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第31話 ハンブルク帝国入国

 「娘を助けて欲しい」とは国王の前にやってきて早々に言われた言葉であった。

 突然の頼みに混乱しているとロイゼル王は続けざまに告げる。


「実はこの国にはルークの姉に当たる王女がいるんだ。

 だが、数か月前にあった聖王国の聖女を交えた会談から一切の消息を絶っていてな」


 聖女? それってもしかして僕達が国を出る時にエウリアがどこかへ出かけた時のことか?

 とはいえ、エウリアがそのようなことをするはずがない。


 そんな僕の確信にも近い考えに同意するような発言を王様はしていく。


「相手は人族至上主義と名高い国だ。突然獣人を襲うような真似があってもおかしくない。

 だが、そこにいる聖女は娘お墨付きの理解できる人とされていてな。

 俺も一度しか見てないがあの娘はそのようなことをするタイプじゃなかった。野生の勘だがな。

 それにこの会談も今回が初めてってわけでもなかった。

 やろうと思えばいくらでも場面があったといえよう」


 王様からも信用されてるなんてさすがエウリアだな。

 とはいえ、聖王国も一枚岩ではないことは知っている。

 エウリアが預かり知らぬところで犯行に及んだ可能性も十分にある。

 そう考えたが、王様の告げる言葉からは別の疑惑が浮上した。


「なら、なぜ今回急に起こったかということを調査していたんだが、恐らく今回の会談場所が関係している可能性があるとわかった。

 というのも、会談が行われた場所はクロード聖王国の管理下であるラマックという街なのだが、そこに行く際に娘を乗せた馬車は近くの帝国管理の街を通るんだ」


 帝国管理の街? 僕達が行ったミラスも帝国管理の街で奴隷売買が盛んであった。

 それは確か帝国の王様の影響によるものとされていたな。


「そして、さらに調査を進めた結果、娘の乗った馬車らしきものが盗賊に襲われたらしい」


「あり得ない......姉上が盗賊ごときに......」


 ルーク王子が悔しそうに下を向きながら拳を固めている。

 やり場のない憤りを抱えているといった様子だ。


「あぁ、ルークの言う通りで俺の娘が雑頭の盗賊ごときにやられるはずがねぇ。

 だから、俺はその調査の結果から含めて帝国兵が盗賊に偽装して娘の馬車を襲ったんじゃねぇかと考えている」


「なんのためにですか?」


「さあな。さすがにそこまではわからねぇ。

 ただ少なからず一際美しい服に身を包んだ獣人が帝国へ運ばれていったという証言は取れている」


 なるほど。ここまでくれば僕達が数日間ここに残された意味がわかる。


「つまり僕達が代わりに帝国に潜入して王女様を奪還してくればいいわけですね?」


「そういうことだ。帝国では聖王国とは違って冒険者の獣人も出入りできるが、獣人を狙った人攫いも多く出ると聞くしな。

 それに獣人がこそこそ動き回ってたら余計な警戒をさせてしまうかもしれない。

 そういう点では、お前達の存在は非常にありがたい。獣神の思し召しと思うほどにな」


 王様はキリッとした顔つきになると僕達に向かって頭を下げた。

 その突然の行動に僕達は驚き、隣に立っているルークも驚いている様子であった。

 だが、ルークも思う気持ちは同じなのかすぐに頭を下げる。


 一国の王がこんな得体も知れないましてや人族がいるような集団に頭を下げるほどの誠意を見せてくれたのだ。

 それに対しては、もちろん誠意で答えたい。野望のためにもね。


 僕達は立ち上がると僕が代表して受け答えた。


「任せてください。必ず王女様を連れてきます」


 それから、僕達は手短に準備を済ませると門へと向かった。

 その際、アイに残るかどうか尋ねようとしたが「それ以上言ったら嫌いになる」と先に言われたので僕は何も言えませんでした、はい。


 そして、僕達が馬車に乗り込もうとしたその時、ルーク王子が僕達の所に向かってきた。

 かなり急いで走ったようで大きく肩を上下させている。


「どうしたんですか?」


 そう尋ねるとルーク王子は呼吸を整えて真っ直ぐの瞳を向けて告げた。


「僕も連れて行ってくれ!」


 その目にはすでに尋ねるべくもない覚悟と意志が宿っていることがわかる。

 しかし、それでもそれがどのくらい本気であるかは本人に語ってもらうとしよう。


「どうして急に?」


「捕まっている姉上は本当の姉弟ではないが、それでも僕のことを大切に見守ってくれていた存在だ。

 だから、助けたい! こんな所でただ姉上の無事を祈るだけ軟弱者ではいたくないんだ!」


 そして、王子はそのまま頭を下げた。


「君達には酷いことを言ったから、僕における信用はないかもしれない。

 だけど、この数日間で君達は信用に足る人達だとわかった。

 僕は君達を信じる。だから、君達も僕を信じてくれ!

