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第37話 作戦前夜

 武闘大会本戦前日。

 つまりは作戦開始の最終作戦を伝える夜は全員が緊張感を帯びていた。

 帝国は夜遅くまで賑わいの声が聞こえてくる。

 しかし、それとは対照的なほどにこの一室は静かだった。


「それじゃ、明日の作戦を伝えるよ」


 僕の言葉に全員がコクリと頷いた。それを確認すると僕は作戦内容を伝えていく。


「まず作戦の大まかな流れは僕がコロシアムに出場して王様と対面する一方で、王様がいなくなった空の城に突入組の数名が侵入して王女様を奪還という流れ」


 しかし、これには王様の動き次第で大きく流れが変わることになる。

 僕は人差し指を立てると伝えた。


「だけど、想定外の流れが来る可能性もあるだろうからこの作戦については3つ考えた。

 まずは王様が順当通りに本戦を見に現れた時、その時に僕が王様をそのまま殺せたら連絡は送らないからこの作戦をプランAとして王女様奪還に尽力してくれ」


 次に中指を立てる。


「次に僕がなんらかの形で王様を殺し損ねた場合。

 その時はプランBとして作戦を移行するが、内容的には結界を解除した人達が周りの兵士の注意を引いて欲しい。

 その間に僕が城へと向かってきっと城に逃げるだろう王様の殺し損ねたツケを払おうと思うから」


 最後に薬指を立てる。


「そして、最後は最終手段のプランCだ。これは王様が本戦には来ずに城に引きこもっていた場合。

 本戦優勝者にはその場で王様に直訴できる権利を持つことになるらしいが、その時までに王様が現れなかったら全員で強行突入して王女様を奪還する。

 これは余計な殺しをしなければいけない作戦だからできれば避けたいけど、王様の行動次第ではそうなる可能性は十分にあるから気を付けて」


 僕が3つのプランを伝えると蓮が手を挙げたので発言権を譲った。


「突入組は考えてあるのか?」


「一応ね。僕的には突入組は薫、ルーク、アイ、ヨナ......いや、この時はセナか。この4人に行ってもらおうと思う」


「ぼ、僕!? 蓮君じゃなくて!?」


「薫は僕の次に魔法陣について理解している。

 そして、王女様を拘束している道具に魔法陣が使われてないはずないからね。それを解除して欲しい」


「でも、僕は律君みたいに複雑な魔法陣は知らないし......」


「大丈夫。解除は僕がやる。薫には僕の指示通りに動いて欲しい。そうすればきっと大丈夫」


「リモート爆弾解除かぁ。それはそれで不安だけど信じるよ」


「ありがとう。現場では任せたよ」


 僕と薫の話がつくとウェンリが当然の話を聞いてきた。


「にしても、突入組にアイちゃんを連れて行くのは危なくない?」


「アイは大丈夫なの!」


「あぁ、それについては心底思う。ましてや僕がアイを選択するなんて......って皆も思ってるだろうね」


「アイは大丈夫なの!!」


 アイが自信満々に主張してくる。

 強気な目が思ったより強気に見えなくて可愛らしいけど、今は少し頭を撫でて落ち着いてもらおう。


「僕は蓮達から聞いた伝説の話から思ったことがあったんだ。

 それは生贄になる命が恐らく王女様一人ではないだろうってこと」


「他にも普通の獣人の方がいるかもしれないということですか?」


「うん、少なからず僕はそう思ってる。

 まず不老不死の儀式をやろうとして、その力を得るための対価を王女様とはいえたった一人の命から得られるはずはないと思うんだよ。

 高い報酬にはそれに伴う高いリスクと対価を払う必要がある。それが禁忌魔法に関することだとすれば」


 僕は撫でられて目を細めるアイを見る。

 もしかしたら同じ年齢ぐらいの子が犠牲になってるとすれば、酷く心を締め付けられる思いに駆られ王様には殺意が湧く。


「ルークとアイは獣人特有の鋭い嗅覚と聴覚でもって一人は王女様奪還へ、もう一人は恐らく地下方面にいるであろう獣人の子達を助け出して欲しい」


「であれば、姉上を助けに行くのは当然僕だろう。

 並びに、姉上の拘束を解くなら僕が組むのは薫か。姉上のことをよろしく頼む」


「うっ、そんなプレッシャーかけないで。頑張るけどさ」


「それじゃあ、アイはヨナお姉ちゃんとなの!」


「よろしくね。アイちゃん」


「そして最後に、侵入の仕方は薫に一任する。ま、そのためにいいものは渡したしね」


「ぐっ、頑張ります!」


 これで突入組の人選は決まった。すると、康太が残りのメンバーについて尋ねてくる。


「それでおいら達は?」


「蓮とウェンリは『不信の箱庭』の解除に回ってくれ。

 複雑で時間の都合上二つしか作れなかった。

 だけど、幸い結界の魔法陣は四つだから二人には残りの魔法陣の解除を頼みたい」


「魔法陣解除なんてやったことないんだが......」


「設置されてる魔法陣の解除はそれほど難しくない。

 その魔法陣に流し込まれてる魔力と同等以上の魔力を流し込んで適当に一部を書き換えればいいだけだから。

 僕が陣魔符で流し込めれるレベルの魔力量だったから二人なら問題ないはず」


「それってあなたのバカみたいに多い魔力量と比べられても困るんだけど。

 ただまぁ、やらなきゃ突入組は入れないわけだしね」


「その後にプランBの場合は兵士の注意を引くか。わかった、任せろ」


