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第34話 立ち込める暗雲

 ガヤガヤとうるさいほどの周りの声。そして、主に漂うむさ苦しい男特有の体臭。

 現在、僕は予選会場であるコロシアムの控室の隅でポツンと座っていた。


 周囲を見てみれば自分の一回り二回りの筋肉隆々の男が溢れかえっていて、自分の実力に自信があるのか武力を自慢して牽制し合っている。


 そんな中でも、僕に時折視線が集まってくる。

 それはお面と体躯のせいなのだがもはやそれは仕方ないことだ。

 なんせ違う世界からやって来たのだ。身体的特徴をとやかく言っても仕方ない。


 というわけで、僕は頭の中で作戦においての起こり得る問題を考え巡らせながら自分の番を待っていると一人の大男がつっかかってきた。


「おぉ? なんだ? このチビは......ひっく。まさかこの大会に出場するつもりか?」


 顔近づけてきやがって酒臭い。

 というか、この控室は選手控えなんだから出ることは当然だろうに。

 あぁ、周りの目が可哀そうな人を見る目に変わった。面倒な。


「おいおい、ビビって声も出ねぇみてぇだな。

 まぁ、仕方ないこのディルック様の前では誰もがそうなるからな」


 目の前でガハハハと笑わないでくれ。うるさい。

 というか、知り合いみたいに思られるのがちょっと嫌なんですが。

 僕はそっと立ち上がるとその場を離れようとする。

 しかし、その肩を大きな手がガシッと掴んだ。


「テメェ、俺様が話してんだろうが、ヒック。無視してんじゃねぇよ。

 つーかテメェ、その体躯(なり)でこの大会出ようとか舐めてんなよ?

 ここはお前のようなやつがお遊び気分で来る場所じゃねぇ」


 なら、飲んだくれのお前が来る場所でもないよな......という感想は胸にとどめておこう。

 余計な問題は今後に支障を起こすかもしれない。


 とはいえ、こいつから逃れるためにも何かしないといけないんだよな。はぁ、仕方ない。


「おい、聞いてんのか―――うぅ!」


 僕は通称「俺でなきゃ見逃しちゃうね速度裏拳」でもってその大男の腹を殴った。

 その瞬間、大男は顔色を悪くしてその場にうずくまる。


 周りからすれば酒飲んで気分が悪くなったように見えるだろう。うん、それが狙いだからね。

 そして、その男に肩を貸しながら座っていた隅っこのベンチに座らせると距離を取っていく。

 ふぅ、緊急ミッションコンプリート。


 それから、しばらく待っていると初戦がやってきた。


 スタッフに呼ばれるままに移動すると武闘大会特有のアナウンスが聞こえてくる。

 が、興味なかったのでオールカット。


 選手入場のタイミングになるとその闘技場に足を進めていく。

 闘技場に立つと周りを確認した。


 闘技場はおよそ直径20メートルの円でその外側には芝があり、さらに外側には壁と見下ろす形の観客席。


 そして、丁度正面側の一番高い観客席が不自然に開いている。

 そこには空の豪華な椅子が置いてあり、恐らくそこが王様が決勝戦で座るところなのだろう。


『それではトーナメント第5回戦目―――開始!』


 銅鑼が鳴り響いて戦闘開始の音を告げる。

 その瞬間、目の前のバトルアックスを持った大男が正面から突っ込んできた。


 動きは遅い。それに纏う魔力も少ない。普通にやれば一撃で決着がつくだろう。

 しかし、本戦出場の際には王様が出来るだけこの場に留まるように時間を稼ぎたい。

 ということで、ここでは手加減の練習をしよう。この大会の実力の相場も知りたいしな。


「おらあ!」


 大男が振り下ろしたバトルアックスを敢えて剣で受けた。

 正直、めっちゃ軽い。まあ、錬魔による違いなんだけど。


「へっ、やるじゃねぇか」


「......どうも」


 男は受け止められただけでも俺をそれなりの実力を持つ奴と判断したようだ。周りはどうだ?


 もともと予選であるために見に来る人は少ないが、多少ながらの観客の顔色から判断して......ってこれぐらいで十分なのかぁ。


 僕は相手の武器を弾くと続けざまに剣で二度三度攻撃。

 それはしっかりと相手にもギリギリ間に合って防げるレベルに調整し、後はしゃがんで足払いからの回し蹴りで場外。


『予選トーナメント第5回勝者―――イカナ!』


 勝った。しかし、物足りなさがものすごく残る。

 これならアイの修行に付き合ってる方が何倍もいい。速度も攻撃力も段違いだし。

 にしても、控え室からといいさっきから妙に見られてるな。


****


 宿屋に戻り、現在は自室皆の帰りを待っている。

 その間、先に戻っていた康太とウェンリと話をしていた。


「―――で、どうだったの? コロシアムの実力って」


 康太が気になった様子で聞いてくる。

 それに対し、がっかりさせてしまうことを少し申し訳なく思いながら率直の感想を告げた。


「一応、今日のトーナメントの出場選手の実力を見てきたけど、そこそこやれそうなのがちらほらといたけど、正直どの相手もアイに手も足も出ないだろうね」


「つまり、今頃リツの変わりにコウタが出場していれば、相手の攻撃を無視して一方的に殴り放題ってわけね」


 ウェンリが仮定の話していく。うん、まさにその通りだよ。

 康太の防御力を超えるのは僕でも苦労するんだから。


「そっちは何か新しい情報あった?」


「いや、残念ながら。だから、代わりに冒険者活動でお金稼いできた」


「一応尋ねるけど、たまたま近くにいた亜竜種を狩ってそれをギルドに持っていって『あ、俺なんかやっちゃいました?』とかやってないだろうな?」


「あ......」


 え!? 何その反応!? まさかやったの!?


