第59話 新たな拠点
“どこまで関わるべきか”、この質問に対して最初に意見を述べたのは蓮であった。
「どこまで関わるかって......今更関わらないことなんて出来るのか?」
「まぁ、出来ないだろうね。いずれはなんらかの形でバレるような気がする。
だけど、それはこっちがどれくらい積極的に関わっていくかでそれまでの時間が変わる気がするんだ」
現時点ではまだ僕達がこれまでの刻印持ちの人物達を倒してきた......という証拠はないはず。
それにしても魔神かぁ。RPGで言えばエンドコンテンツの裏ボスみたいな存在が黒幕だったとは思いもしなかった。
「リツさんの考えがなんとなく読めました。
私達が助けていく人々がそのような人物であった場合は倒すことも視野に含めるけれど、大元になる原因は積極的に倒しにいかないということですね?」
「え、原因を放置しておくのか?」
康太がヨナの言葉に対して僕を見てくる。
その意見に答えたのは話を聞いていたウェンリだった。
「放置は少し嫌な言い方だと思うわ。この場合は専門家に任せるっていうべきね」
「専門家......それって勇者、あいつらのことを言ってるのか?」
そう聞いてくる蓮の言葉に僕は頷き、答えていく。
「正直、あまり良い考えじゃないことはわかってる。
でも、彼らは自ずとこの道にやってくるだろう。
その時にはすでに僕達の存在も伝わってるはずだ。
そうなれば、味方として扱ってくれるか怪しい」
「そ、それはさすがに考えすぎじゃないの? だって、僕達は同じ場所から来たんだよ?」
「温情で僕達の罪をどれだけ認めてくれるかな?
きっと帝国の崩壊は知られている。その直接的な原因に僕達が関わっているとすれば、僕達は国家転覆、いやそれ以上に国を崩壊させた罪人として捉えられるに違いない」
きっと朱音や拳矢のような正義感を持った連中には目が点になるほどの衝撃的な話になるだろう。
国を崩壊させるまでにいたる人物の人間性など僕でも信用に値しない。
その時、静かに話しを聞いていたミクモさんが突然笑い始めた。
「ふふっ、ほんまにアホらしい話し合いね。
リーダーはんがぎょうさんのなんかを語ろうと結局あんたの中ではすでにやるべきこと決まってるんやろう?」
その言葉に全員が僕を見る。あぁ、ミクモさんにはやはり見透かされてたかぁ。
「最初から人助けを方針として掲げとったあんたが遅かれ早かれ関わることになるやろう勇者達を助けへんはずがあらへん。
とりわけ、その相手が自分と同郷の相手となったら」
「.......」
「不毛な話し合いもここまでや。
リーダーならリーダーらしゅう自分の考えを伝えんねん。
ウチらが今更その言葉を受け止められへんと?」
はぁ、これまた厄介な相手が味方になった気がする。これは薫も大変だな。
「なら、言わせてもらう。僕は勇者達を助けたいと思ってる。
確かに、今でも人族は勝手に助かればいいと思ってる節もあるけど、勇者達は違う。
でも、僕達には僕達の立場がある以上、積極的には関われない。
だから、それとなく伝えられればそれが一番良い」
「あ、わかった。いわゆるRPGに出てくる謎の人物ポジションね。
敵かも味方かもわからないけど主人公に妙な助言を残していくような」
やめて、康太。急にそんな的確な言葉で指摘されると恥ずかしくなってくるから。
「ま、まぁ、あくまであいつらに接触する機会があればの話だから。
それに現時点では相手の全容が見えないからその考えでいるけど、先に本当に倒すべき相手が見えたなら僕達が先に倒す。
あいつらに大切な人との死別を見せたくないからね」
「ふふっ、本当に無駄な会議だったわね。
要は自分が勇者も助けたいので、力を貸してくださいってだけなのに」
「そ、それを直接的に言うにはどうにもこう......言いづらくて」
「リツさんって妙なプライドを抱えてますね」
「お兄ちゃん、可愛いの!」
やめて! これ以上僕を辱めないで!
妙に温かい目をしながらニヤニヤした口で見て来ないで!
そして僕達はしばらくの間、この村の開拓作業に勤めた。
康太は建築作業、蓮は衣服の制作、薫は畑仕事、ヨナは医者として。
ミクモさんは主婦層に何か講義していた。
聞けば男を上手く立たせるレクチャーらしい。
なんか聞いてはいけないことを聞いた気がする。
ウェンリとアイは森にいる魔物を狩りに行った。
その際、暇を持て余したガレオスさんがアイを妹と重ねているのかその二人の付き添いとしてついていったのだ。
まぁ、あのタイプからして急に襲うことはないだろうけど、やはり少し心配である。
そして、僕はというとこの広大な土地の周りにある木々に魔物避けの結界とまた道案内に使った魔道具と組み合わせて特殊な魔法陣を設置している。
この魔法陣は僕にしか設置できないものなので手伝える人がいないのが難点。
こんな広い土地の木々にちまちまと魔法陣の設置作業をしてるのは昔やってたマイ〇ラを彷彿とさせる。
にしても、この土地はやっぱり本当に広い。
ほとんどはまっさらな土地であるけど、地面をよく見れば妙な瓦礫が埋まっていたり、それが一部飛び出ている。
材質的に加工されたレンガでレンガ造りの家の壁にありそうな感じだ。
やはりもしかしてこの場所には昔街みたいなのがあったのか?
