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第35話 王の目的とXデー

「王様の目的がわかったって本当か?」


「あぁ。といっても、断定はできないがな。この国の奴隷制度と関連付けて判断しただけだ」


 急いで帰って来た蓮達の突然の言葉に僕は驚きつつも、すぐさま思考を切り替えると蓮にその言葉の続きを促した。


「とりあえず、続けて。どうしてそう判断したのかを」


「あぁ、まず初めにこの国の王が獣王国の姫を狙った理由だが、それは恐らくとある伝説によるものだと思われる」


「とある伝説?」


「それはこの『神謳獣姫伝説』という本によるものだ。

 その物語の主人公は獣王国の姫で、姫が様々な苦難に立ち向かいながらやがて全ての民を救うために人柱になるという話なんだが、恐らくその物語の最後の部分がキーになっている」


「その最後の部分て?」


 ウェンリの言葉に蓮は「とりあえず読んでみるから聞いてみてくれ」と返答すると借りてきた本を床に置いて、全員がその本に顔を突き合わせるように囲うと蓮は音読し始めた。


「『その姫、万民の苦しみがこの世界の神罰なるものと気づくとその身を捧げることで全てを救うことにした。

 姫は邪を払う光を放つ円なる夜、祭壇にて儀式を取り行う。

 儀式台の中心にてその身に刃を突き立てると儀式台に鮮血が流れる。

 しかし、その命は不幸の最中の幸いか、はたまた神の慈悲なるものか光に清められたる肉体と神の供物たる鮮血は姫の体を人をならざる存在へと昇華させた。

 その姫の祈りは民を救い、悪しき空気を打ち払い、国の繁栄を与えた。

 姫は国の象徴として崇め奉られ、人ならざる姫はその命を時間を数百年と伸ばし、国の栄枯盛衰を見届けた』ってものだ」


「なんとも不思議なお話ですね。姫様の命が助かったというのが唯一良かったと思いますが」


「伝説はどれもこんな感じであろう。人族の図書館でも伝説類の話はどれも似たり寄ったりだったしな」


 ルークの言葉にヨナは「なるほど」と頷いた様子であった。

 鬼人国ではそういった伝説がなかったんだろうか。

 もしくは触れる前に国が消えてしまったか。

 ひとまず、その思考は隅に置いておくと改めて蓮に根拠を尋ねた。


「それでこれが王様の目的の根幹か? まだ判断材料として弱い気がするけど」


「確かにこれだけじゃどうして数多の可能性の中でこれだと判断したかわからないと思う。

 だが、俺が城の中に潜入させた蜘蛛が王の隠し部屋から研究物を発見した。

 そして、魔法陣について研究してるお前なら何か心当たりがあるんじゃないか?―――“死拒永生隔絶陣”という言葉に」


「なっ......!」


 その言葉に僕は思わず驚きを隠せなかった。

 その僕の反応を蓮、薫、ルーク以外の全員が不安そうに見つめてくる。

 恐らくその三人は言葉からおおよそを察したのだろう。


 確かに僕は知ってる。

 しかし、試そうとは思わない禁忌の魔法陣だ。

 それが本当だとすれば絶対に阻止しなければいけない。

 僕が思い詰めたような顔をしていると康太がその言葉について尋ねてきた。


「それでその言葉はどういう意味なの?」


 ウェンリの言葉に僕はハッとして「あぁ、そうだな」と返答して言葉を続けていく。


「それはいわゆる禁忌魔法陣の一つだ。

 言葉の意味は『死拒』が“死の拒絶”。そして、『永生』は“永遠の命”。

 それは本来輪廻転生という理からは逃れられないものだけど、それを魔法陣によって強制的に隔絶する―――つまりは不老不死の魔法陣さ」


「そ、それでは、まさか王女様は王様の不老不死計画のための生贄として!?」


「その言葉から判断するとね」


「ただ、それらに関する文献を調べてみると全て純潔な生贄が必要とされているみたい。

 だから、少なからず変なことはされてない......と思う」


 薫の最後の言葉が尻すぼみになった。

 まぁ、あくまで考察でしかないからな。断言できる根拠はどこにもない。

 すると、その話を聞いていたアイが薫へと質問した。


「結局、どうしてえっくすでー? が満月の夜ってわかったの?」


「それは先ほどの伝説によるものだよ。

 王様が伝説になぞらえて王女様を攫ってきたとすれば、当然伝説通りに計画を進めようとするはず。

 でなきゃ、わざわざ危険を冒して獣王国の姫を選ぶ必要も無いしね。

 そして、月には悪しき存在を払う力があるとされていて、伝説から『円なる夜』とあったから月が円になるのは満月の夜だよねってこと」


「なるほど~。また一つ賢くなったの!」


 アイが薫の言葉に納得したような反応を見せる。

 ハハッ、こういう時にアイの存在には助けられるな。

 すると、康太が王様の行動に難色を示すような言葉で告げる。


「にしても、どうしてこういうことを平気でやれるんだろう?

 本当に他の種族の命を軽く見てるとしか思えないんだけど」


「それは考えるだけ無駄ってものだ。

 俺達と王とじゃ考え方そのものが全く逆だからな。

 加えて、その魔法陣が成功したっていう事例もあるしな」


「そうなの?」


 蓮の言葉に康太が反応する。

 しかし、蓮自身はその成功例の信ぴょう性を信用していないように言葉を告げた。


「俺達の世界にだって人造人間(ホムンクルス)の成功伝説があるだろ?

