第48話 まさかの展開
「終わった......ようやく」
僕は地面に立ち尽くしながら王様に突き刺さってる刀を引き抜いた。
そして、ふと上を向けば、先ほどのグールが魔力となって宙に舞っていくのがわかる。
一つ一つの魔力が強いのか、それぞれが強い発光をしていて、それがなんだか報われなかった人達の魂が天へと浄化されてるようにも見える。
「次は幸せに暮らせますように」
そう、その光に祈りを送りながら僕はこの場を去った。
そして、次にやって来た場所はもちろん皆がいる馬車の所だ。
そこにはすでに集まってる皆の姿がある。
「お疲れ様です。無事に終わったようですね」
「ヨナ......セナにもお疲れって言っておいて」
「はい、わかりました」
「とりあえず、ここを早く離れるとしよう。
帝都があんな悲惨じゃ今更追ってくる部隊もないだろうが、こんな所じゃ安心して眠れやしないだろう」
「そうだね。それじゃあ、出発しようか」
蓮の言葉に同意を示すとすぐさま馬車に乗り込んで出発した。
思いのほか疲れていたのか悪路に揺れる馬車の中でも平気で眠れてしまったようだ。
―――数日後
「ウチとはもう馬車の中で挨拶したやろうけど、改めて自己紹介しましょうか。
ウチの名前は【ミクモ=ベスティア】。この国で王女をやっとります。よろしゅうなぁ」
僕達は馬車での逃走旅から数日が経って無事に獣王国ベスティアに戻ってきた。
そして、一応王様に事の本末を説明するために謁見にやって来ていたのだ。
それにしても、ミクモさんは娘というより王様の妃と言われた方がしっくりくるほど落ち着きと母性があるんだけど。
そして、ミクモさんが自己紹介を済ませると国王様が話しかけてきた。
「よくぞ、俺の娘を取り戻してくれた。本当にありがとう。
帝国で起こったことはすでに耳にしている。随分と暴れたそうじゃねぇか」
「それは―――」
僕は王様に帝国で起こったことを話した。
「なるほどな。それを聞く限りじゃお前達に任せたのは俺の英断だったかもしれねぇな。
改めて、この国の王として、また一人の親として娘を助けてもらった礼を尽くさなければな」
そう言うと王様は立ち上がり、この空間の壁際に等間隔に並ぶ兵士に向かって命令した。
「お前達、今日は英雄を祝う祝賀会を開催する!
さらに娘が無事に帰って来た記念すべき日だ!
祭りは盛大にやるのがこの国流! 民も巻き込め!
明日には盛大に弾けるぞ! 今から速攻準備急げ!」
「「「「ハッ!」」」」
敬礼した兵士達は一斉にこの空間から出ていった。
王様がそばにいる大臣とかも急かしたために、今この場にいる空間は僕達と王様、ルーク、ミクモさんだけとなった。
なんだか盛大なことになったな......いや、この示し合わせた残りメンバーといい、人払いをしたのか?
「ふぅ、これでようやく余計なのは消えたな。あ、祝賀会を開くってのは違わねぇぞ?」
「いや、どうして人払いをしたのかと......」
「それか、それはお前達に褒美をやろうと思ってな。
あんな危険な依頼をしておいて祝賀会ってだけじゃ割に合わねぇだろ」
「あと、お前らから聞いた言葉から少しだけ気になったことがあった」
王様は「まずは褒美からだ」と告げるとミクモさんにあるものを持ってくるように指示した。
そして、ミクモさんが持ってきたのは何やら黄色い水晶のような球であった。
「これは俺の国で代々王族から受け継がれてる宝玉だ。
この宝玉は秘められた力を持っているとされていて、かつてこの力でこの国を滅ぼそうとする邪気を払っただかなんだか言われてるが、終ぞそんなことが過去数百年と起こることはなかったという。
ま、言っちまえば、こんなもん持ってても宝の持ち腐れだと思ってな。
使えない俺が持っているよりもお前が持ってる方がいいはずだ」
「ありがたいですが、僕達が持っても変わらない気がしますが......」
「そうでもない。実はお前達がここに来た時、本当に微弱だがうんともすんとも言わなかったそれが僅かに反応を示したんだ。
俺の目が年老いてなければだが、それを試す価値はあると思う。ほれ、とりあえず受け取ってみろ」
王様はミクモさんが持っていたそれを僕に放り投げてきた。
それをキャッチした瞬間、その宝玉は光輝き始める。
「ふっ、思った通り光るじゃねぇか」
僕の手のひらに光るそれを見て皆も興味津々だ。
加えて、なんか僕を勇者みたいに見て来るんだけど、いや違うから。
そう、違うんだ。これは僕に反応してるより、僕が唯一成功して作れた<空間収納>の魔法陣、つまりはアイテムボックスなんだけど、それから同じような反応を示している。
僕はおもむろにその魔法陣がある小袋から黄金の棒切れを取り出した。
それは村にいた頃にゾルさんから言われて攻略した遺跡のボスを倒して手に入れたものだ。
それが手元に現れた瞬間、宝玉はより一層光輝いた。若干眩しいぐらいに。
「なんだそれは?」
「遺跡の最深部で手に入れたものですが......よくわかりません。
でも、なにか関係がありそうな感じはします」
「なら、それはお前が持っていた方がいいということだろう。
先も言ったが、使えないものを持ってても意味はない。だから、それを受け取ってくれ」
「......わかりました。ありがたく頂戴します」
一先ず、それらを同じ小袋の中に入れていく。
それを見ていた王様からは「なぁ、その便利な袋を作ってくれねぇか」と言われた。
お望みとあらば作りますよ......成功率クソ低いけど。
「で、本題はここからだ」
そう言うと王様の雰囲気が少し変わった。そして、真面目な様子で告げてくる。
「実はその刻印の奴に会ったことがある」
「!?」
その発言は聞き捨てならないものだった。ということは、王様も実は......?
