第45話 解除任務
―――花街薫 視点―――
『王女様を見つけたのか! なら、そこに魔道具はあるか?』
僕が律君に王女様のことを伝えるとすぐさまその返答が来た。
なので、すぐさま今の王女様の状態を伝えていく。
『王女様の拘束具は両手首に首と三か所ある。
それぞれに何らかの魔法陣みたいなプロテクトがかかっていて、その中に魔道具がある感じ』
『わかった。なら、その魔法陣の内容を教えてくれ。必ずそこにヒントがあるはずだから』
『わかった』
そして、僕は王女様の左手首の方につけられてる魔法陣から着手した。
『逆巻く風は山を削り川を渡らせ時代を遡る......って書いてある』
『他に何か特徴的なものがある?』
他に特徴的なもの......この魔道具は三部位に分かれるような二つの溝があって、加えてその三部位にはなんかしらの彫られたような絵が刻まれている。
それぞれの部位に風のようなマーク、山のようなマーク、川のようなマーク、他にも滑らかな凹型、月、太陽などとそれぞれのマークがあった。
『部位ににそれらに対応するようなマークがあるけど、まずは魔道具に触れるための魔法陣をどうにかしなきゃいけない。でも、この魔法陣は僕見たことないよ』
『どんな魔法陣?』
『円陣の中に大きい三角形があり、その中に小さい三角形、さらに中に三角形があって、それぞれ頂点の一つだけに小さい魔法陣がくっついてる感じ』
確かに僕は律君から基礎的な魔法陣の解除もとい上書き方法は教えて貰ってきた。
けど、それらはほとんど単一の魔法陣で、魔法陣の中にさらに魔法陣が描かれてるタイプは対応外だ。
それでも、僕らがリーダーはさすがって感じだった。
『それなら問題ない。今から指示する通りに動かしてもらうけど準備はいいか? 恐らく時間との勝負になるから』
『大丈夫! 指示頂戴!』
『なら、まずは一番大きい三角形の頂点にある魔法陣に触れてそれを逆時計回りに回して』
言われた通り僕は魔法陣に触れるとその魔法陣を反時計回りに回し始めた。
その瞬間、魔法陣は形を変えるように回り始める。
それと同時に王女様の首元につけられてる魔道具に秒数が刻まれ始めた。
『律君! 制限時間が起動し始めたよ! 時間はおおよそ5分!』
『わかってる。だから、言ったはずだろ? 時間との勝負になるって!』
そういう意味だったのか!
てっきりこの城から安全に脱出するまでの時間かと思ってたけど、バカか僕は! 想定が甘すぎる!
魔法陣を一周させてもとの位置に戻ってくるとその魔法陣が正解であるかのように違う光を放ち始めた。
『頂点部分の魔法陣が光った。次は?』
『真ん中の三角形の頂点部分を削れ。それで解除できるはず』
言われた通りにその魔法陣に魔力を流して文字を削っていく。すると、同じように光始めた。
『できた。これでここは最後になる』
『最後は恐らく魔道具を動かすためのエネルギー源となる部分だ。
仮定だがさらに時間が差し迫ることになる。
そのまま魔力を流して。それでそこは解除できるはず』
僕は一番小さな三角形の頂点にある魔法陣に魔力を流していく。
その瞬間、魔法陣は鏡が割れるように壊れたが、同時に魔道具に書かれた制限時間は......1分!?
『まずい。1分で発動しちゃうよ!』
『落ち着いて。僕を信じて。魔道具にあるのは?』
『それぞれマークがある。風みたいのだったり、山、雷、川とか他にも』
でも、これって今思ったけど......先ほどと解除した魔法陣と似たようなマークからして先ほど入れた順番通りにマークを揃えていけばいいのでは?
