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第46話 死者の怪物

―――時刻18時50分


 城の中に潜入した僕は迫りくる兵士を対処しながら、薫から送られてくる魔法陣や魔道具の情報を頭の中でイメージしていた。


 あたりはもう日が沈みかけ、暗い世界が幕を開けようとしている。

 しかし、そんな落ち着きが感じ始める時間帯では今もあたりから色んな騒ぎ声が聞こえてくる。


『律君、真ん中だけ情報がない』


『情報がない?』


 確か魔道具は三部位に分かれていて、中間を除きその上下には「三」と「二」という数字が刻まれていたんだっけ。


 そして、それのマークの予測が正しければ、それらはそれぞれの言葉に使われたマークの数を指してるはず。


 となれば、マークがない場所は普通に考えれば一回しか使われてないとか考えそうなところだけど、それがいくつもある時点でそれは答えとしてあり得ない。


 ということは、もとからそのマークに答えがないと考えてもいいのかもしれない。


『となればもしかしたら、はなから答えが無くて、例えばその部分だけ取り外せたり―――』


―――ビビッ


「っ!」


 突然、僕の耳元に仕掛けていた<念話>の魔法陣がジャミングされた。

 恐らく向かってる先から感じる強い魔力によって僕の魔法陣の魔力が拡散されたのだろう。


 つまりはもう薫と連絡を取ることは叶わない。

 だけど、薫なら必ずやり遂げてくれると信じている。

 だから、僕はやるべきことをやろう。

 この先にいる王様を殺しに!


 そして、ショートカットするように床に<爆破>の魔法陣をしかけ発動させると地下通路に降りた。

 そこから強い魔力に導かれて進んでいく。


 見つけた扉を蹴破るとそこには城の近くの塔の真下であり、月夜の光をその身に受けながら魔法陣にある五つの円にそれぞれ儀式に関するようなものを置いて、その中心で立ち尽くす王様の姿があった。


「ついに見つけたぞ」


「ははっ、よくこんな所を見つけられたな。それ以前にドイルを退けるとは。

 ということはつまり、お前があの方が言っていた危険因子なのかもしれないな」


 魔法陣を光らせながらその中でニヤリと笑う王様。

 まるでもう全てが手遅れであるかのように。


「あの方ってのはお前達に力を与えた存在のことか?」


「あぁ、そうだ。あの方は私の野望のためにこの力を与えてくださった!

 確かに、私にはお前を倒すほどの力はない。

 だが、倒れなければ勝てる。違うか?」


「その前にお前を殺せばその必要はない!」


 王様の施した魔法陣は難解すぎて現状ですぐに解くことは難しい。

 見た感じでも理屈の半分も理解しきれていない。これが禁忌魔法陣ってやつか。

 なら、今僕が取れる行動は今すぐ王様を殺してこの儀式を終わらせるだけ!


 僕は王様に向かって走り出した。

 しかし、それは魔法陣に張られた結界で防がれる。

 何度も斬りつけ、魔法も発動させてみるがビクともしない。


「はははっ! 無駄だ! これはあの方が特別に施してくれた結界だ!

 確かにお前は強いのだろう。だが、それでも神に選ばれし者には勝てない!」


「神に選ばれし者......?」


「今に見よ! この塔の上ではお前達が助けたがっている獣人の姫がいる!

 しかし、あの魔法陣及び魔道具を解除することは不可能!

 どうせお前達も魔法ばかりにかまけてきた類の人間だろうからな!」


 その言葉を聞いた瞬間、思わず笑みがこぼれた。

 お面越しだから見えて無いだろうけど、だとしたら想定が甘いのはお前の方だ。


「残念ながら、お前の野望は俺達が打ち砕いた」


「何を言って―――がああああっ!」


 その瞬間、王様は突然胸を掴んで苦しみ始めた。

 過呼吸の人のように上手く呼吸できてないような感じで、フラフラとその場で揺れ始める。


「あれは......っ!」


 その瞬間、結界が弾け、同時に魔法陣から大量の亡者と思わしき黒いドロドロしたグールようなものが現れた。


「返せ」「返せ」

「その肉体」「その器」

「俺のもの」「私のもの」

「自由になる」「もとの世界に戻る」

「死にたくない」「生きたい」

「苦しい」「助けて」

「憎い」「羨ましい」「妬ましい」

「どうしてお前だけ」「どうして自分が」

「「「同じになれ」」」


「やめろ! 来るな! 来るなー!」


 怨嗟のような声が聞こえ、次々とそのグールが王様の足、腕、胴体としがみつき、その全身をドロドロとしたもので覆っていく。


 王様は必死にもがいているがそれが王様の体から離れることはなかった。

 むしろ、山になっていくように次々と重なり合っていき、最終的に王様の姿が見えることはなくなった。


「お前も一緒だ」「ここで皆同じに」


「魔法陣以外にも現れ始めたか!」


 声を聞いて周りを見ていると魔法陣の周囲のなにもない床や壁、天井から次々と溢れてくる。

 きっと城内も同じような状況になってるだろう。


 まるでこの城で理不尽な死を遂げていった存在が今を生きる人達を羨ましがるように出てきてる感じだな。まさに地獄だ。


「もうここで王様を殺すよりも脱出を優先した方がよさそうだね」


「ガアアアアア!」


 突然轟く咆哮に思わず耳を塞いだ。

 そして、目の前を見るとそこには全長三十メートルはありそうな巨大なグールの姿があった。


 そのグールはドロドロしながらも骸骨のような顔をしていて、さらには頭の上に王冠をつけていた。

 まるまだ王様の自我が残っているように。


「自由ダ! 明ルイ! 空ガアル!」


 その巨大グールは遥か高い位置にある天井に手を伸ばしていくとそこを破壊していった。

 しめた、あの崩れ落ちる瓦礫を足場に外に出よう。


 そして、僕は錬魔で肉体を強化すると同時に魔法陣で肉体強化をして落ちる瓦礫を登っていった。

 その途中でそのグールと目が合い、襲うように手を伸ばしてくる。やっぱり来るか!


