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第39話 同郷との対立

―――青糸蓮 視点―――


―――時刻18時39分 城門付近


 律から合図が来た。それに伴って城の周りにある結界魔法陣の一つについていた俺はその魔法陣に魔力を流し込み、同等以上の魔力で改変していく。


 確かに、律の言っていた通り魔力を流し込んだだけで魔法陣を書き換えることに成功した。

 別に疑ってたわけじゃない、さすがこの道の研究者だと思っただけだ。


 そして、相手も相手だ。結界が魔法陣から壊されることを想定していなかったのか、はたまた国にケンカ売る人間がいるのかということを考えもしなかったのか結界の魔法陣の近くに兵を置かなかったのは愚策だな。


 城を覆っていた結界が解除されたことはすぐに周りの兵士に知られた。

 そして、すぐさま俺を取り囲むように兵士が集まってくる。


「何者だ貴様!」


「名乗るほどでもない。単なる解放者だからな」


 俺は右手を左から右へと横に振っていった。

 それと同時に魔力で作り出した粘着糸で兵士を拘束、無力化させていく。

 さながら気分はスパ〇ダーマンだ。ま、能力的にもまんまそれだしな。


 結界解除が終わった後の指示は貰ってないが、恐らくここらで多少暴れた方がいいだろう。

 プランBでなくてもある程度は兵をこっちに集中させれば動きやすいだろうしな。


 そして、次々と集まってくる兵を糸で拘束して投げたり、接近して殴って気絶させたりしていると律から再び連絡が入った。


『全員、作戦をプランBに移行! 繰り返すプランBに移行だ!』


 プランBに移行、か。ということは、律は王を殺し損ねたってことか。別に責めてるつもりはない。

 ただあいつはリーダーとして頑張って前に立とうとするからな。

 こういう失敗があったのは逆に親近感が湧くってものだ。


 とはいえ、あの律が殺し損ねた相手となるとやはり王も何か力を隠していると考えた方がいいな。


『レン、一度城門前まで集まりましょう!』


『わかった』


 ウェンリからだ。

 確かにバラバラで戦うより共闘した方がお互いをカバーできるかもしれないしな。


 そして、俺は足早にここから離れると城門へと向かった。

 するとそこには一足先に兵士を迎撃していた木のお面をつけたウェンリの姿があり、こっちに気付くと近づいて来る。


「レン、連絡は聞いてるわよね?」


「あぁ、俺達の仕事は律がここに来るまでの時間稼ぎだ」


「まぁ、それでも王様が城に籠ってる最悪な状態が避けれただけでも良しとした方がいいわね」


「恐らくもっと戦いが激化してただろうしな。しかし、今も時間の問題だ。出来る限り早い到着を願う」


 それから、俺達は囲む兵士に対して出来る限り人死は出さないように倒していった。

 別に俺達は誰彼殺す殺戮者じゃないしな。今はその判断を下す時じゃないだけだ。


 それを数分続けていると一つの声が迷い込んできた。


「いや~、まさかそっちからお出迎えしてくれるとは思わなかったわ」


 聞き覚えのある声だった。

 なるほど、律から聞いた時は正直半信半疑だったが本当にいるとはな―――化叉来杜。


「もしかして遊びに来てくれた感じ? いいねぇ、そういうノリ良いの俺好きだよ」


 城の入り口から強者の風格をなびかせてゆっくりと降りてくる。

 その男の登場に周りの兵士の指揮が上がった。


「これで会うのは二回目かな。ほら、つい昨日コロシアムでさ。まさかこんなに早く会うとは思わなかったけど」


 コロシアム? そこにいたのは律だが......あぁ、こいつは俺と律を勘違いしてるのか。

 狐と蜘蛛のお面の違いでわかりそうなものだが、さしたる本人確認の証拠にはさすがにならないか。


 そして、勘違いしてるのはこいつらの常識からすれば律は戦力外認識らしいのだろう。

 ハッ、仲間のこっちからすればあいつが戦力外になること自体おかしいが。


「また、だんまりか。別にもう正体知ってるからよくね?」


「そうだな。とはいえ、なんでお前らがここにいるのかは甚だ疑問だが」


「そりゃ、あんな国にいたって面白いことなんもできねぇじゃん。

 勇者だからって行動を縛られてさ、日課のように繰り返される修行の日々。

 それって勉学中心から運動中心に切り替わった学校となんも変わらなくね?」


「お前達は初めの方から現れなくなっただろう? もとより心が腐ってただけだろ」


「その言い方は酷くね? 俺達だって突然こんな世界に来て戸惑ったもんだよ―――初めのうちは。

 でも、すぐにこの世界が俺達にとっての理想郷(ユートピア)だと気づいた。

 なんたって暴力が正当化される世界だからな」


 もとの世界のことからもこいつらの素行不良は目立ってた。

 噂話でも傷害事件を起こしたとかなんとかを聞いたことあるがその真偽はわからなかった。


 ただわかっていることは元の日本がこいつらにとって生きにくい世界で、今は自分の思ったことを好きに出来て力でねじ伏せられるこの世界がとても生きやすいのだろう。


「なるほど、大体理解できた。要するに子供だな、お前達は」


 抑圧された子供みたいな欲望を発散できるこの世界に来てしまったことがこいつらにとって良いことでしかないということか。


 今は本人すら自覚できていない暴走状態。

 それを止める人も、止めれる人もいないときた。


