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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第2章 帝国襲撃

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第42話 仲間のために

―――ヨナ(現在の人格セナ)視点―――


―――時刻18時42分


 城の中に侵入してから少しだけ時間が経った。その間も私達は仲間の行動を信じ続け、廊下を走っていく。


「お姉ちゃん、こっちなの!」


「えぇ、わかったわ。ありがとう」


 アイちゃんが獣人の嗅覚を活かして案内してくれているので、私はその後ろを走る。

 すると、頭の中にリツの声が聞こえてきた。


『全員、作戦をプランBに移行! 繰り返すプランBに移行だ!』


「お兄ちゃんの声! でも、これって......」


「えぇ、どうやらなんらかのアクシデントがあったみたいね」


 リツも失敗するのね。ま、人間味あっていいかもしれないけど。

 それよりもその作戦に移行したということは王様がこの城に向かって来てるということよね。

 となると、先を急いだほうがいいかも。

 場合によっては向かう場所が入れなくなる可能性もあるし。


「アイ、速度を上げるわ。さっさと目的場所に向かいましょ!」


「うん、わかったなの―――ん? 危険なニオイがするの!」


「危険?」


 その瞬間、私は頭上の天井、つまりは3階部分にあたる廊下から猛烈な気配が来るのを感じた。

 そして、その一は丁度先行しているアイちゃんの位置と被る。


「アイ!」


 私は咄嗟にアイちゃんに向かって走り出し抱きかかえるとその場から跳ぶようにして廊下を転がっていた。


―――ドゴンッ


 その直後、天井からこの階に向かって一本の槍が降り注ぐ。

 それは天井の瓦礫を周囲に散らしながら、舞い上がる砂煙の中から一人の男が降りてきた。


 そいつは槍を肩に担ぐと話しかけて来る。


「気配が割に強ぇからてっきりアイツからかと思ったが、まさか女だったとはなァ」


 ニヤリと浮かべる邪悪な笑みに私は思わず眉をひそめてしまう。ほんと仮面つけてて良かったわ。

 そして、アイちゃんも同じような感じね。尻尾が警戒心Maxだし。

 というか、それ以前にアイちゃんは仮面ですらないから表情に出てんだけど。


「あんたは?」


「俺かァ? 俺は槍弥廉次、テメェらの仲間にもいる異世界出身の勇者の一人だ。

 まぁ、俺は国のためとかいう固っ苦しいことに手を貸すギリなんざねぇからここにいるわけだがな」


 随分と軽く言うものね。

 種族は違えどわざわざ別の世界から救世主を呼ぶほどには人族の国も困ってたからって理由だろうに。


「それよか、俺は俺のために生きるのが好きでなァ。どうだこの後ディナーでも?」


「あら、あんたにそんな上品な誘い方が出来ると思わなかったわ。

 むしろ、随分と乱暴に食い散らかしてると思ったけど」


「ほう? ハハッ、バレてんなこりゃ! ならいいや、直接的に言わせてもらおう。

 俺はテメェらがここで何しようが全く興味はねぇが、テメェらで遊ぶことには興味あんだよ。

 せっかくだからよォ、俺のウォーミングアップに付き合ってくれよ。

 そろそろ暴れたくてウズウズしてたしよォ」


 そう言って、ヤリヤは武器を構えた。

 どうやらこっちが女だから油断してるようだけど、まともに戦えばすぐに実力がバレるわね。


 それにこいつから逃げつつ救出というのはかなり厳しそうでもある。

 となれば、ここからはさらに二手に分かれる必要がありそうね。


「アイ、ここからはあなた一人で救出任務を全うしなさい」


「え? アイも戦うの!」


「アイ、ここで戦ってもし救出に間に合わなくなったらあんたの大好きなお兄ちゃんを悲しませることになるわ。

 だから、さっさといきなさい。そして後でたくさん褒めてもらえるように」


 ま、アイツのことだからたとえ失敗しても「気にしなくていい」とか言いそうだけどね。

 ただそれだとアイツは余計に自分に責を負わせるのよね。

 そして、苦しそうなアイツを見るとアイまで元気がなくなる。

 そう、これは全てアイのため.....ということで!


