第64話 スニーキング・ミッション
「―――というわけで、これから聖王国に行くことになります」
「聖王国か......少し面倒だな」
ドイルさんから情報を尋ねた後、僕達は帝国を出て近くの森で野宿していた。
その際、集めた情報を伝えると蓮の第一声がそれだった。
「まぁ、あの国では僕達は大犯罪者だしな~」
「ヨナから聞いた感じじゃあの不良グループによって嵌められた感じだけどな」
「だけど、その嘘がちゃんと訂正されてる保証はないし、結果としてだけど嘘から出た誠って感じになっちゃったし。だったら、初めっから犯罪者としてコソコソ動いた方がいいかなと」
「それじゃあ、あいつらには会っていかないのか?」
「会っても今の僕達の行いをどう説明しろって言うんだよ。
それに僕達には別の目的が見つかってしまった以上そこで長居はできないしね」
「ま、そうだな。とはいえ、いざ近くに行ってみると考えが変わるかもしれないぞ?」
そう言いながら蓮はまるで見透かしたようにこっちを見てくる。
うっ、なんかその顔ウザいな。
「どうしてそこまで会わせたがるんだよ」
「お前には二人の幼馴染がいたはずだ。
どうせお前のことだから抜け出す時に何も言ってないんだろ?
だから、今更ながら何か伝えておくべきことがあるんじゃないかって。単なるお節介さ」
「別にないよ。もうとっくに離れる準備は出来てたんだから」
「......」
「それよりも、僕はエウリアに会わないよう祈りで精一杯だよ。
今の僕じゃ後押ししてくれた彼女に顔向けできない」
「......なるほど、お前の心配はそっちだったか。
ま、そっちはなんとなかるんじゃないか? 知らんけど」
「おい、突然適当なこと言いおって。そうならなかったら呪うぞ」
そんな多少の雑談を交えながらその日は体を休めると翌日から聖王国に向かって走り始めた。
そこからはかなり頑張っていったがざっと六日ほどかかってしまった。
これはドワルゴフに戻るまでかなり時間がかかりそうだな。
特にアイに怒られそう。
そんな心配をしながら、聖王国に辿り着いた僕達は城壁の上の一角から聖王国を眺めていた。
「夜だからわかりずらいが、やはり見ていて懐かしい気持ちになるな」
「そうだね。僕達は不遇な役職だったかもしれないけど、この街の人達はそんな僕達に優しくしてくれた。守るべき人達だと思うよ」
全体的に暗く見えるが家々の明かりが見えたり、料亭の入り口から漏れ出た光があったりするのでそれらが前と変わらず平和な日常を過ごしていることに少しだけ安堵する。
しかし同時に、僕達はもうこの環境に足を踏み入れてはならないような感じがした。
聖王国という光を放つこの場所が今の僕達には酷く心をざわつかせるのだ。
「さて、感傷に浸るのもこの辺にして。
聖王国にはどうやって侵入する?
そもそも宝物庫なんてどこにある?」
「宝物庫の場所に関しては安心してよ。
こういうとエウリアに申し訳ないけど、彼女の手伝いのおかげでその宝物庫のある場所はわかるから。
それで侵入に関しては裏口からで、時間帯は昼間の方がいいと思う」
「昼間? どうしてわざわざ姿が目立つような時間帯に。
<気配断ち>の魔法陣は他者からの自身の存在認識をあやふやにさせるだけで、光に照らされればしっかりと影は出るんだぞ?」
「そうなんだけど、この国は帝国と違って夜の警備がちょっと面倒なんだ。
人の数が昼間よりも多いのはいいんだけど、それに加えて数多の警報センサーが張り巡らされてる。
もちろん、結界もね」
「それは昼間も変わらないんじゃないのか?」
「いや、昼間は人の往来がそれなりにある以上、センサーが誤報しないように人員を増やすだけで切ってあるんだ」
「それも聖女から聞いたのか」
「うん、まぁ......」
「ふっ、お前は存外天然ジゴロのようだな」
待って、それはどういう意味?
「んじゃ、昼間まで待つとするか。
どうせ宝物庫には魔法陣でカギがしてあるだろうし、解除までの足止めは任せておけ」
「ちょい、まだ話は終わってないぞ!
