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ヴィランレコード~落ちこぼれ魔法陣術士が神をも超えるまで~  作者: 夜月紅輝
第2章 帝国襲撃

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第28話 悪役の報酬

 僕の瞳には夜の街を昼間のように照らす燃え盛る屋敷が映った。

 屋敷が燃えたことで当然警備についていた兵士達はパニックになり、消火活動を始めようと街に巡回している兵士達を呼び集めていく。


 それを確認すると僕は一つの任意で起動させる魔法陣を起動させた。

 それは奴隷商人が持つ奴隷市場に突入したメンバーが持っている陣魔符を反応させる。

 それがメンバーに奴隷を連れて逃げるための合図である。


「さて、僕も逃げるか」


 助けた少女を二人抱えながら屋根の上を動いていく。

 すると、猫耳の獣人少女Aが感謝の声をかけてきた。


「あ、あの、助けてくれてありがとうございます」


「気にしなくていいよ。これは僕にとって当たり前のことだから。それよりも、僕のこと怖くないの?」


 すると、犬耳の獣人少女Bが答える。


「ニオイでや声色でこの人は私達を傷つける人じゃないと分かったから大丈夫だった。

それにあの傷ついた人があなを信用してたから」あなたのこと


「そっか」


 となると、僕はあの人に間接的に助けられたことになるわけか。

 ただでさえ自分が今にも死にそうなほど傷ついていたのに、僕のことを気遣ってくれたのか。

 本当に幸せな次が送れることを心から願う。


 そして、僕は移動しながら村のことを話した。

 この子達を安心させるように話したつもりだったのだが、その話を聞くと二人はその村から来たわけじゃないらしい。


「私達はもともと冒険者としてこの街に向かってたの」


「ですが、その道中で盗賊達に襲われてしまって。

身分証明の冒険者カードも奪われてしまったために、自分達が冒険者であることが証明できず奴隷として売られてしまったんです」


「なら、君達はどこから来たの?」


「獣王国ベスティアからです」


 獣王国ベスティア......確か武力での強さが身分においての高い評価を受ける国だった気がする。


 その国の王は代々その当時に強者だけで受け継がれるため人によっては国の動きもだいぶ変わるらしいが、それでもなぜか国を攻めて滅ぼしてやるといった血の気の多い代はこれまで一度もなかったという。


 まぁ、強いというくくりは脳筋ばかりじゃないしな。

 恐らく相手との戦力差を理解して、しっかりと戦略を立てれる人が勝っていった国なのだろう。


 僕は城壁を飛び越えると眼下に見える康太とアイのいる馬車に降りていった。

 だいぶ高い所からの落下のためか少女二人は絶叫してしまってる。あ、ごめんね。


 出来るだけ衝撃を与えないように足の裏に<風圧>の魔法陣を仕掛け、着地直前に発動させて勢いを殺しスタッと降りる。

 そして、少女二人を下すと康太とアイがやってきた。


「お帰りなのー!」


「がふっ」


 アイの顔面に向けてのダイナミックジャンプが炸裂。

 顔の前で肩車状態となって何にも見えない。

 なんとか尻もちをつかずに堪えるとアイの体を横に回して本来の肩車の位置へ。

 すると、兜を小脇に抱えて康太がやって来た。僕ももうお面はいいか。


「もう十数人か来てるみたいだね。ということは、もう誰か来てるんだよね?」


「あぁ、一番最初にセナがやってきたよ。

 で、自分の連れてきた奴隷の子達で馬車がパンパンになりそうだったから馬車取ってくるって街に戻ったよ」


「取りに行ったんだ......でも、それって普通に窃盗―――」


「『今更自分達のやってることに何を追加しようと変わらないわよ』とのことらしい」


「あ、セナパイセンさすがっす」


 まぁ、確かにそうなんだな。この状況に対して俺以上に割り切ってたよあの人。

 とはいえ、俺も見込みが薄かったな~。

 もう少し奴隷を開放したあとのケアが足りなかった。


 そして、僕は依然としてアイを肩車したまま康太と話していると門から二台連結した馬車が走ってくる。


「走るわよ! そっちは頑張って運転しなさい!」


 ウェンリが声をかけてくる。

 その馬車の後ろに目をかけてみれば、兵士達が馬で追いかけて来ている。わーお。


「康太、僕が足止めするから運転よろしく!」


「いいよ、おいらが代わりにやるから」


「いやいや、こういう時に馬の扱いになれるの早そうなの康太でしょ」


「いやいやいや、自分が運転したくないからってそういう言い方は違うでしょ」


「早くじゃんけんで決めるなの!」


「「......はい」」


 そして、僕はじゃんけんで勝つと康太に馬車の運転を押し付けた。

 さてと、お面をつけて殿(しんがり)を務めますか......ってアイは結局いつまでそこにいるの?


「お兄ちゃん号出撃!」


「あ、そういう......」


 どうやらアイもちゃっかりこの状況を楽しんでいるようだ。

 それじゃあ、ちょっと耳を塞いでなさい!