まぁ、そんなことを気にしても意味はないし、ここが使えるんだったらありがたく使わせてもらうけど。
そんな数週間が過ぎるとこの殺風景な土地には次第にたくさんの民家が増えていった。
さらには畑や僕の水魔法陣による水路も出来上がり、すっかりと田舎村っぽくなってきた。
住民が全員が家を持つ頃にはこの村にはのどかな雰囲気と自然な笑みが溢れ始め、魔神の使途であるガレオスはすっかりその村の住人である。
「ハハッ、美味めぇな! やるな、お前」
「お前じゃなくてセナよ!」
「なんだ? またそっちか、つーかそっちしか見たことねぇんだけど」
「なら、その見ただけで人を殺しそうな目を止めなさい」
「生まれつきだからしょうがねぇ」
「というか、あんたは馴染み過ぎよ」
なぜか全員で食事を囲っているがもう誰もガレオスさんを警戒してる様子はない。
恐らく、全員がガレオスさんという人間性を測り終えたのだろう。
アイすらも警戒してないのがいい証拠である。
というか、ガレオスさんに甘やかされてるんだが。
「で、お前らはいつ頃に出発するつもりなんだ?」
「う~ん、この村の発展もある程度済んだし、僕の作業も一段落済んだからそろそろかな」
「となると、ここから近いのは......ドワーフの国か」
「ドワルゴフってやっぱり住んでいる種族はドワーフなのか?」
蓮の質問にガレオスは口に含んでいたものを喉に押し込むと答えていく。
まぁ、国名的に僕もそんな感じしてたけど。
「あぁ、あそこは作ることにおいては一番の国だ。
俺も昔武器を作ってもらったことがある。
お前らも武器はそこで作ってもらうといい。
恐らく一生もんになるはずだ」
そこまでガレオスさんが推すとなると相当なものだな。
あ、そうだ、確かその国に行く目的は僕が持っている遺跡での報酬と獣王国の王様から貰った宝玉を調べてもらうんだったな。
ずっと忘れてたけどそれについてガレオスさんに聞いてみるの忘れてた。
そして、<収納>の魔法陣が付与されたポケットから金の棒と黄色がかった宝玉をガレオスさんに見せてみた。
「ガレオスさん、これって何か知ってる?」
「あぁ? なんだ―――そ、そいつは!?」
その瞬間、ガレオスさんの表情が明らかに変わった。
驚いているというか焦っているというか。
そして、すぐさま問い詰めてくる。
「どうしてお前がこれを持っている?」
「この棒の方は聖王国の北の方にあった大森林の奥地に遺跡があってその最下層で手に入れたもので、この宝玉は王様から貰ったんだ」
「遺跡.....“勇気の神殿”か。まさかそこの最下層まで行くとはな」
勇気の神殿? あのコケまみれの神殿にまさかそのような名前があったなんて。
「悪いことは言わない。それをもう俺以外の奴に見せるな」
「これは一体なに?」
「それは......言えない。だが、それらは一つの魔道具のほんの欠片に過ぎねぇ。
それを完全に一つに直すにはまだまだ欠片を集めないといけねぇが、そこまで来た時にはもう俺達とは敵同士だ」
「まさか、それが魔神と何か関係があるの?」
セナの言葉にガレオスは静かに頷いて答えた。
「大ありだ。むしろ、それがないとどうにも出来ねぇ。
だが、それを持ち続けるということは俺達に対して敵対意識があるという証明でもある。
当然、魔神の意思によっては俺もお前らを殺すことになるだろう」
この宝玉と棒について今まで何の疑問に思わず持ち続けていた。
なんとなく複数集めて一つの何かになる気がしてたけど、まさかそれが魔神に対する直接的な敵対行為に繋がっていたなんて。
だけど、これはむしろ僕達にとっては思わぬ収穫とも言えよう。
魔神を倒すという目標が新たに増えた以上、いずれは魔神に関する情報を集めようと思ってたから。
「それでも、教えてくれ。この残りの場所はどこで手に入るか」
「そうだな。宝玉は各種族が一つずつ持っていて、神殿は残り三つある。
場所は海王国、竜王国、そしてドワルゴフには力の神殿がある。
恐らくその神殿でその棒と似たような色したものが手に入るはずだ」
「......わかった。教えてくれてありがとう」
「全くだ。最悪、お前を殺さないといけねぇと思うと少しばかり思う所があるからな」
そう言ってガレオスはその場を立ち上がるとどこかへ歩いて行ってしまった。
その時、ふとセナが何かを考えているような顔をしている。
「どうした?」
「あ、その、なんていうか......」
「?」
「鬼人国の宝玉はどこにあるのかと思って。だって、私の国はクーデターによって滅びたし」
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