第50話 他者の動向
時は遡り、律達ヴィランレコードが作戦を終えた真夜中、気絶していた槍弥廉次、化叉来杜、北谷重太の三人は同時に目を覚ました。
すると、三人は別々の場所にいたにもかかわらず、三人身を寄せ合う形で集まっていて、そのこと三人とも戸惑いを見せた。
周りを見渡せば城の廊下にいて、すぐ近くの廊下は崩壊しているのかすでに道がない。
「ハハッ、ようやくお目覚めかな。風通しがいいし、気持ちが良いもんね」
「「「!?」」」
三人に話しかけたのは天パ白髪の青年その少年は崩れた壁の瓦礫に腰を掛け、足を組みながら本を読んでいる。
その青年を見た瞬間、三人の顔色は一瞬にして変わった。
そんな三人の表情の変化をどこか不気味な薄ら笑いを浮かべながら本を閉じて話しかけていく。
「この時代の小説も面白いけど、やっぱり君達の居た世界の話を聞くのが面白いよね。
もうきっとアレから時代が経ってるんだろ? 今ってどんなのが流行ってんの?」
「何の用だ? なんでテメェがここにいる?」
北谷の言葉に青年はため息を吐くと仕方なく答えていく。
「僕は君達をここに運んできてやったんだけど? 気持ちよさそうに外に寝てる君達を。
で、そんなのんきなことをしてるってことは見事にこの計画は失敗......と思ったけど、ある意味成功したからもう君達はどっかいっていいよ」
「成功したってことはあの王が不死の力を手に入れたってこと?」
化叉の言葉に首を横に振ると立ち上がり、消えた壁から月夜を感じながら青年は城下町を眺めていく。
「いや、あの王様は死んだよ。かつて君達が陥れた者達によってね」
「は? アイツらが? てか、なんでそんなことをテメェが知ってんだよ」
「知ってるも何も協力してやったからじゃないか。忘れたのかい? 僕の顔を」
そういって青年は一瞬顔を手で覆うと変えた顔を見せた。
その顔に三人は思わず目を見開く。
「て、テメェ......」
顔を元に戻した青年は言葉を続けた。
「僕の言葉を信じるかどうかは君達が決めればいい。
だけど、実際に負けた君達なら十分に信用に値する言葉なんじゃない?」
「......行くぞ、お前ら」
槍弥は唐突にそう二人に言葉をかけると立ち上がった。
その言葉に二人は戸惑いながらも続くように立ち上がる。
その時、青年は思い出したように言葉を投げかけた。
「あ、その君達に貸し与えた力。返してもらっていいかな?
一応、それって僕の力を分けてるわけだから少しとはいえ僕の力が弱くなるんだよね」
「「「......」」」
「わかってる。でもそうすると、その力に頼ってきた君達はこの国の兵士にも及ばないほど弱体化する。
それは君達が自分の力だけで道を進もうとしなかった結果だから仕方ないよね。
だけど、僕は優しいからチャンスを上げようと思うんだ」
「チャンスだぁ?」
「そう。僕が両手を広げるからその左右どちらかを進んでみて。その左右には正解と不正解がある。
正解すれば、その力を与えたまま立ち去ることを許そうじゃないか。
ちなみに、あらかじめ来るであろう質問に答えておくと僕は答えを途中で変更するようなことはしないから。
この左右どちらかに通ることさえしてくれれば基本的に何してもいい」
「それって......不正解だったら?」
「君達が想像し得る結果になるんじゃないかな。
ただ、僕はテストがしたいんだ。
僕達がこれまでやってきたのは君達のようなクズを生かすための世界だったのかどうかをね」
「誰から行く?」
北谷の言葉に二人は戸惑う。
想像し得る結果、それ即ち「死」と思ってる三人の足取りは重く、同時に臆病になっている。
なぜ彼らはその場から逃げることをしないのか。
それはすでに逃げられないとわかっているからだ。
故に、その青年から言われた言葉に対し、答えることしか今の彼らに選択肢は無い。
「さて、早くしてくれるかな。君達に付き合ってる時間もロクにないんだから」
「お前ら、ここまで来たら一蓮托生だ。ついてこい」
「......いいよ」
「わかった」
「そう来なくっちゃ」
槍弥の言葉に化叉と北谷は頷き、槍弥がついていく方向に歩いていく。
そして、槍弥が青年の右手側に進もうとした時、その二人は槍弥の背中を押した。
槍弥はこけそうになりがらもそれを堪えると素早く後ろを振り返るとそこには安堵した表情の二人の顔があった。
「何しやがる!」
「いや~、だって死にたくねぇじゃん? どうせ死ぬだったら当然自分以外でしょ」
「それにお前が通っても死なないことがわかった。そっちが正解だってな」
「テメェ......!」
今にも一触即発という状況で青年はいきなり大爆笑をし始めた。
「アハハハハッ! そんなことになるなんてね!