だけど、一旦落ち着いて他のも見よう。焦ってミスったら死ぬのは僕だけじゃない。
それから魔法陣を探してみたけど、他に何かヒントになるようなものは一つもなかった。
『このマークしかない。魔道具を回転させて絵柄を揃えるだけぐらい』
『なら、先ほどの解除した順番の逆から入れていって』
『逆? わかった』
その指示通りに上から川、恐らくこれであろう凹型のマーク、台風の目のような風のマークを入れた。
その瞬間、魔道具に刻まれた残り28秒のタイマーは止まり、ガタッとカギが外れたそれは地面に落ちていった。
あっぶない。もし順番通りだろって勝手に入れてたら終わってたかも。冷や汗かいた~。
『解除できた。でも、なんでわかったの?』
『最初の文章と最後に魔法陣を解除した時に魔道具が起動したからだ。
最後の魔法陣が解除される同時に魔道具が起動したならそれらは連動しているということで、最初に書かれていた魔法陣にあった文章も関係してると判断した。
あの文章の最後には“時代を遡る”ってあったから逆からマークを揃えた。
割と似たようなものがあったから......っと次だよ! 次!』
『あ、ごめん!』
しまった、変に魔法陣ヲタクになっている律君のスイッチをむやみに押してしまった。
ともかく、魔法陣のことは彼に一任した方がよさそうだ。
僕はもう片方の手首にある魔道具解除に向かう際に王女様を見た。
そして、励ましの言葉を投げかけていく。
「王女様、安心してください! 必ず助けます!」
「えぇ、期待しとりますよ。ウチのことは気にせず.....くっ!」
「どうしました、王女様―――っ!」
その時、王女様の足元が突然強く赤く光った。
それと同時に王女様が苦しそうな表情をし始める。
その数秒後に僕にも虚脱感が襲ってきた。
こ、これは生命力を奪ってるのか!?
もともと薄っすらと光ってたけど、汗をかいてたのはこの影響もあったのか。
しかし、この感じはあんまり時間かけてらんないかも。
『薫、どうした? 大丈夫か!?』
『う、うん、大丈夫! 次行くよ!』
そして、次の魔道具に着手していく。
「空に輝く月のもとに轟く雷雲は烈火の炎を生み出し大地を両断する」であった。
えーっと、律君からの指示によると魔法陣の形自体は先ほどと同じで魔道具に描かれてる月のマークは三日月だから、三日月を描くように時計回りに三分の二ほど動かしていく。
そして、雷は魔法陣を底辺に真っ直ぐ下ろしていき、最後の炎は魔法陣に炎の魔法を当てるか。
ここは火を放つ小さな火種草の炎を当てよう。
「ちょっと......ハァ、熱いけど我慢して」
「ハァハァ、ふふっ、少し熱いぐらいが丁度ええわ」
互いに生命力が下の魔法陣に座れ続け呼吸が荒くなり始めてる。
額から頬を伝って顎下に汗が流れ落ちていった。
思考力が鈍り始めてる気がする。頑張れ、僕!
そして、魔法陣が解除できると今度は魔道具の解除だ。
律君によるとそこは真ん中に炎のマーク、そしてその上下は両断された大地を表すように山のマークを合わせるらしい。
「出来た! 解除! あと一つですよ!」
僕は気丈を振舞って王女様に笑ってみせた。
しかし、額から溢れ出るように流れる汗を見ればきっとすぐにバレてしまうだろう。
王女様もこちらに気を遣ってか笑って見せてるようだけど、その目は微かに希望が消え始めている。
そして、僕に向けて告げた。
「ありがとうな。こんなに頑張ってくれて。だけど、もうダメそうや。早う、先に逃げて」
「ここまで来て逃げれませんよ。僕は王女様を助けに来たんですから」
「せやけど、これ以上はウチよりあんたの方が先に倒れてしまいそうや。
体が小さいしぃ、獣人はもともと生命力が強いけど人族は違うと聞く。もうこれ以上の無理は―――」
「うっさい!」
疲労で思わず強めの口調が出てしまった。
あいにく、もうこっちに余裕がない。
だから、このまま言わせてもらう。
「黙って、僕の言うことを聞け!」
「......っ! ふふっ、思ったより強情な人そうや。
これなら、先言った責任取ってもらうって話も本気になってしまいそうや。
えぇ、ウチも女として三度も同じことは言わん。ウチを助けて」
「任された! そして、顔近づけるけどごめん!」
そして、最後に首につけられている魔道具に着手した。
そこには厳重に三つの魔法陣がつけられている。
加えて、時間はもう3分もない。
もうこの場でぶっ倒れるぐらいに冷静に頭を回せ!