 どうか俺にも姉上を助ける力にならせてくれ!」


 熱のこもった言葉。必死な声色。それらがダイレクトに伝わってくる。

 ここまで言われて断るほど野暮じゃない。

 それに王子の存在は王女様奪還の際の身分証明になるし。


 僕は王子の肩にそっと手を置くと「顔を上げてください」と告げた。

 すると、王子の顔が見えてくるので続けて告げる。


「わかりました。一緒に助けに行きましょう。力を貸してください」


「ありがとう。それから、これからは僕は王子ではなく君達のただ一人の仲間だ。敬語じゃなくていい」


「わかった。よろしく」


――――数日後


「見えてきたわ。あそこがハンブルク帝国よ」


 ウェンリの言葉に馬車から顔を出すとそこには悪趣味なほどに棘が生えた城壁を見せる国がそこにはあった。控えめに言って魔王城と言われてもおかしくない気がする。


 門番に通行料を払って入国すると聖王国やミラスと違ってどこか淀んだ空気が充満したような場所である。


 通りを歩く人達のほとんどが冒険者で世紀末のギャングのような恰好をしたやつが多く見える。

 上裸の上からベルトってもはやそうとしか言えんだろ。


 王様の言う通りミラスよりも獣人が歩いている姿が多い。

 まぁ、この国は獣人を嫌っているというよりは便利な道具的な意味合いが強いからかえって嫌ってる意識が低いんだろうけど。


 一先ず宿屋を見つけるとそこを拠点とした。

 そして、例のごとく一室に集まって作戦会議である。


「さて、まず最初はこの国の情報収集からだな。

 とりあえず、何でもいいからざっと集めてきて欲しい。

 そうだな~、割り振りは三つのグループに分かれるとしよう。

 まず最初に康太とウェンリが前回みたいに冒険者から探ってみてくれ」


「今回は薫はいないんだな」


「薫は蓮とルークの方に移ってもらって、主に裏側からの情報収集。

 加えて、王女様は十中八九城のどこかだから兵士から聞き出して」


「なるほど。薫は自白剤ってわけだ」


「この娘の容姿で騙すってわけか」


「そうそう女子っぽい見た目を利用して男心をちょちょい―――ってルーク君違うから! 僕の植物の効果だから!」


「で、私はまたアイちゃんとお買い物ですか?」


「いや、今回はすぐに出ていくわけじゃないからそれはしなくていい。僕の別の用事のために一緒に来て欲しい」


「つまりデートね」


 ウェンリの言葉にアイとヨナが反応していく。


「アイもそう思ったの!」


「そ、そうなんですか......?」


「はいはい、長くなりそうだからこれで終わり。言いたいことは全部言ったから解散解散~」


「リツ、例のあれ言わなくていいの?」


「はい、刻め刻め~」


 手をパンパンと二回叩いて作戦会議を強制終了。

 ウェンリが若干不満そうな顔をしているのがちょっと癪だったけど。

 そして、僕の指示をもとに全員が動き出していく。さてと、僕達も動きますか。

 宿屋の外を出るとアイが元気いっぱいに腕にくっついてくる。


「アイ、ちょっと動きづらいんだが」


「アイがこうしたいから仕方ないの~。

 それに人攫いも出るかもしれないからしっかりと自衛しなきゃいけないの~」


 あ、この子! ちゃっかり王様の言葉を盾にしてる! なんとまぁずる賢くて可愛いのかしら!


「......やっぱロリコンなんじゃ」


 あれ? 今ボソッと何か言いましたよね? ヨナさん、言いましたよね?


「それでこれからどこに向かうんですか?」


 ニコッとした顔で話題を変えてきた。さも「何も言ってませんよ?」みたいな顔して。


「そうだな。とりあえず、二人の容姿を見込んで頼みがある」


「「?」」


 そして、場所を移してやって来たのは露店が並ぶ通り。

 そこで二人の容姿を活かして露店の男の心を操り、そこから情報を引き出してもらう。


 それをしばらく繰り返していると二人の噂を聞きつけた男達で人だかりが出来始める。

 すると、そこにスラム街からの子供達がその人だかりに紛れてスリを行うので、その動きを別の場所にいる僕が屋根の上からウォッチング。


 そして、その子供達の後をついていき、よく拠点としている場所を見つける。訪れるのは明日でいいかな。


『ヨナ、アイ、お疲れ。もう離れていいよ』


『アイはお兄ちゃんともっと出歩きたかったの!』


『わかりました。では、宿屋の前で合流しましょう。

 そういえば、結局色々と食べ物買ってしまってますが、何に使うんですか?』


『現地民の協力を得るために使うのさ』


 よし、それじゃあ一旦帰るとするか。


*****


―――???


 帝国城内の一室では、テーブルを囲んで三人の男が座っていた。

 それぞれの男達には右側の額や手の甲、肩などに天使のような入れ墨がある。

 そして、テーブルに足を伸ばしている男は手に持ったリンゴのような果実を齧ると告げた。


「そういや、そろそろだったか? 満月は」


「あ~、確かね~。ってことは、あのおっさんもそろそろ儀式に入るんだっけ?」


「俺達のやることはその儀式が終わるまで守ることだったよな。なんでそんなダルいこと......」


「まぁ、それがそういう契約だったわけじゃん? あのテンパ白髪の人との」


 茶髪の男は自身の手の甲にある入れ墨を見ながら答える。

 そんな男を横目で見ている金髪の男はダルそうな表情をして窓の外を見ると明るい空を睨んで呟いた。


「あ~、つまんねぇ~。誰でもいいから襲ってこねぇかな。そうすりゃ、遠慮なくぶっ殺せるのに」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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