第33話 互いの画策
協力者を得たその日の夜、僕達は部屋に集まり情報共有を行っていた。
「―――で、なんか情報集まった?」
そう切り出した時に最初に答えたのは蓮であった。
「俺達が集めてきた情報によるとやはり王女は城の中に幽閉されてる可能性が高い。
そして、思ったより厳重な警備で入り込めたとしても脱出が難しい」
「姉上を助け出すだったら確実な隙を作らなければいけないと思う。
しかし、下手な刺激はかえって取り返しのつかないことを起こしてしまうからあまりやって欲しくはないな」
確かにルークの言いたいことは分かる。
「ということは、王女を救うには騒ぎを起こした一瞬ということか。
ま、それはなんとなく予想がついてたからすでに行動してるから大丈夫として。
そういえば、『入り込めたとしても』って言ってたけど、兵士から裏口とか聞き出せたのか?」
「まあね。僕と植物の力を使えば問題ないよ。それにキッチリと記憶も消しておいたし」
そう笑顔で言い切る薫に僕はちょっとだけ恐怖。
怒らせたら怖いタイプに成長してしまったな。
「っと、そういえばこの国の王様の王女を攫った目的というのは何か目星ついたりした?」
「いや、それはわかってない」
「なら、今度はそれについて調べてきて」
「わかった」
蓮達の報告が終わると次は康太達へと移行していく。
「それじゃあ、康太達は何か聞いてる?」
「聞いてるよ。王女関連ではないけど、この国で近々武闘大会が開催されるらしい。
場所は今いる場所から反対側の北東方面にあるコロシアム。
そこで優勝した者は王に何でも一つお願いが出来るらしい」
そう説明されながら渡されたチラシには「年齢制限十五歳以上で男女混合。強き者がより強さを求める大会である」と宣伝文句が書かれていた。
「そのコロシアムには王様も見に来るのか?」
「聞くところによると本戦だけらしいわね。加えて、本戦開催はたった1日。
昼頃からトーナメントを開催して、おおよそ決勝戦は夕刻あたりになるみたい」
「ふ~ん、それじゃあこれに参加してみよっかな」
ウェンリの言葉にそう答えると全員が驚く。
そして、皆の疑問を代表するようにヨナが聞いてきた。
「優勝して王様からの報酬として王女様を選択しても通らないと思いますよ?」
「わかってる。目的は報酬じゃなくてお面をつけた得体の知れない僕が出場してその大会を盛り上げれば、王様の視線は自然とそのコロシアムに集中するだろ?」
「その間に城に潜入して王女を奪還するのか」
「王様も獣王国の王女が攫われたという事実を獣王国側に知られるのも時間の問題だと考えてるだろう。
なんせ生かしていればそのうち痺れを切らした獣王国が攻めてくるかもしれない」
「しかし、それは聖王国が絡んでくるから手出しできないって発想も出来るのでは?」
康太の疑問はもっともだ。でも―――
「確かに、帝国はいざとなった時のために聖王国とパイプを繋いでいるだろうけど、恐らくエウリアがいる以上そう簡単に援軍が送られるとは限らない。
聖女であるエウリアが果敢に戦争への援助に口出すとは思えないからな。
それに彼女の発言力は強いし、彼女は思慮深い。必ず何かあると考えるだろう」
「随分な信用だね。ま、エウリアさんのことを一番に知ってるのはリツ君だから君がそう言うんだったらそうなんだろうけど」
「その女性と随分親しいんですね」
ヨナが何やらじっと見つめてくる。
その目は少し不満そうな感じであった。
まぁ、親しいけどそんな顔されるほど何か言った?
「とにかく、王様がどれくらいの思考をもっているかによるけど、もしエウリアの態度にある程度勘づいているとすれば、王女は必ず王様自身が何とかするつもりだろう。
いつまでも戦争の火種になるような人物を置いておくと思えないしな」
「なら、姉上はもう!?」
「さぁ、そればっかりは何も言えない。でも、王様が獣王国の王女を攫うというリスクを冒すに見合う目的が必ず存在しているはずだ。
それが達成されたかどうかはまでは判断がつかないが、今の僕達はまだ王女様が生きていると信じて行動するしかない」
その言葉に全員が黙った。
なぜなら、その考えは誰しもが一度は頭によぎったことのある考えであろうからね。
「ひとまず、僕はその大会に出て王様と接触してくる。
王様が本戦を見に来たら、その間に王女様を奪還する。それが今回の作戦だ」
―――翌日
僕は武闘大会参加のためにコロシアムに向かっていた。
「ほぉ~」
外観はギリシャのコロッセオそのままで少しだけテンションが上がる。
そして、そこには多くの実力者と思わしき人達が向かっていた。
こういう大会に出る独特の緊張感は中学の時の部活の大会に似ていてなんだか懐かしい気分。
加えて、周りのゴツいガタイがよりその雰囲気をより引き立たせてくれる。
周りを見ると女性の姿もちらほらと見える。
男に負けず劣らずのたくましいボディをしている人もいれば、華奢な体つきの人もいてこういう所はファンタジーみを感じるな~。
ちなみに、この時から僕はお面をつけているため周りからの視線は凄いことになっている。
加えて、僕の百七十二センチという身長はこの世界では百五十センチ扱いのような感じで、周りの平均身長をザッと計算してみると二メートル前後(女性は除く)だ。
そのせいか、なんか僕の姿を見た人達がことごとく鼻で笑っていく。すごい複雑な気分になってきた。
長い受付を待つこと数分、ついに受付嬢の前まで辿り着いた。
****
―――城内