僕が天然ジゴロであるという理由を二百五十文字以内に教えろ!」
―――翌日
僕は懐中時計を手に持ちながら作戦開始時刻を待っていた。
「そういえば、なぜ開始時刻を十二時にせずに、五分前にしたんだ?」
「交代時間だからだよ」
「交代時間? そこを狙ったら交代する前の兵士と交代する兵士の両方がいることになるだろ?」
「あー、昨日の説明に少し足りない部分があったみたいだね。
補足しておくと、人の往来が多くなるから警報センサーは止まってると言ったけど、それはあくまで人の往来が増える場所だけなんだ。
宝物庫とかそもそも人を寄り付かせなさそうな場所は例外。
だけど、ある一瞬だけその警報センサーが止まる時がある」
「それが交代時間ってわけか。
なるほど、その五分のうちにこの時間帯だから止まってる警報センサーの場所を狙って進み、交代時間のタイミングで兵士を強襲してその場を安全地帯にするわけか」
「そゆこと。付け加えれば、夜間は宝物庫前での兵士の交代がないみたいだからね―――っと時間だ。行くよ」
時刻になると懐中時計をポーチに仕舞、<気配断ち>の魔法をかけてかつて僕達が王国を抜け出した時に使った裏口から城の中へ侵入した。
廊下を走りながら人の気配がした時は慎重にその横を通り抜けていく。
その際、一番気を付けなければいけないのか影の向きだ。
昼間である以上、影が出るわけでこの魔法の唯一との欠点とも言える。
しかし、それも注意さえしてしまえば容易には気づかれない。
後は近過ぎないことかな。
僕は<念話>で蓮に知っている情報を共有していく。
『宝物庫は地下だ。だけど、そこの通路は近くの教会との荷物運搬ルートとして繋がってる』
『ということは、お前は聖女に遭遇する可能性が高いってわけか」
『うんまぁ、そうなるよね』
ここに来ての最大の懸念は実の所エウリアである。
彼女は勘が鋭いというか周囲の気配に敏感というかすぐに周りの変化に気付くのである。
それは聖女として多くの民を見てきた彼女の職業病ともいうべきもので、そればかりが今の僕の心中を不安にさせている。
一階部分には中央に聖王国を作った最初の王様らしき銅像があり、その両脇には二階へ続くように二つの大きな階段が伸びている。
そして、宝物庫がある地下への行き方に一番近いのが、その銅像の後ろ側にある魔力視でしかわからない隠しボタンを押すと出てくる隠し階段。
『おい、どう考えてもお前が知ってるのおかしいだろ』
『実は言うと、これもエウリアが雑談の際に教えてくれたことなんだ』
『なんかお前相手だと機密漏らし過ぎじゃないか? あの聖女』
『聞いてた当時は聞いていいものかと悩んだね。
でも、なんか楽しそうに話す彼女を止めるのも忍びなくてさ。
そしたら、まさかこんな形で役に立つとは思わなかったけど』
『そうみたいだな。現在進行形でその恩を仇で返すような真似してるけど』
『ぐっ、言わないで。心が痛い......』
とはいえ、今更ながらどうしてエウリアはそこまでのことを話してくれたのだろうか。
まぁ、唯一対等に話せる相手が僕ぐらいだったこともあるかもしれないけど。
いや、それにしても......なんでだろ。
『お前って案外色仕掛け向いてるのか?』
『なんか失礼なことを言おうとしてるのはわかるぞ』
周りの気配に注意しながら階段を下りてくると一番下にやって来た。
そこは壁であるが案の定魔力視でしか見えない開閉ボタンがある。
『時間は大丈夫か?』
『うん、順調。後はここから一気に宝物庫へ向かうだけ。
ちなみに、ここ開けたら正面のちょっとした広場がそうだから』
『ここって宝物庫の目の前だったのか......』
僕は壁に手を当て<魔力感知>で周囲の人気を確認していくと宝物庫前で待機している二人の兵士とそこへ交代でやってきた二人の兵士がいることを確認した。
『行くよ』
『あぁ』
僕は壁を開けると一気にその兵士を強襲、その場で気絶させていく。
『さてと、ちょっと時間かかるから周囲の警戒よろしく』
『任せろ』
僕は宝物庫の丸い扉に手を当てるとそこにある魔力の型、配置、核などを調べていく。
うん、この魔力は基本的に使われる結界の魔法陣にアレンジが加えられてるものだね。
既存というよりはオリジナルに近いね、それは。
構成魔法陣は条件結界魔法陣の型に<警報>の魔法陣と<拘束>の魔法陣が組み合わされている。
配置は五芒星で、そのそれぞれの頂点に魔法陣の構成核となる魔法陣があり、その中心にも一つ魔法陣がある。
構成術式の主な部分は「我、強固なる守護壁にして何人の侵入も許さず。誓いの血脈、犯されざる神の巫女のみその効力を無効とす。それ以外の如何なるものには罰を与えん」か。
「誓いの血脈」の部分は王族で、「神の巫女」は聖女ということだろうな。それ以外が無理にこじ開けようとしても罠が発動するだけ。
その罠が<警報>と<拘束>だけだったら良かったけど、よく見るとガチガチに殺傷能力が高い魔法陣も組み合わされてる。
恐らく、ちょっと魔法陣に詳しい奴が調子に乗って目立っている<警報>と<拘束>の魔法陣だけを解除したなら起こる罠だろうな。
うん、用意周到に敵を排除する罠だね。
だけど、残念ながら僕の場合専門だから齧った程度じゃないんだよね。
ましてや、この魔法陣こそが僕の最大の攻撃手段でもあり、防御手段でもあるわけで。
ま、魔法陣に関しては魔力さえあれば他の人にも使えるんだけど。
「<解析>の魔法陣を瞳に転写出来ればもう少し早く解除出来たかな。
次はもう少し難しい魔法陣も転写出来るように覚えないと」
暗記は苦手なんだけど、全てにおいて魔法陣は基本暗記だからな~。泣ける。
そんなこんなで僕はその宝物庫のカギとも言える魔法陣を解除するとその中に侵入していく。
「わぁ~、正しく宝物庫だ」
そう言葉に出てしまう程のキラキラした財宝の山。
<鑑定>して詳しく見たわけじゃないけど、明らかに質の良さそうなものが至る所に見える。
別に光が入ってないのにやたらキラキラしてるな。
とはいえ、今回の目的はその中でも手のひらサイズの宝玉である。
それをこの山から見つけ出すのは面倒―――かと思いきや、実はそんなことはない。
僕が持ってるこの金属の棒。これは宝玉と反応する。
ということは、これを出して光ったものがお目当てのものなのだ。
ん、やっぱり一部が光を放ってるな。
そこを掘ってみると淡いオレンジ色をした宝玉を見つけた。うん、これだ。
その時、蓮から連絡が入った。
『律、お前にはどうやら深い縁がありそうだな』
『え、それってまさか......』
『あぁ、聖女が近くに来てる』
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




