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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第2章 帝国襲撃

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第49話 嫁入りの証

「カオルお兄ちゃん、結婚おめでとうなの!」


「あ、ありがとう。まさか、こうなるなんてほんと予想外なんだけど......」


「もうここまで来たら腹くくるしかないわね。

 でも、まさかメンバー内でこんなおめでたい話が出来るとは」


「ふふっ、ありがとうなぁ」


 現在、僕達は僕の部屋に全員が集まっていた。

 それはもちろん薫とミクモさんの婚約の話である。

 そのため、この部屋には大胆発言をしてみせた当の本人もいるわけで。


「薫もこの数日間のゴリ押しで負けたってわけか。さすがに男ってところか?」


「意外と隅に置けないもんだね~」


「なんかその言われよう嫌なんだけど」


 蓮と康太が言っていることは、この数日間で起きた出来事を端的に発言したものだ。


 というのも、王様の目の前で婚約宣言したとはいえ、薫自身にその気持ちがあるのかどうかということを踏まえるために、さすがに数日間はお互いのことを知ってもらうために言わばお見合いという形になったのだ。


 そして、その間に行われた大人の包容力を秘めたるミクモさんの可憐な乙女の恥じらいにやられたのか二度目のミクモさんからの告白でついに薫は陥落。

 なんかこういうバラエティ番組を見たことある気がする。


 まぁ、蓮はああは言っていたけど、結局のところはミクモさんの愚直なアタックと一途な想いに薫が負けたというわけで、決してミクモさんの容姿の魅力が持ってかれたというわけではないと思う......思う。


 にしても、一際身長が低い薫と僕と蓮ぐらいの身長(女性陣の中では一番)のミクモさんが横に並ぶとそらもう姉弟感が凄くて、ミクモさんが薫に対して反応を楽しむように少しからかう姿勢もお姉ショタにしか見えない。薫はこの世界では合法的年齢なんだけど。


「まぁ、今更婚約破棄なんて無理じゃないか?

 この国の民に公表された以上外堀を埋められたもんじゃない」


「いややわ~、その言い方。ウチは単純に愛しの殿方を見つけたことを報告させてもらっただけ」


 ウェンリに対してそう言いながら浮かべる微笑。

 基本的に落ち着いて笑みを浮かべてる感じだから、それが妙に裏を感じさせてならない。

 つまりは薫が突然逃げ出さないように柵を作った的な。

 すると、ヨナがちょんちょんと肩を突いてきて小声で話しかけてきた。


「これって、ああは言ってますけど完全に逃さないための一手ですよね?

 確かに国の未来を繋げていく王様直属の血筋ならこういう報告も必要ですけど、さすがにただ助けてくれた得たいの知れない男性をこんなにも急いで報告しても混乱を招くだけですし」


「まぁ、国民は薫のことを知らないわけだしね。

 とはいえ、この世界の物語本ではこういう展開はよくあったけど?」


「あれはあくまで仮想の話ですよ。ストーリーの中に夢をつぎ込んだだけです。そういう類は面白ければいいんですから」


「なんか薫の話題のついでに身も蓋もない話を聞いた気がする」


 ヨナとの話で少し目を逸らしていれば、薫が皆から弄られていた。

 薫はその類に対してどういう対応をしたらいいかわからない様子で、逃げるようにミクモさんにパスしてるが、彼女はさすがに大人の対応というべきかキャッチして速攻で投げ返してる。


 そして、帰って来た話題をキャッチすると誰に投げてこの状況を回避しようか必死に目を動かして......あ、やべ、目が合った。

 ごめん、目を逸らさせて......ってそんあ子犬みたいな潤んだ瞳で見て来るな。はぁ、仕方ない。


「はいはい、そこまで。いい加減、全員休みなさい。

 明日も祭りの作業があるでしょ? ほら、解散解散~!」


「えぇ~、これからやったのにぃ」


「そんな残念そうな顔をしてもダメです。

 ミクモさんが薫とともにいる以上、この集団に所属すると同じ。

 ということは、リーダーである僕の指示に従ってもらいます」


「律君!」


 薫が僕を救世主みたいな目で見てくる。ふっ、これぐらいリーダー命令なら容易い―――


「ということは、この部屋以外の場所で何をしようと管轄外ってわけやな?」


 ミクモさんがそう聞いてくる。おっと、そう曲解してきたか......さすがにそこは、ねぇ?


