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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第2章 帝国襲撃

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第54話 帝国調査#2~勇者サイド~

―――聖朱音 視点―――


「ふぅ、ようやく止まったわ」


「ということは、終わったのかぁ~」


 私はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。

 マイラ先生がグールが出てくる魔法陣を止める間、私達はずっと戦い続けていたのだ。

 もうそれがどのくらいたったのかわからないほど。


 とにかく長時間体を動かし続けていた気がする。

 自分の生死に直結している分休んでいる時間なんかなくて、普段の修練が如何に手心加えられていたか分かったような気がした。


 そんな中でもリューズ先生は軽く汗を流しただけのような様子であった。

 さすがというか、異常というか......このレベルになることを私は求められてるのかぁ。少し泣きそう。


「にしても、この魔法陣を見ていたが......正直複雑すぎて相手側が設置できるとは思えんな。

 出来るとすれば、城に潜入した連中が地道に作り上げるしかなさそうじゃが」


「そんなことする必要も無いわよ。だって、これは永遠の命を強要する魔法陣だもの」


 永遠の命を強要する......?


「それじゃあ、この魔法陣はこの国を襲った人達の仕業じゃなくて、もとからここにあったものということですか?」


「えぇ、そうよ。禁忌魔法陣『死拒永生隔絶陣』は有限の時を生きる人間が死という神から与えられた消すことのできない呪縛から解き放たれようと足掻いた結果に出来たもの。

 ま、この魔法陣が魔導書そっくりに作れたとて、永遠の命の魔法陣なんかそれこそ真偽問わずに言ったら数多に渡るし、故にこの魔法陣で成功するとは限らなかったということね」


 そう言うとマイラ先生は睨んだ様子でドイルさんを見た。

 その目に気圧されたのがドイルさんが少しだけ目を逸らしていく。


「待てよ? ってことは、朱音の言ってることのままの意味だとしたら、この城にいた誰かがその禁忌を冒そうとしたってことか!?」


「ははっ、そんな抽象的な言葉で終わらすでない。そんな人物たった一人しかおらんじゃろう。

 こんな地下深くに怪しげな祭壇を作り、禁忌魔法陣をも作り上げ、それに失敗して永遠に生から拒絶されたものが」


「帝国の王様.....!」


 そういえば、なんで不思議に思わなかったのか。

 私達は帝国が襲われたということくらいしか聞いていない。

 

 なら、王様がここにいたっていいはずなのに......それがここまでして姿を見せない時点でとっくに理解しておくべきだった。


「国王様は決して善人ではなかった。だが、悪人でもなかった」


 ドイルさんがポツリポツリと語り始めた。その言葉に耳を傾けていく。


「言わば、清濁を併せて吞むという人物で国王という立場では実に優秀だった人であった。

 だが、ある時に白い修道服を着たような()()の男が突然国王様の前にやって来た」


 そこでドイルさんの表情が曇った。


「そいつは三人の男達を連れて、『我が主に忠誠を誓うならお前は絶大なる力を得ることが出来る。場合によっては死からも永遠におさらばできるかもな』と言ったんだ。

 国王様は最初はしっかりと拒んだ。『得体の知れない者から得るものは何もない』とな。

 だが、その男に無理やり力を与えられた瞬間、人が変わったようになってしまった」


「なら、そこで止めるのがお主の仕事じゃろう?」


「あぁ、そうだ。だが、最初の方はまだ国王様はいつもと変わらない行動を続けていた。

 それが俺に“国王様は力を自力で跳ねのけた”という過信を与えてしまい、今の今まで地下にこんな魔法陣があったなんて気づかなかった」


「私達にあなたの咎について責めるつもりは無いわ。

 そもそもその時に現場にいたわけじゃないしね。

 それで儀式当日に邪魔が入って見事に失敗。

 その時のことを教えてくれるかしら?」


「俺も全てを見てるわけじゃない。少しの間、気絶させられていたからな。

 俺が覚えているのは、先ほどまで戦っていたグールのさらに何十倍かにしたような巨大な存在がいたことだ。

 それこそ城の大きさなど優に超えるほどのな」


 さっきまで戦ってたグールもそれなりの力があったのに。その力の何十倍って......。


「そして、そいつらと戦ったのがお主を負かし、この国を襲撃した者達ということか」


「あぁ、そうだ。だが、そのグールと戦っていたのは実質一人だ。

 俺が戦った狐の仮面を被った黒衣の少年。

 そいつは不形体の体を使って攻撃してきたグールの王と言うべき相手に対して、平然と躱しながら距離を詰め、国を半壊させるような攻撃に対してもそれを反射させて逆に当て返していた」