 その昔、パラケルススという錬金術師がなんやかんややって人造人間(ホムンクルス)を作ったって。

 だが、それによる方法でその後成功した人物は誰一人としていない」


「確かに。だけど、自分なら出来るかもって特殊な思考を持つ人にとっては感化されてもおかしくはないと」


「ま、唯一俺達の世界がいたのと違う点はこの世界には魔力という物理法則を無視できる物質があり、さらには魔法によって万物変換が出来てしまうことだがな」


「とにもかくにも、僕達はそれを阻止しなければいけないってこと」


 少し話が広がり過ぎたから簡単にまとめたものの、頭の中では今後の行動について悩ませていた。


 相手がそこまでのことをやろうとしているなら少なからず生きていることはわかったし、もはや強行突破で救出した方がいいか?


 これまで下手に大きく動けなかったのは、王女様が生きているか未知であったのと相手の目的がわからなかったから。


 だけど、わかった今はその必要がなくなったし、事態は一刻を争う可能性がある。

 しかし、その考えを否定するような蓮の報告が入った。


「それと一つ良くない情報だ。今日の昼間、突然として俺が侵入させていた蜘蛛の反応が途絶えた」


「まさかバレたのか?」


「いや、反応が一つずつではなく同時的にだった。

 恐らく、何かに警戒した王による魔法干渉だったと思われる」


 一体ずつじゃなく同時、か。となると、クソ......侵入が難しくなったな。


「それは恐らく魔法による結界術の中でも条件付き結界に部類される『不信の箱庭』という結界だね。

 自分と自分の任意の者しか入れないようにする特殊な結界。

 加えて、儀式に近くなってきて念のためにそれをしたとなれば、用心深い性格と考えて侵入者対策をしてあると考えた方がいいな」


「となりますと、やはり王様がいなくなる本戦の時しか狙えないということになりますか?」


 そんなヨナの疑問にウェンリが答えていく。


「そうね。下手に失敗して二度と侵入できないようにされたら困るし、やるなら念入りに準備して出来るだけ確実に近づけた方が得策だと思うわ。

 それにその王様が用心深いなら王様が城にいる間も危険と考えて、いなくなるタイミングを計って強襲するのがベストだと思う」


「まさしくウェンリの言う通りだね。

 今度の僕達は時間制限つきで奪還作戦を行わなくちゃいけない。

 作戦については僕が考えておく。その間、ヨナはウェンリと康太に加わって奴隷を開放してくれ。

 あとで《催眠》の陣魔符を用意しておくからそれを使って上手く誘導してね」


「わかりました」


「蓮、ルーク、薫の三人は城周辺を調べてくれ。

 『不信の箱庭』は結界であって、城を囲うならその周囲にいくつか魔法陣が設置してあるからその数、おおよその形状と大きさを」


「了解だ」


「わかった」


「頑張るよ!」


「ねぇねぇ、アイは?」


「アイは変わらず例の作戦を続けてくれ。ただ、今度は帰って来るまで一人で行動になる。

 くれぐれも自分の実力にタカを括って相手を侮らないようにな。

 ま、そもそも出来るだけ人に会わないように行動してくれ」


「わかったなの!」


「それじゃあ、悪役の偉業(ヴィランレコード)を刻むための準備開始だ」



―――翌日


 僕はコロシアムにやって来ていた。

 そこで本戦への出場権を切符を手に入れるために試合ではそこそこの実力者を演じつつ、頭の中ではずっと本番当日の作戦を練っていた。


 本番に作戦を開始するにしても、やはり一番の不安要素は王様自身の行動にある。

 王様がもし酷く用心深い性格であったり、もしくはマッドサイエンティスト気質の性格であるとすれば、作戦当日に城から出てこないという可能性は十分にあり得る。


 故に、作戦は複数練っておいた方がよさそうだな。

 まず一つ目としては王様が本戦を見に来る場合のプランA、二つ目がやって来た王様を俺が殺し損ねて城へと逃がした場合のプランB、最後にそもそも王様が本戦へとやってこない時のプランC。


 特に最悪なのがプランCの場合だ。

 王様が本戦の決勝まで現れなければそこからはもはや強行策しかない。

 そんな出たとこ勝負な作戦は仲間を命の危険にさらす可能性がある。

 その可能性は出来るだけ小さくしておきたい。


 となると、王様が城に出てきやすいように存在感をアピ―ルして注目を引いた方がいいか?

 いや、儀式本番が近いタイミングで妙に強い選手がやって来たとなれば余計な不信感を与える可能性があるかもしれない。


 となれば、やはり順当に決勝戦へと向かった方がいいか。

 どちらにせよ、決勝にまで上がれば存在感はアピールできるな。

 それにお面をつけたこんな見た目もあるし。


『それでは予選トーナメント第七試合。これで勝った者が本戦への切符を手に入れます。

 その切符を手にれるのは一体どちらか! それでは入場していただきましょう!』


 実況の声に合わせて歓声が上がる。

 もうここまでくると本戦での賭け事のためか見に来る客が多い。

 まるで競走馬を見に来るプロ競馬賭け師みたいに。


 その間も作戦を練っていると目の前にフードつきの外套で全身を覆った人物が現れた。

 そういえば、こいつだったな。僕のことを妙に見てくる奴。


 そして、そのフードの人物はおもむろに外套を取るとその姿を現した。

 な、なんでこいつがこんなところに!?


「はーい、実は出場者は俺でした~!」


 そう言って周りに大きく手を振る人物は同じ転移者の一人―――化叉来杜であった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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