「僕は寝るんで聞こえませんし、知りません」


「ふふっ、そうかそか。なら、あとで男女の仲をしっぽり深めようやないの」


「律君!?」


「ある意味、一番の仕打ちかもな。上げて落とす感じが」


 すまん、薫。僕には助けることが出来ない。

 あと、蓮は僕を悪く言うのやめろ。結果的にそうなってしまっただけだ。

 そして、皆がこの場から解散していく。

 アイはしれっと残ろうとしたが、ヨナによって連れて行かれた。


「ふぅ、やっと一息つける......ん?」


 先ほどまで人数が人数だったために床に直座りで話していた。

 なので、ベッドに腰を掛けるとその柔らかいクッションにすぐさま寝転がりたくなる。


 だけどその時、扉の前に怪しく光る紫色に近い青い火の玉がふわふわと浮いていた。

 まるで狐火みたいに。


 すると、それは独りでに動き出すと小さく分裂し、新たに文章を作り出した。


『明日の昼、15時頃に南西側にある部屋でお待ちしてます』


「何か話したいことがあるのか?」


 それだけ伝える火の玉は消えてしまった。

 僕はその約束を脳内にメモするとベッドに横になり、その気持ちよさに気が付けば寝てしまっていた。


 翌日、僕は待ち合わせの時間に南西側の部屋に訪れると扉をノックする。

 ここで合ってるか? という心配もしたが、すぐに声が返って来たので扉を開けて部屋に入った。

 そして、そこには呼び出した本人であるミクモさんの姿がある。


「昨日、急な約束の取り付けでしたけど、何か用事があったんですか?」


「いえ、実はこれといってないんよ。

 ただ少し悪役の偉業(ヴィランレコード)ちゅう組織のリーダーはんと改めて話したいがしたいと思して。これからお世話になるんやから」


「そういうことだったか。なら、何から話しましょうか。

 僕達の目標とか結成の話とか? あまりいい話じゃないけど」


「そやな、そこら辺からお願いします。

 入るならどないな思いで帝国相手にケンカを売ったのか知っときたいと思て」


「わかりました。それなら―――」


 そして、僕は結成時から今までの話をしていった。


「そうやったの。さぞかし辛かったやろな」


「一人ならしばらく時間がかかったでしょうけど、僕には仲間がいましたから。

 とまぁ、こんな感じで僕達のことを話したわけだけで、もう一度改めて聞いてもいい?」


「えぇ、どないなことでも」


「本気でここに入るつもり?

 僕達は僕達が救いたいと思う人達を救って、その人達を虐げる存在をこの世から排除してるんだ。

 全員を救うことは出来ないとわかってる。

 だから、助けると決めた相手は全力で助けに行き、その道中で邪魔する存在は殺さなければいけないし、その首謀者は必ず殺す。

 僕達がやってるのはいわゆる僕達基準での選別だ。

 決して聞こえの良い様に人助けだけをしてるとは言わない」


「そんでもって人族に虐げられてる亜人族を助けることで、人族からは『悪』という存在であると認知しとるからそんな組織名なんか?」


「まぁ、そんな感じ」


 その返答にミクモさんは無言のまま振り向くとベランダの扉を開けて、そのままそこに移動した。

 そして、振り向けば僕を誘うように手招きしてくる。


 僕がそこに向かえば、そのベランダからは城下町の様子が一望できた。

 祭りの準備が着々と進んでいる様子がわかるように、人の動き、ものの動きが見れる。


「ここ、実は一番この街が良く見えるんよ。

 そやから、たまにこうして見るのが好きでなぁ。

 あ、でも、教えた人はさすがに二番目よ?」


 そう言いながら柔らかい笑みを浮かべる。

 大人の余裕が見えながらも人懐っこい子供のように感じる様子がこの人の魅力なのだろう。


「別に自分を悪と語ることは悪ない。せやけど、それだけやとさすがに心辛いやろう。

 そやから、ちゃんと救った笑顔も見てみぃ。皆良い笑顔しとるやろ。

 抱え込んだものはちゃんと発散せないかんよ」


「......肝に銘じるよ」


「ふふっ、そこまで重く捉えんでもえぇ。気にしてみるだけで十分」


 僕はそれからそこの光景をぼんやりと眺めた。

 風が心地よく髪をくすぐってずっとこんな風景が見たいと思うほどだった。


「そういうたら、なんでリーダーはんは狐の仮面やったん?」


「それは......特に理由としてはなかったんだけど、強いて言えば昔子供の時なぜか売られてる狐のお面を気に入ったからかな」


「そうやってん。そら狐の獣人としては嬉しい言葉やな」


「まぁ、もしそこに意味をつけるなら、狐は神様の遣いというのもある一方で、たまに昔話ではイタズラする悪い動物みたいな描かれ方もされていて。だから、なんというか―――」


「ええ人にはええ狐として現れ、悪い人には悪い狐として現れるってことね」


「そう、そういうこと!」


 なんかミクモさんに助け舟出されて上手く話がまとまったような気がする。

 とはいえ、こんなことも自分一人で話をまとめられないとかリーダーとしてなんか悲しい。

 そんな僕の様子をミクモさんは微笑みながら告げてくる。


「ふふっ、優しいリーダーはんで良かった。ほな、明日の結婚式はよう見といてや」


「もちろん。大切な友の晴れ舞台だからね」


 そして次の日、祭りは盛大に開かれた。

 雲一つない晴天の中、ミクモさんは日本のような和装の婚礼衣装に身を包み、薫も同じように和装の婚礼衣装だった。


 本当はこの国流の婚礼衣装があったらしいのだけど、ミクモさんが薫に嫁ぐわけだからと薫の故郷に合わせた形となり、それを初めて見る国民はその美しさに息を飲んで静かである。


 城から城下町の広場に作られた特設台のまで二人がゆっくり歩いていく。

 そして、二人がその台に乗っていくのを観客に交じって僕達も眺めていた。


 ヨナやウェンリもそういうことに興味があるのかどこか羨ましそうな目で見ていて、アイもどこか見惚れた様子である。


 二人は王様の前で愛の誓いを約束すると薫がその場に大きな桜に似た木を生やしていき、その枝に座るミクモさんが手のひらに出した火の玉に息を吹いて飛ばしていった。


 その火の玉は空にふわふわと上っていくとやがて見えなくなった所で、晴天にも変わらずポツリポツリと雨が降り始めた。


 日が照っている中で雨が降る俗にいう天気雨。またの名を―――狐の嫁入り。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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