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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第3章 砂漠の鉱山

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第65話 阻む者

 宝物庫でお目当ての宝玉を見つけたのも束の間、すぐに蓮からエウリアが近づいているという連絡が入った。


『距離はどのくらい?』


『こちらに向かって階段を下りてきてる。

 宝物庫が空いていると気づかれるのも時間の問題だろう』


『そうか。なら、早くずらかろう。

 一応下手に痕跡残さないようにしたけど、何で勘づかれるかわからない』


『あぁ、わかった.....急に走ってくるぞ!?』


 宝物庫を出た僕はエウリアが突然素早い行動をしたという連絡に思わず振り返ってしまった。

 どうして振り返ってしまったのかわからない。


 ただ、最後に一度彼女の顔が見たかったのか、それとも聖女である彼女に恩を仇で返したことに懺悔したくなったのかそのどちらかだろう。


「誰かいるんですか?」


「「!?」」


 エウリアは階段を降りて来るや否やすぐにそう声をかけた。

 僕達の存在は<気配断ち>で空気のように薄まってるはずなのでまず気づかないはずなのに。


「聖女様、突然走り出してどうしたんです―――宝物庫が開いてる!?」


「すぐに兵を呼んできて!」


 エウリアの後を追ってきた修道女二人が宝物庫の扉が開いていることに気付き、すぐに騒ぎ立てていく。


 その声に僕達はハッとするとすぐさま脱出しようと走り出すが、次の一言で思わず足を止めてしまう。


「そこにいるのは......リツさんですか?」


『おい、勘が鋭いってレベルじゃないぞ!』


『とはいえ、魔法を使ってる感じはないし、マジでエウリアの超感覚としか説明しょうがない』


 姿が見えて無いから質問形式で声をかけてるのに、どうしてすぐにそこで僕の名前が出てくるのか。

 驚きを上回って戦慄さえする。


 振り向けばなぜか彼女しかいない。訳が分からない。

 しかし、彼女の声は怒ってる様子でもなく、酷く穏やかだった。


「もしリツさんならお伝えしなければいけないことがあります」


『律、行くぞ。ちんたらしてたら人が集まってくる』


『あぁ、わかった―――』


「帝都で槍弥廉次、化叉来杜、北谷重太様の死亡が確認されました」


『『!?』』


 その言葉に蓮も同じくして足を止めるのがわかった。

 そして、蓮の方を見ると蓮は僕に向かって首を横に振った。


『俺も初耳だ。確かに俺は化叉と戦ったが、クズとはいえ腐っても同郷だ。

 殺してはいない。それは他の二人も同じだろう』


『うん、僕もそう思ってる。

 ってことは、僕達が帝都を脱出した後に何者かによって殺されたのか......』


「私は帝都の騎士ドイル様から死者の弔いをお願いされ、その際に死亡者名簿を見せてもらいました。

 その際にその御三方の名前がありました。

 冒険者プレートの名前をそのまま写したと言っていたので、まず間違いないでしょう」


 しかも、殺された場所が帝都のままと来たか......どうやら帝都にはまだ何かあったみたいだね。

 一番考えられる可能性は刻印を与えた魔神の使途が用済みとして処理したか。


 不良グループは僕達を聖王国の罪人として濡れ衣を着せた嫌な奴らだ。

 だけど、死んでほしいとまで思ったことはない。

 その死亡原因が魔神の使途であるならば僕はそいつを許すことが出来ない。


「私はあなたが犯罪者なんて思ってません。

 どうしてここに来たのか、何をしに来たのか敢えて追及はしませんが、どうかご無理はなさりませんように」


 もはやそこにいる誰かが僕であることを確信しているように話しかけて来る。

 そして、そんな僕に彼女はただ信じてるとでも言うように両手を握り合わせ、祈りを捧げている。


 これはバレてるも同然だな。

 <気配断ち>してるのに正確に僕の存在に気付くなんて恐れ入ったよ。


 そして、僕を後押ししてくれたあの夜からずっと変わらずに、僕が良い人だと信じ続けてくれている。


 そんな彼女に罪悪感が湧いてくる。

