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第38話 作戦開始

 東の空から明るくなる。作戦決行の日になった証である。

 僕はコロシアムに行くために、そしてその後の戦闘準備を済ませると一足先に宿を出た。

 すると、先に宿屋の前で待っていたヨナが声をかけてくる。


「ついにこの日になりましたね」


「うん、そうだね。もう決めた以上後には引けない」


「わかっています。ですが、リツさんは決して強い人ではないのでお気をつけて」


「そっちこそ。城に潜入する際には気を付けてね」


 短い会話。しかし、僕達には今更これ以上の言葉を重ねる必要ない。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 そして、僕はコロシアムに向かった。


――――武闘大会会場


 僕はお面をつけて戦いの場となる闘技台の上で他の選手と横並びになる。

 司会が会場を盛り上げるための紹介をしていたからだ。


 お面のおかげで視線がバレにくいことを利用して、王様が見るであろう一際高い位置にある観客席に視線を移すがそこは空の豪華な椅子が置いてあるのみ。


 その椅子の周囲に兵士も見えないことから王様が遅れて到着するというわけでもないのだろう。

 もし王様が座っていたらもうこのタイミングで城に襲撃を仕掛けているところだ。


 コロシアムから城まではそこそこの距離があるだろうし、それまでにあの四人なら仕事を終わらせてくれるはず。


 ただ当然不安要素となる不良グループの存在がある。

 そいつらの行動次第で状況も変わる可能性は十分にあるだろう。


 だから、もしそいつらと仲間が戦うことになれば生死を問わないとだけ伝えてある。

 僕が戦った化叉の感じからして相手は例え同じ世界から来た僕達でも簡単に殺せそうだったし。


『それではこれにて選手紹介を終わらせていただきます!

 それでは早速始めましょう第一試合ガンビエナ選手対――――』


―――そこから状況は全く変化せず、早くも決勝戦が始まった。


『それでは決勝戦です! 東門から現れるは冒険者ギルドに所属する孤高の天才戦士、否、自称騎士マクロドワ選手ー!』


 その昇華によって東門から現れたその選手は大きく手を振りながら闘技台に上がっていく。

 その登場に伴って聞こえる黄色の歓声と嫉妬のような怨嗟の声。


 マクロドワ選手甘いルックスでこのコロシアムの決勝戦に上がってこられるだけの実力者だけど、どうにもナルシスト性が強く女性好きのせいか、基本女性を侍らせているせいで女性からは男性アイドル的な扱いを受け、逆に同性からは今にも殺してやりたそうなブーイングが日常で鳴り止まないとか。


 そして、今日も今日とて女性の声に交じってブーイングが聞こえる。

 ちなみに、会場にいる約四割の女性はマクロドワ選手たらしい。

 これは控室で他の選手同士の話を暇だから聞いてただけの情報。


『次に西門から現れるは突如としてこの大会に現れた正体不明の青年!

 お面の下には一体どんな素顔が隠されてるのか気になります!

 今大会のダークホース! イカナ選手ー!』


 なんか僕の紹介だけ長かったな。さては司会者もマクロドワ選手が嫌いだな?

 そして、僕が闘技台に上がると少ないが女性の声とそれを覆い隠すような男の声援がのしかかってきた。


 大方マクロドワ選手が嫌いな人達が妬む想いを勝手に代理代表として担ぎ上げた僕に託しているのだろう。

 僕が勝てば遠回しにマクドロワ選手に勝った優越感が得られる、と。


 当然僕はそんな想いを背負うこともなく、お面の下から向ける視線は常に王の観客席。

 しかし、未だ姿を現す気配はなし。


 このことは想定内だけど少しばかり焦りが募る。

 皆はいつでも動き出せるように待機してるが、緊張感というのは抱えてるだけで疲労感を与えるので出来れば持つ間に来て欲しいものだ。


 さて、マクロドワ選手がなんかこっちに話しかけて来るが適当に返事して聞き流そう。

 で、戦いが始まれば王様が来るまでの時間稼ぎをしていく。


 マクロドワ選手の攻撃を躱したり、時々受けたりして攻防しているかのような演出をしていく。

 そうして数分後、僕の耳に仕掛けた<念話>の魔法陣が発動した。


『城に動きがあった。王がそっちに向かったぞ』


『了解。それじゃ、そっちもいつでも行けるように準備しておいてくれ』


 蓮からの王様が向かっているという情報。

 それまで、少しこっちのターンとさせてもらおう。


 僕はマクロドワ選手が安易にまるで決着をつけるかのような大技を出さないように細かく攻撃を入れていく。


 もともとさっきまではマクロドワ選手の方が攻勢に出てたし、ちょうどいい塩梅の戦いになるだろ。


 その間も注意を王の観客席に向けてるとそこに黒鎧の兵士と王様らしき人物が現れ、その人物は椅子に座った。


 まぁ、このコロシアム自体王様の催しみたいだからね。出なきゃ国民の皆は不信感を持つだろう。

 いくら自分自身が不老不死になるとも、民の信頼無くしては国は成り立たないもんね。


 これで条件は整った―――作戦開始だ!