「うん、任せたよ二人とも」


「そんでおいらは?」


「康太には申し訳ないけど、本作戦とは別に奴隷の子達の安全確保を頼みたい。

 今は結界で上手く隠してるけど、本番当日には何が起こるかわからないし、王女様を助けたらそのまま馬車に向かって逃げるつもりだからね。馬車の整備の方も頼みたい」


「了解。確かに重量級のおいらじゃその作戦は合わなそうだし、守る方が性に合ってるしね」


 これで全員に作戦と指示が行き渡った。

 しかし、ここからはまだ話してないこと。

 加えて、不安要素でしかない情報だ。


「ここで一つ僕達にとってあまり良くない情報がある」


「良くない情報ですか?」


「あぁ、ここに不良グループの三人がいる」


「「「なっ!?」」」


 その言葉に反応したのは当然異世界組の三人であった。

 残りの女性陣は内容についていけずキョトンとした様子なので一応説明しておこう。


「そうだね、簡単に言えば僕達と同じ勇者として召喚された()仲間だ。

 そして、そいつらが今回この作戦に関わってくるだろう」


「なぜあいつらが......俺の蜘蛛の索敵にも引っかからなかったぞ?」


「それについてはわからない。ただ予選でこっちを探るように現れた化叉に妙な刻印のようなものがあった。

 それは村を襲った首謀者であり、僕が殺した聖王国の騎士が首筋にあったのと似たようなもので、それが光ると相手の身体能力及び力、速さが急激に跳ね上がったんだ」


「あの三人は基本三人一緒でつるんでるし......他の二人にも似たようなものがあると考えた方がいいかも」


「それじゃあ、僕達の作戦にその不良グループとやらが邪魔立てしてくる可能性があるということか?」


 ルークの言葉に僕はコクリと頷いた。


「だから、僕達は王様の動向を把握し、それに伴った作戦を実行し、恐らく邪魔してくるだろう不良グループを対処して王女様を助け出すということになる」


 僕はこれまでの内容を踏まえてやるべきことを簡単に伝えたが、もう既に自分の仕事が明確になっている文全員の表情は硬い。

 しかし、その目から弱気になっている人は見られず、各々が覚悟を決めた様子で僕の方を向いていた。


「これは僕達がやってきた中で一番初めの大きな偉業になるだろう。

 だけど、これはあくまで通過点に過ぎず、僕らはもっと大きな偉業をこの世界に刻んでいく。

 国を襲撃するとなればもはや立派な悪だけど、僕達はその泥を進んで被ることはとっくの昔に覚悟したんだ。

 世界が僕達を悪役と定めるなら、いっそそれ通りに動いてやろうじゃないか!」


 皆が息を飲むのがわかる。


「作戦開始はは明日。

 タイムリミットは満月が太陽を飲み込み、夜の世界に輝く時。

 その時間に、歴史に僕達の行動を見せつけてやるんだ。

 この世界に悪役の偉業(ヴィランレコード)を刻め!」


****


――――城内のとある塔


 その塔には両手を空に浮かされるように手錠がされて、さらにはまるで吊るすように首にも拘束具はつけられた狐の獣人の女性がいた。


 その女性はただぽっかりと開けられたような四角い吹きっさらしの所から夜空に見える月を眺めた。


「ほとんど真ん丸やないの。いよいよ猶予がなくなってきたってことやなぁ」


 その声色は芸者のように上品で大人の女性を思わせる口調ながら、その端々からは僅かに震えがあった。


 彼女は自分がどういう運命になるのか知っているのだ。

 それはもう顔も見たくない王から意気揚々と聞かされていたから。


「父上様、ルーク.......元気にしとるやろか。心配させてるやろうなぁ。国の皆もほんま堪忍なぁ」


 一体この場所にいつからいてどのくらいの月日が経ったのかもわからない。

 生かされるように食事を喉に押し込まれ、吹きっさらしの所から幾度とない昼夜の移り変わりを眺め続けたか。


「はぁ~、さすがのうちもしんどなってきたわ。

 いくら強気にいてもこう残り時間が差し迫ってくるとダメやな。死にたくない」


 枯らしたはずの涙が流れてくる。孤独な夜がより一層自身の現状を惨めに感じさせる。

 そして、ふと心に抱くのは幼き日に呼んだ人族にある王道の恋物語。


「こういう時、やはり助けに来てくれるんは国の勇者? それとも兵士? はたまた異国の旅人?

 ま、なんにせよ、うちの童心が囁くわ。きっと勇気ある男性が救いに来るって」


 拭うことも出来ない涙をそのままに再び満月を見た。

 そして、その月に仮想の男性像を思い浮かべ、昔母に教えてもらった歌をそっと口ずさむ。


「狐火帯びた狐の子。とある男の子に助けられ、彼とともに成長す。

 ある日異国の旅人が、手に持つ異国の本を売り、狐の子がその本を買うたんよ。

 その本、不思議なことがたくさんあり、その中で一番惹かれたんは空を彩る幻の橋。

 狐の子、想いたる男の子にその橋で想いを告げたると決意する。

 日差しが注ぐ心地よき日、狐火操り雨降らし、空に掲げたる七色の橋。

 その橋で想いを綴る狐の子、それを受け取りし男の子。

 輝く空で降る雨。嫁入りたる証」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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