第55話 番外編 プレゼントフォーユー
今日、僕はとある目的のために男達を部屋に召喚した。
それは当然、蓮、康太、薫の三人なんだけど―――
「どうして女性の方々もいるのでしょうか?」
おかしい。僕はキッチリ根回ししたはずなのに。
当然のように目的地にはヨナ、アイ、ウェンリ、ミクモさんの姿がある。
すると、薫が申し訳なさそうに手を上げ始めた。
「ご、ごめん、それは完全に僕のせいです。ミクモさんに―――」
「嫌やで。“ミクモ”って呼んでくれな」
「み、ミクモに言葉巧みに問い詰められてボロを出しちゃって......」
そう言う薫の体勢と言うべきか、構図と言うべきものはおかしいもので、ミクモさんの胡坐の上に座らされてる感じで、その上でミクモさんに逃げられないようにホールドされてる。
うん、見た目完全にお姉ショタ!
「ふふっ、カオルは嘘下手やさかいね。
それに女の前で隠し事する、それも男同士の密談なんてロクなことあらへんさかい」
「ぼ、僕達の相談を信じてないの!?」
「なら、尚更共有したってええやん。私達はもはや運命共同体。やることは一緒やで」
「律、もうこれは年貢の納め時だな」
「白状しちゃいなよ」
「なんで僕が悪いするみたいな前提なの?」
蓮と康太の言い分は非常に解せない。
その言葉のせいで妙なアウェーな空気になっちゃったし。
「では、何を相談しようとしていたんですか?」
「そ、それは......」
ヨナが問い詰めてくる。うっ、なんだろう......本来の予定には女性陣がいないだけに非常に言いずらい。むっちゃ恥ずかしい。
そんな僕がなかなか切り出さないことをどう思ったかしらないけど、ウェンリが近くにいたアイに何か耳打ちするとその言葉に頷いたアイがテクテクとこっちにやってきた。
「教えてなの」
「うっ」
僕が胡坐をしているところにアイが座ってくる。そして、上目づかいで再度尋ねてくる。
ウェンリの奴、こんなあざと可愛い真似をアイにさせるなんて......グッジョブだけど、今じゃない! これただ僕の羞恥を煽ってるだけ!
「わ、わかった。言うよ」
僕は覚悟を決めて息を吸った。
すると、周りが妙に静かになる。なんで若干シリアスっぽい雰囲気なの?
「じょ、女性陣にお世話になってるし、この機会に男達で内緒でプレゼントを買おうかなということを相談する......予定......でした」
「ふふっ、えらい可愛らしい密談で安心したわ」
「それはそっちが急に言いずらい雰囲気にするからでしょうが!」
もう穴を掘って閉じこもりたい。
なんでこんなことをプレゼント相手がいる状況で言わなきゃいけないのか。
もっと心がイケメン最強ハートだったらこんな恥ずかしさもなかっただろうに!
「そやけど、あんたの気持ちはもう既に十分に伝わってそうやけど」
そう言ってミクモさんは隣にいるヨナを指さした。
その方向に顔を動かすとそこには両手で顔を覆ったヨナの姿があった。
頬は赤く、耳まで達している。な、なんかそれを見るとさらに羞恥心が......。
そう思っているとあごをものすごくペシペシされる。
それはアイの尻尾で、思わず覗き込んで見てみると普段に見ないほどしおらしく大人しい。
「アイ、今のリツは防御力ゼロよ。あなたの全力をぶつけてやりなさい」
「......うん、わかった」
アイはウェンリの言葉に立ち上がると広々とした空間へと歩いて行き、僕から距離を取っていく。
その瞬間、僕は思わず察した。あ、これ来るわ。
「お兄ちゃん、大好き!」
「がっ!」
アイは目にも止まらぬ速さで動き出すとすかさず僕の顔面に抱きついてきた。く、首がもげそう!
