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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第3章 砂漠の鉱山

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第57話 刻印の獣人

「見たことない集団がぞろぞろと。俺も名乗ったんだからそっちも名乗れよ」


 そう言う豹の獣人のガレオスは野性味を帯びた鋭い目つきでこちらを見てくる。

 見た目の威圧があるだけでこちらに敵意がある様子はない。


 しかし、それでも僕達が警戒しなければいけないのは、その男の左胸に見える刻印が形は若干違うけど帝国であったものと同じであったからだ。


「律、どうする?」


「相手に敵意がない以上こちらも出す必要はない。

 それにあの人はこれまでの相手と比べものにならないほど強い。

 守るものが多すぎるこっちが不利なのは明らかだ」


「交渉はお前が行くと?」


「そういうの得意じゃないから自信ないけどね。いざって時は頼む」


「わかった」


 蓮に指示を出すと僕は集団を代表するように前に進んでいき名乗った。


「僕は仲居律......リツとでも覚えてくれればいいです」


「ほう、リツか。敬語はいい。話しずらいからな。

 それで? こんな所に何しに来たんだ?

 俺は獣王国の王に許可取ってこっちにいるんだが?」


「それはわかって......る。

 ただその一部を村人達(かれら)に譲ってくれないか?

 彼らには住むところがない。損場所を提供して欲しい」


「いいぜ。こんなだだっ広い場所だ。

 誰が何をしようが俺は俺の邪魔しなければ別に関係ねぇ。

 それに多少この殺風景な空間にも彩が増えるかもしれないしな」


 思ったよりもフランクに許可を貰えてしまった。

 確かに王様が言っていた通り見た目に惑わされなければ十分に話が出来る相手である。


「さて、これでお前の要件も済んだだろう。だったら、次はこっちの番だ」


「次......?」


「あたりめぇよ。交渉っての本来互いの利を得るためのやり取りなはずだろ?

 お前はお前の利を俺に提示し、それを俺が許可した。

 なら次は俺が利を得る番ってわけだ。

 ま、時には単なるお人好しもいるがそいつは例外だ」


 まぁ、それぐらいなら確かに当然か。

 相手も相手の考えあってこんな場所にいる。

 そこに突然現れたのは僕達の方だ。

 なら、相手の条件を飲むのもまた当然だろう。


「俺の条件はただ一つ―――お前、俺と一戦しろ」


「......!?」


「別に殺し合いを要求してるわけじゃねぇ。

 ただなんつーか、お前と話してると随分と()()()()()()になるんだ。

 その理由を知りてぇし、何よりお前と戦ってみてぇ。

 どうだ? この条件を飲むならこの場所を譲ってやるよ」


 相手の目は本気だ。

 いや、最初から冗談なんて言うタイプには見えないから余計に質が悪いというべきか。


 これまでの話でガレオスは理知的で野生的な人間だと直感した。

 まるで戦うために生まれたような人物。

 強い。それは見た時からわかってたけど、相手の言葉からその評価がさらに跳ね上がった。


 殺し合いをする気はないとあいつは言っていた。

 そこに嘘はないだろう。

 ただ最悪五体満足で済むかはわからない。


「リツさん、止めておきましょう。ここは引くべきです」


「おいらもそう思う。戦っていい相手じゃない」


 ヨナと康太の意見もわかる。ただ、ごめん。

 相手の言葉の中で僕も一つだけ同意する部分があったんだ。

 それを僕も確かめたいんだ。


 僕は二人の意見を無視するとガレオスに返答した。


「奇遇だね。僕もなぜか()()()()()()()()()()になるんだ。

 顔もなにも知らない相手だっていうのにね」


「そうか。そいつは確かに奇遇だ。なら、戦ってわかることもあるかもしれねぇぜ?」


「それじゃあ、僕が勝ったら条件を飲んでもらうよ」


「ステゴロか。いいぜ、俺が勝っても譲ってやるよ。俺の条件は今この瞬間なんだからな」


 そう言うとガレオスは指をクイッと動かして挑発してくる。まるで先手は譲ってやるという風に。


「それじゃあ、行くよ」


 そう一声かけると地面を蹴った。そして、素早く相手の懐に接近していく。

 相手との距離は数メートルはあったはずなのに一瞬でこんなにも接近できるほど速くなったみたいだ。


 ガレオスは挑発した様子のまま動かない。

 まるでこちらに反応できていないように。

 だったら、そのがら空きの腹部を殴らせてもらうよ!


