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第29話 獣王国ベスティア

 僕達は獣王国ベスティアに向けて出発し、そこからおよそ二週間ほどの旅路をした。


 人数が人数だけに、急遽用意しなきゃいけなくなった馬車が途中で重さで壊れたり、鈍行でしか馬が進めなかったり、人族から目につかれにく場所を移動したためにそのくらいの期間がかかった。


 とはいえ、その間の旅がつまらなかったかと問われればそれは違うと言えるだろう。

 というのも、それは僕達がバンド演奏みたいなのをしたり、近くの川で子供達を水遊びさせたりとさせていたために、村の皆からは村での慰安旅行のように感じさせていたからだ。


 その結果からはらも湧く笑い声だったり、楽しそうにはしゃぐ姿を見ることが出来た。

 僕達からすればそれだけで十分な報酬である。


 そして、僕達はその期間の旅を終え、ついに獣王国ベスティアに辿り着いた。


 外から見る感じは前に行ったミラスと似たような感じだが、恐らく国土の広さはクロード聖王国と似てるだろう。


「そこの馬車よ、止まれ!」


 門番の人か。豹の獣人みたいだな。

 一応、人族の存在で下手にこじれると嫌だから大人しくしてよう。

 後はウェンリとヨナが上手くやってくれる。


「なんだこの馬車の数は? それにエルフの者がこの国に何の用だ?」


「あたし達は各地に不自由な者達を開放する解放軍だ。ま、といっても、ただの素人集団だけどね」


「私達は人族の街で奴隷として管理されていた子供達及びその近くで住んでいた村の皆さんをより安全な場所に避難させるために連れてきました」


「そうか。ならば、馬車の中を見ても構わないだろう?」


 やっぱ、そうなりますよね~。

 とはいえ、ただ大人しくしてウェンリ達に説得を任せるしかないな。


「む、ここに人族が数名乗っているぞ!」


「彼らはあたし達の仲間―――」


「そうか、こいつらが奴隷売買をしていた連中だな!

 犯人を連れてきて身の潔白を証明というわけか!」


 え、ちょ、そうなる!?


「いや、僕達は―――」


「しかし、全く縛っていないのはどうかと思うが。

 ま、恐らくエルフの魔法によって拘束されているのだろうが、一応こちらとしても念には念を入れさえてもらう」


 そう言って、全く話を聞いてもらえずに僕達四人は縄でグルグル巻きに拘束された。あ、これ......なんかやばくね?


 他の3人も同じ心境らしい。とはいえ、下手に抵抗するともっとややこしくなりそうだな。

 するとその時、僕が屋敷から助けた犬耳の少女が僕達を縛った門番に詰め寄った。


「お兄ちゃん! その人達は私達を助けてくれた恩人だよ! 手荒なことしないで!」


「り、リッカ!? どうしてお前がこんなところに!? 恩人とはどういうことだ?」


「そのままの意味だよ! 怖い人族から助けてくれた優しい人族なの!

 相変わらず人の話を聞かないで勝手に話を進めようとするんだから」


「す、すまない......とはいえ、人族をこの街にいれるのは......」


 リッカという少女のおかげで一応僕達の安全性については納得してくれたようだ。

 まさか助けた少女にこんな形で助けられるなんて。本当の意味で助け合いだなぁ。


 しばらくすると、門にたくさんの兵士が集まってきて、時折僕達四人のことを懐疑的な様子な目で見ながら何やら話し合っている。


 その間、僕達は特にすることがなかったのでアイを含めた五人でインディアンポーカーをやっていた。

 くっ、小さな数字を自信満々な顔で掲げているアイが可愛い。

 少ししたら、僕達の所に一人の兵士がやって来て告げた。


「解放軍だったな? 来て欲しい場所がある。来い」


 言われるがままについていくと国の中を真っ直ぐ歩いていった。

 周囲から様々な視線が送られてくる。その大半はあまりよくない感じだが。


 周囲を見ながら歩いているとだんだんと正面にデカい城が見えてきた。

 あれ? 今ってもしかしてそこに向かってます?


 その考えは的中した。

 僕達はそのまま城の中に入っていくと多めの階段を上らされ、ついには王様に謁見する扉の前までやって来てしまった。


「本来はお前達人族が踏み入っていい領域ではない神聖なる空間だ。

 だが、王が直々にお前達を呼んだために我々兵には断ることは出来ん。

 くれぐれも我らが王に失礼のない様に。少しでも舐めた態度を取れば首を刎ねる」


 すっげぇ物騒な脅しを受けた。

 といっても、過去の人族がそう思わせる程度には遺恨を作ったということだ。

 種族平和の道も遠くなさそうだな。


「ロイゼル王! 客人を連れてきました!」


 兵がそう言うと目の前の巨大な両開きの門が開いていく。

 すると、その扉の奥には座っているだけで威厳を放つ獅子の顔の男がそこにはいた。


 こっちを見定めるような目でじっと見てくる。

 恐らく僕達の人間性を図っているのだろうな。

 そして、その隣には王子らしき同じく獅子の青年がいる。青年は人の顔だ。

 獣人の中でも人の顔と動物の顔で違いがあるのか。


「リツさん、行きますよ」


 その時、ヨナが小声で話しかけて来る。

 そういえば、ヨナは王女だからある程度の所作は知ってるんだったな。

 それで万が一王様に会うことになったらヨナを見習おうと決めてたっけ。


 ヨナが歩き始めると同時に僕達も歩き始めた。

 並び順としてはリーダーの僕とヨナが戦闘で残りの五人がその後ろをついてくる感じである。


 それにしても真ん中に紅いカーペットが敷いてあって、その横にはいくつもの柱が立っているのは如何にもって感じだな。

 聖王国の王の間は柱が無くてどちらかというと教会じみた感じだったけど。


 そして、王様の顔がある程度ハッキリと見える距離まで近づいていくくるとヨナの動きに合わせて跪礼した。


「面を上げよ」


 重低音の声が響いてくる。声だけで圧があるな。これが王の威厳ってやつか?