ハンブルクの王であるガルトバは最上階付近にあるとある部屋に向かって階段を上っていた。
「はぁ~、相変わらずここは長いな。デカいはいいけど、移動するまでに時間がかかりすぎる」
そうぼやきながらも足取りは変わらない。
むしろ、着々と時間が過ぎていることに喜びを感じているかのように軽快な動きのようさえ見える。
そして、ガバルトは最上階に上がるとそこから城から枝分かれしたような廊下の先を歩いていき、帝都が見える城の位置から丁度反対側の真っ直ぐそびえたつ塔へと向かっていく。
その先にある扉を開くとその部屋にいる鎖で両手と首が繋がれローサイドテールの髪型をした巫女のような服を着た狐の獣人を見た。
生きていることを確認するとニヤリと笑みを浮かべ話しかける。
「いや~、獣人は生命力がしぶといと聞いていたが本当だったとはな。
伊達に獣の血が宿って無いとか? ほら、獣によっては何十日も肉を食べなくても生きていけると言うし」
「......それはただの獣せやからでしょうに。うちらに同じ獣が混じってたとしても“人の心”があるんよ」
艶っぽい遊女のような声色をしたその獣人の女性は希望を失っていないかのようにガルトバを睨んだ。
その顔にガルトバは増々嗜虐心がそそられたように口を歪める。
「お前のような獣人であっても麗しい女を抱けないとは本当に残念だ。
儀式に必要な生贄巫女は純潔であらねばなるまいらしいしな」
「ふふっ、確かにうちは自分磨きを怠らなかったもんやからなぁ。
そら男の人にとってはこの出るとこ出て引き締まるところは引き締まってる体は良く映ったでしょうなぁ~」
「本当にその強気な態度は止めた方がいい。
お前に対する嗜虐心に当てられて一体今まで何人のうら若き娘達が犠牲になったと思ってるんだ?」
その言葉に女性は変わらない笑みを浮かべるものの、その目はより睨むようにキツくなった。
「下衆が。そんなんやから未だに独り身なんよ。
いい加減夢物語から目を覚まして現実を見据えた方がいいと思うんやけど。
ついでに言えば、その悪趣味すぎる趣味も止めた方がええよ。
いつその怨念に取りつかれるかわからんしぃ?」
「ははっ、それは問題ない」
ガバルトは近づいていく。ニヤついた笑みをそのままに。
そして、上半身を折り曲げ、女性の顎をクイッと上げると告げる。
「あと少しで私は死と永遠に分かつ存在になれる。
それまでせいぜい希望に縋るがいい。
幼き少女が夢見る助けに来る騎士をな」
「えぇ、うちは弱い女になるような生き方はしとらんのでね。そうさせてもらうわ」
ガバルトは女性から離れるとその部屋から出ていく。
そして、胸に中に渦巻く掻き立てられたような嗜虐を原動力に速足で廊下を歩いていく。
するとその時、ガバルトに向かって青年のような声が聞こえてきた。
「やーやー、お久しぶりかな。ガバルト君?」
その声にガバルトの動きは石化したようにピタっと止まった。
加えて、猛烈な冷や汗をかいていく。もはやそこに先ほどの笑みはない。
ガバルトは後ろを振り向くとすぐさま目の前に立つ天然パーマの白髪頭の青年の前に跪礼した。
そんなガバルトの反応に青年は軽く明るい口調で反応する。
「嫌だな~。そんな反応されると僕がまるで偉いみたいで天狗になっちゃうでしょー? ま、実際に偉いんだけどさ」
「そ、それで、こんな突然に一体どうされたんでしょうか?」
「そんな怯えないでって。ただの様子見だからさ。
ほら、僕ってこう見えても面倒見良いんだよ。って言ってもわからないか、ハハッ」
青年とガバルトの間には隔絶されたような温度差があった。
しかし、変わらず青年は言葉を続けていく。
「実はさ、君の儀式の様子を見てあげようと思ったんだけど、どうもとある遺跡の近くにある村で僕の部下が死んじゃったみたいんだよね」
「部下といいますと『義天兵』のことですか? その者に勝てる人間がいるとは思えないんですが」
「いるんだよ~実際。いや~困った困った。
とはいえ、には個人差があるし、こういうこともないわけじゃない」能力
そう言っている割には青年が困っている様子はない。むしろ、楽しそうに話している。
「そんでさ、その死んじゃった人物がなんと君も知ってる人なんだよ」
「......お名前を伺っても?」
「サルザール君だよ。聖王国切っての人族至上思考と言われる」
「......っ!」
その言葉にガバルトは思わず目を見開いた。
なぜなら、その人物は帝国切っての実力者のドイル騎士団長と勝らずとも劣らない実力者であり、義天兵となった時点ではドイルの実力を上回ってる可能性があったからだ。
青年は後ろを向くと歩き出す。これからどこかへ向かうように。
「僕もびっくりしたよ。のんびり昼寝してたら突然リンクが切れちゃって。
で、僕はしばらくその切れた場所を調査することになったから儀式の方は頑張ってね。
どうにも相手は相当な実力を持っているようだから。
戦闘向きじゃない君じゃ死んじゃうかもしれないし」
「......肝に銘じておきます」
「ま、そんな相手がこんな場所に来ててなんらかの形で君に接触する場合に限るけどね。
あ、これって盛大なフラグだったりする?」
終止浮ついた話口調で「じゃあね~」とガバルトに一声かけた青年はそのままどこかへ消えてしまった。
そして、ガバルトはゆっくりと立ち上がると「嫌な予感がする」と呟き、この場を後にする。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