「ハハッ、冗談だよ。やってないよ。さすがに今後の作戦に支障を来すような行動はしないって。

 でも、願わくば一度くらいやってみたかった......!」


「それはわかる」


 やっぱ俺TUEEEEムーブって異世界ファンタジーを知るヲタクとしてはやってみたいよな!

 あと、常識はずれのことをして「これって普通じゃないの?」とかも言ってみたい!


 そんな康太と僕との盛り上がりに対して理解に苦しんでいるウェンリは「ガキっぽいわね~」で片づけられた。そ、そう言わんでくれ。


 そんな他愛もない話をしているとアイとヨナが戻ってきたようで、この部屋を尋ねてくる。


「ただいまなのー!」


 そう言って、元気よく扉を開けたアイが僕に向かって飛び込んでくる。

 ふっ、いつもの俺だったらここでダイブを顔面で受け止めてるだろう。

 というか、当たり位置が顔面しか来ない。


 だが、もうアイには甘えん坊さんを卒業してもらいます!

 さすがに獣歳もの女の子が(こっちの世界で)成人男性の顔面にダイブなんてはしたなくってよ!


 故に、僕はアイのダイブを回避するために体を傾けて大きく顔の位置をズラしていく。

 だがその直前、アイはニヤリと笑って目の前で着地した。ま、まさかディレイだと!?


「もう一回、ただいまなのー!」


「ぐはっ!」


 そして、アイの策略にまんまと引っかかった僕はそのまま顔面ダイブを許してそのままベッドに押し倒される。


 目の前は真っ暗だ。

 その代わり尻尾がぶんぶんと揺れてるのはわかる。

 音が聞こえるし、風も感じるからね。


 そんな僕とアイの様子を顔は見えないが生暖かい目で見ているのはわかるぞ。

 それから、「やっぱりちょっとロリコン入ってんじゃねぇか?」って疑惑の目もな!

 そんな僕を他所にウェンリはヨナへと話しかけた。


「そういえば、あなた達はどこへ行ってたの?」


「私達は薬草やはちみつなどを買いに行ってました。アイちゃんは私の付き添いで。

 どうにも私達二人の存在は思ったより大きくなってしまったようなので、ここらで丸薬作りついでに部屋で大人しくしていようかと」


「大丈夫だった? 人攫いとかいるみたいだし」


「路地近くは通らないようにしていたので大丈夫でしたよ。

 ただ、アイちゃんが一時的に姿が見えなくなった時は焦りましたけど」


 ん? それってもしや......

 上体を起こし、アイのいる位置を正面から後頭部にズラしていくと尋ねた。


「アイ、ヨナに言ってないのか?」


「あ、忘れてたの! ごめんなさいなの」


 全くこの子は......でも、すぐ謝れて偉い。そこはすごくいいよ!

 そして、アイの変わりに僕が説明していく。


「アイには僕が少し別の頼みをしてるんだ。

 そして、それにはスラム街の子供達の協力が必要でアイには年齢が近いってことでパイプ役を担ってもらってる」


「それは作戦に必要なことということですか?」


「そうだね。もちろん、人攫いの危険もあるけどその時の対応策をしっかり用意してるから。そこら辺は信用して欲しい」


「大丈夫! 信用してるの!」


 アイが一番にそう告げる。

 そして、アイの言葉に同意するように他の三人も頷いた。

 さすがに余計な言葉だったか。もうこのメンバーにとっては今更のことのようだ。


「それじゃあ、手が空いているなら康太とウェンリはこの国の奴隷商人から奴隷を掻っ攫ってきて。

 さすがに作戦当日に混乱に乗じて同時に救出とか難しいだろうからさ」


「わかった。コロシアムの本戦まで時間があるし、前回の街まで一気にやらなくていいわけだね」


「避難場所はこっちで勝手に決めておくけどそれでいいかしら?」


「あぁ、構わないよ。よろしく頼む。必要な陣魔符はこっちで用意しておくから」


「そうね。私達もリツに倣って魔法陣を勉強中だけどまだ初級ぐらいの魔法陣しか描けないしね。頼むわ」


 するとその時、ドタドタと二階に向かって走ってくる複数の音がしてきた。

 それはこちらに近づいているようでアイ以外の皆は咄嗟に警戒したが、さすがにアイはニオイでわかるようだ。


 ガタンと扉を開けると息を切らした様子の蓮、薫、ルークの姿があった。

 そして、蓮の右手には何やら色々書かれたようである紙が握られている。

 そんな三人に対し、僕は真面目な対応で尋ねた。


「どうした? 何かあった?」


「まだ確定じゃないが......恐らくこの国の王の目的がわかった。

 そして、そのXデーは満月の夜......つまり本戦当日だ」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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