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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第2章 帝国襲撃

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第52話 ミラス領主殺人事件~勇者サイド~

―――聖朱音 視点―――


「―――というわけで、勇者様の皆様には今から帝国ハンブルクに向かって欲しいのです。

 帝国に何が起こったのかハッキリとした原因がわかりませんが、あの帝国が陥落するなど余程のことではありません。

 私は安全面からここから離れることが出来ませんので、どうか帝国での様子を皆様に探って来てください。そして、くれぐれもお気をつけください」


 エウリアちゃんからの突然の依頼。

 なんでも前にあの強かった武人ドイルさんを連れてきた国が何者かによって攻め落とされたらしい。


 何者かなんて言葉はハッキリとした犯人がわからないから使ってるだけだけど、心の底では魔族による仕業じゃないかと思ってる。


 さすがにあの不良グループがどうにかできるとは思わないし。

 それにしても、こんな形で初めて別の国に向かうとは思わなかったなぁ。


 そして数日の準備の後、私達は勇者グループを二手に分けて帝国に向かった。

 二手に分けたのは帝国の様子を見に行って戦力が分散した所を狙われないためだ。


 その時の引率はリューズ先生とマイラ先生である。

 この二人がいれば大方の脅威は排除出来るだろう。なんせ滅茶苦茶強いし。

 勇者はチートらしいのだけど、それを使っても勝てない。

 全然活かせてないからだろうけど。


「にしても、お主達の初他国行きがこんなことになるなんてな」


「ふふっ、それは仕方ないんじゃない? 勇者はいわば秘密兵器。

 それがまだ十分に力を発揮できない状態で壊されるわけにはいかないじゃない」


「魔族と戦ったことがあるんすか?」


 拳矢(けんちゃん)が唐突にそう話しかけた。

 帝国に着くまで揺れ動く馬車の中は暇そのものだったからナイスだよ!

 その質問にリューズ先生はサラッと答えていく。


「あぁ、あるぞ。普通の冒険者よりかは強いぐらいじゃな。

 とりわけ強烈な印象を持つ奴はおらん。魔族とは別で前に会った奴以外は」


「前に会った人?」


「あー、ダメよ。それは地雷だから―――」


「おっ! もしかして気になるのか!? なら仕方ない。愛弟子のために話してやろう」


 そして、リューズ先生はミラスという街でたまたま見かけた集団、それもその中にいた少年に関して自分のことのように話し始めた。


 語ってることは武人としてのそれなのだけど、その時の表情がまるで恋する乙女に近かい。

 やっぱりこういう人の恋愛観って変わってたりするのかなぁ。


 マイラ先生からは「ここ最近の日常茶飯事の出来事だから聞き流していいわよ」と言われたけど、自分も気になるし聞いてみよ。


 それにしても、けんちゃんもその話に食いつきすぎじゃない?

 最近、けんちゃんの思考が武人みたいになってきたから恋愛観もそれになってたら、ちょっとショックだよ。


 それから、途中休憩でリューズ先生が謎の少年に出会ったミラスの街にやってきた。

 そこは繁華街のように賑わいを見せていたけど、聞こえてくる声はどれも明るそうな声ではない。


 すると、リューズ先生がササッと動き出し近くの住民の会話に割り込んでいった。


「なぁ、その話詳しく聞かせて貰ってもいいか? ワシ、冒険者でこれから帝国に向かおうと思ってたんじゃが」


「おぉ、冒険者か! だが、今帝国に行ってもロクに魔物討伐のようなことは出来ないぜ。

 専ら復興作業や瓦礫の手伝いとかいう感じだからな。

 まぁ、金額は割に良いから無駄骨にはならないと思うが」


「ほう、そうなのか。して、なぜそのようなことになったんじゃ?」


「なんでも城に賊が押し入ってその城で巨大なバケモノを召喚したらしい。

 そのせいで城はほぼ全壊、さらには城に近い一部の民家にも大きな被害が出て、国自体の被害が出れば半壊といった感じみたいだ」


「巨大なバケモノ......そやつは相当な手練れだったのじゃろうな」


「違いない。ま、幸いだったのはそこに住んでいた民は一部住む家を失っただけで、その事件が原因で死んだ人はいないらしい」


「国が半壊するような出来事で民の死者がゼロ?」


 少し聞き耳を立てていたけど、それは確かにおかしい。

 だって、それじゃその襲撃は民を巻き込まないように配慮しながら襲撃したということになるから。


 エウリアちゃんから過去に魔族に襲撃された場所に関しての話を聞いたことがあるけど、その時にはそんな非戦闘員の考慮なんてされてなかったはず。


 となると、この事件は魔族とは全く別の勢力による仕業?