いや~、君達は傑作で滑稽だよ、ホントに。
ちなみに、彼が通った方は僕からしてみれば不正解の方向だ。
だけど、彼はそれを正解だと信じて前に進んだ。それに価値があるんだ。
でも、君達は他人の結果で正解不正解を判断しようとした。
つまりは他の生き物が食い残した肉を食らうハイエナと同じだ」
青年は両手で顔を覆っていくと笑いつかれたように大きく息を吐いた。
そして、その指の隙間から覗かせる目は酷く冷たかった。
「この世界は理不尽でね。
正解は何かもわからないくせに、不正解だけはハッキリしてるんだ。
でも、選ぶ際にはその不正解がどっちかわからないことが多い。
そんな中で、どれだけ正解だと信じて前につき進めるかに輝く価値を感じるんだ。
そして、そういう人材がこの世界では生きるべきだと思ってる。
つまり―――」
青年は右手の親指と中指をくっつけると指をパチンと鳴らす。
「君達は死ぬべきだ」
―――ドパンッ
その瞬間、化叉と北谷の頭が弾け飛んだ。
肉片が周囲に飛び散り、首からは赤い噴水が溢れ出ていく。
赤いしぶきが顔にかかりながらも、槍弥はその光景を片時も離さず見つめていた。
いや、もはや目を逸らす余地もなかったという方が正しいだろう。
「さて、君は不正解を選んだわけだからその力は返してもらう。
だが、選択した勇気に免じて君は生かそうじゃないか」
「テメェ......」
「ん? どうした?」
「よくも、俺の仲間を!」
槍弥は咄嗟に青年に近づくと胸ぐらを掴んだ。
そして、怒気を込めた表情で睨む。
しかし、青年は涼しい顔で対応した。
「いやいや、君は何を怒ってるんだ?