 僕は全員に作戦開始の合図を伝えるとしばらくは戦いを見てもらうことで時間を稼いでいく。

 正直、突入組の方の様子がわからないのが不安だけど、皆の頑張りに託そう。

 そして、僕も次に動けるように決着をつけよう。

 そろそろ城の様子を伝えに来た兵士が現れてもおかしくないしね。


 僕は適当にマクロドワ選手をノックアウトさせるとそのまま勝負を終わらせた。

 その瞬間、優勝者が現れたことに観客席からは盛大に歓声が上がる。主に男だけど。

 すると、司会が優勝者に与えられた特権を言い始めた。


『それでは代々大会優勝者には王様にこの場で直訴が行うことが出来ます。

 前回優勝者はこの国一番の鍛冶師から無償で剣を作ってくれることを頼みましたが、今回優勝者は何をお願いするのでしょうか』


 その時、王様に一人の兵士がやって来てしゃがんで姿を消した。恐らく跪礼してるのだろう。

 そして、王様の様子を聞いていると表情が変化していくのがわかる。


『それでは、王様へお願い事をどうぞ!』


 そんな司会の盛り上がりの口調の最中、王様は席を立ちあがり何かを準備し始める仕草をした。

 なんだろう、凄く嫌な予感がする!

 そう思った僕は一瞬でも注意を引くために王様に直訴した。


「王様、僕はこの国一番の獣人の姫を譲り受けたいです」


 その言葉に会場がざわめくとともに、王様の動作が止まり僕を見た。その瞬間を待ってた。


 僕は足もとに転写した<豪脚>の魔法陣と自身に張り付けた<身体強化>の魔法陣を併用して闘技台から直接王様のいる観客席へ跳んだ。


 そして、右手に持つ剣を左腰に携えると左手をそっと添えて居合斬りのか前に移行する。

 王様の間合いに入れば現状最速の抜刀を見せてやる!


「我流居合―――流麗っ!」


 その刀は僕の腕の振りに合わせて王様の首めがけて動いていった。

 それに対し、王様は未だ反応できていない。


 確実に首を狩れる―――そう思ったその時、王様の鎖骨の中心が光を放ち始める。

 その直後、王様は驚異的な反射速度を見せて首の皮を薄く斬らせただけで避けてみせた。


 まさかこの王様も化叉と同じ!? いや、その可能性は考慮できたか。だけど、次は避けられないはず!


 僕はそのまま王の観客席の背後にある壁に突っ込むと体を反転させながら、その壁を蹴って二撃目を加えようとする。


 しかし、その攻撃は空振りに終わった。

 王様が突然目の前から消えたからだ。

 今のは転移魔法!? 行く先は決まってる! 城の中だ!


『全員、作戦をプランBに移行! 繰り返すプランBに移行だ!』


「何者だ! お前は!」


 僕が情報伝達に一瞬気を取られていると黒鎧の男が体験を軽々と振り回して振り下ろしてくる。

 その攻撃を刀で受けるものの、勢いはそのままに闘技台の方へと落とされていった。


 体勢を立て直しながら闘技台に着地するとその男も高さ二十メートルはありそうな王の観客席から平然と同じ場所に降りてきた。


「俺の名前はハンブルク帝国騎士団長ドイル=ルーゼルトだ。お前の名は?」


「イカナだ。理不尽を開放する悪役の偉業(ヴィランレコード)の一人だ」


 僕は強気に言い放つ。

 こういう相手は気持ちで負けた時点でおしまいだから。

 それにしても、この男、強いな。

 あの村の時の騎士と同等ぐらいか。

 ということは、この男も体のどこかに刻印があったりするのか?


「なぜ王の首を狙った」


「ただ当たり前の普通を享受したい人達がそいつのせいで不当に命を奪われるからだ」


「王がそんなことを? するはずないだろ!」


「なら、なぜこの国に奴隷制度がある?

 聞けば村を襲った盗賊によって捕かまえられ売られた獣人やエルフの子達もいるみたいじゃないか。

 その制度を実行している王様がなぜ悪ではないと言える?」


「......そうだな。お前の言葉は一理あるかもしれない」


 ん? ガタいもいいし、騎士団長ってくらいだからてっきり話が通じない相手だと思いきやそうじゃないみたいだ。


「確かに俺が住む国ではそういうことがあり、俺もこの肩書きにつきながらそう言うことについて黙認していた事実は認めよう。

 だが、この国には王無くして動かない。この国を率いる王は必要だ。そのために俺は王を守る」


「その王が今にも一国の姫を使って禁忌の儀式を冒そうとしていてもか?」


「それがお前の、いやお前達の目的か。一考の余地はあるのかもしれない。

 だが、それするまでにお前達への信用がない。悪いな、融通が利かなくて」


「いや、それが騎士の矜持だとすれば仕方ない。僕はお前を倒して城に向かわせてもらう」


「なら、俺はお前を倒して王を守る」


****


―――花街薫 視点―――


―――城近くの空中


 僕、ルーク君、アイちゃん、ヨナさんの四人はあらかじめ<気配断ち>の魔法陣を体に付与して、律君からもらった空飛ぶ葉っぱの上で合図を待機していた。


 襲撃の緊張のせいか皆口数が少ない。

 そういう僕も喉がやたら乾いて、そのくせ手汗で手が湿ってる。


 作戦開始が律君に付与された魔法陣を通して聞こえてくる。

 それと同時に蓮君とウェンリさんが結界を解除したらしく、城を覆っていた薄い膜は一瞬にして消えていった。


「行くよ」


 そう皆に声をかけると僕は葉っぱに手を触れてそのままホバー移動させると城の屋根に乗り移って、一気に窓から侵入した。

 それからすぐに二手に分かれていく。


「それじゃあ、私達は下に向かうわ。そっちも気をつけなさいよ」


「行ってくるなの」


「うん、気を付けて」


「姉上は必ず助ける」


 そして、ヨナさん......から人格移行したから今はセナさんか。

 セナさんとアイちゃんは下に向かう階段を目指して廊下を走り始めた。


「それじゃあ、僕達も行くぞ」


「うん、案内よろしく!」


 ルーク君の鼻頼りに僕達は城の中で王女様を探し始めた。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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