第25話 最初の仕事
僕達は行動指針を決めてから数日の準備ののち、馬車で出発した。
村では自給自足だったために馬はいなかったのだが、そこは騎士団が根城にしていた野営から馬を拝借して、康太の手作りの巨大荷車で大幅な移動手段が確保できたのだ。
俺達だけならまだしも村の女性に加え、数日で増えた子供や少女もいるからという理由で。
そんな俺達は馬を扱えるというウェンリに馬車を引いてもらい、俺達男グループと女性陣という形で別れてる。
この編成は単純に男である俺達の存在で彼女らを刺激しないようにという理由でだ。
あっちの車両ではヨナとアイが彼女らの相手をしている。
そして現在、薫が暇つぶしに作った木で出来たトランプでババ抜きをしていた。
「にしても、本当に驚いたな~あれは」
「あれって?」
そう言うと隣の康太が聞いてきながら引き、僕も流れるように蓮からトランプを引いていく。
あ、康太、ペア揃ったか。
「あれだよ。後ろにいる子供達を助ける際にまるで僕に見せつけるかのような殺戮ショー」
「ハハッ、殺戮ショーは人聞きが悪いよ。助ける際に殺しただけだって」
というのも、先ほど言った数日で増えた獣人やエルフの子供や少女の件のことで、彼女らはたまたま僕達の村の近くにあるガラーバ街道で盗賊達に奴隷として運ばれてる最中だったのだ。
それを薫が木を通じて知り、すぐさま僕が向かおうとすると僕とアイ以外の全員が何か共通の意思を持ったように「お前はただ見てろ」と言ったのだ。
そして、僕はアイと一緒に茂みから見ていると彼らの救出劇が始まった。
その際に、殺そうとしてきた盗賊を容赦なく殺したのだ......蓮も康太も薫もセナもウェンリも。
彼らは全員が今まで人を殺したことがない。
そんな彼らが自らの意思で相手を殺している光景はさすがに口をぽかーんと開けてしまった。
ただ手だけは精密にアイの目を覆っていたけど。
子供や少女達を助け、戻ってくると蓮が告げてきたのだ―――「これが俺達の覚悟だ」と。
さすがに僕でも察したよね。
正しくあの時ヨナが言ったような言葉のままだ。
地獄に行くなら一緒、と。
「それが俺達だ。もう踏み出した以上は後には戻れんな」
「とはいえ、勇者としていてもいずれは魔族と殺しあう運命に遭ったわけでしょ?
そう考えるとどの道おいら達が辿る道は大きく変わらなかったんじゃないかなって」
康太がそんなことを言った。
まぁ、本質的には違わないだろう。ただ―――
「それで救えるのは同じ人族だけだ。
誰も守ってくれない獣人やエルフ、ドワーフなどの種族とは違う。
そして、僕達が主に救うのはその連中だ。ここは大きく違うはずだよ」
「......そうだね。僕はもう種族が同じじゃないってだけで殺される子供の亡骸を見たくはないし」
薫が少しだけ悲しそうに言った。
なんだか湿っぽくなっちゃったな......ん?
なんかそっとペアカードを出してないか?
「よーし、1位抜け~」
「げっ、いつの間に!?」
空気を壊すように薫がテンション高く声を張り上げた。
それに合わせるように康太も反応する......いや、あれは素か。
「ま、なんであれ決めたからには進むっきゃないよな、リーダー?」
「皆の力を借りてね」
「頑張れ」みたいなニヤニヤ顔で言ってくるな~、蓮は。まぁ、頑張るんだけどさ。
というか、そう決めたのは僕だからなおさら責任持たないとだし。
「そういえば、薫って顔だしオーケーになったんだな」
「え? あ~これね.....って、僕は別にそういう意味で隠してたわけじゃないし!」
僕はいつの間にか髪型が変わっている薫の髪を指摘すると薫は自分の前髪を摘みながら反応した。
というのも、薫のビフォーは両目とも前髪で覆っている目隠れ男の娘だったのだが、現在は両目が見えるように前髪を切って、少し長い後ろ髪をポニーテールに縛るという活発系男の娘になったのだ。
「単に皆の目が怖かったんだよ。
僕って前はなよなよしてたし、コミュ力ゼロみたいなもんだったし、身長も低いし、異世界に来れば役職も微妙だしと色々で。
でも、僕はこの村に来て変わることが出来て、より守りたいものが出来た。
だから、過去の自分とおさらばする意味で切ったんだよ」
「意外に深い話があったんだな......」
「普通に元気系男の娘のモードチェンジと思ってた」
「僕、これでも男の娘って思われてる!? っていうか、モードチェンジって何さ!?」
蓮も康太も容赦なく突っ込むな~。
そして、それに対する薫の驚きは実に正当なものである。
あ、仲間を作りたそうにこっち見てる。目逸らさなきゃ。
「何やってんだか」
そんなウェンリの呆れ声を聞いてから数日、僕達は子供達の村があるという場所に辿り着いた。
子供達は辿り着くやすぐに村で作業中の両親の所へ走っていく。
その光景を見た大人達や老人達は一瞬固まった様子であったが、すぐに会えた嬉しさを噛みしめるように泣きながら我が子を抱きしめていった。
僕達は馬車のそばでそんな光景を見ながら顔をほころばせる。こんな光景が見たかったのだ。
すると、そこに村長らしき杖をついたおじいちゃんがやって来た。
「君達が子供達を連れてきてくれたのか。村を代表して礼を言う。ありがとう」
「いやいや、当たり前のことをしただけですから。
それよりも、むしろ子供達を襲った同じ人族に対して怒らないんですか?」
そんな質問に対して、村長はすぐに答えた。
「襲った連中と君達は全然違う人じゃろう。
ならば、子供達を攫った人族の怒りを助けた君達にぶつけるのは筋違いじゃ。
