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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第2章 帝国襲撃

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第47話 月夜の決着

 王様が俺達が横やりを入れたことで儀式を失敗し、その結果変わり果てた巨大な怪物となった。

 そして、その怪物は不定形な肉体を利用してその体から大量の腕を生やしてくる。


「邪魔ダ! 邪魔ダ! モウ自由ハ奪ワセナイ!」


 そう叫びながら僕に向かって一斉に腕を向かわせてきた。

 それを躱していくが、その度に徐々に足場が奪われて行ってしまっている。

 これ以上足場を奪われると地上で戦わなければいけなくなるね。


 そうなるとまず距離を詰める必要がある。

 だけど、デカい相手に距離を詰めるのはそれなりにリスクがあるし、近づくまでが一苦労だ。

 だったら、現状の距離感を維持しつつ攻めた方が周りに余計な被害を出さずに済むか。


 僕はまだ無事な城の屋根に着地するとそこから巨大グールに向かって走っていく。

 そして、敵の攻撃を躱しながら足元に<風翔>の魔法陣を仕掛けると真上に風を送る上昇気流を作り出し、ジャンプした後の後押しという感じで高度を上げていった。


 グールは来るであろう僕の位置に両手でバンッと挟み込んでいた。

 もし高度が無ければペチャンコだったかも。


「次は焼いてみようか!」


 僕は手のひらを向けると<炎槍>の魔法陣を出し、それを発射した。検証のために一発だけ。

 すると、その攻撃を避けるように手の一つで防いでいく。

 その瞬間、触れた一部は炎症によって焦げて剥がれ落ちた。


 その後、すぐにその部分は修復されたけど、効果はあっただろう。

 後はこの巨体を維持するための核みたいのがあると思われるからそれをさがすか。


「効くとわかればゼロ距離で食らわせるしかないよね!」


 僕は襲ってきた手の攻撃を躱していくと巨大な顔面にいくつもの<炎槍>の魔法陣を転写していった。

 そして、それらを一斉に発動させる。


「ガアアアア!」


 グールの顔は一気に火だるまになっていった。

 先ほどとは違いすぐに焦げる感じではなかったけど、腕をバンバンと振り回す感じからしたら効果があるようだ。


「!」


 グールの様子を伺っていると突然背後からグールの手が現れた。

 屋根を突き破って来たみたい。

 まさか今さっきの暴れっぷりはこれを誘う陽動か!?


「くっ!」


 咄嗟に刀でガードする。すると、その腕はまるで金属かのように固くなっていた。

 まるで水と片栗粉で出来る強い衝撃を受けると固くなるダイラタンシーみたいな感じだな。

 って、それ以前に力を抑えきれない!


 そして、僕はそのまま吹き飛ばされた。

 その威力は屋根を突き破り、城内から壁へ、そしてそのまま城の外へと放り出されるぐらい。


 地面に叩きつけられてから着地してすぐに目の前を見ると大きく崩れた城壁の先にグールが見える。

 あの一発でここまで吹き飛ばされたのか。

 芯まで響くような衝撃。少し腕にヒビ入ったかも。


 だけど幸い、城外まで吹き飛ばしたってのに相手の標的がこっちにある。

 このままこっちにヘイトを向けてくればこっちも殺りやすくて助かる。


 僕は急いで戻るために走り出した。

 すると、グールは僕に向かっていくつもの巨大な手を伸ばしてくる。


 その攻撃を緩急や素早い横移動で躱しつつ、それでも避けきれないものは刀に<炎熱>の魔法陣を転写して刀身を燃やして切り払っていく。

 これなら硬質化しようと泥状だろうと関係ないからね。


 そして、襲ってきてやり過ごした腕に乗っていくとその腕を走っていく。

 さらにはその足元から<爆破>の魔法陣を大量に転写していった。


 僕が乗った腕からは僕を捕まえようと小さなグールがうようよ出てきたけど、僕の通過後は漏れなく魔法陣で爆破していった。


 走ってる後ろから連続で爆破が起きてる光景はなんか導火線の前を走っているみたいな感じだけど、この<爆破>の魔法陣はちょびっと改造して炎の火力強めにしてあるからどちらかというと火炎瓶に近い形で、近くの腕にも多少ながらの被害を出していた。


 しかし、相手もそこまでバカじゃない。

 僕が走る腕を泥状に変えると素早く他の腕で捕まえようと襲ってくる。


 だからその前に、他の腕に乗り移り、両サイドからくる腕にはスライディングで隙間をくぐり抜け、横にある腕を壁キックのように使いながらさらに他の腕に乗り移り、目の前に来た腕は切り捨てる。


 そのような感じでずんずんとグールに接近していった。

 すると、月光によって胸の中心が煌めくのがわかった。

 あの部分、確か王様がグールになる前もそこら辺に刻印があったな。

 となると、あれが今のグールの力の源になってるのか?


 そして、そのまま接近していくと一瞬の隙を突いてその胸元に近づいた

 すると、そこにはクリスタルのようになっていて、その中心に眠ったように王様がいる。


 王様が生きてるかどうかは判断つかないけど、この核がこのグールにとっての弱点となる可能性は低くないだろう。


 しかし、さっきまでも上半身は出てたのに見えなかったのはなぜ?

 もしかして、炎で削っていったからそれを修復するために他の部分からあのドロドロを引いてきた?


 ま、なんにせよ、結果的にこうして弱点をさらしてくれたんだ。

 だとすれば、ここを壊せば決着がつく。


「岩鉄斬」


―――ピキッ


 核にヒビが入った。しかし、それだけであった。

 中心までヒビが入ったけど、壊すにはあと一発さらに大きな力で攻撃するしかないな―――っ!



