第24話 聖女の仕事~勇者サイド~
―――エウリア=フォン=クロード 視点―――
「ん.....朝か......」
私の目覚めは朝の五時から始まります。
その習慣を送っていたせいか、この時間帯になると絶対に目が覚めるようになりました。
そこから軽く身支度を済ませて、お城近くの教会にある小さな泉で沐浴していきます。
これも毎日の日課の一つで、こればかりは冬近くの季節は慣れません。
そして、それが終わると朝食に入ります。
食べる前に神様に祈りを捧げる言葉を言うのですが、職務での疲れが残っている朝とかは少しばかりサボりたい気持ちになりますね。
加えて、その時間帯はアカネさん達と決して同じにならないので少しばかり寂しく、皆で気兼ねなく雑談しながら取る食事は少し憧れます。
それが終わると教会に向かいます。
その時間帯になるとアカネさんは起きていて、幼馴染のケンヤさんと一緒にお城の外周を走っています。
仲良く楽しそうに話している様子は見ていてとても気持ちが良いです。
初の女性でありながら勇者という立場に気苦労も多いでしょうから、ああして息抜きできる相手がいるのはとてもいいことだと思います。
「リツさん......」
ふと親しかった彼のことを思い出してしまいました。
彼との楽しかった会話の思い出に頬を緩めてしまいそうになりますが、すぐに彼が、彼のお仲間さん達がこの国にとっての敵としてされてしまったことに悲しさを感じます。
そんなことを思いながら嬉しそうなアカネさんを見ると羨ましく感じてしまいます。
私も彼と話しているときは本当に時間があっという間に感じました。
彼との会話の時間を作るために時折無茶なお手伝いも頼んでしまったこともありますが......そこは少し反省しないといけませんね。
「大丈夫。リツさんですから」
そう信じ教会に向かいました。
彼はこの世界から与えられた力は決して強くなく、むしろ日々を暮らしていく民衆の皆さんと変わらないぐらいですが、彼の行動は人を引きつける力があります。
加えて、彼は影の努力家ですから皆さんからあまり良くない扱いを受けても笑って耐えながら、その影で皆に追いつこうと必死に図書館で魔導書を読み漁っていたことを知っています。
それは皆を見返してやろうという気持ちもあったでしょう。
しかし、それ以上に彼には戦場に立つ幼馴染であるアカネさん、ケンヤさん、そして他の方達のサポートが出来ないかという気持ちの方が強かったでしょう。
そんな彼だからきっと私は今まで話してきた異性の中では一番親しく話せたのでしょう。
ふふっ、そんな彼を見て「自分も頑張ろう」と思った私は随分と単純かもしれませんね。
教会に着くと祭壇の前にある四人の女神像の前で両膝を着き、両手を握って四神と偉大なる聖女に祈りを捧げます。
今日一日の勇者の皆さんからこの国に住み民の幸せと安全、そして未来でも無事に平穏な暮らしが出来るように、と。
ただある日から、この祈りには懺悔の気持ちも含まりました。
それはもちろん、アカネさんから聞いたリツさん達に起こったことについて。
アカネさんは「悪くない」とおっしゃってくれましたが、それでは私の気持ちは晴れないのです。
なぜなら、どのような結果になろうとリツさんの背中を押したのは私ですから。
それは笑いながら大切な人を高い所から突き落とすようなことだと思います。
だから、このことで私はリツさんに恨まれようとも受け止めるつもりです。
この懺悔のせいか朝の祈りの時間が長くなり、周りの神官さん達からは増々熱心になったと感心されてるみたいですが......ごめんなさい、半分は全然祈って無いです。
「エウリア様、ご到着されたそうです」
「そうですか。教えてくれてありがとうございます」
祈りを終えてから少し職務をしていると神官さんの一人から報告を受けました。
というのも、今日は遠くから国の王様がこの国にいらっしゃっているそうです。
はぁ、ちょっと気が滅入ります。だって、緊張するんですもの。
もちろん、こんなことを思うのは心の中だけで表情には微塵も出しませんが。
しばらくして、王の間で待っていると来客がその空間にやってきました。
「お久しぶりですね。ご息災であられましたか。我も元気だけが取り柄でしてな」
「失礼ながらガルトバ様、もう少し真面目に」
「我」という一人称を用い、豪華な服を着飾った少し頬のこけた茶髪の男性はハンブルク帝国国王【ガルトバ=ヴァイ=ハンブルク】。
それから、そのガルトバ国王を諫めるように発言したのが帝国最強と呼ばれる【ドイル=ルーゼルト】騎士団長。
黒騎士の異名を誇る黒い鎧を着た大柄な男性です。
そして、先ほどのガルトバ様の言葉に教皇様が返答しました。
「よいよい。私も砕けた方が話しやすいからな」
「さすが! 話がわかる御仁で助かった。
それに、王女様......いや、肩書としては聖女様の方が正しいか。増々見目麗しくなったことで」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