「<反射魔法>......その子、随分とユニークな魔法を使うみたいね」


「お前にお主に勝つ程の剣の腕もあると来た。ふむ、増々会いたくなって戦ってみたくなるな!」


「会う、か。出来れば、会わない方が賢明かもしれないな」


 ドイルさんはそう言うと立ち上がり、この場から帰る準備を始めた。

 すると、その話を聞いていたけんちゃんがその言葉に対して問う。


「どうしてだ?」


「これはあくまで俺個人の意見だから深くは捕らえないで欲しいが、今回の件で俺は少しだけ思うことがあった。

 別に俺は聖王国のような宗教観はないが......こういう結末を迎えたのは白い悪魔に魂を売ったことを黒い天使に見つかり罰を与えられたからではないかと思ってる」


 白い悪魔に黒い天使......それは先ほどの白い修道服の男と黒衣の少年から取った言葉だろう。

 私は実際にその現場にいたわけじゃないから、その言葉の重みがどのくらいかわからない。


 でも、ドイルさんの表情や国のありさまを見れば、その言葉を浅はかに捉えてはいけないことぐらいはわかる。


「話はわかった。ワシらも心に留めておこう。

 それでお主はどうするんじゃ? 確かこの国の王には妻子がおらんかった気がするが」


「そうだな。故に、この帝国はこれから大きな動乱期を迎えることになるだろう。

 だが、この国に住む民のためにも何もしないわけにもいくまい。

 具体的な内容は思いついていないが、なるようにするさ」


 そして、私達は地下から出て城の一階にまで戻ってきた。

 上を見上げれば天井が無くなって見える夜空の星が輝いて見える。

 ここに来るときはまだ日が出てたから......相当な時間が経ってるみたい。


 ドイルさんと別れると私達は宿屋に向かっていった。

 皆疲れているのか足取りが重く、一方期待に胸が膨らんでいるせいかリューズ先生の足取りは軽かった。


 そして、私は当然重い方だ。

 今日はかなり濃密な一日を過ごした気がする。

 考えることが多すぎたり、思うことが多すぎたりで脳も披露しているくせに勝手に色々悩み始める。


「今日はなんか濃かったな」


 そう言って話しかけてきたのはけんちゃんだった。

 どこか気を遣ったようなその言葉に少しだけ心が救われる。


「私も同じこと思ってた。世界そのものが違うから、この世界の常識とか国の常識とかも私達がもといた世界とは全く別であることはわかってるんだけど、改めてこの世界は全く違う世界なんだなぁって再認識されるような感じだった」


「そうだな。聖王国での常識やルールは生活していく上で覚えてきたし慣れてきたけど、他国であるこの国では奴隷制度というものが定着していること自体が常識であって、魔法という特異的な存在があるから俺達の中で定着していたありえない常識が現実化してしまっている。

 こういうのをなんて言えばいいかわらんが、こう―――」


「ファンタジーなんだよ。きっとこれが。りっちゃんが好きだった、あの」


「.....かもな」


 少しだけ固い表情をしていたけんちゃんがようやく自然に頬を綻ばせた気がする。

 その表情を見るだけでもう少し私も頑張れる気がしてきた。

 これからいずれ向かうだろう現実に対して。


「頑張ろうな。きっとこれから大変なことが続いていくかもしれない。

 だけど、俺達三人なら大丈夫だ!」


「三人......? 今、二人しかいないけど」


「いや、きっとどこかでお人好しを発揮して頑張ってる律も含めて三人だ。

 今はいないけど、俺達の絆は必ずどこまでも繋がっている。だから、いつも通り三人だ!」


「うん、そうだね!」


 そう言うけんちゃんの表情はとても輝いていた。

 あぁ、やっぱり私はけんちゃんのこういう所が好きなんだな。


 心がドキドキするというよりほっこりするような。そう、隣にいてくれて安心する感じ。

 だから、私もお返しにけんちゃんの安らぎとなるように頑張ろうと思える。


 そしてまた、りっちゃんが戻ってきた時に皆で笑いあえる日が来たらいいなって思う。


 それからその日は宿屋でぐっすり休み、翌日からは再び復興作業に着手し始めた。

 今まではグールが定期的に湧いて作業が止まっていた時間もあったらしいけど、それが解決された今は作業効率が格段に上昇したらしい。


 そんな日々が二週間と続いていった。

 その時もリューズ先生はさすがと言うべきか、「錬魔」という新たな宿題を出してきて随分と難儀したもんだ。


 私達は復興作業を終えてくると私はまず最初にエウリアちゃんに今回の帝国での詳細を説明しに行った。


 本当はこういうのはリューズ先生達の方がいいんだろうけど、先生達に「聖女様がリラックスできる相手の方がいい」と言われて私になったのだ。


「―――なるほど、そういうことがあったんですね」


「なので、ドイルさんはこれから聖王国には多大な迷惑をかけることになると言ってた」


「それに関しては帝国の情勢を聞いた時から予想がついていましたので、それに関しては対処してあります」


「さすが聖女様!」


「ふふっ、慣れてるだけですよ」


 そう軽く笑うと少しだけ心配そうな顔で聞いてくる。


「そ、それでその......その黒衣の少年というのはどういう人物なんですか?」


 ははーん? さてやその人物がりっちゃんと思ってるな? さすがにりっちゃんはないよ。


「りっちゃんはありえないよ」


「わ、私は一言もリツさんのことなんか......!」


「いやいや、モロバレなの知ってるから。

 だって、男子でりっちゃんだけじゃん“さん”付けで呼んでるの」


「~~~~~っ!」


 なんでそれでバレてないと思ってるのか。

 まぁ、普段は作り笑顔で、この表情を作るのは話し慣れた私相手だから他の人は気づいてなさそうだけど。


 にしても、顔真っ赤で可愛いな! ちょっとキレそう。

 こんな清廉で母性の塊の女の子に好かれるってりっちゃんも中々に隅に置けないね。


「というわけで、安心しなって。さすがにりっちゃんにそういう度胸ないから」


「そ、そうでしょうか......男の人は時々大胆な行動を取ると言いますし」


「まぁ、それは男子じゃないしわからないけど、とにかくきっと大丈夫」


「......そうですね」


 エウリアちゃんがようやく落ち着きを取り戻した。さてと、私もいっちょ行きますか。


「で、りっちゃんのどこか好きなの?」


「それは......ってええええ!? な、なななんで急にそんなことを!?」


「まぁまぁ。で、どうなの?」


「理由になってません!」


 と、そんな感じでしばらく聖女様を恋愛ネタでいじっていった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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