「がっ!」


 攻撃の後隙を狙われたのか振り下ろしてきた手によって叩き落とされる。

 それによって、城門前の地面に盛大にめり込まされた。


「律、大丈夫!?」


 すぐに声をかけてきたのはセナであった。

 体を起こしすぐに周りを見てみると蓮やウェンリの姿もあり、その二人は城から出てきた小さなグールを街に広がらないように防いでいる。


「あぁ、大丈夫。なんとか弱点も見つけたし。あと一発ってところかな」


「そう。でも、相手もどうやらそう簡単に終わらせてくれないみたい」


 セナが向く巨大グールの方を見るとソイツは翼を生やした小さなグールを大量生産し始めた。

 それらのグールはまるでコウモリの集団のように蠢き、暗い夜空に身を隠しながら羽ばたいている。


 加えて、グールは僕の方を見ていなかった。

 見てるのは城下町の先にいる何か。

 そして、ソイツは唐突に叫び出すと城から動き出した。


「見ツケタゾ! 私ノ永遠! 生贄ヲーーーーー!」


 生贄? まさか......!


「律!」


「あぁ、蓮、わかってる。薫達が危ない!」


 グールは下半身は存在しないのかいくつもの手を地面につけながら這うように移動し始めた。

 その動きよりも速く僕達は民家の屋根に飛び移り、移動を開始していく。


「蓮! セナ! 二人は今すぐ薫達の救援に向かってくれ!」


「わかったわ」


「了解、リーダー」


「ウェンリはすまないけど、僕のアシストをしてくれ!」


「ふっ、今更野暮なことを言うんじゃないよ!」


 そして、蓮とセナはそのまま薫達の方へ急いで向かい、僕達はグールの意識をこちらに向けようと攻撃を仕掛けた。


『邪魔な雑魚はあたしが削るわ!』


『相手は炎が効く。それで攻めるべき』


『了解―――火球隕流(ブレーズメテオ)


 ウェンリは遠くに見える時計塔の屋根に上るとそこから夜空に向かって炎の矢を放った。

 放たれた炎の矢は空中で破裂するとグールの真上から星が落ちてきたように降り注いでいく。


『もはやここまで来ると多少家が燃えても問題ないわよね?』


『そこは気にしなくていいよ。避難はすでに住んでると思うし』


 撃った後にそう聞いてきても遅いんだけどなぁ。

 とはいえ、今のおかげでこっちに向かって来る羽グールがだいぶ処理できただろう。後は僕の番。


 僕は一旦時計塔に向かって跳躍していくと向きを反転させて、時計塔の壁で着地。

 そして、そこから錬魔と魔法陣による肉体強化で壁を蹴り、グールに直進していく。


「ドコマデモドコマデモ! ワレノ野望ノ邪魔ヲスルナー!」


「残念だけどそうはいかない」


 襲い来る腕を躱し、飛び乗り、走り、周りの雑魚を切り、腕を切り、接近していく。

 すると、グールは口を開けると再び高エネルギーの魔力を収束させ始めた。

 それをまともに受ければ終わり。

 避けても街に甚大な被害が及ぶだろう。

 でも、先ほどその攻撃を見てすでに対策は取ってある。


「死ネェェェェ!」


 この魔法陣は僕が今扱える魔法陣の中で使い方は限られてるくせに、一番難しい構成をしているのもので、必ずもう一度その攻撃が来るために用意していたもの。


 僕は宙に跳ぶと左手を差し出し、そこから直径十メートルもの巨大な魔法陣としてソレを展開させた。


全反射(フルカウンター)


 グールから放たれたブレスは余波だけで近くの民家を吹き飛ばしながら、僕の完全へと差し迫っていく。


 そして僕の魔法陣に触れた瞬間、それは跳ね返されるようにやや低い弧を描きながらグールの頭に直撃し、その場に巨大な爆発をしてみせた。

 しかし、それでも意識だけは別にあるのか振り回す腕や羽グールは依然として健在である。


 やはり、どうやらこの巨大グールは数多のグールの意識の集合体であるようだ。

 つまりはこの巨大なグールを動かすうえで、原動力となる王様の人格が主になっているが、この体自体はいくつものグールが合体してできたものなので、腕にも腕としての別の自意識が存在しているようだ。


 だから、先ほどの攻撃で王様の意識が揺らいだのかこちらに近づけないように腕を振り回し始めた。


 その攻撃はきっと一人だったらきつかっただろう。

 だけど、後ろには仲間(ウェンリ)がいる。

 はぁ、全く自分一人でケリつけるつもりだったのに......僕はまだまだ弱いみたいだ。


『道を開けてあげる。そのまま真っ直ぐ走りなさい』


 ウェンリが念話でそう言ってきた。

 だから、それを信じて屋根を伝ってグールに近づいていくと目の前から手を広げて襲ってきた腕が後方から放たれた炎の矢によって風穴が開けられていく。


 そして見えてきたグールの弱点でもあるクリスタルの核。そこに渾身の力で止めを刺す!


「鬼剣術―――鬼突」


 僕は左手で狙いを定め、右手を突きの構えで大きく引くとクリスタルのヒビ割れに向かって腕を伸ばした。


 その直後、ヒビに刀身が突き刺さっていき、そのままクリスタルの中で眠っている王様の心臓を貫いていく。


「ガアアアア! 嫌ダ! 死ニタクナイ!」


 次の瞬間、そう断末魔を叫びながら巨大グールは全身を魔力へと変えていき、空気中に散っていく。

 それはさながらオーブのようで夜空の星の一部となった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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