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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第2章 帝国襲撃

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第44話 二人の動向

―――コロシアムの闘技台


 現在、王様を殺し損ねた僕はそのそばにいた黒い鎧を着たドイルさんという戦士と剣を交えていた。

 相手は大剣でありながらそれを随分と素早く攻撃してくる。

 しかし、この人からは村を襲った騎士や化叉のような妙な魔力の気配はしない。


 ということは、今戦っている状態が素の戦闘力ということになるわけか。正直、この人から同じ魔力を纏っていたらやばかったかもしれない。


「ふんっ!」


 大振りでありながら隙のない大剣の横薙ぎを刀で弾きながらそのまま距離を取っていく。

 しばらく剣戟を続けていたけど、相手は僅かに呼吸を乱すだけ。

 このままじゃ長期戦になりかねないな。早めに決着をつけるか。


「一つ、お前に聞きたいことがある」


「?」


 突然話しかけてきた。時間稼ぎ......という感じじゃない。

 純粋な戦士としての質問か。だけど、それに答えてる時間はない。


「悪いね。先を急いでいるんだ。さっさと終わらせてもらう」


「なら、俺の独り言として勝手に聞け。

 俺は前にリューズという異国の戦士と戦ったことがある。

 その相手は女性ながら俺を勝る実力を持っていた」


 俺は剣を持って突撃していくとドイルの直前でフェイントをかけて背後から斬りかかった。

 しかし、ギリギリで反応される。くっ、出来れば力は温存しておきたいのにな。


「そして、彼女が言うには『豪魔』という特殊な魔力の訓練法で己の肉体を強化しているという。

 そして、こっちの方では別の言い方で『錬魔』とも言われてる」


「......っ!」


 その言葉に思わず剣の振りが鈍った。

 その僅かな変化を敏感に捕らえられ、大剣による重撃で押し返されていく。


「やはりか。俺も少しは齧っているが彼女ほどではない。

 そして、お前は彼女よりも若い年齢でありながら卓越した魔力操作を行っている。

 それが行えるものは高いレベルの錬魔を習得していると彼女は言ってたしな」


「......それで?」


「これは戦士としての願いだ。その錬魔で俺と戦ってくれ。

 先を急いでいるお前としても悪くない話だと思うが」


 ここで本気を使わせて後々の疲労による戦力低下を狙う......という感じじゃないなあの目は。

 この人は国や王様を守る兵士でありながら、己の強さへの高みに挑戦し続ける戦士というわけか。

 ほんとこういう人がどうしてあんな王様に仕えているのか。ま、そんな事情は知る気もないけど。


 ただ、僕もゾルさんとの修行やヲタクとしての性分からかそういう戦士としての行動には敬意を払いたくなる。


 そして、自分もより強くなりたいと渇望したからこそ、その純粋なる高みへ欲望をぶつける同士には男として答えたくなってしまう。


「わかった。僕の今の全力をぶつける」


「ありがたい。俺も本気を出そう」


 そして、僕は居合の型へと刀を構えた。それに対し、ドイルさんは大剣を上段に構えていく。


「行くよ」


「来い!」


 そして、僕は魔力を全開にさせて一気に真っ直ぐ突っ込んだ。

 それに対し、ドイルさんはタイミングよく大剣を振り下ろしていく。


 その速度に対してなら余裕で胴体に斬りこめた。

 だけど、僕はこういう人を殺すためにこのようなことをしてるわけじゃない。

 だから、申し訳ないけど眠ってもらう!


