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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第2章 帝国襲撃

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第53話 帝国調査~勇者サイド~

―――聖朱音 視点―――


 ミラスでしばらく過ごした私達は本題である帝国ハンブルクに向かっていた。

 数日の旅路はどこか遠足してるような感じで、初めての別の国に訪れるわけだから不謹慎だけど少しワクワクもしてた。


 だけど、それはあくまで帝国に訪れる前のこと。

 辿り着いた時にはもうそんな気分にはなれなかった。


「ははっ、これは酷いの」


 リューズ先生が苦笑いを浮かべながら見つめる先には半壊した国の様子があった。

 繁華街や一般住民地区のある方はほとんど無事と言った感じだけど、貴族地区やその先のお城なんかはまるで別世界のように荒れ果てていた。


 巨大な爆発が起こったような焦げ跡もあるし、兵士が身につけていたような甲冑の一部なんかも落ちている。


 そして、極めつけはお城だ。もう一目でわかるほどにぐちゃぐちゃに崩れている。

 元の姿を見たことないからどんなものかわからないけど、聖王国のお城をイメージしてみれば9割は崩れてるといった感じだ。


「ここで一体何があったの......?」


「ま、ミラスで聞いた住民からの言葉だと魔族の仕業じゃろうが、ワシらの見解からすればこれは恐らく全く別の勢力。

 ミラス事件と同一集団が行った可能性が高いかもな」


「こんなことするなんて許せねぇ......とミラスに訪れる前に来てたら思ってただろうな。

 確かにやりすぎだと思うがが、一概に悪いと否定出来なくなっちまった」


「それが成長というものよ。決めつけで無鉄砲に突き進むほど愚かなことはないわ。

 そういう意味ではここはあなた達によってある意味良い教材かもね」


 マイラ戦線は周りにいる生徒を見ながらそう返答した。

 それがなんだか難しい話に聞こえ、言葉では理解できてるけど、これからもそれらを意識しながら判断できるかと問われるとなんとも言えない。


「よし、こんな所で突っ立ってたら復興作業の邪魔になるだけじゃ。

 ならいっそのこと、ワシらも手伝ってやろう」


「わかりました」


 そして、私達は数日間、この国の復興作業を手伝っていった。

 出来ることは少なく、瓦礫の撤去や炊き出しの手伝いのようなものだったけど、そのおかげか私達の印象も良くなり、さらにはこの帝国についての話も聞けた。


 帝国に関してはさすがミラスを収めてる国だけあって同じ奴隷制度が敷かれてる国だった。

 そして、国の各地では奴隷商人が日々年齢問わず奴隷をかき集めては売っていたらしい。

 その中には当然年端もいかない子供や私達と同年代の子達もいたという。


 そういう人達がよく売られていく理由はマイラ先生からすでに聞いている。

 男の人が若い女性の奴隷を買っていくのはそういう目的だと。


 加えて、この国では亜人に対する扱いがズレている。

 聖王国は基本種族問わず平等に(一部、亜人排斥主義もあるけど)となっている。

 その一方で、この国では亜人は「人」であり、「玩具」であった。


 「人」である基準は冒険者ギルド、もしくは商人として身分を証明できれば。

 それ以外は基本的にどんな目に遭っても仕方がないみたいなものらしい。


 つまり一度でも奴隷として売られればそれは帝国の人達からして「玩具」と判断されるために何されても構わないとのこと。


 それはミラスに通じる所でもあると思う。

 ミラスの領主も散々殺していたのはほとんどが亜人であったからだ。


 さらには、そういう亜人奴隷の大半は国の外から無理やり捕まえられて売られてきた人がほとんどらしい。


 だから、住民の見解ではこの帝国を襲ったのは奴隷の大半が獣人であるために我慢に痺れを切らした獣王国によるものではないかということ。

 そう考えると帝国の身から出た錆というか、そうされても仕方ないことだと思う。


 にしても、ほんと難しい。

 ただでさえ人と人が絡んだことさえ難しいこともあるのに、それが国同士だなんて。

 話が大きすぎて捉えきれない。

 なんだか学校で授業受けてた方がよっぽど楽だったかも。


 そう思いながら歩いているとリューズ先生が誰か大きな男の人と話していた。

 あの人は......ドイルさん?


 すると、リューズ先生が私のことに気付いて手招きで呼び寄せてくる。

 なにか話でもあるのかな?