 もちろん、そう断言できる根拠はない。

 単純なクーデーター的なことだってありえるし。


「けんちゃんは今の聞いてどう考える?」


「俺か? そうだな、俺は恐らく魔族とは全く別の勢力の犯行によるものだと思う」


「どうしてそう思うの?」


「俺が魔族でもし帝国を攻め落とすのだったら、まず国の中心にその巨大なバケモノを生み出すからだ。

 わざわざ警備も厳重な城の中でそんな巨大なバケモノを発動させるメリットは少ないと思う。

 まぁ、最初に司令塔を潰せればそれに越したことはないけど、普通は街に混乱を起こしてそれに乗じて手薄になった城に攻めるってのがセオリーだと思うし」


「確かに、そもそも帝国の戦力を削るなら国そのものを標的にした方がいいしね。

 だったら、わざわざ城でバケモノを生み出す必要もなくなるってわけか」


 そう考えるとこれは魔族と全く関係ない別の勢力ってことになるけど......あのドイルさんがいた国でそれだけのことをやったとなると相当な手練れ集団ということになるかもしれない。


「そうそう、冒険者の嬢ちゃん。こんな話は聞いてるか? この街の領主様が殺されたって話」


「ほう、それはいつの話じゃ?」


「確か帝国の事件を聞く二週間前ぐらいだったかな。

 ある夜、妙に空が明るいから何事かと様子を見に外に出てみれば兵士達が騒ぎ立ててよ。

 そもそも巡回中の兵士がやたらと領主様がいる家とは別の方向に集まってたからちょいと聞き耳立ててみれば、同時刻に奴隷商人から奴隷を掻っ攫ってった奴がいたらしくて、それで兵士が対応している間に領主様の家に火がつけられてたみたいなんだ」


「同時刻の犯行......それに加え、まるで人気を分散させてる間に、か。

 これは同一犯の仕業か、もしくはグループの犯行によるものじゃろうな」


「あぁ、そいつは俺も思った。だから、帝国で起こった事件も実はそいつらなんかじゃないかと思ってる。ま、結局夜で顔を見た奴はいないがな」


「......そうか。教えてくれてありがとう。礼に何か奢るぞ?」


「いいって。嬢ちゃんに奢られたら俺達男の立つ瀬が無くなるってもんだ」


 一通り話が済んだのかリューズ先生はこちらへと戻ってくる。

 その時の表情はどこか渋い顔をしていた。


「どうかしましたか?」


「いや、なんでもない。まだそうと決まったわけじゃないからな」


 そう返答すると一人でに歩いて行ってしまった。

 その雰囲気は馬車の時のはしゃぎようとは正反対のように静かであった。


「どうしたんだ?」


「さぁ、わからない」


「恐らく、その犯行グループの候補として彼女が出会ったという強い集団が頭に過ったからだと思うわよ」


 私とけんちゃんの会話にマイラ先生がそう答えてきた。

 その瞬間、なんとなくリューズ先生の気持ちがわかった気がする。


 リューズ先生がそのグループにいた少年に対する想いは少しズレているかもしれないけれど、恋心のようなものだと思う。


 そのことに本人は気づいてない様子だけど、その人に対する熱意はどこまでも本物。

 そんな相手が実は犯罪者かもしれない......そう可能性が浮かんだだけで心は複雑になってしまう。


 そういう私もその集団が実はりっちゃん達だったりしないよね? という気持ちがある。

 でも、さすがにりっちゃんが犯罪を平気で起こせるほど悪い人じゃないし、それにあの弱いりっちゃんがそんなこと出来るはずもないと思ってるから気にしてないけど。


「ま、今はそっとしておくことね。彼女は武人。

 その心のありようは彼女にしか分からないわ。

 それよりも、私達はその領主の事件に関してもう少し情報を集めてみましょ。

 犯人の行動がわかれば何かわかるかもしれないし」


「わかりました」


「おう、出来るだけ聞いてくる」


 それから数日の滞在の後、私達はそれぞれその情報について集めてきた。

 そして、わかったことはこの街の領主は殺されてもおかしくないという人物だったということ。


 領主という立場を利用して数えきれないほどの人を殺してきた。

 家族全員が嗜虐趣味を持ち、その詳細はそれぞれ違うけど、奴隷を買い漁っては殺すまでいたぶり続けていたのは変わらない。


 そう考えると領主を殺して奴隷を開放したというその犯罪集団に関してどこか好感のようなものを感じた。


 もちろん、その領主を殺したことまでを正当化するつもりではないけど、十割悪という感じではなくなった。


「つまりは、その集団は自分の手を悪に染めようとその領主を屠りに悪事を働いた訳じゃない。はぁ、全く仕方のない連中じゃの」


「その割には随分と表情が明るくなったじゃない。

 もしかして、その悪事を働いたのが犯罪者グループだったとしても少しは好感が持てることをしてくれたから?」


「ち、違う! ワシはそんなことで嬉しがったりせん!

 ただそういうことは冒険者の中でもあるから、そういうことで手を血で染めたなら少しは温情の余地ぐらいあると思っただけじゃ」


「そうね。彼らがやったことは不当だったかもしれないけど、ギルドから正当化されてやったことのある私達も結果から見れば同類かもね」


 その二人の会話はどこか重みがあった。ただその中で気になったのはやはり―――


「リューズ先生達も人を殺したことがあるんですか?」


「そりゃあな」


「ギルドでの専らの仕事は魔物退治だけど、盗賊や犯罪者集団の捕縛依頼だってなくはないの。

 そして、そういう人達は手練れが多くてね。

 全員を捕縛できるわけじゃない。むしろ、殺した数の方が多いわよ」


「そう、なんですか......」


「人を殺す感覚とかわかんねぇな。本能的にそこまではしちゃいけねぇと思っちまうし」


 けんちゃんの意見に同意だ。私も殺しに躊躇いがある。

 魔物を殺すこと自体だいぶ時間がかかったし。

 そんな未熟な心をに刃を突き立てるようにリューズ先生はズバッと告げた。


「じゃが、お前らが目指す魔王討伐はそれこそ殺し合いの末に辿り着く極地のようなものじゃ。

 その時になったら言うつもりじゃったが、いずれはそういう体験もしてもらうからな」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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