彼らは君を陥れて正解を見つけようとしたクズじゃないか。
それはある意味裏切りも同じ。そんな相手の肩をどうして持つ?」
「確かにアイツらはクズかもしれねぇ。
だが、俺も他に知らねぇ奴がいれば同じようなことをしていた」
「だから、自分もそっち側だと? もしかして死にたがりだったりする?」
「そんなことたぁどうでもいいんだよ! 俺は仲間を殺した奴をぶっ殺すと決めただけだ!」
「愚かだね。でも、嫌いじゃないよ。だから、君の誠意に答えてあげよう」
青年は槍弥の手を離すと距離を取った。
「その力を貸し与えた状態で僕に一発でも攻撃出来たらその後は大人しく殺されてあげる。
その時間は十分としてあげよう。その間に攻撃できなかったら君は死ぬ。これでどうかな?」
「ハッ、上等! 舐めてんじゃねぇ!」
「ちなみに、僕は避けるよ。痛いのは嫌だからね」
そして、槍弥は全力で突撃していく。
しかし、その攻撃は青年にかすり傷一つつけることも叶わず―――十分が経ち、再びパチンと音が鳴った瞬間、槍弥の顔は吹き飛んだ。
そんな槍弥の死体をチラッと見た青年はそこから月夜に視線を移すと呟いた。
「無駄な人死は避けたかったんだけどねぇ。ま、これもまた彼らの運命か。
さてと、僕がこれから歩む道も正解なのか不正解なのか。
後から間違いが何かわかるくせに、選ぶ時にはわからないんだからほんと厄介だよねぇ」
*****
―――エウリア 視点―――
―――時は帝国襲撃前の聖王国
「勇気、知恵、力、心の四大女神様、そして偉大なる聖女ロクトリス様。
今宵もこの国の繁栄は続いております。日々民の協力のおかげでございます。
崇拝なる皆様にはどうかこの国のよりよい繁栄を見守り、この国が遥か未来も続くようにお守りください」
私はいつもの朝の日課として教会にて女神像と像こそないけれど、偉大な聖女として数百年前から代々伝えられてきた聖女様に祈りを捧げます。
「そして、どうか律さん達にも祝福を」
それから、国の罪人となってしまった彼らを守ってくれるよう祈りを捧げます。
それが私が安易な善意で貶めてしまった罪なのですから。
するとその時、他の修道女の方から声を掛けられました。
「エウリア様、リューズ様達がご到着なされました」
「はい、すぐに向かいます」
そして、私は急いで応接室に向かって部屋に入るとそこには冒険者ギルドから一番高い支持を受ける四人の冒険者パーティの姿がありました。
「本日は私の呼びかけに集まっていただきありがとうございます」
「いやいや、ワシらが決めたことじゃから気にする出ない」
そう言う黒髪ポニーテールの桜色の和服を着た女性の名前は【リューズ=コトブキ】様。
独特な形状の武器である刀を使用する金龍乱舞の剣士様です。
「にしても、まさか聖女様直々に依頼が来るなんて長い人生の中でも俺っちは初めてだよ」
「そうねぇ。エルフであるあなたが初めてということは人族の寿命で受けれた私はとても名誉なことなのかもね」
「ハッハッハッ、こういうのもまた一興よな!」
少し幼く見える容姿のエルフの男性は弓を巧みに扱う【ハイエル=フォレスティン】様。
そうえいば、エルフのセカンドネームは共通なんでしたっけ?
それから大人の色香を醸し出す女性は多くの魔法に精通している魔術士の【マイラ=レイネルク】様。別名「色香の魔女」。
名前だけはお聞きしたことがあるのですが、これは女性でもドキドキしてしまう色気ですね......。
そして、最後に豪快に笑ってみせたのは竜人族で盾持ち剣士である【タルク=マドロ】様です。
一人二メートル超えの体格であるために別に椅子に座ってもらってますが、その椅子すらだいぶ小さいように感じます。
「皆様のご活躍は聖王国にある冒険者ギルドからもよく耳にしています。
様々な偉業を成し遂げてきた今や生ける伝説のパーティと呼ばれてるそうですね」
「ほほぅ、ワシらはただ興味あることに首突っ込んでだけだというのに行き着いた末がそうなるとは」
「そうねぇ、ただ最初は各々の利害の一致みたいな感じだったり、別に誰でも良かったから適当に組んだ感じが最終的にこうなったと考えるとなんだか感慨深いわね」
「こういう出会いがあるから冒険はやめられねぇんだよな~」
「ハッハッハッ、やはり思い切って外に出てみるもんだな」
そういう四人の会話はどこか安定感というか、安心感というか言葉には言い表しにくいものですが、確かにお互いの信頼が目で見えるような関係性でした。
そう近くにいれるような距離感が羨ましくも感じます。
「じゃが、所詮はワシらもまだまだ未熟者の集団には違いない」
「そんなご謙遜を」
「いや、それは事実。これはミラスという街でたまたま出会ったバケモノの話じゃ」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




