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第32話 現地協力者

 翌日、僕は一人昨日見つけたスラム街に住む子供達のアジトに向かっていた。

 その際、手には“友好の証”を持ちながら。


 路地に入り、とある屋根に穴が開いた廃屋へと歩ていく。

 さて、一応お面をつけておくか。突然何かに乱入されて顔バレなんてあるかもしれないし。


 そして、その廃屋にあったソファに腰掛ける。

 見た目は古びていたが座ってみれば意外に丈夫。

 どこかの貴族(いいところ)が捨てたものをこっそり回収していたのかもしれないな。


 さて、先ほど通りで同じようにヨナとアイが人を寄せてくれているはずだから、そろそろスリを働いたがここに集まってくるはず。こそも達→子供達


「誰だ! お前!」


 数人の子供達が入ってくるやすぐに僕の顔を見て警戒した。

 十歳前後の男女混合で中には獣人の子供もいるようだ。

 そして、リーダーらしき男の子の怒声に返答していく。


「初めまして僕はイカナという者だ。実は君達と取引がしたくてやって来た」


 「イカナ」というのはもちろん偽名である。

 由来は苗字の仲居を逆から呼んだだけという安直さ。

 我ながらネーミングセンスがない。


「取引? ふざけんな! そうやって俺達を騙そうってんだろ! 大人はいつもそうだからな!」


 強い警戒心。彼らの心を少しでもこちらに向けさせるのは難しそうだ。

 しかし、そのための友好の証だ。


「確かに、すぐに信用というわけにはいかないだろう。

 だから、あいさつの印にこれらを持ってきた」


 そう言って、少し距離を詰めると手に持っていた袋を置いた。

 この袋には食料が入っている。入っているのは全て日持ちするものだ。

 そして、それを置くとすぐにソファの位置に戻っていった。

 その際、袋にあった干し肉一切れを持って。


「一応、毒とか警戒してるだろうから実際に食べてみせるよ。

 それで少しでも信用してくれたらありがたいかな」


 干し肉を目の前で食べてみせる。うん、美味いな。やべっ、もっと食いたいな。後で買ってこよ。


 そんな僕の行動に対する子供達の反応は薄い。

 しかし、食料という誘惑は強かったのか少しだけ警戒が薄れている。

 そんな中でもリーダーの男の子だけは行動が違った。


「お前ら! 何誘惑されてんだ! あいつが持っていたものが毒が入っていないやつかもしれないだろ!」


「だ、だけど、あんなに食べ物があって僕、お腹空いたよ......」


「ごめん、あたしも。でも、あんたの意見も一理あると思うし。

 あんたが決めて。あたし達はそれに従うから」


「......っ!」


 う~む、やはりあの子をどうにか説得するほかなさそうだ。

 どうやって説得しようか―――と思っていたその時、子供達の背後の扉から怒号が響いた。


「ここかクソガキども!」


 扉を蹴破って現れたのは複数の男達。

 どいつもこいつもガタいが良く、加えて戦闘の片目に傷を負った男は左腕で子供の一人を拉致していた。

 なるほど、大体察しがついた。


 すると、リーダーの男の子はその捕まっている少年を見て思わず叫ぶ。


「カシム!」


「こんな所に居やがったかクソガキども。

 昨日はよくも俺達から金を掻っ攫ってくれたな。

 今日はその金を奪い返しに来た」


「ご、ごめん......しくじっちゃった......」


「気にすんな。どの道こういうことを続けていればこうなることも想定できてた。今日に始まったことじゃない」


 いや、これ完全に僕のせいですね。

 ただ僕的には君達に接触するためにやったことが、完全に余計な問題を引き起こしてそれに君達が巻き込まれちゃってる形で根本的な原因は僕ですね。


「でも、今回は相手が悪いわよ。こいつらってドラゴンスネイクっていう凶悪な犯罪集団じゃない!

 子供でも容赦なく殺すって噂が絶えないじゃない!」


 くっ、なんか大物を引き当てちゃったみたい。


「おいおい、俺達はこう見えても心優しき集団だぜ?

 このガキだって条件次第で開放してやってもいい」


「条件次第だと?」


「あぁ、お前らが奪った金を俺達が貸してやったとして、今日はその金の返済日ってことにするんだ。

 奪ったお金が二万ギエンだから利子を十倍にして二十万ギエンで手を打とうじゃないか」


「ふざけんな! そんなお金あるわけないだろ!

 それにお前らの金がどれだけしけてたか!

 全員の食べ物すら満足に用意できなかったぞ!」


「ガタガタうるせぇな! お前らを奴隷商人に売れば一人当たり五万ギエンぐらいいくだろ? 払えない額じゃない」


「仲間を売れってつもりか!」


 やばいやばい。思ったより勝手に盛り上がってるよ。

 正直、二十万ギエンならすぐに払ってもいいけど......こいつらがもし子供達を殺してるのなら話は別だ。

 それから、少しだけこの状況を利用させてもらおう。


 僕は立ち上がると近づいていく。

 そして、出来るだけ殺気を漏らさないように穏やかに話しかけた。


「すまない、子供達は僕の取引相手なのでお引き取り願えるか?