「わかったなの! 早く来るの!」


「えぇ、任せなさい!」


 そう言って、アイは振り返らずに走り出した。

 その力強い走りに少しだけ誇らしさを感じる。


「で、仲間を逃がしてくれるなんて随分とお優しいのね」


「ガキには興味ねぇからな。それに言っておくがテメェが女だからって別に油断はしてねぇぜ?」


 力なく緩んだ構えの次の瞬間には一撃で相手を刺し殺すような鋭い突きを放って来た。

 咄嗟に半身にして避けたけど、突きの風圧で頬を掠めた。髪も僅かに散っていく。


「避けるか。手ごたえがありそうで助かったぜ。だが、無手のお前に次は防げんのか?」


 ヤリヤはそのまま武器を横薙ぎに振るってきた。

 その攻撃を防ぐために魔力で咄嗟に盾を作り出し、防いでいく。

 ただ、力強い一撃にそのまま吹き飛ばされたけど。


「なるほど、テメェは魔力で盾を......いや、武器が作れんだろ?」


 一瞬で他の武器も作れることが看破された。

 まぁ、腕の立つ者にはそんなもんだから別にバレても問題ないけど。


「えぇ、そうよ。私は全身が武器みたいなものなの。下手に触れると切り裂かれるわよ?」


「強気な女だなァ。そういう奴は欲しくなるってもんだ。よし、決めた。テメェを俺のもんにしてやる」


「あいにく先約がいるみたいなんで無理な話ね」


「奪えば問題ねぇ!」


 ヤリヤは武器を構えて真っ直ぐ突撃してくる。

 それに対し、私は両手に剣を握りそのまま構える。

 そして、突き出された槍を左の剣で弾き、すぐさま右の剣で突いた。


 しかし、それは手首をヤリヤの左手で抑え込まれ、その状態から右足で回し蹴りを繰り出してきた。

 それをその場でジャンプして回避するとともにそのまま相手の腹部に向けて跳び蹴りしていく。


「ぐっ!」


 その蹴りはヤリヤの腹部にしっかりと突き刺さった。

 しかし、ヤリヤはすぐさま右手の槍を逆に持ち帰ると刃先を床に突き刺し、それによって吹き飛びを堪える。

 加えて、すぐさま左手を伸ばすとほぼゼロ距離という近さで魔法を放ってくる。


「炎爆」


 左手に圧縮された炎の塊はその手を離れた瞬間から急激に膨張し始め、その場一体に大きな爆発を引き起こした。


「くっ!」


 私は咄嗟に盾を作り出すことに成功し直撃を防いだけど、空中でのほぼ爆心地という距離からの衝撃は耐えれずに地面を盛大に転がっていった。


 爆心地は黒い煙で辺りが見えなくなっている。

 加えて、その場一体の床や壁が崩れたのか煙が外に流れ出していた。


「まだ終わらねぇよな!」


 黒い煙の尾を引いてヤリヤが飛び出してくる。

 それに対し、盾を短剣に変えるとそれをヤリヤに向かって投げた。

 しかし、それらを平然と槍を振り回しながら防いでいく。


「そんな飛び道具で勝てると思ってんのか?」


「勝つためにはなんでもやる性分よ!」


 そして、近づいて槍を振り下ろしてくるヤリヤの攻撃を両手の剣で防いでいく。

 しかし、その後の猛攻と純粋な力の差に少しずつ押し込まれていった。

 不味いわね。純粋な力の差によってこっちが攻めあぐねいてる。

 はぁ、仕方ないわね。ドーピング使うしかないわね。


 私は剣戟の一瞬の隙を突いて両手の剣を再び短剣に変えるとそれを相手の顔面に向かって投げていく。

 それを相手は刃が交じり合う至近距離から平然と躱してみせた。

 だけど、それによる一瞬の視線の誘導が欲しかった。


 そのタイミングで私は腰のポーチに手を突っ込み、そこから一つの丸薬を取り出すとそれを口に含んで噛み砕いた。


「今度は至近距離から投げて来るか、どうしたもう終わりか?」


「うっさいわね!」


「っ!?」


 ヤリヤがなにを言ってたか知らないけれど、私は両手に大剣を作り出しそれをそのまま振り下ろしていく。


 相手はそれを槍を横にして受けたけど、顔の焦ったような表情からして恐らく予想外のことが起きたって感じね。


 私が口に含んだのはお手製の強力丸薬。

 摂取すれば一時的に筋肉への魔力吸収効率を高めて力を増加させてくれる。

 当然、その後の反動の筋肉痛がクソみたいに辛いけど仕方ないわ!


「ぐあああああああ!」


 ヤリヤは必死に堪えてるようで首筋にある刻印が光るのが見えた。

 なるほど、これがリツの言ってた......確かに光り出してから押し返す力が強くなった。


 だけど、そののけ反った状態じゃ力は入りにくいでしょ? 伊達に人体の勉強してないわよ。

 それにどの道あんたより先に床が持たないわ! そのまま落ちなさい!


―――バキッ、ドゴン


 床が凹み、ヒビが入っていく。

 そして、そのままその場が崩れると出た場所は1階の玄関近くのホール。

 広々として先ほどよりも戦いやすそうね。


 私は剣を振り下ろすと足場がないヤリヤはそのまま下に落下していく。

 しかし、体を方向転換させて槍を地面に突き刺すと同時に、そこを基点として自重を移動させながら距離を取っていった。


 そして、重たい大剣を魔力に戻すと私もその場に落下して着地していく。

 すると、相手が話しかけてきた。


「急に力が強くなったのは、さっきチラッと見えた丸い何かの影響か?」


「そうね。ま、さっきので決着がつけば万々歳だったけど。

 それじゃあ、そっちの質問にも答えたし、こっちの質問にも答えてもらうわ。

 私の仲間が突然国の大罪人となったらしくて、その経緯が全く掴めてないらしいのよ。

 それで思ったんだけど、それってあんたらが絡んでんじゃないの?」


 その質問にヤリヤはニヤリと笑って答えた。


「あぁ、そうだ。俺達がそうさせた。

 魔族との繋がりをごまかすために丁度良かったからなァ」


 微かな糸だけどどこかこいつらは関わってると思った。

 それはこいつらが召喚された国ではなく、わざわざこの国に滞在していると聞いた時から。


 こいつらの目的が他とも違うのもあるだろうけど、それ以上にあのままその国にいるとバレるのも時間の問題と判断したのだろう。


 だから、早めに逃げてさらには勇者という立場も利用して国に匿ってもらっている。

 それは全て自分達の利益のために。


 別にそれ自体を悪いと思ってるわけじゃない。

 少なからず、私の国でも似たようなことはあったから。

 人が人を出し抜いていく競争世界である以上、そういう企みは必要なのは理解している。


 けど、それはそれ。個人的な感情から言えば―――死ぬほど気に食わない。

 だから、別にあんた達は気にしないだろうけど、代わりにあたしがその恨み晴らしてあげるわ。


「そう。なら、リツ達の代わりにぶちのめしてあげるわ」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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