 俺の反応に薄ら笑いを浮かべていた化叉は真顔になると眉を寄せて一言だけ発した。


「ハァ?」


 しかし、すぐに冷静さを取り戻そうと両手で顔を覆うと頭を上に向ける。

 そして、落ち着いたのか顔を元の位置に戻すと眉と口角をヒクヒクと動かしながら告げた。


「やっぱ、クールぶっててキメぇわお前。

 動けないように半殺しにしたらそっちの女捕まえて目の前で犯してやるよ」


「品性が出てるぞ。それとも下半身に脳がついてんのか?」


「チッ、ぶっ殺す!」


 そう言って、化叉は一気に突っ込んできた。速度的には早くない。

 そういえば、律が“刻印が光ったら変化が起こった”とか言ってたな。


「ウェンリ、こいつの相手は俺に任せろ。周りの兵士が近づかないようにしてくれ」


「わかったわ」


 ウェンリをこの場から離脱させると腰から二本の短剣を引き抜いて逆手で構える。


「持ち方もカッコつけてんな!」


 化叉は腰から引き抜いた剣を上段に構え、そのまま大降りに振り下ろしていく。

 なので、それに合わせて体を半身にして避けるとカウンターを決めるように右手を振り抜いた。


 それを化叉は体を横に曲げてスレスレで避けていった。僅かにこいつの茶髪が宙に散っていく。

 しかし、その避け方は隙があり過ぎだ。


「ぐっ」


 俺は左拳をフック気味にして化叉の腹部に直撃させた。その瞬間、化叉の胴体が勢いよく吹き飛んで地面を転がっていく。


「チッ、痛てぇな―――っ!?」


「お前が望んだもんだぞ。キレてんな」


 化叉が地面に着地した先に素早く移動するとすぐさま回し蹴りで化叉の頭を狙った。

 だが、それは化叉が地面を横に転がって避け、起き上がりと同時に剣を振り抜いていく。


 それを俺は短剣で受け止めたが、その直後化叉の右手の甲が少しだけ光るのを目撃した。

 これが律の言ってた......くっ、急に力が増してきやがった!?


「っ!」


 俺はその剣に弾き飛ばされて吹っ飛んでいった。

 すぐさま体勢を立て直して着地したが、そこにはすでに化叉が剣を振りかぶっている。


「さっきのお返しだ―――死ね!」


「お前の言葉は軽いな」


「っ!?」


 化叉が振り下ろす直前、俺は奴の踏み込む右足に糸を張り付けて思いっきり引っ張った。

 その瞬間、奴は足払いされたような状態になりそのまま地面と平行になっていく。


 そこに錬魔で強化した腕力を活かしてそのまま思いっきり投げ飛ばしてやった。

 それに対しては、上手く着地できなかったのか奴は地面を転がっていく。


 先ほどの避け方といい、攻撃のおざなりさといいどうやらここで修行してきた違いが表れているみたいだな。


 化叉は地面に手を付けると起き上がった。額を切ったのか頬にかけて血が流れている。


「ハハハ、俺としたことがこんな雑魚相手に頭に血が上り過ぎてたな。

 逆にダメージ負ったおかげで冷静になれたわ」


 そういう割には目は先ほどから殺気に満ち溢れてる。

 先ほどの攻撃で人を殺すことに、それも知り合いを殺すことに何の躊躇いも感じられなかったとは思ったが......まさかそっちが本性じゃないよな?


「いいね、今日は最高の気分だ! 元の世界にいた頃から思ってたんだよね。お前ウザいなって。

 でも、あっちだと殺さなくても色々面倒じゃん?

 だから、こっちで殺せるのは本当にラッキーだわ」


 化叉はゆっくりと歩き始めた。

 構えすらせず無防備なほどに堂々と。

 それがハッタリじゃないことはもう奴の周りからあふれる異常な魔力でわかる。


「簡単に死ぬなよ? 死んだら仲間の女が犯されてる時の感想を聞けないからな」


 危険だ。そう思った時、化叉はもうすでに目の前にいて俺の腹部に思いっきりヤクザキックをぶち込んできた。


「がっ!?」


 直撃の瞬間にアバラが何本か折れたようなミシミシとした音がハッキリ聞こえ、内臓が傷ついたことを示すように喉から血が逆流してきた。


 化叉の動き出しが全く見えなかった。

 ただわかったことは右手の甲が先ほどよりもよりハッキリ光っていたことだけ。


 出来るだけ内臓の負担を減らそうとあえて地面を転がってそのまま奴から距離を取り、起き上がった。

 すると、またもや眼前にいる。そして今度は剣を振り抜いていた。


 俺は咄嗟に膝を折って体を大きく逸らした。

 鼻先数センチ前に剣が通り過ぎていく。だが、避けた。


 そこからすぐに体を戻し、左手を地面に置いて体を捻り、化叉の顔面を狙って蹴りを仕掛ける。


「軽いな」


 だが、それは左腕で受け止められ、そのまま足を掴まれると投げ飛ばされた。それで終わると思うな。


「っ!」


 俺は投げ飛ばされる直前に化叉の腕に糸をくっつけた。

 それは伸縮性のある糸にしてあり、投げ飛ばされたことを利用して、まるで弾いた水風船がゴムで元の位置に戻るように化叉にドロップキックをかましていく。


 それによって、化叉はいわばカウンターを貰ったような状態になって逆に吹き飛んでいく。

 地面を転がって寝そべる奴だがすぐに起き上がった。ホントに律の言った通り固いな。


「いいじゃん! 一方的はつまらないからな」


 そう言って奴は笑った。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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