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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第3章 砂漠の鉱山

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第69話 砂嵐の原因

―――メイファ 視点―――


 二日ほどかかったゴーレムの杖を作り終えたアタイはその夜、今にも閉じそうなまぶたをこじ開け、目を覚ますように頬をペチペチと叩いていく。


 時刻は真夜中、もう大体寝静まってるか今でも静かに酒を飲んでるかどちらかの時間帯だ。

 そんな時間帯にアタイは外に出ようと靴を履き、親父を起こさないように気配を殺して家を出た。


 向かっていく場所は例の砂嵐で溢れる場所だ。

 そこに持っていくのはゴーレムの杖と修理した魔道具。


 夜の砂漠は思ったより冷える。

 今までは風こそなかったから耐えれたが、今は砂嵐で風が吹いているからさすがに寒いな。


 でも、それ以上に巻き上がった砂が厄介だ。

 ま、それはずっと前からわかってたことだから外套を着てちゃんと対策もしてあるけど。


「さてと、そろそろ始め―――」


 そうしてゴーレムの杖を掲げようとした時、近くに魔法陣が設置されてるのに気づいた。

 これは......前にもあったやつだ。

 この魔法陣を設置した人物には心当たりがある。


 あの人達は良い人だった。

 だけど、これで砂嵐を消させるわけにはいかないんだ。

 その魔法陣に近づくと足でその魔法陣が機能しないように削っていく。

 そのことに罪悪感を感じながらもアタイはアタイのやるべきことに集中した。


「我が命に応じよ―――クリエイトゴーレム」


 私は杖を横に掲げ、その杖に魔力を込めていく。

 すると、その杖の先端に取り付けられた魔晶石の<ゴーレム制作>の魔法陣が発動し、砂の下からゴーレムが現れ始めた。


 杖を砂嵐へと向けるとそのゴーレムに命令する。


「ゴーレムたち、砂嵐を起動している魔法陣を回収してきて」


 すると、ゴーレム達はズシリズシリと重たい足取りで歩き始めると砂嵐を突っ切って内部に侵入、その砂嵐を発生させている魔道具を破壊してくると持ち帰ってくる。


 ふーむ、これじゃあ魔道具を回収する際の安全面は保たれるけど、メンテナンスのための回収なのに破壊されちゃ普通に高くつくぞ。


 もう少し、細かな命令に出来るように調整しないとな。

 でも、それって魔道具というより、魔法陣の問題なんだよな~。

 しかし、そこを解決しないと最終目標にはたどり着けないし。


 私はそのことに頭を悩ませながらゴーレム達が砂嵐の魔道具を持ち帰って来ると代わりに修理した魔道具を設置してくるよう命令した。


 これはタイマー式に改良してあるのでこっちがセットすれば起動するのは時間の問題。

 壊される心配もない。


「さてと、これでまた当分しのげ―――」


「やはりそういうことでしたか」


「......っ!」


 背後に突然声がしたからと振り返ってみればそこにはヨナ達の姿があった。

 見ない顔も三人ほどいるけど、恐らくヨナの仲間だろう。


 背後にこれだけの人数がいてアタイが気づかなかった!? 

 いくらなんでもそれはありえない!

 とすると、なんかの魔道具を使っていたか?


 いや、それよりもこの現場を見られたことの方がよっぽどヤバイ。

 これじゃあ、アタイがこれまで砂嵐で邪魔してたのがモロバレじゃないか!?


「こんばんは、今日は風が無くていいですね」


 アタイは警戒するように身構える。

 そんなアタイを見ながらもヨナは変わらずに話しかけてきた。


「こちら、ともに行動しているカオルさん、コウタさん、ウェンリさんです。

 実はあと二人いるんですが、今は別行動中でして。

 帰ってきたらまた紹介しますね」


 穏やかな言葉、柔らかい表情、犯人がわかりながらもすぐに問い詰めることのない姿勢、それら全てが不気味でなんだか逆に息苦しく感じてくる。


 そして、ヨナはアタイの方を真っ直ぐ見つめてくる。

 ついに聞いてくるか―――と思ったけど、それよりも先にヨナが謝って来た。


「申し訳ありません、実は先ほどの行動を<気配断ち>で気づかれにくくして盗み見てました」


 深々と頭を下げてくる姿勢になんだか拍子抜けする。

 明らかに悪いことしてるのはこっちなのに、相手の方が下手に出てきて戸惑いが隠せない。

 そのせいか変なことを口走ってしまった。


「なんで謝んだよ。悪いのはどう見てもアタイだろ?」


「いいえ、別に私はメイファさんのやり方を止めに来ただけで咎めようと思ったわけじゃありませんよ」


 は?