 僕達が顔を上げたのを見ると王様は続けて言葉を発した。


「此度は私の誘いによくぞ来てくれた。

 並びに、街に捕まっていた奴隷を開放―――かあああああ! めんどくせぇ!」


 な、なんだ!? 急に声を荒げたかと思ったら、さっきまで威厳のある顔とは違う固いものではなく柔らかい感じだが不敵な笑みを浮かべるような表情に変わった?


 そんな変化に隣に立っていた王子も戸惑いの様子で、すぐに王様を諫めようとする。


「父上、そんな態度では相手に舐められてしまいます!」


「いいんだよ、これで。相手で態度を変えるってのも俺らしくねぇし。

 それに固い感じじゃしゃべりづれぇんだ」


「ですが―――」


「お前は黙っとれ! 安心しろ、俺がダメだったらもうこの国はダメだ」


「どこにも安心できる様子がないんですが......」


「いいから! いいから!」


 王子をちょっとウザったくあしらうとひじ掛けに肘を立ててそのまま頬杖をつく王様。

 そして、その状態で話しかけて来る。


「俺はロイゼル=ベスティア。この国で王をやっている。それでお前らは?」


「僕達は悪役の偉業(ヴィランレコード)という名で活動を始めたばかりの新参者の解放軍です」


「解放軍ねぇ......人族の街で捕まってた獣人を助けてくれたことには感謝するが、それで終わりじゃねぇんだろ?

 ここに来たってことはそれに対する見返りが欲しいんじゃないのか?」


 この質問は試されているのか? この回答次第によっては僕達の命運が決まると。

 ま、なんにせよ僕はありのままを答えるだけだ。


「僕達は見返りなど求めていません。ただこの国に助けた人達を連れてきただけです」


「......全く目に迷いがねぇ。よっぽどのお人好しか、もしくは大嘘つき野郎か。

 にしても、獣人相手に“人達”とはねぇ」


 王様が何やら呟いているように感じるが、こちらには聞こえない。

 いや、聞こうと思えば聞けるが聞かなかったというのが正しいか。


「ふざけるな!」


 その時、一つの声が響き渡った。

 その声を発したのは王子で、腰にさしてある剣を引き抜いて剣先をこちらに向けている。


「お前達、人族がどれだけ嘘つきか知っている!

 どれだけ僕達を見下しているかは知っている!

 どれだけ残虐かも知っている!」


「ルーク、止まれ」


「そんなお前達が見返りを求めずに助けただと?

 そんな戯言をよくも僕達の前で吐けたな!」


「ルーク、聞こえねぇのか」


「お前達に嘘偽りがないのであれば今すぐこの世から残りの人族を殲滅して勝目して見せろ!」


「止まれってのが聞こえねぇのか! ルーク!」


「っ!」


 王様の怒号が部屋全体に響き渡る。

 それは魔力を伴わないただの発声であるにもかかわらず、肌にビリッと来るような感覚があった。


 その声にルークはわかりやすく耳を垂らしてしょげた。

 すると、王様はため息を吐きながら先ほどと変わらぬ口調で答える。


「お前の気持ちはわかる。俺も痛てぇほどにな。だが、相手を見誤るな。

 確かに、信用できる連中かどうか怪しいが、それでも俺達は相手を見極めなければならねぇ。

 じゃなきゃ、俺達は人族と同じだ」


「......っ!」


 その言葉はルークに深く刺さったのか顔を背ける。

 その一方で、王様は僕達に目線を戻すと再び話し始めた。


「見ての通り、俺達は人族とは随分な溝が存在する。

 その上で俺はお前達を客人としてもてなすつもりだ。

 せめてもの民を助けてくれた礼としてな。で、お前らは?」


「僕達はそのもてなしを受けるつもりです。でなければ、僕達の野望も滞ってしまいますので」


「へぇ、見返りを求めないくせして野望はあんのかい。

 それは一体どういうものか聞かせて貰っても?」


 その質問に対し、僕は自信満々に答えていく。自信無くしてやっていけないからな。


「この世界に住むすべての種族が幸せで笑える世界をつくることです」


「......なるほど、それは相当にイカれてやがるな」


 王様はニヤリと笑いながらも目は真剣だった。

 どうやら僕達の本気を嘲笑で済ませられるものではなかったと伝わったらしい。


「ま、その話は追々聞くとしよう。民を運んで疲れただろう。

 各自に部屋を用意してやるからそこで今日は休め。

 安心しろ、お前達に害を与えるような真似は俺が絶対にさせねぇからよ」


 そして、僕達の王様との謁見はこれにて終了した。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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