『律君、最後の魔道具だ! 魔法陣は三つある。
それぞれ、『太陽の光は月を飲み込み、雨雲が稲妻を呼びよせる』、『火柱伸びる大地は太陽を隠し世界を凍土と変える』、『泣き止まぬ世界に竜巻起こり、雲の隙間に太陽を覗かせ怒りの雷が落ちる』ってある』
『やり方はさっきと似たような感じだ! 時間がない! 省略して指示していく!』
『わかった!』
そして、僕は律君の指示通りに捜査していく。
すぐ近くに見える秒数が刻一刻と時を減らしていき、それと同時に虚脱感が強くなっていった。
「カオルー! まだかー! もうこっちも持ちそうにない!」
「黙って頑張って!」
ルーク君の切羽詰まったような声も聞こえてきた。
同時に大勢の兵士の声が聞こえてくる。
色々な状況が多大なるプレッシャーをかけてくる。
今にも押し潰されそうだ。
「で、出来た! 後は魔道具のみ......」
ま、不味い、本格的に力な抜けてきた。指先に力が入らない。このままじゃ。
「生命循環」
王女様がそっと抱きしめてくる。
その柔らかい実りに思わず顔が埋められていった。
「お、王女様......?」
「こんなに頑張ってくれてる王子様に何も出来ないは姫失格や。
せやから、少しウチの生命力を分けたる。責任取ってもらうって約束したからなぁ」
少し指が動いてきた。思考も回り始める。
「ありがとう。でも、魔力なんて使って大丈夫なの?」
「首から下の魔力のみを循環させてるだけや。
こう見えてウチもそこそこ錬魔が使えるんよ。
だから、多少の魔力操作はお手のもんや。
それよりもほら、あと少し頑張ってぇな」
僕は力を振り絞って魔道具の解除に挑んだ。
しかし、それと同時に足元の魔法陣からグールのような人型のどろどろした何かが魔法陣の中に引き吊りこもうと掴んでくる。
「な、なんだこれ!?」
「恐らく、過去になんらかの儀式によって奪われた命そのものやろうな。
それが強い負の怨念となって仲間を求めて引き吊りこもうとしてるか、もしくはその肉体を奪えばもとの世界に戻れるとかやろうな」
「この人達も犠牲者ってわけか。でも、ごめん! この人を犠牲にするわけにはいかない!」
「ふふっ、ほんま小さいなりしてかっこええなぁ」
最後の絵柄合わせ。上の部位には三、真ん中は空白で下の部位は二と書いてある。
律君が推測するには先ほどの魔法陣を解いた際の使われた言葉らしいから、三回使われたのは「太陽」で二回使われたのは「雷」、それじゃ真ん中は?
『律君、真ん中だけ情報がない』
『情報がない? ということはも―――.....という―――.....』
『律君! 律君!?』
何が起こった!? 突然律君との応答が途絶えた。
強い魔力の波動でかき乱されるって過去に言ってたことあったけど、律君の方でも何かあったってこと?
なら。、最後は自力で解かなきゃいけないわけか。
まずは落ち着いて冷静に頭を回せ。これまでやさっきの魔法陣からヒントはある。
一回使われたのはいくつかある。それをあてずっぽうでやってミスったらどうなるかわからないからもはや最終手段だ。
というか、そもそも何も書かれてない......空白......絵柄自体が存在しない!?
僕はその真ん中の部位に触れた。
すると、僅かにズレるような感覚があった。きっと恐らくこれだ!
「外れろーーー!」
僕はその真ん中の掴んで両サイドに引っ張った。
その瞬間、そこが外れ、同時に上下の部位も外れて地面に落ちた。
「さ、逃げるよ!」
「えぇ、行きましょう!」
そして、僕は王女様の手を取ると引っ張ってその場を走り出した。
その後ろからは大量の人型の何かが追いかけてきた。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