「らぁっ!」


 腹部に右ストレートを叩きこむと同時に<衝撃>の魔法陣を転写して二重の多段衝撃を与えていく。


「がっ」


 それをまともに受けたガレオスは体をくの字にしながら吹き飛んでいくも両足は地面から全く離れない。

 地面に引きずった足跡を残しながら数メートル後ろに下がるだけで止まった。


「思ったより効くな」


 そういう割にはケロッとしている。

 その何が一番ヒヤッとするかって刻印が微塵も反応してないことだ。


 これまでの相手は刻印を光らせることでその防御力を高めていたはずだ。

 それを一切使わずに、それも僕の八割ぐらいの拳を受けて平然としてるなんて......これでもこの拳、康太の防御力を上回るレベルなんだけど。


「んじゃ、次俺な」


「......!」


 その言葉を聞いた瞬間には、目の前を暗闇が襲った。

 いや、そう感じるほどに避けようのない掌が眼前を覆っていたのだ。


「がっ!」


 ガレオスがやったのはただのはり手のような攻撃だ。

 だけど、それを顔面に受けた瞬間、天地が逆転するかのように浮遊感に襲われた。


 恐らく踏ん張っていた両足が頭が下がったことで浮き上がったのだろう。

 そう思考出来るほどにはその一撃が死期が近いときに見るようなスローの世界を作り出すほど重かった。


 そして、僕は後頭部から地面に突っ込んでいく。

 その地面はその叩きつけらた勢いに耐え切れなかったように僅かに凹んだ。


 速すぎて相手の攻撃が微塵も見えない。

 でも、反射的に相手の攻撃か所を理解していたように頭部に魔力を集中していたおかげで助かった。

 でなければ、ワンチャンぺしゃんこだ。


 僕は素早く横に転がって距離を取っていくとすぐに立ち上がった。


「お、今の俺もつい強めにやっちまったと思ったが耐えるのか。やるなぁ!」


 随分と嬉しそうに言ってくれるじゃんか!

 僕はすぐに拳をラッシュしていた。

 しかし、それらの攻撃は全て避けられ、いなされ、跳ね除けられる。


 そして、相手が放つ一発一発が重い攻撃のほとんどを僕は受けていく。

 拳の挙動がもはやブレて対応しきれない。


 だけど、相手が気付いていない。

 僕は初めからステゴロで挑む気はないと。

 相手が強いとわかっていながら相手の土俵に踏み込むはずがないだろ!


「がっ!」


 防ぎまくっていたガレオスの頭が上を向いた。

 僕の<衝撃>の魔法陣でアッパーカットされたのだ。

 しかし、相手は僕が何をしたかわかってない様子だ。


「今の一発は見えなかった。拳による攻撃じゃねぇな。何をした?」


 くっ、冷静に聞き返すな。もう少し動揺してくれよ。

 あんたみたいなタイプは理解せずに戦いを楽しむタイプだろ。


「これぐらいしないと同じ土俵に立てないんでね。不思議な感覚を楽しんでくれ」


「ハハッ、そうか。本当にお前と戦ってると懐かしい気分になってるな!」


 ガレオスのラッシュの勢いが強くなってきた。

 こいつ、さっきから顔面や頬、わき腹に僕の<衝撃>の魔法陣をゼロ距離で受けてるはずなのに微動だにしない!


 加えて、そこまでやっておいて刻印が光る気配すらない。

 まさかこれまでの全ての攻撃を生身で受け切ったってのか!


「くっ!」


 ついに僕の両拳が弾かれた。正面はがら空き。

 明らかに攻撃速度の速いガレオスの攻撃が届くのは明らか。

 なら、秘策その二―――新技<空間固定>!


 僕は弾かれた拳をそのまま正面に伸ばしていく。

 そして、ガレオスの両手首に魔法陣を転写した。


 この魔法陣は新技なんて言ってはいるけど、ぶっちゃけ新技でもなんでもなく解読中のとある魔法陣の副産物というべきか、その途中経過でたまたま起きてしまうものというべきか。


 つまるところ完成形ではない魔法陣を無理やり使って出来たバグを利用したものである。


 そのバグというものは空間に干渉する際に座標が相手の動きに合わせて変異せず、そのまま固定座標として登録されてしまうこと。


 今までのゼロ距離転写魔法陣はそれまでのプロセスをクリアしてきた。

 しかし、複雑な魔法陣でそれを構築しようとするほど難易度が跳ね上がり、このようにバグが出てしまうのだ。


 だけど、普段は忌々しいこのバグが今回だけは僕を味方してくれる。


「なっ!」


 ガレオスは一瞬だけ自身の両手が何もない空間に固定されたことに戸惑った。

 それは一秒にも満たない僅かな時間であっただろう。

 だけど、その刹那の時間さえあればこの一撃ぐらいは先に早く攻撃が届く!


 僕は素早く拳を握り、右腕を大きく引きながら、左足に重心をかけるように踏み込んでいく。


「んらぁっ!」


「ごはっ!」


 そして、そのままガレオスの体を浮かせるほどのボディーブローを食らわせた。

 その拳はみぞおちに深く刺さっていき、攻撃に吹き飛ばされたガレオスは地面に叩きつけられ寝転んだ。


「地面に背をつけた。俺の負けだ。ハハハッ! 久々に負けたな!」


「よく言うよ......」


 そんな元気そうな声で敗北宣言されても素直に喜べない。

 こっちボロボロなんですけど。勝った方が負けた方より重症なんですけど。


 僕もさすがにダメージを負い過ぎたのかふらふらだ。

 そして、そのまま地面に座り込んでいく。


「いや~、結局ハッキリしたことはわからなかったが......最後の瞬間、俺の手首には不自然な魔法陣がくっついてるのがわかった。

 恐らく今までの攻撃......いや、最初の一発目からそれ使ってたろ?」


 本当に勘が鋭いな。それに確信を持ったような目で見てくる。

 ハァ、どの道バレてるなら隠しても意味がないか。


「言ったはずだよ。これでもしなきゃ同じ土俵に立てないって。

 そもそも殺し合いはなしなだけであって、ステゴロのみで戦うなんて条件はないしね」


「確かにそうだ。そういう意味では俺が勝手に勘違いして戦ってたわけだ」


 それは違う。この人は明らかに手加減していた。

 刻印の変化が見られないからしてそうだけど、それ以前に明らかに力をセーブしていた。

 でなければ、僕は今頃この世にいない。


 この男はこれまで相手にしてきた敵とは何かが違う。

 それだけはわかる。もしかしたら、この機会にその刻印について何かわかるかもしれないな。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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