「言ってる意味がわからない」


「私はメイファさんが仲間想いで家族想いで優しい人物であることを知ってます」


 アタイが......優しい奴? そんなわけない!

 こんな傲慢で、仲間を助けに行こうとしない奴なんて!


「それはアタイのことが見えて無いと思うよ。

 何もわかってない。だから、アタイがどれだけ弱い奴か―――」


「メイファさんが砂嵐を作り出したのは鉱山に人を近づけさせないためですよね?」


「......誰でも思いつきそうな理由だな」


 思わず言葉に詰まりそうになったけど、なんとか言葉を捻り出した。

 しかし、ヨナはその返しに平然とし、変わらぬ穏やかな表情をしている。


「そうですね。鉱山に入った人達が戻って来ない。

 第二救助隊まで出動してその救助隊すら。

 それであなたはその鉱山には()()()()()()がいるとわかり、人を近づけないように魔道具で砂嵐を作り出した」


「......恐ろしい魔物ね」


「そして、今宵あなたは手に抱えた魔道具で砂嵐を増やそうとしていませんか?

 目的は第三救助隊の発足を中止させるため」


「っ!」


「あなたは鉱山を失うよりもそこで仲間を失うことの方が怖かった。

 ましてや、第三救助隊にはあなたの父であるロゴフさんも仲間として加わる予定になっています。

 それを私達があなたの部屋を出てロゴフさんと話している時に聞いてしまったんですよね?」


 ......確かにその通りだ。

 アタイがヨナ達と初めて話した後、親父とヨナ達の関係性が気になり、部屋を出て地上の入り口付近までやって来ていた。


 その時に聞いてしまったのだ。第三救助隊の計画がある、と。

 それを知ってからアタイはもっと砂嵐を増やして親父達の計画を阻止しようと動いた。


 あの時に驚きのあまり地上の入り口に干渉してしまったが、恐らくその気配に気づいたのはミクモとアイちゃんの獣人二人だろうな。


 何も答えなかったがアタイの反応で肯定だと思ったのか続けて言葉をかけてくる。


「さらに突然ゴーレムを突然作り出したのは、第三救助隊に代わる犠牲を出さない救助隊を作るため。

 鉱山での安全な鉱石回収もありそうですが、それは二の次でしょう」


「アタイが悪かったよ。さっきの言葉は訂正する。あんた達にはアタイが見えてる」


 私は諦めたように体に溜まった息を吐いた。

 そこまで見抜かれているならもはや返す言葉もない。

 しかし、それでもヨナは止まることはなかった。


「申し訳ありません、もう少し見えてると思います。

 それはメイファさんが作った周辺の地理を把握するあの魔道具、あれで別の鉱山を見つけ出そうとしたのではないですか?」


「......っ!」


「そして、その魔道具によってあなたは知ってしまった。鉱山の奥に魔物がいることを」


「ど、どうしてそれを......!?」


 そんなことは話してない!

 砂嵐やゴーレムは状況から把握できるとしても、あの魔道具に関しては大した会話もしてないはずだ!


「その時のメイファさんの態度もありますが、やはりあの魔道具がどういうことが出来る魔導具なのか知れたのが大きいですね。

 加えて、先ほど私はメイファさんに罠を張りました」


「罠?」


「先ほど『その鉱山に恐ろしい魔物がいる』と言いましたが、その鉱山から人が戻って来ないのは何も魔物だけではありません。

 その可能性が高いとはいえ、そう断定できるものでもないですから。

 なぜなら、その鉱山に何があったかを教えてくれる人は誰一人返って来てないのですから

 しかし、あなたはその言葉に否定することもなく、むしろ肯定するように同じ言葉を復唱しました」


「......」


「しかし、あなたはその魔道具によって鉱山に恐ろしい魔物がいるとわかってしまった。

 そのことはたまたまかもしれません。

 けれど、わかってしまった以上はこのまま放置していればさらに新たな犠牲者が増えるだけ。

 だから、あなたはより鉱山に近づけないようにしようと決めた。

 定期的にここに来ては魔道具がちゃんと動いてるか確認してたんですよね?