「どんな人だったんですか?」
「お前達が見たという刻印の特徴とは少し違った感じだが、その男はなんというか俺達よりも数段ギラギラしたような絶対強者の肉食獣のような顔をしていたな。
そうでありながら、思考は切れるような落ち着きもあった。ま、一言で言えば―――異常に強い、だな」
「強い......ですか」
「実際に戦ったわけじゃねぇ。だが、本能的に理解した。
危険察知には敏感な獣的特徴からもあったかもしれないが。お前達もそうだろ?」
そう話を振られたミクモさんやルークも答えていく。
「えぇ、その男性はいつでも如何なる邪魔も排除出来るように常に牙を研いでいるような感じやったわ」
「それでいて、しゃべり方こそ横柄だったがこっちに気を遣うような姿勢も見せていた」
「つーわけだ。あの時、下手に相手にしなかったのは正解だったと後から実感したな」
「その人とは何を話したんですか?」
「そいつは静かな場所はないかと聞いてきた。
だから、普段人の立ち寄らない場所でもいいかと聞けば、それでもいいというからな。
霧隠れの森を紹介してそれっきりだ。
教えるやすぐにこの国を出ていってしまったからな。
あれは何か小細工するタイプには見えないから恐らく純粋に安息の地を求めただけだろうけど」
「その人の名は?」
「ガレオス。奴はそう名乗っていた」
ガレオス......か。その人物が帝国での一件と関わりがあるかどうか。
王様は刻印の特徴が違ったと言っていたけど、それが違うからといって全く違う組織という確たる証拠にはならないからな。
いずれはその場所に向かって確かめてみる必要がある。
けど、王様が戦わずして「強い」と言い張る相手だ。向かう時は万全な準備をして向かう必要がある。
「ま、俺の個人的見解としちゃ、悪い奴じゃないのは確かだ。話は通じる相手だと思ってる」
「わかりました。また準備ができ次第、こちらから声を掛けますのでその場所を教えていただけますでしょうか」
「あぁ、わかった。約束しよう」
これにて王様での謁見は終わった―――かのように見えた。
「それじゃ、長旅で疲れただろう。各自の部屋は割り振ってある。存分に休んで―――」
「ちょいとお待ちを、お父様」
王様の発言に待ったをかけたのはミクモさんであった。そして、先ほど話していた内容を振り返るように発言する。
「先ほど褒美の件の話がおりましたけど、褒美が先ほどの宝玉というのは些かケチなんちゃいますか?
だって、あの宝玉はお父様が使えないからちゅうわけであって、“宝の持ち腐れ”ちゅう耳聞こえの悪くない言い回しをしとりましたけど、それって単にこちらでは使えないゴミをあげただけなんちゃいますか?」
「だ、だが、実際にこっちにとってはそれに等しい価値かもしれないそれを渡したら、あっちにとっては価値を見出せるものであるとわかったんだぞ。
言わんとすることはわかるが......なら、お前は一体他に何を与えればいいというんだ?」
「そりゃ当然―――」
そう言いながらミクモさんはこちらに向かってニコッと笑う。
視線自体はこちらに向けられたものだが、僕自身に向けられたものじゃない。一体誰が......。
振り返ってみると妙に焦ったような冷や汗をかいている薫の姿があった。
もう一度振り返ってみる。ミクモさんの視線を確認する。
さらに振り返り、その視線を位置を辿ってみる。
やはり薫だった。この二人の間で何があった?
「嫁ぎますわ。あの小さな王子様のもとへ」
その発言にルークが
「へ?」
僕達が
「「「「「え?」」」」」
王様が
「......あ?」
と、一斉に反応し一瞬にしてこの場が凍り付いた。
チラッと薫を見てみれば。薫がとんでもない重圧を抱えたような顔をしている。
まともに呼吸できてないみたいだ。
さすがの薫もこの空気に耐えれる精神力はなかったらしい。
そして、なんとか絞り出したような声で薫はミクモさんに返答した。
「そ、それ......ほ、本気だったんですか......?」
「最初から言うとったやろ? “責任取ってもらう”って。
今にも死にそうなって時に、巻き込まれて自分も死にそうって時に、必死こいて自分を助けてくれる人に好意を抱かんはずないやろ?」
「いや、でも、それは一時的な感情というやつで―――」
「なら、近くにおって確かめてみましょか。
そうやったら、この気持ちの正体もわかるかもしれんよ?」
「あ、これ逃げられない奴だ」
「ふふっ、末永くよろしくなぁ」
この瞬間、薫の婚約が確定した。
それに対し、ルークが石化し、王様が発狂し、それを目にも止まらん速さの手刀でミクモさんが黙らせていく。
そして、僕達はというと後にこの時の感想が全員同じだったらしいとわかった。
その感想というのが―――(見た目)お姉ショタが誕生した、であった。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')