―――ドゴオオオオンッ!


 崩れていく城の天井からその手を避けるようにして脱出するとそのまま城の屋根の着地した。

 どうやらこのグールは城より大きいらしい。

 突き破った屋根から半身が出てる。


 仕方ない。本当な逃走用に仕掛けてたものだけど、これ以上余計な人達を巻き込むわけにはいかない。


 僕は腰のポーチから仕掛けを施した陣魔符を取り出すとそれに魔力を流し破り捨てた。

 それによって、以前アイとスラムの子供達とで城の周囲に仕掛けてもらったいくつもの陣魔符の効果が発揮される。


「特殊結界―――『愚者の小細工』」


 それによって、城を中心とした半径300メートルに結界が発動した。

 これは結界内にいる人物の守備力、速度、魔法威力を下げるいわゆるデバフ的結界だ。


 故に、目的を達成したら足止め用に発動させるつもりだったけど、この展開はまさかすぎるしね。

 とはいえ、これでどこまであのグールの行動力が減退してくれるかなんだけど―――っ!


 グールは大きな手を広げながらそれを容赦なく振り下ろしてくる。

 咄嗟に後ろに跳んで避けたけど、手が落ちたその場一体は平然と陥没、崩れていった。


 あんまし効果はなさそうっぽいな。まともに直撃は出来ない。

 というか、もう城に誰もいないよね? 全員避難したよね?


『全員、生きてる?』


 僕は咄嗟に<念話>の魔法陣で連絡してみた。

 すると、次々と仲間から返答が返ってくる。

 どうやら全員無事で、王女様も比較的無事に救出できたみたいだ。


 しかし、状況を聞く限りでは城からグールが溢れてるために今はそれに対処してるらしい。

 王女様を助けたルーク、薫、そして城の地下の別個所から救出した奴隷と一緒にいるアイは康太のいる場所に向かってるとのこと。


 つまりは後はこの状況を何とかすればいいということみたいだ。

 なら、僕も少しはリーダーらしく活躍しないとね。


「人ガ! 人ガタクサンイル! 羨マシイ! 妬マシイ! 全テ俺達ノモノダー!」


「そっちに行かせるかよ!」


 僕はそのグールの顔に大きい<爆破>の魔法陣を作り出しそれを顔に転写した。

 そして、すぐさま発動させていく。


 それによって、どのグールの顔は弾け飛び、顔が抉れたような状態になった。

 しかし、ドロドロしているせいかダメージはなさそうみたい。


「邪魔ヲスルナー!」


 グールが手を開いて叩きつけてくる。

 思ったよりも速い速度でバンバンと振り下ろしてくるがその程度じゃ僕に当たることはない。


 その攻撃を避け、時折切り払いながらグールの頭に接近して首を切断しながら反対側の屋根へ移動していく。

 しかし、当然ながら効果はない。まぁ、わかってたけど念のためね。


「粋ガルナ生者ガ!」


「っ!」


 グールは大きく口を開けるとそこから高エネルギーの魔力を収束させ、ビームにして放って来た。

 そこから大きく飛び跳ねると着弾した足元見える屋根というか城の三分の一がそのビーム直後の爆発によって吹き飛んでいく。


 僕は別のちょっと塔のように尖った屋根に着地して、その破壊された箇所を思わず眺めた。

 理性のないバケモノかと思ったけど、どうやらそれは改めた方がよさそうだ。

 魔法が使える時点でこのグールの脅威度は跳ね上がった。

 いや、それぐらいは想定しておくべきだったか。


 推測だけどこのグールは恐らく死者。

 そして、前に呼んだ魔導書から魔法は魂に刻まれるとあった。

 それらから、あのグールはこの世に未練を残した浄化されてない魂と見た方がいいだろう。

 その魂の集合体であるのがこのデカいのだからその死者の中に魔法を使える奴がいたとてしてもおかしくない。


 城下町にあのビームが放たれれば間違いなく国は吹き飛ぶ。

 そうさせないためにはこちらに注意を引き続ける必要があるわけか。

 そして同時に、このグールを倒すヒントを見つけなければいけない。


 先ほどの推測からすれば神聖魔法が一番妥当だけど、あれの魔法陣をまだ攻略出来てないでここまできちゃったからな~。


 ないものは仕方ない。

 それに王様の特徴らしき王冠がわざわざ形として残ってるのも謎だ。必ず倒せる何かがあるはず。


「ドウシテ! ドウシテ! コウナッテシマッタンダ! オ前ガ! オ前ガイナケレバ!」


 そう月夜に嘆くように声を轟かせると自身の上半身からさらにドロドロした腕をいくつも生やし始めた。これ完全に第二ラウンド入ったな。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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