第36話 予期せぬ対面
化叉来杜―――僕と同じ日本からの転生者であり、クラスメイトの一人だ。
性格は陽気で、不良グループと称される北谷重太と槍弥廉次とよくつるんでいる相手。
そんな相手がなぜここに? まさか他のクラスメイトもこの国に滞在しているのか?
いや、あいつらがそんな勇者サイドにつくとは思えない。
ということは、何らかの形で僕達と同じようにクロード聖王国から抜け出してきたってことかな。
それにあいつの手の甲にある入れ墨というか紋様と言うかそんなものをどこかで見たことある。
確か、村を襲った強い騎士が首筋にあったような......。
「ほれほれ、盛り上がってる~? 実はサプライズゲストとして登場してたんだ」
化叉は観客席に手を振りながら愛想を振りまいている。
その行動に対し、観客の反応は楽しんでいるか不信感を抱いているかで二分化してる反応だ。
「おーい、今日も華麗にやっちゃってくれよ!」
「今日は誰に化けるんだ?」
「聖王国の騎士がこの国に立ち入って何の用だ!」
「どうやって帝国城に侵入した!」
帝国城に侵入......? いや、あれはあくまで悪意的な言い方だから、簡単に言い直すと「どうやって王様に取り入ってもらえた」か。
確かに、化叉はよそ者もよそ者だ。そもそも世界からして違うし。
加えて、国なら他国の情勢は気になって仕方がないはずだ。
勇者が召喚されたという情報ならなおさら。
となれば、聖王国も勇者の召喚を公表していたことだし、化叉が聖王国の勇者の一人として認知されるのは絶対。
なら、普通勇者の一人としてならば帝国の人達にここまで言われる必要はあるのか。
まぁ、それは帝国がどのような思想を持っているか知らないし、知る気もないから何もコメント出来ないけど。
少なからずわかっていることは、ここに化叉がいるという事実。
そして、こいつが一人で行動していると考えにくいから、恐らくこの国に残りの二人も存在しその二人は王の城にいる。
「まぁまぁ、そんなに声援くれなくても大丈夫だよ。俺は本戦には出ないし」
その言葉に会場がザワつく。
しかし、化叉は変わらずひょうひょうとした態度で腰から剣を引き抜くとその剣先を僕に向けた。
「皆も気になってんじゃない? この仮面の男の本当の実力を。それを俺が暴いちゃおうかなって」
本当の実力だって?
化叉はお面の中身が僕だってことに気付いているのか?
それとも単なるブラフか?
ただわかったのはずっと見てた奴はこいつだったってことか。
僕の索敵もまだ発展途上とはいえ、相手もそれなりに潜伏技術を心得てるみたいだ。
お面をつけて表情が見えないのが幸いだったな。
昔っから顔に出やすいって言われるし。
「あれ? だんまり?」
僕はお面を付け直す仕草と同時に喉に<変声>の魔法陣を仕掛けた。
条件は僕自身が魔法陣を解除するまでにしたので勝手に効果が切れることはない。
「......さっさと始めよう」
低めの声で返答した。
予選で誰とも会話せずに静かにしていたので元の声はバレてないはず。
そして、その判断が成功したように化叉は読みが外れたように首を傾げた。
「ま、いいや。確かにあんまり皆を待たせちゃあれだしね。やろうか」
その瞬間、化叉の雰囲気が変わった。
対人戦で臆さずに前のめりになる姿勢。こいつ―――人を殺した経験があるな?
『それでは第7回戦始め!』
会場アナウンスとともに銅鑼が鳴り響く。
それと同時に化叉が素早く接近してきた。
見切れない速度ではない。
化叉が振るってきた武器を剣で弾き返す。
すかさず回し蹴りをしてきたので、それも膝を上げて受け止め、反撃とばかりに左フックで攻撃していく。化叉はその攻撃を避けるように距離を取った。
完全にこっちの力を測りに来てる。それに何の意味があるのか。
あいつの薄ら笑いを浮かべた表情からは読みづらいが......下手に手出し過ぎると手の内がバレる可能性があるな。転写は封印しよう。
「火球弾」
僕は手のひらから<火球弾>の魔法陣を作り出し、それを化叉に向かって発射していく。
それに対し、化叉は少しがっかりした様子で告げた。
「え、何それ舐めてんの?」
まぁそりゃ、剣士が魔法を使うとして火球一発ってのはそう捉えられるだろうけど、僕的には普通に魔法を使っているように思われればそれでいいわけだし―――それから、お前からはあの騎士と同じ匂いががする。
「っ!―――火球が暴発した!?」
火球を途中で暴発させるとそれによってできた黒煙を利用してその煙に紛れ込む。
「なるほど、煙に紛れたわけね! でも、ある程度反応できれば俺にも対応―――」
僕は一瞬だけ緩急を入れて煙から斬り込むようなフェイントを化叉に仕掛けた。
それに釣られた化叉は咄嗟に横に剣を構えるが、残念ながら僕は背後にいてしゃがんでいる。
そして、そこから一気に切り上げた。
「っ!?」
しかし、その攻撃は防がれた。普通じゃない反応速度で。
もしこれが予選通りの相手ならこの時点で決着がついている。
だけど、化叉のやつは俺の剣先が数センチで背中に届き得るというタイミングで見せたことない速度で反転し、その攻撃を剣で受け止めた。
受け止める際に衝撃を減らすように後ろへ跳んだのかそのまま距離を取ると相変わらずのひょうひょうさで告げる。
「いや~、危なかった~。危うく重たい一撃貰っちゃうところだった。
ま、別の俺的には負けても問題ないんだけど、さすがにこの負け方だとかっこつかないじゃん?」
ん? 手の甲の刻印が妙に青っぽく光っている。
その光は弱弱しいが、鎧に反射してるから間違いないだろう。
あの刻印が先ほどの反応と関係しているのか?