 素早く刀を振るって大剣を中間から切断した。

 そして、左手の拳を素早く握るとそのままみぞおちに向かって腹パンしていく。


「ぐはっ!」


 ドイルさんの力が抜けて前のめりに寄りかかって来た。

 それでも折れた大剣を手から離さないのは戦士の矜持と言えるだろう。


「ごめん、こういう全力は普通殺し合いなんだけどね。

 あなたにはこの国行く末を見届けてもらう必要もあったから」


 純粋に死ぬべき人ではないという理由が主なんだけど、戦士に対してそういう直接的な言い分はどうかと思ったから少しだけ言葉を返させてもらった。

 まぁ、こっちの理由もあるんだけどね。


「ふっ、気にするな。強者だけが己の理念を通せる。それほどまでに実力差があったというだけだ」


 そして、ドイルは前のめりに倒れ込んでいった。

 それをドイルさんがいることで安心して客席で見ていた観客はいよいよ殺されると思ったのか急いでコロシアムから脱出しようと席を離れ始めていく。


「さて、僕も急がないと」


 そして、僕はドイルさんを壁際に運んでおくと僕はコロシアムを出て城の方へと走り出した。

 すると、城へと近づいていくにつれて兵士の数が増えていく。


「いたぞ! 仮面の一味の仲間だ!」


 一人の兵士がそう叫んだ。もうかなり僕達の情報が回ってるみたいだな。ま、構わんけど。

 そして、僕はその兵士の波を刀で弾き、躱し、素早く移動してかき分けていく。

 殺しはしない。この人達が殺す対象ではないから。

 そして、城の門まで近づいていくと蓮とウェンリの姿が見えてきた。


「リツ! ようやく来たのね!」


「ごめん、少し時間かかった」


「律、城の中の兵士を少しは外に引きずり出せたから移動が楽なはずだ。早くケリつけてこい」


「ありがとう。行ってくる」


 城の中に入っていくと1階の広いホールでセナが多くの屈強な戦士相手に大立ち回りを繰り広げていた。


「セナ! アイは一緒じゃないのか?」


「少し邪魔が入ってね。でも、あの子なら大丈夫よ。早く行きなさい。魔力探知で目星はつけてるんでしょ?」


「あぁ、つけてる。それじゃ、セナも気を付けて」


 セナに言われた通り魔力探知から高魔力反応がする地下の方へと向かっていく。

 その際、横に伸びている槍弥がチラッと見えた。ハハッ、まさか勝ったのか。やるねぇ。


 その時、一つの連絡が入る。


*****


―――花街薫 視点――――


―――時刻18時46分


「こっちだ。こっちから姉上と思わしきニオイがする!」


「わかった」


 僕はルーク君の案内で城の廊下を彷徨っていた。

 どうにもニオイの痕跡があまりにも薄いらしく、加えて強めの香りでごまかされているために非常にかぎ分けるのが困難らしい。


 それは獣人特有の悩みだから力になってあげられないけど、その異様なニオイを消す手伝いは出来る。

 そのため、僕の手には毒消しとして使われるカマラナの花を咲かせていた。


 この花は空気を浄化してくれる作用があるので、それを僕の錬魔で強化すればその効果は飛躍的に上がる。

 ただそれをし過ぎると王女様のニオイまで消えてしまうのが難点だけど。


「む、ニオイが近い! こっちだ!」


 ルーク君の後を追って角を曲がろうとした瞬間、突然曲がり角の先を見てルーク君が止まった。

 僕はルーク君の腕に静止させられるとそこから先を覗いてみる。


 すると、その先には異様に兵士の数が集まっていた。

 結界騒動や陽動のために城の入り口に兵士が集まっているはずなのに、あの一か所だけは異様だ。

 逆に言えば、そこが王女様がいる可能性が高いということでもある。


「ルーク君、今眠らせるか待って―――」


「姉上を返せーーー!」


「ちょ、ルーク君!」


 ルーク君が敵に勢いよく突っ込んでしまった。

 恐らく王女様を救いたい一心なんだろうけど、もう少し冷静でいて欲しかったな。

 ただもう相手にも気づかれた様子だし......仕方ない。僕も後に続こう。


 兵士がとある通路を守ろうと必死になって迎撃してくる。

 しかし、その攻撃速度は僕達の修行のウォーミングアップしてるより遅い。

 ルーク君の方もどうやら問題ない様子だ。

 そして、全ての兵士を片付けるとその通路を駆け抜けていく。


―――ピーーーーーッ!


「「!?」」


 倒れている兵士が気力で笛を吹いた。

 あの笛はきっとただの笛じゃない。

 魔導具によってより周囲まで響くようになった音だろう。


「カオル! お前は先に行け! 魔導具の解除はリツの仲間であるお前にしか出来ないはずだ!」


 先行していたルーク君が体の向きを反転させるとふいにそう告げてきた。

 そして、その言葉にコクリと頷いて通り過ぎ去ろうとすると全てを託したような目で言葉を続けた。


「姉上を任せた」


 その言葉を背に受けながら構わず走り抜けていく。

 これまでの気弱な僕じゃこんな重要な場面を任されても重圧でメンタルが耐え切れなかっただろう。


 でも、村での過ごした日々や成長、そしてあの時に起きた覚悟の弱さを知った今はこんな所で立ち止まってる暇なんてない。もう大切な人が死ぬのはごめんだ。


 だから、いつもは人と視線が合わないようにしていた前髪も切った。

 自分の弱い心を守るように閉ざしたままじゃ何も救えないから。

 そして、律君からの信頼にこたえられるように。


 その廊下を走り抜けていくと目の前に扉が見えた。

 そして、その両開きの扉には魔法陣が描かれていたけど、この程度の封印魔法陣じゃ僕の歩みを止められない。


 その魔法陣に魔力を合わせ素早く解除の手順を踏んでいく。

 といっても、やることは上書きによる効果の霧散なんだけどね。


 解除が成功するとその扉を開いた。

 するとそこには―――やや痩せ細ったような容姿でありながらも艶やかな大人の色気を醸し出す狐の獣人女性の姿があった。

 その姿に思わず一瞬見惚れてしまった。って、今は作戦に集中しないと!


 そして、声をかけようとするとその情勢はこんな状況に関わらず落ち着いた様子で声をかけてくる。


「ふふっ、随分と小さな王子様やな」


「王子様......? あ、ルーク君なら一緒に来てます!

 そして、僕達は獣王国の王様によってあなたを助けに来ました!」


「そら、ありがたいわ。でも、見てみ。

 ウチの足元の魔法陣が薄っすら光り始めとる。

 もう儀式は始まってるんや。この場にいたら巻き添えくうで?」


「それは起こりませんよ。なぜなら、僕達のリーダーがなんとかしてくれるんで!

 それよりも今は僕を信用して助けさせてください!」


 僕は仮面を取って強い眼差しを王女様に向けた。

 その女性の目は吸い込まれるように美しかったために、酷く心音がうるさかったけど、そらすわけにはいかない。

 ここで僕を信用してもらわなければ助け出すことなんて出来ない。


 そんな僕の眼差しが伝わったのか。王女様は柔らかい笑みを浮かべて答えた。


「ふふっ、ウチの負けや。せやからこの身の全ての責任を持ってもらうで?」


「はい、任せてください!」


 そして、僕はすぐさま律君に連絡していく。


『律君、遅れてごめん! 王女様を見つけた!』

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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