 それから二十万ギエンならすぐに支払い出来ると思うんだけど」


「あ? そういやさっきからいるくせに関わってこないから部外者と思っていたが、関わってくるなら話は別だぜ、仮面野郎」


 片目傷の男が睨んでくる。しかし、その圧は僕にとってはそよ風に等しい。


「えぇ、それで構わないよ。それで二十万ギエンを払えばその子供を開放してもらえるんだね?」


「すぐに払えればな」


「問題ないよ」


 そう言って懐からお金を取り出そうとしたその瞬間、片目傷の男は腰から短剣を引き抜いて首筋目がけて振るってくる。


「仮面野郎! あぶない!」


―――ピタッ


 しかし、その攻撃は届かない。

 なぜなら、先ほど移動最中にこっそりと<麻痺>の魔法陣を転写していたからだ。

 そして、その男から子供を開放してリーダーのそばに置くと男達に向かって告げた。


「そういえば、あなた方こそこの国の兵士に売ればお金になりそうだね」


「殺れー!」「ぶこっろせー!」「ここにいる全員皆殺しだー!」


 片目傷以外の男達が一斉に物騒な声を出して武器を引き抜いた。

 その瞬間、僕の条件付き魔法陣は反応し、漏れなく全員を麻痺させた。

 ちなみに、その条件とは武器を出して攻撃しようと動き出したらである。

 そして、僕は兵士を呼びに行くとドラゴンスネイクを捕えさせる。


 この集団は冒険者ギルドで情報を集めてきた康太達から「ドラゴンスネイクという賞金首がいる」みたいな話を聞いていたので、いざとなった時の小遣い稼ぎにしようと思っていたがまさかこんな形で釣れるとは思わなかったなぁ。


 賞金首を捕らえて賞金を得ると再び子供達の前に戻ってきてそのお金を子供達に渡した。


「仮面野郎......これは?」


「君達の勇気ある行動に対する評価だよ。

 それにこれから取引する相手に恩を売っておくのも悪くないと思ってね。

 ただこれを機にもう危ない道を歩くのは止めた方がいい」


「......助けてくれたことには感謝してる。

 だが、俺達の苦労もしらないお前には言われたくない」


「目の前で大切な人が死んだ経験はあるか?」


「......っ!」


 ボロっと出てしまった言葉にリーダーの男の子の目が見開く。おっと、余計な感情が漏れたな。


「ごめんごめん、つい過去に耽ってしまった。

 もしそんな経験がないならそれは運が良かったからかもしれない。

 でも、危ないことをしてれば当然そのリスクを負わなければいけなくなる。

 自分の大切な仲間が死にやすくなるってことさ」


「なら、お前は俺達をどうするつもりだ?」


「君達が苦労してでも真っ当に生きる道があるのなら、俺はその場所を提供しようと思ってる。

 ただ、その代わりといってはなんだが協力してもらいたいことがあるんだ。危ないことじゃないから安心してくれ」


「......その言葉は本当だろうな?」


「僕を信じてくれるなら」


 そう言うとリーダーの少年は握手を求めるように手を差し出した。


「イルマだ。裏切るなよ」


「わかってる」


 そして、僕とイルマ君は誓いの握手をした。


―――翌日


「さて、今回は僕の仲間兼妹を紹介したい。君達の仕事の指揮を執ってくれる子だ」


「アイはアイっていうの! よろしくなの!」


 元気よく自己紹介をしたアイに対して、イルマ少年団の反応は驚いたり、顔を赤らめたりと様々であった。そうであろう、そうであろう! アイは可愛いからな!


「ほ、本当にそいつがリーダーか?」


「む! そいつじゃないの! アイなの!」


「俺達より子供っぽいんだが」


 それは言ってやるな。逆にそこの純白さがいいんだろうが。

 しかし、その言葉にアイはカチンと来たのか「ふ~ん、そういうこと言うの」と呟きながらイルマ君に近づいていく。


「そんなに信用できないなら強さで信用させてあげようなの。かかってくるなの」


 指をクイクイとさせてかかってこいのポーズ。

 待て、それで相互理解を得られるのは獣人同士だけだ。


 そう思っていたのだが、意外にイルマ君も乗り気のようで......というより、挑発されたことに同じくカチンと来たのか近づきファイティングポーズ。


「こう見えても俺達の中にも獣人はいるんだ。

 そいつらと戦闘訓練してるからな。獣人のスピードはわかってんだよ」


「ふ~ん、それだけ? それじゃあ、アイには適わないな~」


「なんだと!」


 この子、こんな煽り性能をいつの間に身に着けたのか。

 あ、違う。チラッとこっちに視線送ってくるあたり良いところ見せたいだけみたいだ。


「アイ、手加減しろな~」


「了解なの!」


「クソ、舐めやがって! 女だからって手加減はしないぞ!」


 そう言ってイルマ君は振りかぶった拳を突き出したがそれはヒラリとアイに躱され、通り過ぎ様に「おっそ」と言われるとそのまま背中側へ腕関節を決められ地に伏せられた。


「女の子に組み伏せられるなんてそんな弱かったら何も守れないなの」


「くっ......!」


 あっという間に勝負は決着した。

 イルマ君は正しく手も足も出なかった感覚に悔しそうな表情を浮かべ、観戦していた子供達は「お~」と拍手をしていた。


 そんな拍手に気持ち良くなったのかアイは手を振ってこたえる。

 こら、早く降りてあげなさい。イルマ君も苦しそうに赤く......いや、違うな?

 あれは女の子に密着されて恥ずかしがってるだけだな?


「妹はやらんぞ。イルマ君」


「ち、ちげぇし!」


 おっと、思わず言葉が漏れてしまった。

 ともあれ、これで協力者は得られた。

 さてと、そろそろ僕も本格的に動きますか。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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