私はその言葉に丁寧に頭を下げました。
それに対し、「相変わらず固いね~」という呟きをされていましたが、それは少し違います。あえてです。
それから私達は込み入った話をするために応接室へと場所を移していきました。
そして、テーブルを挟んでの対面で、なぜかガルトバ様は私の前に座っています。
普通なら王は王の前であるはずなのに......加えて、相変わらず隠す気のない値踏みするような目。
この人に限っては緊張ではなく、失礼ながら嫌悪で疲れますね。
そして、初めの方は真面目に外交の話をしていましたが、途中でガルトバ様は思い出したかのように話題を振ってきました。
「そういえば、この国で魔族の侵入があったと聞いたんだけど大丈夫でしたかな?」
そういう割には目は嬉々としてますが......加えて、それを聞く相手がなぜ私なのでしょうか。
「私も丁度いないタイミングでしたので話は聞きましたが実際のところは何も。
ただ実質的な被害は何もありませんでした」
「それは本当かい? 聞いたよ? この国に侵入した魔族がこの国で召喚した勇者を三人も殺したって」
その言葉にポーカーフェイスこそ崩しませんでしたが、内心では驚きと焦りが同時にありました。
そのことに関してはこの国の中で勇者と私、お父様を含めた僅かな騎士達の間でしか知らないことでしたから。
それを一体どうして他国のガルトバ様が知っていられるのか。
国の維持は情報戦とも言いますし、多少ながら間者が潜んでいることは想定してますが、それでもそれを気をつけてでの内容でしたのに。
「お互い魔族には苦労してる身だからね。人族じゃないから話し合いもあったもんじゃないし。
あ、人族じゃないと言えば、森の中にあちこちと村を作って好き勝手生きる獣人やエルフ、ドワーフ、総称して亜人て言うけど彼らには困ったもんだよね~」
随分な話を始めましたね。
彼らがそうなったのはあなたの国が彼らを追っかけ回してるからでしょうに。
「まぁ、我の国では見つけた場合そういう亜人の方には手厚い保護をしてますから。
とはいえ、本人の努力と忍耐強さが必要になりますけど」
「......」
「そういえば、この国には酷い魔族や亜人を嫌う騎士がいると聞きましたが、今はどちらにおられるのですかな?」
「さぁ、私にはサッパリですね。
ただ私の国では人族も亜人も皆平等ですから一応何度か注意をしていますが......お父様は何か聞いてますか?」
「いや、私の方でも何も。他の騎士なら知ってるだろうか?」
お父様がそんなんだから時折この国は亜人側から人族至上主義の国なんて思われてるんですよ?
「ともあれ、出来れば魔族とも和平交渉が出来れば一番ですが」
「それは高望みしすぎではないかな? 世界の仕組みはそこまで甘くはないよ」
ガルトバ様が見透かしたような目で見てきます。
心が覗かれてるようで少し嫌な気分です。
少し重ための空気になると今まで全てを黙って聞いていたドイル様は空気を変えるようにとある提案をしてきました。
「少し体が鈍りそうなので体を動かしてもいいですか?」
場所を移して、騎士が修練に使う修練場。
現在、そこでは騎士達に交じって勇者さん達の姿がありました。
私は皆を呼び集めるとドイルさんを紹介していきます。
「修練中に突然すみません。こちらはハンブルク帝国から来られましたドイル騎士団長です」
「ドイルだ。体を動かせてもらう代わりに今日一日私が武器指南をしよう。
他の国流派を知るのも立派な経験だからな」
そして、私は遠くに離れるとドイルさんは早速アカネさんに実力を測るための腕試しを始めました。
アカネさんは私の目から見ても消えるような速度で動いたのに、ドイルさんはその動きを読んだように全く動かず受け止めました。
加えて、アカネさんの両手の一振りに対し、身の丈ほどの大剣を片手で持って。
「ふむ。速度は上々。力は少し足りないな。
私は相手が女だろうと優しくするつもりは無い。あまり時間もないしな。
あと二人まとめてかかってこい」
そう言うとさらにケンヤさんともう一人の生徒が加わっていきました。
アカネさんとケンヤさんの近接攻撃と風魔術士の生徒の攻撃を同時に受けながら、それを体に見合わぬ速度で動き、三人相手に余裕で善戦していきます。
すると、隣で同じようにその光景を見ながらガルトバ様が話しかけてきました。
「凄いでしょ? 我の自慢の黒騎士の実力は。
伸びしろは勇者達の方があるだろうけど、今のままじゃ全然ドイルには適わない」
「ドイル様は確かハンブルク帝国の闘技場大会で十連覇して殿堂入りしたお方でしたね」
「そうそう、良く知ってるね。だから、現状あの男は人族の中で最強と呼ばれている。
とはいえ、本人は謙遜しているけどね。極東の剣士との戦いで勝鬨を上げてないとかで。
確か彼女を指南役として交渉するために出かけてたんでしょう?」
「はい、そうなります。正確には彼女達ですが。
魔族との戦いが避けられなくなった時、彼女の力はどうしても必要になりますから」
読んでくださりありがとうございます(*'▽')