そして、そのままアイは顔にくっついたまま頬ずりしてる。
なんというか今までで一番勢いがあった。
僕はアイを横にズラしていき、肩車になるように位置をズラしていくと一つ咳払いして話を続けた。
「とまぁ、もうバレてるから言うけど、日頃の感謝を込めて何かプレゼントしようかなと考えたわけで、それが何がいいか相談しようかと思った所現在にいたります」
「そういうことか。確かに助けた女性奴隷のケアなんかは男達の俺達には無理だしな」
「それに料理とかもしてもらってるしね。
それに対して、おいら達がお返しできたことって少ないかも」
「別にそこまで深く考えなくてもいいわよ」
「そうよ。好きでやってることだし」
蓮と康太の言葉にウェンリとヨナ......いや、羞恥心で交代させられたセナが答えていた。
ん? なんかチラッとこっちを見てくるけど、目を合わせたら逸らされた。
「プレゼントは妙案や思うわ。ウチはともかくこの子達に豪勢な食事だけちゅうのんは味気あらへん思うし」
そう言うとミクモさんはさらに深く切り込んできた。
「となったら、それぞれの女性相手のこと深う知ってる人プレゼントを考えるのが普通よね?」
その瞬間、僕達男達は瞬時にアイコンタクトを取った。
なんの深い意味はない。ただ「もう決まっちゃったな」という諦めの以心伝心である。
「なら、俺はウェンリになるな」
なに、この男! このいたたまれない状況で瞬時に手を上げて言ってのけるとかイケメンかよ!
それに羞恥心も微塵に見せない......と思ったら耳の先が赤かった。
蓮のポーカーフェイスやるなぁ。
そんなことに気付いてないのか突然名前を呼ばれたウェンリは普段のクールさはどこへやら、「へ?」という顔をしてキョトンとなっている。
するとその時、康太が何かを察した。
「え、待って、おいらだけあぶれない?
だって、薫は当然ミクモさんだけど、アイちゃんとセナは律でしょ?」
そう......なるのか? まぁ、一番世話になってるのはセナもといヨナだし、アイは妹として当然あげるし......確かにそうなる、か。
「なら、コウタはアイちゃんにあげたら。アイちゃんもプレゼント二つは嬉しいやん?」
「うん、コウタお兄ちゃんも好きだから嬉しい!」
「ぐっ、なんだろう......嬉しいのにどこか虚しい......」
康太は本当に悔しそうだった。
当然、残りの男達にかけてやる言葉はない。というか、見つからない。
それから相談が終わった後、僕達の驕りで康太のやけ食いに付き合った。
翌日、僕はセナとアイと一緒に獣王国の城下町を練り歩いていた。
「―――で、結局、『これってデートじゃないですかぁーーー!』って、私に叫びながらずっと悶々として眠れずに当日になればすかさず交代してきたってわけ。おかげで眠いったらありゃしないわ」
「あの......それって僕も恥ずかしくなるやつだけど、聞いてもいいの?」
「いいんじゃない? ヨナのことだし」
「と言いつつ、さっきセナお姉ちゃんも満更じゃなかったの!」
「ちょ、アイ!? だ、誰よ! アイに誰かの前で秘密を喋らせるように育てたのは!」
いや、知らんけど......でも、その反応って遠回しに肯定してることになるからね?
さっきから僕の心臓が羞恥心で鼓動が早くなってすんごいことになってるよ?