それ以上に罰当たりともいえるじゃろうな」
「そうですか」
やはり獣人の村長の言葉が聞いていて気持ちが良い。
別にそう言ってくれることを望んだわけじゃないが、この人は人族でも良い人がいるとわかってくれている。それが嬉しいのだ。
それはゾルさんの夢に繋がる貴重な糸である。
この糸が決して切られるようなことがあってはならない。
「では、僕達はこれで―――」
「待ってくだされ。子供たちを助けてくれた君達にさらにお願いを聞いてもらうのは申し訳ないと思うが、どうかこの村の願いを聞いてくれないか?」
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「見えてきたぞ。自由の街ミラスだ」
ウェンリの言葉に馬車から顔を出すと初めてみるクロード聖王国以外の街に「お~」と僕達召喚組とアイは感嘆の声を漏らしていく。
そんな僕達を見ながらヨナははしゃぐ子供を見るように微笑んでいた。
門番に盗賊から奪った金で通行料を払い入っていく。
そこにはクロード聖王国とは違い、より多くの冒険者や少数の規模であるが獣人やエルフ、ドワーフ、竜人族と他の種族の姿もあった。
「よし、早速観光......と行きたいところだが、その前に宿を探さないとな」
「馬車を止められる宿ってあるかしら?」
そう街中を散策していると手にお菓子を持った子供が車道を飛び出してきた。
どうやら買ってもらったお菓子にはしゃいだ様子だ。
「リツ、いざの時よろしく」
「わかった」
ウェンリが咄嗟に馬の手綱を引く。
それでも勢いが殺せなさそうだったら僕が転写で―――とその時、黒髪のポニーテールの侍を思わせる女性が子供を抱えて助けた。
あの身のこなし......。
その女性は助けた子供の目線に合わせるようにしゃがむと優しく頭を撫でながら声をかけている。
周りでは助けた一部始終を見て歓喜の様子で「ナイスガッツ!」「かっこよかったぞー!」と声が上がっていった。
そして、子供の母親が泣きながら女性に頭を下げ、それに対し女性は謙遜している様子であった。
僕は運転席から顔を出し、その女性にお礼を言っていく。
「子供を助けてくれてありがとうございます。こっちもこっちで助かりましたし」
「......いや、足したことはやってござらん。
ワシは人として当たり前のことをしただけじゃ」
その女性は一瞬だけ何かを確かめるように目を細めるも、すぐに人気の良さそうな笑みを浮かべてそう告げた。
そして、僕達は馬車を動かしていく。すると、蓮が告げてきた。
「あの女、相当やるな。実力を隠してる」
「みたいだね。なら、触らぬ神に祟りなし。
特に僕達がやろうとしてることに対してはね」
それから、馬車で街の中を走っているとヨナが運転席から顔を出し、指を向けた。
「あ、あの宿とか良さそうですね」
ヨナが適当に決めた宿で無事に部屋を取れると僕達は一つの部屋に全員集まる。
「さて、それじゃあこれからのこの街での行動を決めていくが、お金の方は盗賊から奪ったものが割にあるからそこは気にしなくていい。
で、ヨナとアイは奴隷の子供達を回収の際に大量の食糧が必要になるからそれを買ってきてくれ」
「わかったなの! アイがヨナお姉ちゃんを護衛するの!」
「ふふっ、よろしくね」
「それから、康太、薫、ウェンリは冒険者パーティを装って冒険者ギルドで何でもいいから気になる情報を集めてきてくれ。
ただ一つ、奴隷商人に関する情報は必ず聞いてくれ」
「えぇ、わかったわ」
「冒険者ギルドか~。酒場があるかな? そこの料理はどんなのだろう?」
「康太君、さっそく脱線してるよ」
「そして、僕と蓮だが、僕達は汚い所を回ってくる。ただ聞き込みは僕がやる。
蓮は隠密で情報を探ってくれ。後、出来れば奴隷商人の商品リストの情報が欲しい」
「早速スニーキングミッションか。任せろ」
全員に今日の行動を指示していくと僕はさらに告げた。
「それらの情報が集まり次第すぐに行動を始める。
皆も好きに観光したいだろうがそこは我慢してくれ。
それじゃあ、現時刻を持って行動を開始する。
悪役の偉業を歴史に刻め」
そして、全員が僕の指示を元に行動を始めていく。
僕も同じように宿を出ると行き先の違うヨナが声をかけてきた。
「リツさん、無理しないでくださいね」
「......善処するよ」
「あ、ヨナお姉ちゃん、これ出来ないパターンなの。
アイ、知ってる。あの顔はお兄ちゃんが作り笑顔してる時だって」
「なるほど。リツさん説明書にメモしておきます」
「ちょっと、アイ何言ってるの!? って、ヨナも『リツさん説明書』って何!?」
僕を見ながら呆れ顔を向けるアイに、アイのアドバイスを本当にメモしているヨナ。
あれ? 僕リーダーなのに二人より力小さくね?
「ともかく、アイちゃんも心配してるんですから家族を悲しませるのはダメですよ?」
「.....そうだな。わかった」
「ま、そう言いながら一番心配してるのはヨナお姉ちゃんなんだけどなの」
「あ、アイちゃん!?」
うん、どうやら僕達の中でヒエラルキートップはアイのようだ。
確かに僕達は基本女性陣に頭が上がらないし、アイはクールなウェンリにすら甘やかされるという力を持っている。そう考えれば妥当な地位だな。
そして、二人を見送ると僕も大きく伸びをしながら歩き出す。
「さてと、ん~~~~......ふぅ、やるか」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')