「ほれ、少しは変わったんじゃないか?」


 近くに来るとすぐに腕を抱き寄せられ、リューズ先生がドイルさんに聞いてくる。

 リューズ先生、大柄な性格だからてっきり肩組まれるかと思ったけど、意外と乙女らしい......。


「そうだな。あれからまだそれほど月日も経っていないのにこの成長ぶり......さすが勇者というべきか。

 では、君を聖王国の代表として改めて感謝を告げさせてくれ。

 支援に来てくれて助かった。ありがとう」


「まぁまぁ、気にするな。それにワシらがここに来た理由はなにも復興支援だけじゃないからの」


「リューズに言ったわけじゃないんだが......」


「二人はお知り合いだったんですか?」


 その質問にリューズ先生はバンッとドイルさんの腕を叩きながら告げる。


「こやつとは帝国での御前試合で戦ったことがあるんじゃ。

 まぁ、強かった。ワシでも印象に残っておる強者の一人じゃ」


「君にそう言ってもらえるとはな。負けた身としては少しは救われるかもな」


「え、リューズ先生が勝ったんですか!?」


 身長差なんて親子ぐらいなのに......リューズ先生が強いことは知ってたけど、ドイルさんよりも強かっただなんて。


「なんじゃ? そんなにワシの勝利が疑わしいか?」


「そういう意味じゃないだろう。

 単に男女で筋力や運動能力に差が出る勝負に不利である君が勝ったことに素直に驚いてるだけだろう」


「なんだそういうことか。ま、ワシも別に最強というわけじゃないがな」


 そう言いながら良い顔で笑っていくリューズ先生。

 謙遜を......とか思うけど、リューズ先生は本気でそう思ってるんだよな~。


「で、帝国がこのありさまということはお前でも勝てぬ相手がおったということか?」


 リューズ先生が急に本題を振って来た。

 それに対し、ドイルさんは表情を変えず目だけ一瞬見開くとすぐに答えた。


「そうだな。手も足も出なかった。

 君と初めて出会った時のような“勝てない相手”という言葉が久々に頭を過った相手だった」


 ドイルさんにそう思わせるなんて......一体どんな相手?


「ほう、それはお主から見てワシより強いと思うか?」


 リューズ先生のその言葉にドイルさんは少し考えると結論を出した。


「あぁ、恐らく君でも勝てない」


「ははっ! その根拠は?」


「俺は殺す気で挑んだ。だが、こうして生かされてるのがその証明だ。

 それに奴は剣技だけではなく魔法も十全に使える相手でもある。

 あの戦いを見させられたらよりそう思う」


「あんな戦い? それってなんじゃ―――」


―――うわあああああ!


「「「!?」」」


 その時、お城の方から男性の叫び声が聞こえてきた。

 その声を筆頭に「逃げろ」や「助けてくれ」という言葉も次々に聞こえてくる。


「チッ、また出たか」


 そう言ってドイルさんは走り出した。

 私はリューズ先生と顔を見合わせると頷いてその後をついていった。


 お城前の広場に来ると逃げる兵士を追いかけるようにドロドロとした人型の何かが大量に襲って来ていた。


「なんじゃあれは?」


「黄泉から来た死者......“グール”と俺達は呼んでいる。

 奴らには捕まるな。一匹なら未だしも多数に捕まるとそのまま黄泉に引きずり込まれるぞ」


 あれがグール? もしかして帝国に現れたバケモンによる爪痕みたいなものなの?

 ともかく、私は勇者として目の前で困っている人は見過ごせない!


光臨斬(ラインブレイク)


 私は剣を引き抜くと一気に横に振り抜いた。

 それによって放たれた光の斬撃が多数のグールを両断していく。


 すると、そのグールから「もっと生きたかった」とか「どうして私だけ」という言葉が断末魔とともに聞こえてくる。

 え、なにこれ......私は何を相手にしてるの?


「耳を傾けるな。その意識は動きを鈍らせる。

 奴らがなんなのかは必ず後で話す。

 今は被害を広げないことに集中しろ」


「は、はい!」


 ドイルさんに注意されてしまった。気合を入れなおすために頬を軽く叩き、柄を強く握る。

 すると、マイラ先生と行動していた他のクラスメイトの皆もここに集まってきて迎撃に当たってくれた。


「ふむ、ちと数が多すぎるの。お主ら、少しワシらから離れておけ―――空裂撃」


 リューズさんは皆より前に出ると目の前に見えるグールに対して頭上に掲げた刀を振り下ろした。

 その振り下ろしの動作は全く見えず、気が付けばリューズさんの動きが止まっていたぐらいの速さだ。


 そして、リューズさんが放った剣技はまるで周囲のグールを一か所に引き寄せるように集めていくと間合いに入った途端次々にグールを切り刻み始めた。


 リューズさんは刀を振ってから何もしていない。

 空中に残った斬撃が勝手にグールを引き寄せ、倒していく。

 さながらシュレッダーみたいだ。


 それによって、あらかたのグールは倒し終わった―――と思いきや、お城の方から再びこちらに向かってグールが進軍してくる。


「こんなに多いんですか?」


「いや、いつもはこんなんじゃない。奴らは良質な魔力を持った人間を狙う傾向にある。だから恐らく―――」


「ワシらが来た影響じゃな。となると、根源まで止めねばずっと溢れ出ることにならぬか?」


「......そうだな。すでに場所は特定してある。来てくれ」


 そして、ドイルさんの案内でグールを倒しながら私達はお城の中に入っていった。

 中に入っても風が吹き抜けるような感じであまりお城に入った気がしない。


 そのまま向かった場所は地下でそこに近づくほどグールの数が多くなっている。

 ということは、そのグールが現れる根源が近いということ。


「ここだ」


「これは禁忌魔法陣の死拒永生隔絶陣......!?」


 目の前に広がった巨大な魔法陣を見て最初に反応したのは魔法に精通しているマイラ先生であった。

 そしてすぐに睨むようにドイルさんを見ると告げる。


「後で必ず説明してもらうわよ」


「あぁ、わかった」


「それじゃあ、この魔法陣の破壊に入る。私は無防備になるから全力で守ってね」


 そう言って、マイラさんが魔法陣を破壊するまでの間、私達はグールと戦い続けた。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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