「こ、コホン、それで? なにか考えてあるの?」
「考えてあったら二人に今頃プレゼントしてるよ。
正直、僕にプレゼントセンスがあるとは思わないからね。
だったら、いっそのこと二人に選んでもらおうかと思って」
「アイはお兄ちゃんのものだったらなんでも嬉しいよ?」
「そう言ってくれるのはありがたいけど、だったらなおのこと二人の好きそうな物の方がいいと思っちゃうんだよなぁ~」
「別にそこまで深く考えなくてもいいと思うけど。
ま、これ以上言っても平行線になるだけだし、アイちゃん、好きな物選ぼっか」
「うん!」
そして、僕は二人が気になって訪れる店についていく形で歩いて行った。
宝石をあしらったネックレス、獅子の形をしたイヤリング、民族的なブレスレットなど様々なものに興味を向けていった二人が最終的に選び出したのは―――ネックレスとチョーカーであった。
「セナがネックレスで、アイがチョーカーか」
セナが選んだのは三日月に星を散りばめたような宝石が埋め込まれたもので、この世界の文化基準だとかなりの難易度で細工された一品だ。
当然、値段も張ったけど、笑みを見たらプライスレスに思える。
アイはなぜかチョーカーだった。
アイもネックレスやイヤリング、ブレスレットととにかくキラキラしたものに目を輝かせていた割にはチョーカーを見た瞬間、まるで前から買うことを決めていたように選んでいったのだ。
「ちなみに、アイはなんでこれを選んだの?」
「な、内緒なの!」
聞いてみてもこのあり様。恥ずかしそうに顔を伏せるのみ。
セナに目配せしてもセナもよくわかっていない感じだ。
まぁ、アイが気に入ったならそれでいいけど。
*****
―――ヨナ 視点―――
「ほな、ドキ女子だけのプレゼント自慢大会~!」
リツさんからプレゼントを買ってもらった夜、突然ミクモさんに呼び出されたかと思うと急にそんなことを言い始めました。
随分とテンションが高いですね。
ふふっ、普段色気のあるミクモさんが少女のようにはしゃいでる姿は可愛らしいです。
「言い出しっぺのウチから行くわ。ウチは香水やで。
コウレンカちゅう植物の花からのものらしゅうて、心を落ち着けるような効果があるらしいの」
「いいわね。さすが植物博士というべきかしら」
確かに、薫さんならではのチョイスですね。
とはいえ、効果の「心を落ち着ける」という部分に別の意味があるような気がするのは気のせいでしょうか。
「次はあたしが行くわ。あたしはイヤリングね。
つけてると思うけど、五つに分かれた葉が特徴的なの。
蓮曰く、これは紅葉っていうらしいけど」
「紅葉? それはイツバといって私の故郷にあった木の葉でした。
秋になると赤くなって奇麗だったんですよ。
もしかしたら、同じような植物が故郷の方にあったかもしれないですね」
「かもしれないわね」
蓮さんもなんだかんだで自然と調和したものが好きなウェンリさんの心を正確に捉えてますね。
っと、次は私ですか。
「私はこれです。リツさんが選んだというよりは、私達の場合はそれぞれが好きなものを選んで買ってもらった感じですが」
「それは三日月?」
「はい。私、月が好きなんですが、故郷にいた時にふと見た三日月がとても大きく輝いていたのが印象に残ってまして、それにこの星を散りばめたような宝石の感じが素敵で直感で手に取ってしまいました」
「ふふっ、素敵ちゃう。それに心に従うた感性ちゅうのんは大事やで」
「みたいですね。とても身につけていてしっくりきます」
「で、アイちゃんはどうなの?」
そうウェンリちゃんに聞かれたアイは服の中にしまっていたペンダントを取り出した。
「アイはコウタお兄ちゃんから『いいものは律があげるだろうから』って守護のペンダントをくれたの」
「危険な攻撃が来た時に一度だけ守ってくれる魔導具ね。
実用的というか、このパーティの守護者としてある意味相応しいものね」
「影からも守るようで男らしいちゃう。
彼にもきっとええ出会いがあるわぁ。
それでおにいから貰うたものは?」
「そ、それは......こ、これ」
すると、突然恥ずかしそうな様子でアイは顔をあげて首につけてあるチョーカーを見せてくれた。
私とウェンリちゃんはやっぱりさっぱしという感じだけど、ミクモさんは違う様で―――
「あらあら、まぁ! 『私をあんたのものにしとぉくれやす』っちゅう隷属されること好きやない獣人がほんまに好きな人にしかさせへんものちゃう。
ま、つまるとこアイちゃんからのプロポーズってことやわ」
そう説明を受けて改めてアイちゃんを見てみると顔を真っ赤にして目線を下に向けてた。
おっと......これは......リツさん、アイちゃんからの好意は存外本気かもしれないみたいですよ。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