 どうにもこの場にいすぎると必要不可欠な僕の邪気が彼女によって浄化されかねない。

 エウリア、僕は―――


『律、時間だ』


『......あぁ、そうだな』


 そして、僕は<声帯変換>の魔法陣を喉にかけると女性のような声で彼女に一言。


「彼からの伝言だ。必ず君の未来を幸せに導く。大切な人には幸せになって欲しいから」


「......っ!」


「それから君達の敵は想像以上に厄介だぞ。常識に惑わされるな」


 そして、僕は蓮とともにその場にその場を走り出した。


****


―――リューズ=コトブキ 視点


 帝都に向かってから一か月、ようやく皆の顔が少しはマシになって来た。


「どうやらだいぶ気持ちの整理がついてきたみたいね」


 ワシが勇者とその他の弟子が組み手をしているのを眺めていると横からマイラが話しかけてきた。


「なんじゃ、お主は指南しなくていいのか?」


「今はそれぞれに任せたやり方を取ってるの。それにしても、この子達の成長をどう思う?」


「そうじゃな......弟子達からの評判が悪かったとはいえ、同じ同郷が()()()死んだことが皮肉にも良い起爆剤となったのか目覚ましい成長よ」


「ま、生死に直結するような出来事を間近で触れてしまったんだもの、仕方ないわ。

 それにそれは随分と己の死から遠ざかってしまった私達にも同じことが言えるわ」


「ハハッ、強くなりすぎるってのも皮肉なもんじゃな」


 強くなるほど己が死なないと思ってくる。

 当然じゃ、相手は数十発しないとこちらを倒せないのに対し、こちらは一太刀でも浴びせれば勝てる。


 油断はしないと心掛けてると余計に自分が死ぬという事案から遠くなってくる。

 別に死にたがりじゃないから別にいいんじゃけど―――ん?


 なんじゃ、今の気配はどこか覚えがある......いや、どこかどころじゃない。

 これは! この気配は! ワシが求めて止まなかったあの少年の気配!


「ククク、どうしてこんな所にとは野暮なことは聞かぬ」


「リューズ? どうしたの?」


 マイラがワシの様子の変化に戸惑っておる。

 ということはじゃ、あの少年はもはや最強の魔術士ともいわれるマイラに気付かせないほどの魔法練度であるということ。


 そして、それほどの魔法を使うということは異様なほどに洗練された豪魔。

 あぁ、是非とも戦ってみたい。


 ワシは左手の親指で鍔を押し上げ、両足を広げ、腰を深く落とした。

 それと同時に魔力を一気に放出した。


 その瞬間、その気配に当てられた者達が一瞬にして体を固めていくのがわかる。

 もしそれで動けないようじゃがっかりじゃが―――やはりお主は違うよな!


 姿は見えない。

 しかし、正面の通路の屋根に二つの気配がある。

 ワシの魔力に当てられても慄かぬ存在が。


 そして、その一つの気配があの街でたまたま見かけた少年のそれじゃ。

 あぁ、待ち遠しかった相手がこんな形で会えるとは......この運命に感謝せんとな!


「名乗らずに斬りかからせてもらう! 一刀流・豪剣技―――封魔・空裂撃」


 ワシは一気に踏み出すと同時にその少年に向かって一気に抜刀した。

 その斬撃は真っ直ぐ二人に飛んでいき、それを避けようと二つの気配がその場を跳躍していく。

 さて、一つ目の仕掛けじゃ。


「「!?」」


 その瞬間、今まで見えなかった二人の姿が露わになった。

 これはワシの剣技に込めた<封魔>という力で相手の魔法・術式を切り払ったのじゃ。

 大方<気配断ち>で姿を見えづらくさせてたのじゃろう。

 ま、ワシには無駄じゃったがな。


 それにしても、蜘蛛の仮面の少年と狐の仮面の少年。

 せっかく姿が見れたのに顔隠してるとは......焦らす出ない、もどかしくなるではないか。

 仕方ない、そのための二つ目の仕掛けじゃ。


 ワシの放った斬撃は少年の前で止まるとそこに球状の斬撃空間を作り出し、さらにそこに二人を引き寄せていく。


 これは帝都でもやった敵を一掃するためのワシだけが作り出せる特殊領域。

 さて、正直この攻撃を初見でやるなど相手にとっては初見殺しとも等しいが―――


「ハハッ!」


 狐の少年は空中で吸引範囲外となるように蜘蛛の少年を蹴り飛ばすと両手を合わせて、そこから刀を出しおった。


 刀......ということは同胞の者か?