 僕は片手に<音響>の魔法陣、もう片方に<増幅>の魔法陣を作り出す。

 そして、指を鳴らすと同時に発動させる。


「音爆弾!」


 叩いた音が<音響>によって周囲に拡散され、さらに<増幅>によって威力(この場合音の大きさだが)が増していく。

 その結果で引き起るのは激しく三半規管が揺さぶられることでの気絶である。


「ふううううううーーーー!」


「本当に楽しんでるね」


 拳を突きあげながら上機嫌なアイに思わず笑みを浮かべながら、僕達は先にこの場を離れていく。

 そして、皆をアイと競争しながら追いかけていった。


****


「子供達を助けてくれて本当にありがとう。このご恩は一生忘れん」


「いやいや、大袈裟ですよ。僕達にとっては当たり前のことしかしてないんですから」


 数日後、例の村に戻ってきた僕達は助けた子供達を両親に返していくと村長に感謝の言葉を貰った。

 これで僕達の仕事は一つ終わったのだが、ここで数日の間に考えてたことを提案してみる。


「実は次に僕達は獣王国ベスティアに行くつもりなんですが、良かったら運んでいきますよ。

 というのも、申し訳ない話、奴隷解放の影響で最悪この範囲まで兵士が来る可能性があるんですよ。

 だから、できればこの村を離れた方がいいと思いまして、それでベスティアに送っていく人達もいるのでそれで一緒にどうかなと」


「そうだったか。だが、この話はワシの勝手な判断で済む話ではない。

 故に、少しばかり話し合う時間を貰ってもいいか?」


「それはもちろん。それじゃあ、僕達は村の近くで待ってますよ」


「いや、恩人にそのような無礼は出来ん。

 仮に行くことが決まっても準備で数日かかるしな。

 それまでの間、村で好きに過ごしていてくれ」


 それから、僕達は村長のご厚意で村に滞在することとなった。

 その村では各自好きなように過ごしていく。


 例えば、ヨナなんかは薬学の知識を活かしてケガした人の治療や丸薬作り、身ごもった主婦の手伝いだったり、ウェンリは趣味のハーブで聞く人を魅了する歌を披露したりした。


 また、康太はクロード聖王国での建築手伝いの経験で技術者ゴリマッチョから評判がよく、蓮は裁縫の際のこの世界にはないデザインを主婦の皆さんや少女に教え、薫は植物博士となって子供達に色んな植物の面白さを教えている。


 アイはお姉さんぶって子供達にあれこれと遊んであげていたが、最終的には魔法陣を教えていた僕の所へ生徒としてやって来ていた。


 皆が楽しそうにしている。

 僕達が奴隷生活での苦しみを楽しいことで上書きしていった影響が出ているようで、捕まっていた子供達や少女達は自然な笑みを浮かべている。


 僕は教えていた子供達にちょっとした課題を出してその場にはなれると少し遠く離れたところからその村の光景を眺めた。

 すると、僕の横に立った村長が声をかけてくる。


「そんな遠くから眺めてどうしたんだ?」


「ただこの幸せが溢れている景色を記憶に収めたかっただけですよ」


「ふっ、達観しておるの~。年齢はまだ成人(※この世界では15歳)したばかりというのに、何をそんなに生き急いでおるんだ」


「......生き急いでいるつもりはないですよ。

 ただ僕達の行いが必ずしも正当化されるわけじゃない。

 だから、いずれ来る報いを受ける覚悟を今のうちにしてるだけです」


 そんな僕の言葉を村長は横目でチラッと見ると再び正面を見て返答した。


「お主達が何を経験したかは知らん。

 だが、この世界では......いやどこの世界でも同じだろうが、強き者と弱き者がいてその者達のバランスで世界は成り立っている。

 人がいる以上、そこに争いが生まれないことはない。

 ならば、その世界の中でどう生きていくかぐらいは己が好きに決めていいだろう。

 後のことを考えて動くことも結構だが、時には考えるよりも先に行動することも必要。またこれもバランスよな」


「バランス......ですか」


「ま、長年生きてきたワシから言えることは思ったより深く考えることはないということかの。

 この世界では簡単に人が死ぬ。だが同時に、それによって助かる命もある。

 お主の罪と向き合う気持ちも正しいことだが、そればかりだとちと心が寂しいだろうて。

 ちゃんと自分が助けた人達も見てあげなさい。

 さすれば、その茨の道も少しは通りやすくなろう」


「助けた命......」


 村長の言葉をそのままにもう一度村の景色を見た。

 今度は人々の様子をより鮮明に。


 すると、子どものことを考えて洗濯物を乾かす親だったり、仲間と笑いあいながら作業する男達だったり、村の中を自由に駆け回りながら笑う子供達だったり、そんな様子をのんびりと微笑ましそうに眺める老人だったりが僕の瞳に映った。


「どうだ? お主の助けた笑顔の輪が村全体に広がってるだろう」


 僕は思わず目頭が熱くなった。咄嗟に指をつまんで押さえていく。

 これは当たり前のことなんだ。当たり前にいちいち感動していたらキリがないしな。


「......ワシらはこの村を出ていくことに決めたぞ。

 この村があるのは宝である子供達があってのもの。

 それが再び危険にさらされようならこの村に留まる理由がないからの。

 というわけで、よろしく頼むよ、村の救世主よ」


 村長は僕の肩を叩くとそう告げた。それに対する僕の返答は決まっている。


「はい、任せてください!」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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