもこの問題を解決したいと思ってる!

 だから、アタイもヨナ達について行かせてくれ!」


「ダメだ!」


 村長の覇気の籠った言葉に一瞬にして辺りが静寂になっていきました。

 その言葉にメイファは悔しそうに歯噛みしていきます。

 しかし、その言葉にはまだ続きがありました。


「だが......さっきも言った通りお前もドワーフの血筋なら石頭ってことだ。

 どうせ俺達の知らないところで向かうかもしれない。

 だったら、お前が俺の提示する課題をクリアしたら好きにしろ。ロゴフ、それでいいか?」


「いいよ。今思えばコイツは亡くなった妻にそっくりな石頭だからな。そうでもしないと折れないし」


「ふっ、その割には随分と期待した顔するじゃねぇか」


「そりゃそうだろ。俺の娘だしな」


 ベルダンさんとロゴフさんは互いに顔を見てニカッと笑うとベルダンさんがメイファさんに課題を出しました。


「メイファ、今からお前には俺の最高の一振りの剣と戦ってもらう。

 その剣に対し、お前は最高の()を持ってこい」


―――数分後


「では、立ち合いの証人として私ヨナが務めさせていきます」


 村のちょっとした広場にはベルダンさんとメイファさんが向かい合うように立ち、その周囲を取り囲むように多くの人達が集まっています。


 ベルダンさんが地面に突き刺している剣は間違いなく大業物です。

 刃の光沢、使われてる材質、その剣に込められてる魔力、それら全てが一級品。

 鋭い刃は並の剣では弾かれる竜の鱗ですら紙のように切断してしまうでしょう。


 それに対し、メイファさんのは......なんというか独特なデザインです。

 同じ剣なのは確かなのですが、なんか物騒なものがごちゃごちゃとついてる感じです。

 恐らく、魔道具と組み合わせてる可能性がありますが、それがなんなのかはサッパリです。


「改めてルールを確認します。今からお互いには互いの剣を交えて戦ってもらいます。

 しかし、これは武器を振るう当人の実力を比べるものではなく、互いの剣の実力を比べるものです。

 故に、相手の体勢が剣を触れないほどに乱れてしまった場合には、一時的に戦いを止めて体勢を立て直してから再試合となります」


 そう、これは武人同士が力比べする単純なものではなく、鍛冶職人のプライドをかけた戦い。


「そのため勝敗の決着は互いの剣が破壊された時。それでよろしいですか?」


「あぁ、構わない」


「いいぜ!」


「では、互いに武器を構えてください。いざ尋常に試合―――始め!」


 その瞬間、ベルダンさんもメイファさんも同時に動き出し思いっきり剣を交らわせていきました。

 ガキンッという音ともに衝撃で風が伝わってきます。


「ほう、俺の剣で刃こぼれしないなんてちゃんと鍛冶の技量も上げてるんだな」


「そうさ! そう簡単に舐めて貰っちゃ困る!」


「だが、まだ甘いな」


「っ!」


 ベルダンさんはメイファさんの剣を弾き上げるとそのまま弾いた剣に向かって思いっきり薙ぎ払いをしていきました。


 その瞬間、ベルダンさんの剣が僅か斜めにメイファさんの剣に当たると彼女の剣が刃こぼれしていきました。


「まだ力の入れ具合にムラがある。それは細けぇと言われるようなほんの些細な箇所だ。

 だが、場合に寄っちゃその些細な部分から使用者の命を守れないことだってある」


「わかってるよ! だから、その前に決着をつける!」


 メイファさんは剣を両手で握ると柄の部分で何か操作しました。

 すると、振り下ろした剣から勢いの凄い気流のようなものを発生させていきます。


 恐らく、風の噴出の勢いで瞬間的に剣の振り下ろす速度を上げたのでしょう。

 武器を振り回す速度は確かに一撃の攻撃力には重要な要素です。


 そして、その剣でちょうどベルダンさんの剣の腹を狙っていきます。

 平べったい部分は厚いとはいえ、叩き折れる可能性も十分にあります。


「くっ!」


「まさか俺がその可能性も考慮してないと?」


 しかし、傷一つつけられていないようです。

 どうやらやはりベルダンさんとメイファさんにかなりの鍛冶職人としての技術差が出てるそうです。


 それに加え、ベルダンさんの目は長年武器を見続けた、言わば武器限定の鑑定の目です。

 それで瞬時にメイファさんの剣の弱点を突き、刃こぼれを起こさせていきます。


「それだけか?」


「まだまだ!」


 メイファさんは剣に水を纏わせるとそれを高速で動かしていきます。


「ウォーターカッターだ」


「もしかして<水刃>みたいな感じですか?」


「そうそう、水に高圧力をかけて鉄すらの切断を可能にするもの」


 コウタさんが教えてくれました。恐らくもとの世界にあった知識によるものでしょう。

 そして、メイファさんはその剣でベルダンさんの剣に挑みますが、平然と受け止められていきます。


「もっと!」


 今度は剣に炎を纏わせていきました。

 結構な魔道具を剣一つに搭載していますね。

 もっとあったりするのでしょうか。


「おい、そりゃ盛過ぎじゃないのか? 剣が可哀そうだぞ」


「だけど、これがアタイの剣なんでね。火力アップだー!」


「っ!」


 その瞬間、ベルダンさんの剣の方にも熱が伝わり、刃が徐々に赤熱化していきました。

 しかし、それ以上にメイファさんの剣は全部が真っ赤に染まり、余程危険です。


「メイファ、今すぐ武器を捨てろ! その剣の魔力が暴発するぞ!」


「アタイの剣はそんなヤワじゃねぇ!」


 そう言うとメイファさんの剣の鍔の部分から白い霧のようなものが噴出されて瞬く間に剣を冷やしていきました。

 しかし、それは―――


「その剣はもう仕舞だ。熱したものを一気に冷ましやがって」


「それは村長の方だよ!」


 メイファさんはその剣をそのままベルダンさんの剣に打ち付けていきます。

 その瞬間、初めてベルダンさんの剣に亀裂が入りました。


「普通は剣では起こりえない熱膨張差による現象。

 理論上は可能だけど、誰も起こせたことがない。

 なら、起こせるまでに工夫すればいいだけのこと!」


「っ!」


「全力全開だああああああ!」


 そのままメイファさんは剣から気流を出して一気に振り抜いた。

 その瞬間、折れた刃が空中に舞い、やがて地面へと突き刺さる。

 その折れた刃は―――メイファさんのものでした。


「あーあ、結局後ちょっと届かなかったか」


「いや、どうやら俺の剣はお前の熱意も吸っちまったようだ」


 直後、ベルダンさんの剣が粉々に砕けていきました。

 そこに剣はない。あるのは柄のみ。

 もはや決着はどちらがついたか明らか。


「勝者はメイファさんです」


「よっしゃあああああああ!」


 私が勝利者の名前を挙げるとメイファさんは勇ましい雄たけびを上げました。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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