 村の皆さんがその鉱山を諦めるその時まで」


 私は力が抜けたように膝から崩れ落ちていく。

 そして、その場で四つん這いになると悔しくて砂を掴んだ。


「そうだよ。全てがアタイが仕組んだことさ。

 鉱山の前に砂嵐を作り出したのは全部アタイ。

 だけど、それは鉱石が枯渇して皆の生活が苦しむ姿が見たいからじゃ決してない!」


 なんだか目から涙が浮かんでくる。目元が酷く熱くなっていく。


「アタイは守りたかったんだ......皆を親父を。

 だって、誰も帰って来なかったんだぞ?

 そんな所に何度行こうと結果は同じだ。

 だったら、行かなければ犠牲は増えない」


 砂を掴んだ拳を地面に叩きつけていく。

 拳の痛みより、心の痛みの方がよっぽど痛い。


「鉱山だってその場所が豊富に取れるからってだけで、探せば少ないけれどそこより安全な場所があるかもしれない。

 もうこれ以上行ったまま帰って来ない仲間を見たくない。

 ましてや、自分の親父がそうなるだなんて考えたくもなかった」


 砂の上にポツリポツリと涙が落ちていく。

 自分がもっと強くて有能だったら鉱山の根本的な解決にも至れたかもしれない。


 そんな可能性を考えては自分の無力さを感じ、理想と現実の乖離を実感し、とても......とても苦しかった。


「別にアタイが周りからなんと言われようと構わない。

 そんな風評以上に守りたい皆がいたから。

 だけど、心のどこかでは思ってたんだ。

 根本的な解決じゃないから、いつまでこれを続ければいいんだって。

 苦しくて、辛くて悩ましくて、本当に苦しかった」


 その時、一人の足音が近づいて来る。

 その人はアタイの前にしゃがむとそっと肩に手を置いた。

 その行動に思わず顔を上げるとそこにはコウタと呼ばれる男の姿があった。


「ごめん、まだ初対面なのにね。

 でも、その気持ちがすごく共感できたから思わずここまで来てしまった。

 おいらはこの中じゃ重壁士(タンク)をやってる。

 率先して相手の攻撃を受けて防ぎ、仲間に攻撃チャンスを作る仕事だ。

 だけど、おいらはこんな図体しながらも臆病で、自分の身長の半分もの大きさの魔物一匹に背中向けて逃げ出したこともある」


 こんな熊みたいな大きさで逃げ出した?

 なんだか想像がつかないけど、表情からは嘘ついてるようには見えない。


「だけど、ある日おいらは頼りにしていた仲間がユニークの魔物に襲われるのを目の前で目撃した。

 その仲間に攻撃が向かってることがわかってたのに、防御手段もあったのにおいらは臆して動けず目の前で仲間は襲われた」


「っ!」


「幸い、仲間は命に別状はなかったけどね。

 それでもおいらはその時の自分に恥じた。

 いつまで臆してるのかって。今度は目の前で仲間が死ぬぞって。

 それからおいらは仲間を守れるように力をつけていった。

 そして、そのおかげでおいらは少しだけだけど多くのものを守れる力を手に入れた。

 だからさ、その力でおいらもメイファさんの守りたいものに助力してもいいかな?」


 その言葉にぐっと心を掴まれた気がした。

 今までずっと一人でなんとかしようとしてきた。

 鉱山に魔物がいることが伝わったら、当然その魔物を討伐しようと皆は必ず動く。


 しかし、これまでの結果からアタイには同じ結果が見えていた。

 だから、ずっとそれを自分の心に秘めたままどうにかしようとしてた。


 でも、この瞬間限界だったアタイの心が優しく温かなもので包まれていくような感覚があった。

 もういいのかな。頼っても。まだ出会って数日だけど、手を伸ばしてもいいのかな。


 そう思う頃にはアタイは無意識に手を伸ばし、コウタの腕を掴むとその大きな胸元にくっついた。


 鎧を着ていてゴツゴツしてるけど、体温なんてまるで感じないけど、それでもその瞬間が一番体が温かく感じた。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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