 いや、確か召喚された弟子達も刀のことを知っていたようじゃったし、確か抜け出した少年達がいると言っていたがもしやその連中の誰かか?


 それにあの刀を一体どうやって出したのじゃ? 特殊な魔法か? それとも錬金術の類か?

 あぁ、ようやく会えてもなお多くの謎を抱えてるなど、まるでワシを惹きつけて離さないようにしてるではないか!


 感じる、感じるぞ! この確かな胸の高まりを! この体が火照手もなお求めて止まない欲望を!


――――キンキンキンキンッ!


「クククッ、そう来なくては!」


 狐の少年は一度吸い込まれれば初見殺しとしか言いようのない全方位の剣戟を空中で全て捌きおった。

 だ、ダメじゃ。もう疼いてやまない! もっと戦おうぞ!


 そう思ったその時、ふと近くの高台から気配を感じた。

 そこにいるのはハイエルで、奴は何かを詠唱して魔法を唱えている。まさか......!


「ま、待て!」


 そう言うもハイエルは不可視の弓を少年に向かって放った。

 それに対し、少年は気付いていない様子で、ワシは思わずこの一時が終わってしまうような感じがして苦しくなった。


 しかし、ハイエルの弓が放たれた直後ではさすがのワシでも間に合わない。

 加えて、少年は未だ空中でその場で弓の速度に合わせて動くのは難しいじゃろ。

 ましてや、見えないのじゃから。


 じゃが、その数秒後、狐の少年は動かなかったではなく、動く必要がなかったと知る。

 それは少年に当たる直前でその矢が謎の魔力の壁に止められたからじゃ。

 そして、少年はもとの位置に戻ったので、ワシは興奮した様子で話しかけた。


「ワシはリューズ・コトブキと言う。好きな茶菓子は柏餅で、一刀流の―――」


「リューズ、落ち着きなさい」


 マイラに止められ、弟子達からも怪訝な目で見られさすがのワシも少し恥ずかしい。


「それで彼が例の人物で間違いない?」


「あぁ、そうじゃ。ワシが散々言ってきた少年よ」


「確かに異様な魔力量ね。アカネちゃんの魔力量を優に超えてるわ」


 ワシは一歩前に出ると心を落ち着け声をかけた。


「少年よ、お主がどうしてここを訪れたのかは興味ない。どうかワシと一戦してくれんか?」


 ワシの言葉に弟子達が「そこは興味持ちましょうよ!」と突っ込んでくるが、うるさい! ワシはあの少年と戦いたいのじゃ!


「そんなことをするメリットがない。さっさと消えさせてもらう」


「ま、そうよね。って、逃がすわけ―――リューズ!?」


 やや低い声でそう言った狐の少年がその場から逃げようとする。

 それを阻止しようとマイラが魔法を仕掛けるが、その前にワシの体は自分の意識よりも先に行動していた。


 きっとこれまでの数々の戦いの中で一番高揚し、そして体がキレてるといっても過言じゃないだろう。

 それほどまでに自然体でありながら素早く力強く刀を振りかざす。


「かっ!」


 しかし、その刀がワシの間合いに入る前に少年が手をかざしたその瞬間、腹部に強烈な一撃を貰ってそのまま元の場所に押し返されていく。


 な、なんじゃ今のは!?

 魔力を使った気配はあったのに、まるで魔法が放たれたような感じがしなかった。

 しかし、腹部には魔力を感じる。わけがわからない。

 そして、地面に叩きつけられた。

 そこにマイラが駆け寄ってくる。


「リューズ、大丈夫!?」


「ククク、あはははは! あぁ、最高に愉快な気分じゃ!

 久々に思いっきり地面に背中をつけた!

 こんなのはいつぶりだろうか!

 あぁ、この胸の高まりが止まらぬ!」


「はぁ、あなたね~」


 マイラが呆れたようにため息を吐いた。

 しかし、ワシにとってはそんなことどうでもよく、きっとどこかで聞いてるだろう狐の少年に向かって言葉をかけた。


「またどこかで会おうぞ! 今度は絶対に逃さぬから覚悟しておけ! あははははは!」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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― 新着の感想 ―
[一言] うわー。リューズとやらがすごいキモい人してる。 一気に限界値超えてきた。
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