戦闘に余裕が出来たからわかったことだけど、もしかしたらあの騎士との戦いの時も変化が起きてたのかもしれないな。
「だから、少しだけ力見せて上げるよ」
そう言って化叉は真っ直ぐ飛び込んできた。
しかし、先ほどよりも明らかに速くなっていて、振り下ろしてきた一撃を剣で受け止めたがこれも明らかに重さが増した。
「へ~、これ受け止めちゃう。君って相当の実力者だね」
そして、そこからは剣戟が始まった。
互いに剣を振り回し、刃を交え、躱し、体勢を崩そうと足払いしたり、隙を突いて拳を振るいあう。
故に、通常の剣戟とは大きく異なるだろう。
加えて、相手がケンカ殺法に剣を合わせたようなスタイルだから余計にそういう戦い方になる。
無駄な動きが大きい分躱しやすいけど。
すると、そのやりとりの中で随分と余裕があるのか化叉が話しかけてきた。
「そういえば、君の武器って刀だけどもしかしてこの世界にも侍みたいなのっている感じ?」
「......」
「できれば会ってみたいんだよね。ま、君の剣の振り方からして侍とは違うみたいだけど」
「......」
「そうそう、実はこの前さ面白い人を見かけたんだよ。冒険者ギルドにさ甲冑を着たデブを」
「......っ!」
その言葉に少しだけ振るう重さが上がってしまった。
そして、それを敏感に感じ取ったのか敢えて鍔迫り合いの状態に持ち込んだ化叉はニヤッとした顔で告げる。
「今、動揺しなかった?」
「......俺の仲間にも似たような人物がいるからな。
もし仲間を侮辱されたとなれば仲間として看過できない」
「うおっ!?」
僕は化叉の剣を弾いて上体をのけ反らせると腹部に左手の掌底を押し当てた。
「掌底波」
「グフッ!」
化叉を勢いよく吹き飛ばし、会場に寝転が背ていく。
ちなみに、今のは技っぽく適当にパッと思いついた名前を言っただけで、実際はただ直接<衝撃>の魔法陣をちょっと強めの火力でぶち込んだだけである。
しかし、もし仮に化叉があの騎士と同じ防御力を誇っているのならいくら浸透系攻撃とはいえダメージはあまり通っていないだろうね。
だけど、化叉は起き上がる様子はなく、剣を空に突き出して白旗を振るように振り回し始めた。
「降参、降参~。負けちゃったよ~」
化叉が負けを認めたことで勝負の終わりを告げる銅鑼が鳴り響いた。
その音を聞いた瞬間、その場で跳ね起きると会場に向かってしゃべり始めた。
「どうだったかな? 彼の実力は? 俺的には少なからず手抜きしてたらまず勝てないってことだね。
これは賭けの倍率に大きく影響する情報だから、今日の結果を踏まえてよく考えてみてね~」
まるで裏でその賭け事の糸を引いているのは自分みたいな感じに聞こえるが、コイツの場合だとその可能性がなくはないってのが恐ろしいな。
「それじゃあな、どこぞのクールぶってる旅人。」
そう言って帰ろうとする化叉であったが、何かを思い出したようにふと立ち止まると僕に告げてきた。
「あ、ちなみに、俺達が本気出したら絶対に勝てないから」
「......どういう意味だ?」
「別に~。もう会わないならどうでもいいっしょ」
そう言う割には目だけは本気だったじゃないか。
つまり、化叉は冒険者で見かけた康太の存在を餌に揺さぶりをかけ、頭の中にあった疑念がある程度確信的になったってことか。
だけど、恐らく化叉は僕のことを蓮だと思っているだろうな。
蓮の方が光に照らされると少し青みがかって見えるけど結局黒髪だし。
ということは、逆に僕の存在は戦力外として数えられてないということになるけど。別にいいけど。
しかし、これはかなり面倒なことになったな......。
*****
―――城内
コロシアム予選から帰って来た化叉来杜は城内の兵士から槍弥と北谷の居場所を聞き出し、部屋に向かうとドアを蹴破って勢いよく登場した。
「たっだいま~......って相変わらず爛れてんねぇ」
化叉の目の前には二人に貪り食われたかのような多くの女性がぐったりと倒れている。
そして、部屋の中は換気がされているにもかかわらず酷い精と色のついた煙が出るお香のニオイで充満していた。
「おう、お前も混ざるか? 余りもんしかねぇし、もう大抵反応しないが」
「嫌だよ。俺ってお古に興味ないし。それに重太のお古とかなおさら」
「んだと?」
「それよりも面白いことがあったんだ」
「面白いことだぁ?」
ベッドで大の字になって横になっている廉次がそう聞くと来杜はニヤリとした顔で告げる。
「どうやらこの国に俺達の罪を被ってくれた濡れ衣君達がいるみたいなんだよ。それも少なくとも一人は女はいて」
その瞬間、廉次は起き上がり笑みを浮かべて告げた。
「んじゃ、今度は俺達のおもちゃになってもらおうか。暇潰しにな」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')